Vaccine Digest 第8号(2015年8月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う

    ヒブ・肺炎球菌ワクチンが小児細菌性髄膜炎にもたらした功績と残された課題

    国立病院機構三重病院 名誉院長 庵原俊昭先生

  • 特別記事

    沖縄県にみる小児侵襲性肺炎球菌感染症の発症状況とワクチンインパクト

    沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 小児科 母子センター長 安慶田英樹先生

  • ワクチン行政Watching

    ワクチン行政が果たしてきた役割と今後の課題
    ~麻しん排除認定からワクチン評価に関する小委員会の役割まで~

    川崎市健康安全研究所 所長 岡部信彦先生

  • 日常診療Q&A

    乳幼児へのワクチンの筋肉内接種に関するQ&A

    福岡歯科大学 総合医学講座 小児科学分野 教授 岡田賢司先生

  • Vaccine Topic

    4価インフルエンザワクチンの有効性と安全性

    国立病院機構 三重病院 副院長 菅秀先生

  • Vaccine Topic

    四種混合ワクチン(DPT-IPV)「選択の時代」へ

    北里大学 北里生命科学研究所 所長 大学院感染制御科学府
    学府長 中山哲夫先生

感染症の流行を追う ヒブ・肺炎球菌ワクチンが小児細菌性髄膜炎にもたらした功績と残された課題 国立病院機構三重病院 名誉院長  庵原俊昭先生

公費助成導入後、大きく患者数が減った侵襲性ヒブ感染症

 我々は、厚生労働科学研究として全国10道県を対象に「小児細菌性髄膜炎および侵襲性細菌感染症調査」を2007年より毎年行っていますが、今回2014年1~12月の調査結果を発表しました1)
 インフルエンザ菌のうちで、予後不良となる侵襲性インフルエンザ感染症のほとんどを占めるのが、b型の莢膜をもつインフルエンザ菌b型(ヒブ)ですが、その侵襲性ヒブ感染症(ヒブ髄膜炎・ヒブ非髄膜炎)に関しては、本調査を開始してから初めて報告患者数が0になりました(表1・表2)。諸外国では減少率90%以上を獲得するまでに5~10年を要したことを考えると驚異的なペースです。2008年12月にわが国に導入されたヒブワクチン(アクトヒブ®)がもたらしたインパクトの大きさがうかがえます。
 侵襲性ヒブ感染症が大きく減少した一方で、莢膜をもつb型以外の5つの血清型(a/c/d/e/f)のインフルエンザ菌や、莢膜をもたない無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi: non-typeable Hi)の問題が残されています。2014年に報告された5例の侵襲性感染症(非髄膜炎)はすべてNTHiによるものでした。現段階では、2013年以前のデータと同程度であることに加え、予後の悪い侵襲性インフルエンザ菌感染症の原因の95%はヒブであるため2)、ヒブほどの脅威はないと考えられますが、今後もヒブ以外のインフルエンザ菌による侵襲性感染症の動向には注意が必要です。

侵襲性ヒブ感染症から子供たちを守るために~ヒブワクチンの高い接種率の維持と「1歳になったら早期の追加免疫接種」の徹底を~

 わが国が驚異的なペースでヒブ感染症の患者数を激減させた背景には、ヒブワクチン接種率の高さがあります。最近では生後2か月からのワクチンデビューが浸透しているため、ヒブワクチンの初回免疫接種の接種率は早期に上昇し、生後5か月で90%台に達していることが報告されています3)。しかし、初回免疫後7~13か月での接種が推奨されている追加免疫接種**については、生後12~13か月の接種率は40%に満たず、23か月時点でようやく90%台に達することから、接種のタイミングが遅れていることが推察されます。これを防ぐ方法として、1歳での接種率が高いMRワクチン(第1期)や、2014年10月に定期接種化された水痘ワクチンと同時に、ヒブワクチンの追加接種も受けるよう保護者に伝えるなどの工夫が大切です。
 また、まれではありますが、2か月からの初回接種のタイミングを逃すと、その後の接種をあきらめてしまう保護者もいます。「1歳以上は接種が1回のみで通院負担が少ない」「ヒブワクチンのような結合型ワクチンは、1歳で接種すると良好な免疫反応を誘導できる」という点を説明して、接種を促すことも大切です。

