Vaccine Digest 第9号(2015年12月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う

    乳幼児期のRS ウイルス感染症とワクチン開発状況

    札幌医科大学医学部小児科学講座 教授 堤裕幸先生

  • ワクチン行政Watching

    ペリネイタルビジット事業の取り組みと意義

    大分県の取り組み 石和こどもクリニック院長 石和俊先生
    北九州市の取り組み よしだ小児科医院院長 吉田雄司先生

  • Vaccine Topic

    B型肝炎ワクチンの「定期接種化」に向けて
    -遺伝子型が異なるウイルスに対するB型肝炎ワクチンの有効性-

    名古屋市立大学大学院医学研究科教授
    肝疾患センター副センター長
    中央臨床検査部 部長 田中靖人先生

  • 日常診療Q&A

    四種混合ワクチン(DPT-IPV)についてのQ&A

    川崎医科大学 小児科学教室教授 中野貴司先生

  • スペシャリスト Pick Up

    栃木県大田原市の乳幼児ワクチン接種率向上に向けた取り組み

    吉成小児科医院院長 吉成仁見先生

  • 特別記事

    地方衛生研究所の感染症サーベイランスに果たす役割

    愛知県衛生研究所所長 皆川洋子先生

感染症の流行を追う 乳幼児期のRSウイルス感染症とワクチン開発状況 札幌医科大学医学部小児科学講座 教授  堤裕幸先生

早まるRSウイルス感染症の流行時期

 RSウイルス感染症は、乳幼児期の最も頻度の高い呼吸器感染症で、1歳までに約60%、2歳までにほぼ100%の児がRSウイルスに感染するといわれています1)
 これまで沖縄県を除く日本では、11月から1月の冬期に流行していましたが、近年は流行開始時期が早まり、夏場から流行がみられるようになっています(図1)。この変化の原因はよくわかっていませんが、亜熱帯では通年にわたって流行が続くことから、温暖化の影響が考えられています。
 また、RSウイルスはウイルス表面のエンベロープに細胞への吸着に関与するlarge glycoprotein(Gタンパク)と感染細胞の融合に関係するfusion protein(Fタンパク)を有し、Gタンパクの構造の違いにより遺伝子型が決定され、AとBのサブグループに大きく分類されます。遺伝子レベルで流行をみると2~3年ごとにサブグループが入れ替わることが特徴ですが、遺伝子型の違いは流行の大きさや季節性の変化に関係していないと考えられています。

RSウイルス感染症の臨床像と治療

 RSウイルス感染症は、1回の感染で終生免疫が獲得されず、何度も感染と発病を繰り返します。ほかの多くのウイルス感染症と異なり、母体からの移行抗体で感染を防御できないため、新生児期でも感染します。初感染の70~80%は咳嗽や鼻汁などの上気道症状(感冒様症状)のみで治癒しますが、20~30%は細気管支炎や肺炎といった下気道炎を起こします。1~2%は入院加療が必要となり、その数はわが国で年間2万人前後と試算されています1)
 RSウイルスによる下気道炎を早期に鑑別するポイントとして、「臨床症状」、「季節」、「年齢」の3つが挙げられます。臨床症状は、感冒様症状の後、呼吸困難、喘鳴などの兆候がみられたら、RSウイルスによる下気道炎の可能性があります(表1)。また、RSウイルスの流行のピークは現在も冬期であるため、この期間であれば感染を強く疑います。さらに、罹患年齢としては1歳未満の乳児が多いといえます。とくに生後1か月未満の新生児期に下気道炎になると、呼吸困難とともに無呼吸がみられ、突然死の原因ともなるので注意が必要です。
 RSウイルスの抗原検査は、2011年10月より外来の乳児にも保険適用となりました。RSウイルス感染症には不顕性感染や潜伏感染がないため、急性の呼吸器症状を呈し、疑わしい条件にあてはまる患児には積極的に検査を行い、早期に確定診断することが大切です。
 RSウイルス感染症の治療は、基本的に対症療法です。気管支炎、細気管支炎や肺炎に対しては、適切な輸液や喀痰溶解剤などで痰の排出を促し、患児自らの免疫力による回復を待ちます。呼吸困難があれば酸素吸入、無呼吸にはキサンチン製剤投与を行います。

