Vaccine Digest 第7号(2015年3月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う

    わが国における蚊媒介性感染症の流行リスクと対策
    ~デング熱の国内発生を受けての今後の課題~

    長崎大学 熱帯医学研究所 所長 教授 森田公一先生

  • ワクチン行政 Watching

    仙台市ワクチン施策実現のための取り組み

    医療法人社団 かわむらこどもクリニック 理事長・院長 川村和久先生

  • Vaccine Topic

    小児期B型肝炎ウイルス感染症とワクチン接種の意義

    大阪府立母子保健総合医療センター消化器・内分泌科 部長 惠谷ゆり先生

  • スペシャリスト Pick Up

    臨床と基礎をつなぐウイルスの分子疫学
    ~ロタウイルスを中心に~

    日本大学医学部病態病理学系微生物学分野
    日本大学客員教授 東京大学名誉教授 牛島廣治先生

  • 日常診療Q&A

    1歳児へのワクチン接種を確実に行うためのQ&A

    横田小児科医院 院長 横田俊一郎先生

  • 特別記事

    ワクチンによるVPD 予防を社会化させるために
    ~就学前児童のワクチン接種について考える~

    医療法人社団 鉄医会 理事長 久住英二先生

感染症の流行を追う わが国における蚊媒介性感染症の流行リスクと対策~デング熱の国内発生を受けての今後の課題~ 長崎大学 熱帯医学研究所 所長 教授 森田公一先生

蚊媒介性感染症の世界的流行と、わが国への影響

 世界における蚊媒介性感染症の罹患者数は、マラリア2~3億人、デング熱5千万~1億人並びに日本脳炎3~4万人など、全人口の約10%もの人が毎年罹患しています1)。わが国でも人や物の移動が活発化し、国内ではみられなかった感染症が報告されるようになりました(表1)。

 マラリアは罹患者数、死亡者数の多さから長年にわたり世界的な問題となっており、その根絶はWHOの重要な対策のひとつとなっています。マラリアの原虫を媒介するハマダラカは小さな水たまりから、池や川に至るまでさまざまな水場で繁殖し、夜間に吸血活動を行います。わが国の生活環境では流行リスクが低く、輸入例への対応が中心となっています。
 一方デング熱は、東南アジアや中南米での流行の影響を受け、2000年以降、輸入例の報告が増え、国内発生が危惧されていました。そんな中、2014年8月に国内でデング熱患者が発生し、12月29日までに過去2週間以内に渡航歴のない人の罹患が162例報告されました(図12)。デングウイルスを媒介するヒトスジシマカ(図2)は、チクングニア熱やウエストナイル熱のウイルスを媒介することも知られており、国内発生の報告がない感染症も含め、蚊媒介性感染症対策はわが国でも重要な課題となっています。

わが国の生活環境で流行リスクが高いデング熱

 デング熱には非致死性の急性熱性疾患であるデング熱と、出血やショック症状を伴う重症型のデング出血熱の2つの病態があります。デングウイルスは1~4型の4つの血清型があり、初感染時にウイルス型特異的中和抗体が出現し、感染型に対する防御免疫が成立します。しかし、異なる型に再感染した場合には重症型のデング出血熱に罹患するリスクが高まります。したがって、流行が繰り返されると重症型の発生増加が起こりうるため、わが国でも注意が必要です。
 デングウイルスはヒトスジシマカとネッタイシマカによって媒介され(図2)、蚊→ヒト→蚊の感染環を形成します。上記の媒介蚊は雨水の水たまりや植木鉢の皿、古タイヤなど家の周りの小さな水たまりに発生し、昼間に活動します。そのため、都会の人口密集地で発生しやすく、わが国のような近代都市的構造の生活環境でも、デング熱などヒトスジシマカ媒介の感染症が流行する可能性があります。ヒトスジシマカは春~秋にかけて青森県以南に多数生息していますが、冬は卵の状態で休眠越冬します。ウイルスを持った成虫は秋に死滅するため同じ型での越年の流行が起こる可能性は極めて低いと思われます。
 デング熱の予防には、蚊の発生を防ぐことが重要であり、家の周りの水たまりや花瓶の水等は蚊が産卵している可能性があるので、こまめに掃除や交換をすることが重要です。外出時は長袖・長ズボンの着用、虫よけ等で防御します。
 最も効果的な対策はワクチンの接種と考えられ、その開発が進められています。デングウイルスワクチンは、1~4型すべてに対して高い中和抗体を誘導することが求められます。黄熱ウイルスワクチンの17D株のウイルス粒子表面を覆うタンパク質の遺伝子をデングウイルスと置き換えたキメラウイルスを用いたワクチンが開発中ですが3)、臨床使用にはまだ時間がかかり、国内外で使用できる日が待たれています。