IPD発症動向と小児用肺炎球菌ワクチン接種の意義

 一方、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD: invasive pneumococcal disease)に関しては、2008~2010年と比較した減少率が2012年に55%に達し、小児用肺炎球菌ワクチンの効果が日本でも認められました。しかし、2013年は57%、2014年は58%と減少率の下げ止まりが続いています(表2)。この要因として考えられるのが、小児用肺炎球菌ワクチンでカバーできない血清型(Non-PCV type)への置換(serotype replacement)です。
 本調査で血清型が判明した肺炎球菌のうち、最も多く検出された型は19Aです(表3)。19Aに関しては、2013年11月より7価肺炎球菌ワクチン(PCV7)から19Aをカバーする13価肺炎球菌ワクチン(PCV13)に変更されたことにより、2013年42例、2014年32例と減少しており、特にPCV13接種者から検出された19Aは1例のみだったことからも、2015年以降はさらに減少すると予測されます。しかし、19Aに次いで多く検出された15A、24F、15B、10Aは、Non-PCV typeです。
 このようにNon-PCV typeが増加している以上、小児用肺炎球菌ワクチンを接種しても肺炎球菌感染症の発症リスクがあることを保護者に啓発する必要がありますが、serotype replacementによって増加した菌のほとんどは抗菌薬が効きやすい感性菌です4)。薬剤耐性の強い菌は小児用肺炎球菌ワクチンでカバーされるため、中耳炎等の肺炎球菌感染症は治療しやすくなったといわれています。さらに、小児での小児用肺炎球菌ワクチン接種率が上がると集団免疫効果により高齢者の肺炎球菌感染症が減少することが海外で報告されており5)、serotype replacementが進んでも、小児用肺炎球菌ワクチンの接種意義は大いにあると考えられます。
 なお、2015年3月にNTHiを含むすべてのインフルエンザ菌が保有するプロテインDをキャリアタンパクとする10価肺炎球菌結合型ワクチン(シンフロリックス®)が承認されました。シンフロリックス®は、小児の侵襲性肺炎球菌感染症への予防効果に加えて、日本で初めて肺炎予防の適応がプラスされたワクチンです。シンフロリックス®の導入により、小児用肺炎球菌ワクチンの選択肢が増えることは喜ばしいことだといえます。

GBS感染症は増加発熱児の早期受診の啓発を

 GBS感染症は、残念ながら2013年以降増加傾向が顕著であり、2008~2010年と比較すると、2014年の罹患率は髄膜炎が1.3から1.5、非髄膜炎は1.2から2.4と2倍に増加しました(表2)。増加の理由として、血液培養の機会が増えたことによりGBSの検出数が増えたことが一因として考えられますが、サーベイランスを継続して今後も動向を注視していく必要があります。
 GBS感染症には、生後6日以内に発症する母体由来のGBS感染による早発型と、7日以降に発症する水平感染による遅発型があります。早発型は出産入院中に発症するため、ほとんどが早期に発見・治療されますが、退院後に発症する遅発型は発見が遅れる可能性があります。発見が遅れると後遺症が残ったり、まれに死亡に至るため、乳児早期の発熱児が不機嫌な場合は早めに医療機関を受診するよう、保護者を啓発する必要があります。
 GBSへの感染予防対策として、母体に接種して抗体を胎児に移行させるワクチンが現在開発中であり、実用化が待たれます。また、外来で発熱児を診察する場合は、ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンを接種済みであれば、GBS感染症を疑うなど、ワクチン接種歴の聴取が早期鑑別に有効であると考えられます。

サーベイランスを継続し、今後も小児侵襲性細菌感染症の発症動向の追跡を

 サーベイランスには、本調査のように一部の地域で前方視的に行うアクティブサーベイランスと、後方視的なパッシブサーベイランスがあります。全国から自発的に報告された情報を収集するパッシブサーベイランスでは、アクティブサーベイランスと比較して検出数が低く出る可能性があるといわれています。実際に、現在わが国で行っている侵襲性細菌感染症のパッシブサーベイランス(全数報告)と本調査では異なる数値が出てきています。このことを踏まえると、今後も2つのサーベイランスを並行し、両者の数値を比較してより正確なデータを得ることが、感染リスク因子、ワクチン等による対策の検討に不可欠であると考えています。

  • 北海道、福島県、新潟県、千葉県、三重県、岡山県、高知県、福岡県、鹿児島県、沖縄県
  • ** 日本小児科学会では1歳を過ぎたら早めの接種を推奨
  • Hi:インフルエンザ菌、Hib:インフルエンザ菌b型、SP:肺炎球菌、IPD:侵襲性肺炎球菌感染症、GBS:B群溶血性連鎖球菌
  • 参考文献
  • 1)庵原俊昭ほか. 厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 「Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」 平成26年度 研究報告書 「小児細菌性髄膜炎および侵襲性感染症調査」に関する研究(全国調査結果)
  • 2)庵原俊昭. Modern Media 2008; 54(11): 331-335.
  • 3)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 「BCGワクチン、3種混合ワクチン(DPT)、4種混合ワクチン(DPT-IPV)、ヒブワクチン(Hib)、小児用結合型肺炎球菌ワクチン(PCV)、麻疹・風疹混合ワクチン(MR) 1期接種の全国累積接種率調査: 2014年度調査報告」
  • 4)生方公子ほか. 厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 「重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析、その診断・治療に関する研究」 http://strep.umin.jp/pneumococcus/vaccine.html
  • 5)Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010; 201(1): 32-41.