ハイリスク児のRSウイルス感染症予防

 RSウイルス感染症が重症化しやすい未熟児や新生児慢性肺疾患などの基礎疾患をもつ乳幼児を対象として、2002年に予防薬のパリビズマブが登場しました。これはRSウイルスのFタンパクに対する単クローン抗体製剤で、投与方法としては、流行期に月1回筋肉注射を行います。臨床試験ではRSウイルス感染による入院が55%低下したことが確認されています1)

期待されるRSウイルスワクチンの開発

 RSウイルス感染症に対しては、これまで数々のワクチン開発が行われてきましたが、臨床応用には至っていません。最初は1960年代に不活化ホルマリンワクチンが開発されましたが、重症例や死亡例がみられたため、発売中止となりました。その後、経鼻生ワクチンへ開発の方向性がシフトしましたが、鼻詰まりや哺乳不良などの副反応がみられ、さらなる弱毒化によるワクチン開発が検討されています。
 RSウイルス感染症は生後2~6か月に最も重症化しやすいため、乳幼児を対象とした場合、ワクチンは生後数週間以内に接種する必要があります。しかし、乳幼児のワクチン開発には、免疫の未熟性や母体移行抗体によるワクチン効果の減弱といった問題を克服しなければなりません。
 そうした背景を踏まえ、近年、世界中で多角的なアプローチからワクチン開発が行われています(図22)。また、WHOでは5~10年以内のRSワクチンの臨床応用を目指して、臨床試験のガイドライン整備を行っています2)。こうした取り組みや長年の研究が実を結び、近い将来、乳幼児に福音がもたらされることが期待されます。

  • 参考文献
  • 1)堤裕幸ほか. チャイルドヘルス. 2015; 18 (2): 103-106.
  • 2)Modjarrad K, et al. Vaccine. 2015. ii: S0264-410X(15)00767-7. [Epub ahead of print]

ワクチン行政Watching ペリネイタルビジット事業の取り組みと意義

大分県の取り組み 石和こどもクリニック 院長 石和俊先生

-大分県の事業開始の経緯と変遷について教えてください。2001年度のモデル事業をきっかけに全県事業へと広がり、現在では行政と医師会が協力して事業に取り組んでいます。

 わが国では、妊婦が小児科医から育児保健指導を個別に受ける「出産前小児保健指導」のモデル事業を、米国の取り組みを参考に、1992年度市町村単位で、2001年度に医師会単位で全国的に行いました。
 大分県は2001年度に全県事業としてモデル事業に参加しました。わずか7か月間の実施期間ではありましたが、研修会を開催して事業の理解浸透を図り、多くの成果を得ることができました。モデル事業終了とともに助成はなくなりましたが、大分県医師会・大分県産婦人科医会・大分県小児科医会から予算を拠出し、事業を継続しました。その際、事業を利用しやすいように、対象者を妊婦に限らず産後56日までの産婦に拡大し、ペリネイタルビジット(周産期小児科指導)事業としました。
 2003年度に大分市・別府市がPVを事業化したのを始め、その後も事業化する市町村が増加し、現在では県内18市町村のうち11市町村で事業化が達成されています。これらの11市町村、大分県、大分県医師会、大分県産婦人科医会、大分県小児科医会が協力して事業に取り組んでいます(図1)。

-PV事業の意義を教えてください。的確な保健指導を行える上、保護者との信頼関係を築くことができます。

 PV事業では、30分~1時間かけて保健指導を行うため、日常診療では把握できない家庭環境などについても詳細に情報収集することができ、より的確な指導が行えます。また、お互いの人柄を知ることができるため、保護者との信頼関係構築にも一役買っています。
 PV事業全利用者を対象としたアンケートでは、毎年約95%の利用者が満足しているとの結果が出ており、子育てに不安を抱える妊産婦に安心感を与えていることが証明されました。特にワクチン接種については70%の利用者が「一番役に立った」と回答しており、当院でもPV事業を利用した妊産婦はワクチンのスケジュールや接種意義について時間をかけて説明できるため、予約から接種に至る流れが非常にスムーズであるとの実感があります。