患者数が減ってもワクチン接種が重要な日本脳炎

 日本脳炎は現在も国内感染が毎年10例程度報告され、注意が必要な蚊媒介性感染症です4)。わが国では、1924年に6,000人以上が罹患し、うち60%以上が死亡するという大流行が起こりましたが、1960年代のワクチン接種開始、1980年代の稲作農法の改良に伴う水田環境の変化に伴い、蚊の生息数が激減し患者数が減りました。しかし、厚生労働省による日本脳炎ウイルスの蔓延状況調査では、毎夏、日本脳炎ウイルスに対する抗体を持ったブタが確認されており、間接的にウイルスを持った蚊の発生が示されています。患者数が減っても潜在的な脅威は消えたわけではなく、死亡率が高く神経後遺症が残りやすいというリスクの高さからも予防ワクチンの接種が重要です。
 日本脳炎ウイルスはわが国を含む極東から東南・南アジアにかけて広く分布し、コガタアカイエカ(図2)が媒介し、蚊→ブタ→蚊の感染環で生息しています。人は最終宿主であり、人から蚊にウイルスが伝播することはありません。ウイルスは冬に消え、春に再びあらわれます。ウイルスの冬季の生態は解明されておらず、イノシシなどブタ以外の野生動物を介した国内越冬説と、ウイルスを持ったコガタアカイエカが毎年、偏西風に乗って東南アジアから飛来する飛来説が考えられています。東南アジアで流行しているウイルス株と近縁の株が1年から数年遅れで国内の蚊やブタから発見されることから、日本脳炎ウイルスは中国を経由して頻繁に日本に飛来していることは確かです5)

蚊媒介性感染症の流行予防のために

 2014年に厚生労働省から「デング熱診療ガイドライン(第1版)」が公表されました。また、感染拡大リスクを有する蚊媒介性感染症の発生および蔓延の防止のために、厚生科学審議会感染症部会では小委員会を設置し、「蚊媒介性感染症に関する特定感染症予防指針」をまとめ、2015年4月からの適用を予定しています。
 近年の蚊媒介性感染症流行は私たちが想定できないものになってきています。世界のどこかで流行している感染症はわが国でも発生リスクが常に存在しているので、臨床の先生方にも、熱帯感染症の流行状況等を定期的に把握し、診療に活かしてほしいと考えます。

  • 参考文献
  • 1)新井明治. モダンメディア 2012, 58(7): 231-235. 改変 
  • 2)国立感染症研究所デングウイルス感染症情報 http://www0.nih.go.jp/vir1/NVL/dengue.htm
  • 3)森田公一. 化学療法の領域 2014, 30(2): 275-281. 
  • 4)国立感染症研究所感染症発生動向調査年別報告数一覧(四類感染症全数)
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2085-idwr/ydata/5194-report-ja2013-20.html
  • 5)Nabeshima T and Morita K. Future Virology . 2010; 5(3): 343-354.

ワクチン行政Watching 仙台市ワクチン施策実現のための取り組み医療法人社団 かわむらこどもクリニック 理事長・院長 川村和久先生

-仙台市では全国に先駆けてヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンの公費助成が行われました。実現に至った経緯を教えてください。 医師や医療スタッフ、市民が一丸となった街頭署名運動や、市民講座によるワクチン啓発活動により、ワクチン公費助成の実現・普及に結び付けました。

 仙台市では、当時まだ任意接種だったヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの公費助成を、2011年2月に政令指定都市の中で最も早く実施しました。
 ワクチンの公費助成を実現するためには、医師だけでなく、市民の要望を行政に伝える必要があります。まず2010年8月にわれわれ仙台小児科医会が、会員の医療機関で保護者に署名を求めることから活動を開始しましたが、その活動は残念ながら一部の市民にしか届きませんでした。そこで、9月には小児科医会の医師、スタッフ、当クリニック患者のご家族など多くの方にご協力いただき、より市民の目に触れる活動として仙台市のメインストリートで街頭署名活動を実施しました。署名を求める際は、白衣を着て一目で医師による活動だとわかるようにしたり、着ぐるみで視線を集めたり、市民の関心が高まる工夫をしました。
 その結果、当日だけで500人超、最終的には1万人を超える署名を集めることができました。街頭署名活動の際には多くのテレビ局が取材に来ましたが、マスコミの力は私たちの想像以上に大きく、活動を後押ししてくれました。署名と要望書を市長に手渡したときの様子も新聞やテレビで報道されましたが、そのことも公費助成の早期実現の一助になったと考えています。
 また、署名活動と並行して、多くの人に髄膜炎という病気やワクチンの必要性を知ってもらうために、「細菌性髄膜炎から子どもを守るための市民公開講座」を仙台市の後援で開催しました。内容としては、ワクチンの専門家や小児科医だけでなく、「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」の代表からご家族の経験談を、市の感染症対策課長からワクチン接種の重要性や助成内容を講演していただきました。
 ワクチンにより乳幼児を髄膜炎から守る取り組みは、こうした医療関係者、行政、市民が一丸となった活動があってはじめて実現したと考えています。