特別記事 沖縄県にみる小児侵襲性肺炎球菌感染症の発症状況とワクチンインパクト 沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 小児科 母子センター長 安慶田英樹先生

小児の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)は、厚生労働省の研究事業により全国10道県で行われたサーベイランス調査の結果、ワクチン導入後、発症状況が大きく変化したことが報告されています1)。また沖縄県から報告された肺炎球菌の遺伝子型は傾向が全国と異なっていることが明らかになってきました2)。調査研究を実施する、沖縄県立南部医療センター・こども医療センターの安慶田英樹先生に沖縄県内のIPDの発症状況の特徴について伺いました。

沖縄県のIPD発症状況

 「小児細菌性髄膜炎および侵襲性細菌感染症調査」の全国10道県調査の一環として、沖縄県でも発症状況の調査が行われてきました。沖縄県では、2011年5月に全市町村で肺炎球菌ワクチン接種への公費助成が行われるようになって以降、小児のIPDの発症数は大幅に減少しました2)
 沖縄県内で報告された5歳未満のIPDは2014年に26例で、2008~2010年の平均報告数と比べ67%減少しました。しかし、2013年の報告数は23例であり、2014年は減少にやや歯止めがかかっているといえます(図13)。  また沖縄県では、全国よりも菌血症や非髄膜炎の報告数が多いことが特徴です。ただし、他の地域より発症率そのものが著しく高いというわけではありません。沖縄県では救急医療機関に患者さんが集まる傾向が強く、血液培養検査が積極的に行われ、診断を確定させています。このような取り組みが、菌血症などのIPD症例の検出、報告に表れていると評価しています。

ワクチン導入後にみられた肺炎球菌の血清型の変化

 小児の肺炎球菌ワクチンは、2010年に結合型7価肺炎球菌ワクチン(PCV7)が、2013年からは結合型13価肺炎球菌ワクチン(PCV13)が導入されました。
 2009~2011年の調査では、肺炎球菌の血清型のうちPCV7含有血清型が70%以上を占めていましたが、PCV7導入後は急速に減少し、2013年以降はIPD症例でPCV7含有血清型が検出されていません。その一方で、PCV7に含まれない血清型19Aによる症例が増えてきました(図23)
 PCV13導入後、初めてとなる2014年の調査では、19Aの症例に前年よりも減少がみられます。これは、PCV13で19Aがカバーされた効果が表れていると考えてよいでしょう。ただし、PCV13に含まれない血清型による症例は増えており、今後も報告されたIPD症例の血清型変化を注意深く観察する必要があります(図23)

肺炎球菌の血清型19Aでみられる沖縄独自の変化と問題

 肺炎球菌の血清型に注目すると、沖縄県ではPCV7導入前から19Aの割合が高く、他の地域と異なる傾向がみられます。
 さらに、肺炎球菌の遺伝子型(アレルプロファイル)を分子疫学的に解析するMLST法によると、沖縄県は他の地域と比べて19AのなかでもST320という遺伝子型の割合が高いことがわかりました(図33)。ST320は韓国をはじめとした東アジアに多く、アメリカでも散発的に検出される遺伝子型です。東アジアに近く、米軍基地が多い沖縄県の地理的条件を考慮すると、ST320はアジアもしくはアメリカから入ってきたものと考えられています。
 全国的によくみられるST3111という遺伝子型は、抗菌薬に対して感受性がありますが、ST320はペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP:Penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae)です。ST320の感染により発症した髄膜炎は予後不良が予想されることから、臨床的に好ましい状況とはいえません。2013年のPCV13の導入により19Aの症例は減少してきていますが、ST320を含めて19Aの今後の推移を見守りたいと思います。

肺炎球菌遺伝子型に形質転換が起こる仕組み

 肺炎球菌は他の肺炎球菌株や菌種から遺伝子を取り込み、遺伝的性質を変化させる形質転換を起こします。
 鼻咽頭粘膜に感染した際、肺炎球菌は異なる肺炎球菌型の莢膜多糖体の遺伝子を取り込むことで、莢膜の血清型を変え、免疫機構から逃れて生き延びようとします。この現象はcapsular switchingと呼ばれています。MLST解析により形質転換を起こしたと判明した例は、19Fが14に変化した例、19Fが19Aに変化した例などがあります4)。肺炎球菌はこうした多様な遺伝子組み換えにより、遺伝子学的に極めて複雑になってきました。
 肺炎球菌ワクチンは莢膜多糖体に対する感染防御抗体の獲得を目的としているため、形質転換が肺炎球菌ワクチンの効果に影響を及ぼす可能性があり、こうした菌の変化を把握しておくことが重要です。

小児用肺炎球菌ワクチンが果たす役割と今後の課題

 小児用肺炎球菌ワクチン導入後、IPD発症率が劇的に減少したことから、ワクチン接種の有効性は実証されていると考えてよいでしょう。ただし、2014年の調査結果では発症率に下げ止まりの傾向がみられました2)。今後は、PCV13に含まれない肺炎球菌の検出の変化について、血清型はもちろん、遺伝子型についても疫学的な調査を継続していくことが重要です。
 肺炎球菌ワクチンの接種率を高い状態で維持するため、自治体、産科や保育園などと連携し啓発を行う必要があります。また、2014年に沖縄県内で報告されたIPD症例のうち19Aが分離された症例は9例で、これら症例はPCV7の接種歴のみであるため、PCV13の接種歴がない小児へはPCV13の追加接種を推奨することも必要でしょう。
 一般に莢膜多糖体抗原はB細胞が単独で反応し、抗体を産出します。B細胞機能が発達し、抗体産生が盛んになる2歳以上ではIPD発症リスクは低くなりますが、無脾症候群など肺炎球菌の除菌に役割を果たす脾臓の機能が十分に働かない症例や、悪性腫瘍や移植患者など免疫抑制状態にあるハイリスク群では、IPDから守るために年齢が5歳以上でも追加接種を考えるべきです。
 肺炎球菌ワクチンでカバーできない血清型への置換(serotype replacement)による感染症の動向が注目されており、今後も発症状況、血清型別、遺伝子型の同定など疫学的な調査を継続し、IPDの制圧を目指したいと考えています。