-大分県のPV事業について教えてください。産科医、小児科医、行政の連携により、妊産婦がPV事業を利用しやすい環境を提供しています。

 大分県のPVは、産科医や助産師からの「PVを受けてみませんか」との勧奨から始まります。PV事業を実施している市町村では、母子手帳交付時に保健師も勧奨を行っています。
 また連携して妊産婦を支援するために、小児科訪問時には産科医が紹介状を、保健指導終了時には小児科医が指導報告書を作成し、これらの情報を産科医・小児科医、大分県医師会、行政が共有する体制を整えています。何らかの支援が必要と判断された妊産婦については、毎月開催される専門部会で、支援の方法を検討しています。この専門部会には、産科医や小児科医のほかに、精神科医、大分県健康対策課・子育て支援課、保健師、助産師、児童相談所職員などが参加し、これらのハイリスク事例への対応について検討が行われます。また、年に一度、事業推進委員会、意見交換会を開催し、PV事業の推進や今後の事業の方向性について意見交換する場を設けています。大分県と、事業化された市町村の行政担当者も出席するため、課題への対応が短時間かつスムーズに行われるメリットがあります。

-大分県のPV事業の今後の課題と展望について教えてください。事業名やPR方法の再検討により、さらなる利用者の増加を目指します。

 ほとんどの妊産婦が「PVを受けてよかった」と満足度が高い一方で、事業を利用する妊産婦がまだ少ないという現状があります。小児科保健指導数は年間800名程度で、これは大分県の初産婦の15~20%と推定されます。PV事業のさらなる普及には、より覚えやすい事業名への改変や新たなPR活動の検討が必要だと考えられます。
 大分県で15年間、PV事業が継続されてきた背景には、産科医と小児科医の事業に対する理解と熱意、お母さん方の「受けてよかった」との声があります。多くの関係者の協力の下に、事業のさらなる改善・普及を図っていきたいと思います。

北九州市の取り組み よしだ小児科医院 院長  吉田雄司先生

-北九州市のPV事業開始の経緯について教えてください。2006年に北九州市小倉地区でパイロット的に事業を再開しました。

 北九州市では1996年に北九州市医師会の事業として「出産前後小児保健指導事業」が実施されましたが、残念ながらほとんど普及せず自然消滅しました。
 その後、2004年の北九州地区小児科医会例会で、当時の大分県小児科医会会長であった東保裕の介先生が大分県のPV事業の取り組みについて講演されました。それをきっかけに、北九州市小倉地区(北区・南区)でPV事業をパイロット的に再開することになりました。事業費は小倉小児科医会より拠出し、2006年にスタートしました。

-北九州市小倉地区のPV事業とその意義について教えてください。大分県のPV事業を参考にした結果、ワクチン接種率向上にも貢献しています。

 北九州市小倉地区のPV事業の取り組みは、利用対象者、指導内容、産科や医師会へのフィードバック方法など大分県を参考にしています。実施主体は小倉産婦人科医会と小倉小児科医会であり、残念ながら現時点で北九州市からの公費助成はありません。
 利用者を対象としたアンケートで「最も役に立った」として挙げられているのは、大分県同様「ワクチン接種」です。2011年ごろから接種可能なワクチンの数が増えたことで、ワクチン接種の説明に割く時間が増えました。ワクチン接種という具体的な話をすることで、いきなり子育て全般について話すよりもスムーズな指導につながっていると感じています。北九州市ではB型肝炎ワクチンやロタウイルスワクチンに対して公費助成はありませんが、両ワクチンとも高い接種率を誇っています。これもPV事業が功を奏した結果と考えています。

-北九州市のPV事業の課題と今後の展望について教えてください。2015年4月からPV事業が北九州市全域に拡大されました。今後は公費助成も受けられるよう尽力していきます。

 PV事業は2015年4月から、北九州市医師会、北九州市産婦人科医会、北九州地区小児科医会の共同事業となりました。産科医と小児科医のより一層の連携強化が望まれ、今後は全市で顔の見える関係を維持する必要があります。また、生後4か月までの乳児がいる家庭を保健師が全戸訪問する「のびのび赤ちゃん訪問」や妊娠期からの養育支援「ハローベビーサポート」という公的事業との情報共有や連携を図ることも課題といえます。そうした課題を解決しつつ、今後、PV事業が北九州市全域に浸透し、公費助成も受けられるよう尽力したいと思います。
 妊娠中から母親と信頼関係を築き、出産直後から子どもの成長を見守ることができるPV事業は、小児科医として喜ばしく、誇りにつながる事業です。大分県や北九州市での取り組みが、少しでも全国の先生方の参考になれば幸いです。