  • 参考文献
  • 1)庵原俊昭ほか. 厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」平成26年度 研究報告書「小児細菌性髄膜炎および侵襲性感染症調査」に関する研究(全国調査結果)
  • 2)安慶田英樹. 平成26年度 厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」「沖縄県における小児の侵襲性細菌感染症の発生動向に関する研究」
  • 3)安慶田英樹. 平成26年度 第2回庵原・神谷班班会議 沖縄県報告 資料
  • 4)千葉菜穂子. 日本化学療法学会雑誌. 2011; 59(6): 561-570.
  • 5)生方公子ほか. 厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析、その診断・治療に関する研究」 http://strep.umin.jp/pneumococcus/analytical_comparison.html

ワクチン行政Watching ワクチン行政が果たしてきた役割と今後の課題~麻しん排除認定からワクチン評価に関する小委員会の役割まで~ 川崎市健康安全研究所 所長  岡部信彦先生

麻しん排除認定に至るまでの取り組み -2015年3月に世界保健機関(WHO)は日本が麻しん排除状態であると認定しました。その意義を教えてください。かつて麻しん輸出国と呼ばれた日本が排除認定を受けたことは、非常に価値あるものと考えます。

 このたび、わが国は次のWHO西太平洋地域事務局(WPRO)の麻しん排除に関する基準をすべて満たしたことにより、麻しんの排除状態にあることが認められました。

  • 1) 最後に確認された土着の麻しんウイルス株(1年以上その地域で循環した麻しんウイルス)の存在から少なくとも36か月が経過し、土着の麻しんウイルス株の地域循環がなくなっていることが示されること
  • 2) 麻しん排除の確認が可能なサーベイランスがあること
  • 3) 土着の麻しんウイルス株の伝播がなくなっていることを支持する遺伝子型の証拠が存在すること
    2000~2001年、2007~2008年の麻しん大流行等で過去麻しん輸出国といわれた日本が排除認定を受けたことは、非常に価値あるものと考えます。

-排除認定に至るまでの取り組みを教えてください。オールジャパンの十年余にわたる継続的な取り組み(表1)により、麻しん排除状態が達成されました。

 わが国は「麻しんに関する特定感染症予防指針」に基づいて、2015年までの麻しん排除認定を目標としてきました。その結果、長年の取り組みが実を結び、WPROから排除認定を受けました。
 この背景には、1966年の麻しんワクチン導入からはじまり、2000年あたりから本格的に、医療機関、検査機関、研究機関、保健行政機関、教育現場、ワクチン製造・販売機関、報道機関、保護者などが一丸となった、オールジャパンによる取り組みがあったと考えています(表1)。全数サーベイランス開始後の患者減少状況をみただけでも、その結果が垣間見えると思います(図1)。

 しかしながら、今回麻しん排除認定を受けたことは麻しん対策のゴールではありませんし、グローバル化が急速に進む現代では、麻しん等の感染症はわが国だけの問題ではありません。引き続き、MRワクチン(1期、2期)の接種率95%以上の継続を行い、輸入株流行への対策を進め、海外の麻しん対策に貢献するなど、麻しん排除状態を維持していくことが重要であるといえます。

今後のワクチン行政の課題-麻しんは排除認定を受けましたが、風しんは先天性風しん症候群(CRS)などの問題が残されています。風しんの現状と今後の課題を教えてください。厚生労働省は2014年に「風しんに関する特定感染症予防指針」を策定しました。CRSをなくすとともに、2020年までに風しんを排除することが目標です。

 風しんは2013年に、抗体保有率の低い20~40代の男性や、その影響を受けた一部の20代女性の間で、主に都市部で流行を起こし、2013年32例、2014年9例のCRSが報告されました。2015年現在風しんの流行は収束していますが、依然として抗体保有率の低い層は存在し、再び流行する可能性を秘めています。
 こうした状況を受け、厚生労働省は2014年に「風しんに関する特定感染症予防指針」を策定しました。CRS発症を予防することを目指して、妊娠を希望する女性やその家族を主な対象に、風しんの罹患歴・予防接種歴が不明な場合には抗体検査や予防接種を推奨しているほか、2020年までの風しん排除を目標に掲げています。
 風しんの排除達成は容易ではありませんが、MRワクチン1期だけでなく、小学校就学前の2期についてもワクチン接種の啓発・推進を徹底して行うことで、将来的に国民の多くが風しんの抗体を保有し、風しんがやがて消え去っていくことが期待されます。