Vaccine Topic B型肝炎ワクチンの定期接種化に向けて -遺伝子型が異なるウイルスに対するB型肝炎ワクチンの有効性- 名古屋市立大学大学院 医学研究科 教授 肝疾患センター 副センター長中央臨床検査部 部長田中靖人先生 名古屋市立大学大学院 医学研究科 教授 肝疾患センター 副センター長中央臨床検査部 部長田中靖人先生

1 世界のB型肝炎ウイルスの遺伝子型分布とワクチン使用状況は?

 B型肝炎ウイルス(HBV)は遺伝子型によってA~Hの8種類に大別され、その分布状況は地域ごとに偏りがあり1)、わが国では遺伝子型CのHBVが多いことが知られています。国内のHBV感染対策は、HBVキャリアの母親から産まれた新生児の垂直感染予防のためにグロブリン製剤およびワクチンを接種する母子感染防止事業により、一定の効果を示してきました。しかし、近年、海外から遺伝子型AのHBVが流入し、水平感染による急性肝炎が都市圏を中心に増加しています2)。遺伝子型AのHBVは遺伝子型Cよりも成人でも慢性化しやすく、10%が慢性肝炎に移行し、肝硬変や肝臓がんのリスクが高まることから問題視されています3)。このような背景から、母子感染予防だけではなく水平感染対策の必要性が高まり、わが国でもようやく、定期接種化が議論され始めました。

2 遺伝子型C由来ワクチンは、遺伝子型Aウイルスに有効か?

 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会では、その前身である感染症分科会予防接種部会を含め、2010年のファクトシート作成以降、HBワクチンの定期接種化を検討し、国内で使用可能な2種類のワクチン、国内開発の遺伝子型C由来のワクチン(ビームゲン®注0.25mL・0.5mL)と海外で主に使用されている遺伝子型A由来のワクチン(ヘプタバックス®-Ⅱ)の異なる遺伝子型への予防効果について検討・審議を行ってきました。アジア諸国は遺伝子型Cの分布が多いものの、遺伝子型C由来のワクチンは、日本や韓国といった限られた地域でしか使用されていないため、海外に多い遺伝子型AのHBVの感染予防効果については十分なエビデンスがありませんでした。このため、遺伝子型C由来のワクチンの遺伝子型Aウイルスに対する予防効果について新たな検討を行い、効果を実証しました。

① HBV抗体の中和活性に対する遺伝子型の影響
 HBワクチン接種によってできる抗体は、HBV表面抗原のA-loopと呼ばれる部位を認識し、特異的に結合することでHBVに対する中和活性を示します。遺伝子型の違いによりA-loop 内のアミノ酸配列がわずかに異なり、遺伝子型AとCでは3か所、異なることがわかっています(図14)
 アミノ酸配列が異なることで、他の遺伝子型の抗体との結合力がわずかに低下し、中和活性に影響を及ぼすため、遺伝子型C由来のワクチンが遺伝子型AのHBVの感染防御にどの程度効果があるかを実験で検証しました。

② 遺伝子型C由来ワクチンの遺伝子型Aウイルスの感染防御能の検討
 遺伝子型C由来のワクチンを接種した人から得られ、最も中和活性が高いことが確認されている2種類のモノクローナル抗体(116抗体、478抗体)と、HBV感染源とを混合したものを、ヒト肝細胞を持つ(置換)キメラマウスに投与した時の感染防御反応を検討しました。使用したHBV感染源の遺伝子型はAとC、そしてワクチンエスケープ株として知られるC-145R変異株*です。その結果、遺伝子型C由来の116抗体、478抗体は、遺伝子型Cのみならず遺伝子型Aの感染も100%防御することが示されました。さらに、478抗体では、エスケープ変異株C-145Rの感染も防御しました(図24,5)