-2014年10月に水痘ワクチンが定期接種化されました。水痘の現状と今後の課題を教えてください。2015年の水痘患者報告数は激減しましたが、ワクチンによる効果と断定するには、もう少し長期的に発症の様子をみていくことが必要です。

 より正確な発症動向を把握するためには全数報告を行うことが理想的ですが、近年(ワクチン導入前)の水痘発症数は年間100万人程度1)と推定されており、検査等に伴う自治体・医療機関の負担を考えると、現時点で全数報告を義務づけることは現実的ではありません。まずは水痘患者数1万人程度になった時点で、その詳細を把握するため全数報告に切り替えたほうがよいと思います。

-おたふくかぜワクチンやロタウイルスワクチンなど、現時点で任意接種のワクチンについて、どのような検討が行われていくのでしょうか。ワクチン評価に関する小委員会が、科学的知見に基づきワクチンの効果や接種に関する課題を検討し、どのような位置づけでの接種がふさわしいかなど、議論を進めていきます。

 2015年5月の予防接種基本方針部会にて、ワクチン評価に関する小委員会が、専門的知見を有する参考人の協力を得つつ、検討に必要な論点や作業を整理し、国立感染症研究所にファクトシート作成を要請することが決定されました(図2)。これにより、今後最新の科学的知見に基づいて速やかにワクチンが評価されることが期待されます。

-最後に読者である、実地医家の先生方へメッセージをお願いします。ワクチン接種のベネフィットとリスクのバランスを図りながら、ワクチンは感染症対策の重要なツールであることを認識して接種を行っていただけたらと思います。

 感染症対策はひとりではできませんし、結果が出るまでに時間もかかりますが、オールジャパンの取り組みが長年粘り強く継続されれば、麻しん排除認定のように大きなことも成し遂げられると思います。その際、基本になるのは、科学的知見に基づいた適切な判断と行動です。実地医家の先生方には、ワクチン接種のベネフィットやリスクをよく理解しながら、感染症対策の一翼を担っていただけたらと思います。

  • 参考文献
  • 1)厚生労働省HP「感染症情報:水痘」
    http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/varicella/

日常診療Q&A 乳幼児へのワクチンの筋肉内接種に関するQ&A 福岡歯科大学 総合医学講座小児科学分野 教授 岡田賢司先生

Q 乳幼児へのワクチンの筋肉内接種の意義について教えてください。

A:わが国におけるワクチン接種法は、一部のワクチンを除いて、原則皮下接種が主流ですが、海外では生ワクチンを除く不活化ワクチンの多くは、筋肉内接種されています。ワクチンの筋肉内接種は皮下接種と比較して発赤や腫脹が目立ちにくく、局所反応が少ないことが主な理由として挙げられます。また、B型肝炎ワクチンなどでは、皮下接種よりも筋肉内接種のほうが獲得できる抗体価が高いことがわかっており、不活化ワクチンのなかには免疫原性が高くなることを期待して筋肉内接種が選択されているものもあります1)
わが国でも乳幼児期のワクチンで、接種経路が筋肉内接種しかないワクチンも使えるようになります。今後局所反応が少なく、皮下接種と比べて免疫原性が同等かそれ以上である筋肉内接種を接種方法の選択肢のひとつとして考慮する必要があると考えます。

Q なぜ、これまでわが国におけるワクチン接種は皮下接種が主流だったのですか?

A:1970年代、筋肉内注射後に大腿四頭筋拘縮症を発症した患者が約3,600名報告されたことを機に2)、わが国では筋肉内注射が避けられるようになりました。 大腿四頭筋拘縮症に関する1982年の報告では、原因は注射された薬液にあるようです。pHが低く、浸透圧の高い解熱剤や抗菌薬の頻回投与、さらに、配合変化を起こす可能性のあるそれらの薬剤を混合投与したことが原因とされており2)、これらの薬剤にワクチンは含まれていません。
ワクチン接種において、筋肉内接種の適応をもつワクチンも含めて、皮下接種が主に用いられてきたのは、多くの医療関係者のなかには大腿四頭筋拘縮症の教訓が残っているものと考えられます。
一方、グローバル化のなかで、わが国でも筋肉内接種によるワクチン接種の是非が議論されるようになってきました。2015年3月に、小児肺炎球菌領域において日本初の筋肉内接種が標準接種法であるワクチン、シンフロリックス®が承認され、今後わが国でも筋肉内接種を標準接種法とする不活化ワクチンが増えてくることが予想されます。そこで、日本小児科学会では2015年5月に「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について」をまとめました3)。これを機に、多くの接種医が筋肉内注射によるワクチン接種法を再確認し、安全に実施していただくことが期待されます。