③ 感染防御が可能なHBs抗体価の検討
 さらに、HBs抗体価がどの程度あれば異なる遺伝子型の感染を防御できるか、定量的な検討をin vitroで行いました。HBVと抗体を混合してから培養細胞に感染させるキメラマウスの感染実験と同条件の場合と、抗体と肝細胞を混合し、その後にHBVを感染させるヒトの体内での反応により近い条件で行った場合の2つの方法で検討しました。どちらの方法でも遺伝子型Cワクチン由来の478抗体を10倍ずつ希釈し、各濃度で遺伝子型CとAのHBV感染をどの程度防御できるかを示しました。その結果、遺伝子型Cに対しては5.5mIUで完全に防御、遺伝子型Aに対しては5.5mIUで90%防御、55mIUで完全に防御できることがわかりました(図34,5)。この結果は、ある程度抗体価があれば遺伝子型C由来のワクチンでも遺伝子型Aのウイルスを防御できることを表しています。55mIUという抗体価は、一般的なワクチン接種で十分獲得できる量であり、特に小児期では3回接種後の抗体価は1,000mIU/mLを超えることも珍しくありません。
 また、実際に遺伝子型C由来ワクチン接種者13人の遺伝子型AとCペプチドに対する反応性を検討したところ、接種されたワクチンの遺伝子型に依存せずにHBs抗原と反応することが示されました4)
 これら複数の検討により、予防接種基本方針部会では、遺伝子型C由来ワクチンが遺伝子型Aにも十分な効果が期待できるとし、仮に国民に対して広く接種機会を提供する場合、遺伝子型C由来、A由来のどちらのワクチンの選択も可能と結論付け、2015年1月に定期接種化の方針を決定しました。ただし、引き続き、実施にあたってのより具体的な検討などが必要とされています。

3 定期接種化のメリットと今後の課題は?

 定期接種の大きな目的の一つは、水平感染の予防です。HBVは血液や唾液などあらゆる体液から感染するため、HBV感染に気付いていない父親からの感染は年間500人に及ぶともいわれており6)、乳児への定期接種化が実現することで家族内感染や保育園での集団感染など水平感染の予防が期待されています。
 現在検討されている定期接種の対象は乳児のみですが、乳児期接種で予防効果と安全面で実績を作った上で、将来的には思春期以降のキャッチアップ接種の定期接種化や成人等への啓発に広げていく必要があると考えています。

  • 参考文献
  • 1)Kurbanov F, Tanaka Y. et al. Hepatol. Res. 2010; 40(1): 14-30.
  • 2)Tamada Y, et al. Gut. 2012; 61(5): 765-773
  • 3)Ito K, et al. Hepatology. 2014; 59(1): 89-97.
  • 4)2015年1月15日 第6回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会資料
  • 5)Hamada-Tsutsumi S. et al. PLoS One. 2015; 10(2): e0118062.
  • C-145R変異株:ワクチンを接種しても感染してしまう変異が入っている株のこと。A-loopのアミノ酸配列C-145の1か所だけに変異が起こっているだけだが構造が大きく変わり、抗体が結合しにくいことが知られている。

日常診療Q&A 四種混合ワクチン(DPT-IPV)についてのQ&A 川崎医科大学小児科学教室 教授 中野貴司先生

Q 2015年12月に新しい四種混合ワクチン(DPT-IPV)が発売されました。その臨床上の意義を教えてください。

A:2015年12月に新しく発売された四種混合(DPT-IPV)ワクチン、スクエアキッズ®は、不活化ポリオワクチン(IPV)として、世界各国で豊富な使用実績があるソークワクチンを含有していることが特徴です。 ソークワクチンは、1955年にJ.Salk博士が野生株ポリオウイルスを不活化することによって、開発しました。
1961年に経口生ポリオワクチン(OPV)が発売されると、免疫誘導に優れ、集団接種が容易で安価なOPVが一時主流となりましたが、オランダや北欧諸国は、1980年代に強化・改良されたソークワクチン(enhanced potency IPV/eIPV)の導入を経て、一貫してソークワクチンでポリオから国民を守り、発症数をゼロにした経緯があります1)
また、1980年代にポリオ流行が収束したことに伴い、OPV接種により数百万接種に1例程度の頻度でみられるワクチン関連麻痺(VAPP)の問題が相対的に大きくなり、世界各国でOPVからIPVへの切り替えが進んでいます。その際、迅速な導入に至るのは世界で豊富な使用実績をもつソークワクチンです2)
ワクチン接種は健康な子どもを病気から守る手段です。臨床試験により長期にわたる有効性および安全性が確認されていることはもちろん、長年にわたり世界各国で接種され続けてきた実績から、安心感と信頼感を得られることの意義は大きいと考えます。安定供給の面からみても、ソークワクチンを含む四種混合ワクチンが日本で発売されたことは、歓迎すべきことだといえます。