Q 乳幼児へのワクチンの筋肉内接種の方法と注意点を教えてください。

A:日本小児科学会による「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について」は、米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention: CDC)資料を参考に作成しました。筋肉内接種に用いる標準的な針の太さと長さは、接種部位の筋肉量や脂肪組織の厚さ、接種される児の体格などを考慮し、具体的には太さは23~25ゲージ、長さは16~32mmのものを示しています(表1、2)。
また、標準とする接種部位は、上腕三角筋の発達状況に応じて異なります。新生児および乳児(1歳未満)には大腿前外側部、幼児から年長児には上腕三角筋中央部または大腿前外側部への接種が適切です(図1)。乳児の上腕部は、母親の介助があっても固定しにくく、また上腕三角筋の発達が十分でないことも多いため、乳児は基本的には大腿前外側部への接種が適しています。
一方、乳幼児の臀部は筋肉の容積が小さいだけでなく、脂肪組織や神経組織が多く、さらに坐骨神経損傷を起こす可能性があるため適切な接種部位ではないと考えます。
接種する際は、ワクチンをしっかりと筋肉組織に届けるため、筋肉をしっかりつまんで固定し、接種部位に対して90度の角度で針全体を挿入することが重要です(図2)。接種後は、接種部位をもまず、ガーゼや綿球で数秒間軽く押さえる程度に留めます。
このような標準接種法を多くの接種医に理解していただくことにより、安全に筋肉内接種が行われるようになることが望まれます。

  • 参考文献
  • 1)CDC, The Pink Book: Course Textbook-13th Edition (2015)
    http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/vac-admin.html
  • 2)日本小児科学会筋拘縮症委員会 日本小児科学会雑誌. 1983; 87(6): 1067-1105.
  • 3)日本小児科学会「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について」
    http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20150519_kinnnikunaisesshu.pdf

Vaccine Topic 4価インフルエンザワクチンの有効性と安全性 国立病院機構三重病院 副院長 菅秀先生

1 4価インフルエンザワクチンはなぜ導入されるのか?

 インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型に分類されますが、ヒトで流行するのはA型とB型で、C型の流行はほとんどありません。
 A型は、ウイルス粒子の表面抗原であるヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の組み合わせにより細分化され、HAは16種類、NAは9種類あるため、理論上144種類の亜型が存在すると考えられます。そのなかでもH1N1(ソ連型)とH3N2(香港型)は、季節性インフルエンザの原因ウイルスで、遺伝子変異を少しずつ繰り返しながら、毎年世界的な流行を引き起こしています。一方、B型には、亜型がないものの、抗原性の異なる2種類のウイルス株(ビクトリア系統と山形系統)があり、これらも毎年少しずつ変異することで局地的な流行の原因となっています。
 これまで国内で接種されてきたインフルエンザワクチンは、A型H1N1、H3N2の2種類と、B型のうちどちらか1系統を含む3価ワクチン(Trivalent Influenza Vaccine: TIV)です。ワクチン製造に用いられるウイルス株は、国立感染症研究所が国内の流行予測株とWHOが選定したワクチン推奨株に基づいて決定し、ワクチン製造会社に提供されます。しかし、B型は流行予測が極めて困難で、過去10年間ではワクチン株と流行株の一致率は約50%と、そのミスマッチが問題視されていました1, 2)。また、B型は交叉免疫が限定的であり、ミスマッチはワクチンの有効性低下の直接の原因となります。
 そのためWHOは、2013年シーズン(南半球向け)から、A型2株、B型2株を含む4価ワクチン(Quadrivalent Influenza Vaccine: QIV)を推奨しました。そのことを受け、米国では2013/14シーズンから4価ワクチンを導入し、世界の動向は4価ワクチンへと移行しつつあります。わが国でも2015/16シーズンより、従来の生物学的製剤規準である総タンパク量の上限を240μg/mLから400μg/mLに変更し、4価ワクチン導入が決定しました(3)

2 4価インフルエンザワクチンの有効性と安全性は?

 4価ワクチンの有効性(免疫原性)と安全性については複数の臨床研究で確認されています。海外では論文発表もされており4, 5)。小児、成人ともに3価ワクチンと比較し、共通して含まれるA型2株とB型1株に対する免疫原性で非劣性が認められ、4価ワクチンのみに含まれるビクトリア株は有意に高い免疫原性を示しています。安全性に関しては、接種後における局所反応(腫れ、痛み)や全身反応(発熱など)は、4価ワクチンと3価ワクチンは同程度の発現率でした。
 また、多国間で行われた多施設共同第Ⅲ相試験では、A型肝炎ワクチン接種群を対照群とし、3〜8歳の小児に対する4価ワクチンの臨床的有効性と安全性が検討されました。この検討では、PCR法で確定された中等症から重症インフルエンザに対する4価ワクチンの臨床的有効性は73%であったと報告されています(6)
 我々は、0~18歳の日本人小児を対象とし、4価ワクチンと3価ワクチンの免疫原性および安全性を検討する臨床試験を実施し、4価ワクチン接種245人と3価ワクチン接種148人の血清HI抗体価を測定しました。A型に対する抗体上昇は良好で、どの年齢でも接種群間の有意差はありませんでした。一方B型ビクトリア系統に対する免疫原性は、13歳以上の群では有意差は認めなかったものの、どの年齢でも4価ワクチンで高い免疫原性を示しました。接種後の有害事象の発現率は両群で有意差はありませんでした7)
 このように、4価ワクチンは、世界的に臨床試験で有効性と安全性が確認されており、特に、追加されたB型に対する有効性が期待されます。インフルエンザウイルスは毎年流行株が異なるため、実臨床での効果を明らかにすることは困難ですが、市場導入後の解析・評価により、臨床的有効性が示されることを期待しています。

3 接種すべき対象者と効果的な接種スケジュールは?