Q DPT-IPVに続く混合ワクチンのわが国での展望を教えてください。

A:米国や欧州諸国など海外では、すでに5種混合ワクチンや6種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib-HBV)が採用されている国もあります。混合ワクチンは抗体価が上がりにくいコンポーネントがあること4)や一時供給が滞った5)との課題も報告されていますが、少ない接種回数で複数の免疫を獲得できるため、保護者や子どもたちの負担を軽減でき、接種率が向上するとの報告もあります6)。課題解決の方法は模索する必要がありますが、今後、わが国でも臨床上意義の大きい混合ワクチンの開発がさらに進むことが期待されています。

Q DPT-IPVの初回免疫時の注意点を教えてください。

A:四種混合ワクチンで予防できる疾患は、いずれも代表的なVPDです。特に百日せきは、低月齢の乳児で罹患した場合に重症化のリスクが高い疾患です。ワクチン接種可能な生後3か月になったら、できるだけ早く接種することが大切です。
また、生後3~5か月の時期は、定期接種のワクチンだけでも、DPT-IPVのほかにヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンなどがあり、接種スケジュールが立て込みます。発症予防に十分な抗体価をより早期に獲得するためにも、日本小児科学会が推奨するように同時接種をすることが望ましいと考えられます。

Q DPT-IPVの1歳児の追加免疫時の注意点を教えてください。

A:厚生労働科学研究による全国累積接種率調査2014年度調査報告によると、DPTの初回相当の接種率は生後5か月の時点で86.87%であるのに対し、追加免疫相当は生後24か月でようやく79.60%で、ポリオ追加免疫相当も同様に接種遅れがみられました3)
追加免疫時の接種遅れを防ぐ対策としては、保護者の事情に合わせたスケジュールを提案するのがよいと考えられます。例えば、両親が共働きで忙しい場合には、MRや水痘など1歳から定期接種の対象となるワクチンとの同時接種を提案し、通院の負担を軽減できるよう配慮するとよいと考えられます。また、ワクチン接種を理由に定期的に通院してもらう方法もあります。この方法であれば、医師と保護者の信頼関係が築け、納得の上でワクチンを接種してもらえますし、小児科医として子どもの成長を細やかに見守ることもできます。
さらに、追加免疫時の接種遅れを防ぐもうひとつの対策として、乳児健診や病気で受診した際に母子手帳をチェックし、未接種のワクチンがあれば接種を勧めることも有効といえます。
最後に今回ワクチンが発売されるにあたって、覚えておきたいのは、新しい四種混合ワクチンは既存のワクチンとの互換性があると考えられている点です。接種遅れに気付いたら、既に接種しているワクチンの種類にとらわれることなく、早めの接種をお勧めしていただきたいと思います。

  • 参考文献
  • 1)Murdin AD, et al. Vaccine. 1996; 14(8): 735-746.
  • 2)WHO. Polio Eradication & Endgame Midterm Review July 2015. http://www.polioeradication.org/Portals/0/Document/Resources/StrategyWork/GPEI-MTR_July2015.pdf
  • 3)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 「BCGワクチン、3種混合ワクチン(DPT)、4種混合ワクチン(DPT-IPV)、ヒブワクチン(Hib)、小児用結合型肺炎球菌ワクチン(PCV)、麻疹・風疹混合ワクチン(MR) 1期接種の全国累積接種率調査: 2014年度調査報告」
  • 4)Eskola J, et al. Lancet. 1999; 354(9195): 2063-2068.
  • 5)UNICEF Supply Division, Pentavalent vaccine (DTwPHepB-Hib): Market & Supply Update, 2015.
  • 6)Baldo V, et al. Hum Vaccin Immunother. 2014; 10(1): 129-137.

「効能又は効果」「効能又は効果に関連する接種上の注意」、「用法及び用量」、「用法及び用量に関連する接種上の注意」、「接種不適当者を含む接種上の注意」等については、製品添付文書をご参照ください。

スペシャリストPick Up 栃木県大田原市の乳幼児ワクチン接種率向上に向けた取り組み 吉成小児科医院 院長 吉成仁見先生

医師会からの働きかけで実現した公費助成

 大田原市は、2000年に国に先駆けて高齢者にインフルエンザワクチンの公費助成を行うなど、市民の健康管理に対して熱心な自治体です。このような状況下で医師会は、公費助成が得られやすい風土があると考え、小児科領域で助成が望まれる任意接種ワクチンについて、積極的に行政に情報提供を行ってきました。
 まず、2009年にはまだ任意接種であったヒブワクチンについて、ワクチン導入によって髄膜炎による死亡例が激減した米国のデータを文書で提出し、公費助成の必要性を訴えました。それがきっかけとなり、2010年の国主導による「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」開始前に、ヒブワクチンの公費助成を実現することができました。
 続くロタウイルスワクチンについては、発売前から行政に働きかけを始めました。理由としては、大田原市は子どもを保育園に預けて働く母親が多く、子どもがロタウイルス胃腸炎にかかると1週間以上の登園停止になるなど経済的・時間的負担が大きいと考えたからです。その結果、2011年のロタウイルスワクチン発売と同時に公費助成が実現し、2014年度の接種率(1回目)は半額自己負担にもかかわらず87.3%を記録しました(表1)。当院でも、流行シーズンにロタウイルス胃腸炎の重症を疑う症例が著しく減少し、ワクチン普及のインパクトの大きさを実感しています。
 その後、おたふくかぜ、水痘、B型肝炎に関しても行政に公費助成を嘆願し、2012年に公費助成が実現しています。

吉成小児科医院でのワクチン接種に関する取り組み

 当院では、診察日の14~15時にワクチン外来を設けています。近年はNPO法人「VPD を知って、子どもを守ろうの会」が提唱する「ワクチンデビューは生後2か月の誕生日」が浸透したおかげで、お子さんが生後2か月前後で自主的にワクチン外来に来られる保護者が増えました。初回接種時には、接種スケジュールを組み、ワクチンの接種意義や助成の情報を提供しています。また、看護師や事務スタッフもワクチンについて学び、保護者への概要説明を担当しています。
 接種時に特に注意しているのは誤接種の防止です。当院では全例について「接種時期」と「接種ワクチン」のダブルチェックを実施しています。また、接種前にお子さんを必ずフルネームで呼び、取り違え防止対策を行っています。次回予約時に接種年齢をしっかりチェックし、定期接種の対象から外れるような事態も避けています。

顔の見える関係で医師会と行政が連携

 大田原市で公費助成が行われる以前は、市内の各医療機関が任意接種ワクチンの啓発を行ってきましたが、任意接種であるがゆえに保護者へ働きかけても接種率は上がりませんでした。その経験から、公費助成が何よりのPRであり、接種率向上につながると考え、医師会として行政へ情報提供を懸命に行ってきました。
 大田原市は市民への情報提供に熱心な上、2014年からは予防接種従事者を対象とした勉強会も開催しています。医師会としても、年1回市長を招き合同で会議を実施したり、医師会主催の講演会に行政担当者にも出席するように働きかけています。
 人口約7万5千人の大田原市は、我々医師と行政担当者が顔を合わせる機会も多く、信頼関係を築きやすい恵まれた環境にあるといえます。地域によって状況は異なると思いますが、医師会と行政が共に考え連携を図ることによって、子どもたちを守るワクチンが普及していくと考えています。