 インフルエンザワクチンの接種対象者や接種スケジュールは、3価ワクチンから4価ワクチンになっても変わりません。接種が推奨されるのは、感染により重症化しやすいハイリスク群です。65歳以上の高齢者、65歳未満でも呼吸器疾患や心臓、腎臓などの慢性疾患、糖尿病、免疫不全のように特定の基礎疾患のある人、また2歳未満の乳幼児などもハイリスク群と考えます。さらに、高齢者や乳幼児と同居する家族、施設の職員などハイリスクの人に接する機会の多い人や医療従事者も、接種が推奨されます。
 またWHOでは、すべての妊婦への接種を推奨しています。これは、妊婦自身の発症を予防するだけでなく、母親を介した新生児への感染予防や胎児の移行抗体による免疫獲得も期待して行われています。
 接種回数について、低年齢の場合は1回接種では免疫が得られにくいという報告があるため、わが国では13歳未満では2回接種が推奨されています。2回目の接種は1回目から4週間あけたほうが免疫原性は高まることや、2回目接種の2週後から抗体価が上昇することを踏まえ、2回接種の場合は、流行期の6週前に1回目を接種し、4週後に2回目を接種するスケジュールが理想的といえるでしょう。

4 インフルエンザワクチンの今後の開発動向は?

 インフルエンザは毎年流行し、集団感染や死亡例などもみられることから、臨床現場ではワクチンの予防効果を高めることが課題とされてきました。その対策のひとつとして今シーズンより4価ワクチンが導入されることになりました。今後は、さらに皮内接種ワクチン、経鼻接種の生ワクチンなどの開発も進められています。
 皮内接種ワクチンは、従来の皮下接種ワクチンと比較して、高い免疫誘導があるといわれています。また経鼻ワクチンは、ウイルスが感染して増殖する場である粘膜に直接噴霧して、ウイルス感染時の免疫応答を誘導して感染を防ぐワクチンです。いずれも欧米ではすでに実用化されており、日本でも近い将来、導入されるでしょう。
 また現在、わが国で使用しているインフルエンザワクチンはスプリットワクチン(ウイルス表面抗原HAを精製して作られたワクチン)ですが、スプリットワクチンよりも免疫原性を高める効果に優れる全粒子ワクチン(ウイルスそのものを不活化したワクチン)の開発も進められています。全粒子ワクチンについては、小児で発熱などの副反応が強く出やすいこと等、副反応の問題が解決されれば、季節性インフルエンザワクチンとしての導入も期待されます。
 現在、インフルエンザワクチンについては多方面からの開発が進められています。予防効果の向上に加え、接種困難な人への接種の可能性が広がるなど、幅広い効果が期待されています。

  • 参考文献
  • 1)Ambrose CS, et al. Hum Vaccin Immunother. 2012; 8(1): 81-88.
  • 2)福澤正人. 薬事新報. 2014; 2824: 35-37.
  • 3)厚生労働省 健発0508第1号 平成27年度インフルエンザHAワクチン製造株の決定について(通知)
  • 4)Tinoco JC, et al. Vaccine. 2014; 32(13): 1480-1487.
  • 5)Greenberg DP, et al. Pediatr Infect Dis J. 2014; 33(6): 630-636.
  • 6)Jain VK, et al. N Engl J Med. 2013; 26(26): 2481-2491.
  • 7)4価インフルエンザHAワクチン承認申請資料

Vaccine Topic 四種混合ワクチン(DPT-IPV)選択の時代へ 北里大学北里生命科学研究所 所長 大学院感染制御科学府 学府長 中山哲夫先生

1 日本での不活化ポリオワクチン(IPV)と四種混合ワクチン(DPT-IPV)の開発の経緯は?

 わが国では1960年にポリオの大流行がありました1)。当初は不活化ポリオワクチン(IPV)が導入され、ワクチン不足を補うため国内でも開発が進められていました。しかし流行の勢いが強く開発が間に合わなかったため、セービン株経口生ワクチン(OPV)を緊急導入し、定期接種化することで抑制に成功しました。OPVは腸管での局所免疫誘導に優れ、中和抗体が長期間持続するという特徴をもつワクチンで、世界的なポリオ流行の収束に、大きく貢献してきました。
 一方、1980年以降、日本国内で野生株によるポリオの発症がなくなると、約400万回接種に1例の頻度でみられるワクチン関連麻痺(VAPP)という重篤な副反応の問題が相対的に大きくなりました1)。その間、世界各国ではOPVからIPVへの切り替えが進んでいき、この流れを受けて、日本でも2012年からIPVが単独および混合ワクチンとして使用されるようになりました。
 日本で2012年に使用可能になったIPV単独ワクチンは、1950年代に開発、1982年に強化改良され、世界各国で使用されてきたソークワクチンIPVです2)。野生型ポリオウイルスを不活化したワクチンで、血中に中和抗体を誘導し、安全性・有効性ともに高いことが実証されています3)
 また、混合ワクチンでは、ジフテリア、百日せき、破傷風ワクチン(DPT)にIPVを加えた四種混合ワクチン(DPT-IPV)が、2012年に2社から発売されました。これは日本でOPVとして使用されていたセービン株を不活化して、独自に開発したセービン株由来のIPVを含有するワクチンです。さらに2015年には、3剤目として世界で実績をもつIPV(ソークワクチン)を含むDPT-IPVスクエアキッズ®の発売が予定されています。

2 ソークワクチン含有のDPT-IPVの特徴は?