大田原市による任意接種を含めたワクチン普及・啓発の取り組み

 行政から市民へのワクチン接種の情報提供は、インターネットのほか、予防接種の概要を記載したリーフレットを出生届時に配布しています。その際に任意接種のロタウイルスワクチンとB型肝炎ワクチンの公費助成についても案内しています。おたふくかぜワクチンの公費助成については、1歳から定期接種が始まるMRワクチンの通知と一緒にリーフレットを送付しています。
 また新生児期に保健師や助産師が全戸訪問するときや乳幼児健診時、保護者が市役所を訪れたときなど、市の職員が直接保護者に接する機会にも、母子健康手帳の予防接種記録欄を確認し、接種漏れを防ぐよう努めています。

特別記事 地方衛生研究所の感染症サーベイランスに果たす役割 愛知県衛生研究所 所長 皆川洋子先生

地方衛生研究所(地衛研)は、地域の公衆衛生の科学的かつ技術的中核機関として、調査研究・試験検査・情報解析等を実施しています。地衛研が感染症対策に果たす役割について、愛知県衛生研究所の皆川洋子先生に伺いました。

専門的知識と技術で地域保健を支える地方衛生研究所

 地方衛生研究所(地衛研)は、各都道府県と政令指定都市、全国80か所にあります。国の定める地方衛生研究所設置要綱に基づき、感染症だけでなく食品、医薬品、水などに関わる「調査研究」、公衆衛生行政の基盤となる科学的・技術的データを提供する「試験検査」、感染症や食品衛生などの情報を収集・解析し、わかりやすい形で提供する「情報収集・解析・提供」、地域保健関係職員や公衆衛生を学ぶ学生等への「研修指導」という4つの役割を担っています。

感染症サーベイランスに地衛研が果たす役割

 感染症発生動向調査(サーベイランス)は、感染症対策の柱のひとつであり、国立感染症研究所(感染研)は全国の医療機関から保健所を介して報告される患者情報の把握・分析を行い、感染症の発生状況について週報・月報・年報等の形で情報を発信しています。地衛研は、県・市単位で患者情報の解析を行うとともに病原体の検査を実施し、地域における流行状況情報等を発信する役割を担っています(図1)。
 2016年4月の改正感染症法全面施行後は、ウイルスの分離同定検査で得られる病原体情報の収集等において地衛研の果たす役割はさらに増すことが予想されます。
 迅速かつ正確な検査が全国で実施されるには、感染研による検査法の提示と地衛研ネットワークの連携が不可欠です。現場にあたる地衛研では従来の検査法をすり抜ける突然変異ウイルス等を把握した場合等は迅速に感染研に情報を送り、一方、感染研は変異株もカバーできる検査法を提示するなどして、感染症対策において連携しています。

感染症サーベイランス実施の意義

 定点把握対象の感染症のうちインフルエンザについては、全国で5,000以上の定点医療機関より、毎週欠かさず患者情報が報告されています。過去情報の蓄積が流行の立ち上がりや規模の予測に大変役立っています。さらに、患者数データの解析は公衆衛生施策の検証にも有用であり、例えばワクチンの導入効果の判断根拠となります。最近の例としては、水痘患者報告数の大幅な減少があげられます。
 また、全数把握感染症については、医療機関から報告された患者情報を分析し、必要に応じて医療機関や地域に注意喚起することで、感染拡大予防等の対応につながることが期待されます。
 このように医療機関、地域の保健所や地衛研、感染研が協力して実施するサーベイランスから得られるデータは、感染症対策に役立てられています。

感染症の予防および拡散防止に地衛研が果たす責務

 感染症には毎年あるいは数年間隔で流行を繰り返すものがあり、サーベイランスは感染症のトレンドを読み取ったり病原体変遷の把握に有用です。例えば肺炎球菌の血清型変化やオセルタミビル耐性インフルエンザウイルスの把握等、年々変化する病原体の情報収集・発信が行われています。
 また、各地衛研がそれぞれ得意とする病原体に関する調査研究の継続も重要です。例えば、愛知県では長年ピコルナウイルス研究が行われ、アイチウイルスやヒトパレコウイルス3型が発見されています。地衛研では、地域における10年単位の長期的な感染症の変遷を把握し、対策を提言できる人材を確保することが理想です。
 今後も全国の地衛研や感染研とのネットワークを維持すると同時に、地域医師会とも顔の見える関係を保ち、地域公衆衛生の立場から感染症予防や拡散防止に役割を果たしていきたいと考えます。