 スクエアキッズ®の特徴は、IPVとして世界各国で使用実績があり、有効性と安全性が確認されているソークワクチンを使用していることです。ソークワクチンは、世界91か国(2014年6月現在)、約2.7億回の接種経験があるワクチンです3)。1型、2型、3型の3種のポリオウイルス抗原は、WHOが定める標準用量を含んでいます2)。DPTは、世界で使用されている百日せきワクチン東浜株を開発した北里研究所(現北里第一三共株式会社)製のDPTで、日本でも豊富な使用実績があります。百日せき抗原として、PT(百日せき毒素)とFHA(線維状赤血球凝集素)のほかに、パータクチン(69KD 外膜蛋白)と凝集素(アグルチノーゲン2、3)の4種の抗原を含むことが特徴です4)
 スクエアキッズ®の国内第Ⅲ相試験の結果では、初回免疫3回接種後の抗体保有率は、PTが98.7%、FHA、ジフテリア、破傷風およびポリオウイルスの1~3型はいずれも100%でした(表1)。4回目の追加免疫接種後の抗体保有率はPTが99.6%、その他はいずれも100%でした(表25)。ポリオに対する抗体価は、単独IPV(ソークワクチン)と比べて高い印象があります。これはソークワクチン含有のDPT-IPVにはアジュバントが入っているためと思われます。
 接種後の副反応については、注射部位の紅斑や硬結、腫脹、疼痛など局所的な症状がみられました。発熱など全身性の症状を含め、副反応の発現率は従来のDPTと同等でした5)

3 今後の課題:さらなる混合ワクチンの開発を目指して

 世界で実績をもつソークワクチンを含むDPT-IPVが日本でも選択できるようになることは、安定供給の点からも望ましいと考えられます。すでに発売されている2剤および今回発売が予定されているDPT-IPVワクチンはいずれも初回免疫、追加免疫後に良好な抗体が獲得され、安全性も確認されています。しかしながら、不活化ワクチンの一般的な問題として、高い抗体価の持続が難しいことが挙げられます。この点については、各製品の第Ⅱ相、第Ⅲ相臨床試験の対象者のフォローアップ研究が実施されており、ポリオの抗体価の持続性など順次結果が明らかになると思われます。また今後、問題になると考えられるのが、百日せきワクチンです。百日せきワクチンは、全菌体ワクチンを含む混合ワクチンが副反応の問題で使用されなくなり、現在の精製抗原を用いた混合ワクチンに切り替わった経緯がありますが、抗体価の持続が課題とされています。効果が持続する新しい百日せきワクチンの開発が望まれますが、この点についてもフォローアップ研究の結果を踏まえた上で、接種回数や接種時期の検討が必要になる可能性もあります。
 また、国内で接種できるワクチンの種類が増えたのは喜ばしいことですが、接種回数が増え、特に0歳児のワクチンスケジュールが非常に過密になっています。そのため、接種回数を減らし、赤ちゃんや保護者、医療関係者の負担を軽減できる混合ワクチンへの期待が高まっています。
 世界では、すでにDPT-IPVにヒブやB型肝炎を加えた五種混合ワクチン、六種混合ワクチンなどが使用されており、国内でも現在、DPT-IPV-Hibの五種混合ワクチンの開発が進んでいます。混合ワクチンは、単独ワクチンと比較してやや抗体がつきにくい傾向はありますが、追加接種を含めた規定回数の接種によりカバーできると考えています。さらなる混合ワクチンの開発の前には、B型肝炎ワクチンの定期接種化などの課題もありますが、今回導入されるソークワクチン含有のDPT-IPVを含めた四種混合ワクチンの普及と評価の確立が、今後のワクチン開発につながっていくことを期待しています。

  • 参考文献
  • 1)http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k01_g2/k01_26.html
  • 2)WHO Weekly epidemiological record 2003; 78(28): 241-252.
  • 3)都築大祐 小児科臨床. 2012; 65(11): 2289-2296.
  • 4)中野貴司 綜合臨床. 2011; 60(11): 2259-2265.
  • 5)スクエアキッズ®承認評価資料(国内第Ⅲ相試験)

「効能又は効果」「効能又は効果に関連する接種上の注意」、「用法及び用量」、「用法及び用量に関連する接種上の注意」、「接種不適当者を含む接種上の注意」等については、製品添付文書をご参照ください。