-仙台市の行政担当者との連携はどのようにして構築したのでしょうか? 市の子育て支援制度のレクチャーを受けに行ったのをきっかけに、こまめに市役所に足を運び、顔の見える関係を構築しました。

 2010年に仙台小児科医会の会長に就任し、「子どもの健康」を俯瞰的に見る立場になったとき、これまでに得た経験や知識だけでは不十分だと感じました。そのため、市役所へ自ら赴き、健康福祉部長や感染症対策課長、子育て支援課長にそれぞれの立場から、市の子育て支援制度についてレクチャーを受けたことが、行政との関係構築のきっかけとなりました。
 その後も、市役所に赴いたときは用事がなくても関係各所に顔を出し、ときには健康福祉局長と雑談に興じるなど対話を繰り返すことで互いに信頼、協力し合えるという気持ちが深まっていきました。ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの公費助成化の要望書を、直接市長に手渡すことができたのも、行政の各担当者と信頼関係が築けていたからだと考えています。
 なお、行政側がワクチン接種に一層理解を示してくれた例としては、2013年の風しん流行時のエピソードが挙げられます。「先天性風しん症候群を未然に防ぐには、女性だけでなく男性もワクチン接種を行い、社会全体が感染を防ぐ必要がある」と当時の感染症対策課長に力説したところ、自ら範を示し課員とともに、当クリニックにMRワクチンを接種しに来てくれました。
 このようにお互いが歩み寄れる関係を築くには、行政へ要望があるなら自ら足を運んで伝えに行く、お願いごとを伝えるときだけでなく日頃からコミュニケーションをとっておくなど、「顔が見える関係」を地道に築いておくことが重要といえるでしょう。

-ワクチンに関する行政施策を実行に移していくためのポイントは何でしょうか。市民、行政、医師それぞれがメリットを享受できる取り組みを提案していくことが大切です。

 行政とのつながりができた頃、市からワクチン接種費用の見直しについての依頼を受けました。仙台市は政令指定都市の中でもワクチン接種事業にかかる予算が大きかったため、接種委託料の算定基準の根拠を明確にしてほしいという相談でした。そこで、仙台市医師会と協力して、算定基準の見直しと委託料の改定を行いました。
 見直しの結果、削減できた予算を他のワクチンの公費助成に回すことができ、2013年7月、以前より仙台小児科医会が要望していた水痘ワクチンとおたふくかぜワクチンの助成が実現しました。任意接種のワクチンは、費用がかかる分、小児科医が保護者に重要性を熱心に説いてもなかなか接種率が向上しません。しかし、公費助成のおかげで2013年7月~2014年6月の1年間で水痘ワクチン、おたふくかぜワクチンの接種率はどちらも約65%となりました。
 これにより市民は、公費助成によってワクチン接種費用を抑えながら、VPDを予防できるようになりました。また、市が負担する乳児医療費の観点でいえば、そもそもVPDが減るので医療費削減につながります。そして医師は、VPDの予防推進で、公衆衛生の向上を図ると共に、ワクチン接種による委託料の増加により経営が安定します。結果として、市民も行政も医師も、それぞれがメリットを享受できる取り組みが実現したと考えています。だれかが苦労やリスクを抱えたり、過度な利益を得たりするようなシステムではなく、お互いが少しずつ我慢や努力、工夫をしながら取り組んでこそ、持続可能かつ明るい未来につながるシステムになるのではないでしょうか。

-今後の活動について教えてください。引き続き医学的に重要な任意接種ワクチンの公費助成実現に取り組みたいと考えています。

 ここ数年で定期接種化されたワクチンも多く、ワクチンギャップは随分解消されましたが、B型肝炎ワクチンやロタウイルスワクチン、おたふくかぜワクチンなど、医学的に重要であるにもかかわらず任意接種のワクチンはまだ残っています。
 医師がVPDから子どもたちを守るための取り組みには、「自分のクリニックで保護者にワクチンの啓発活動を行う」「国にワクチンインパクトを示すデータを提出する」などさまざまな方法がありますが、地方行政に働きかけて、公費助成など有用な施策を実現していくこともそのひとつです。
 もちろん、各自治体によって事情は異なりますが、私たちの取り組みが少しでも全国の先生方の参考になれば幸いです。子どもの健康な未来のために、一人ひとりがそれぞれの立場でできることに取り組み、連携していくことが大切であると考えています。

<h3>Vaccine Topic 小児期B型肝炎ウイルス感染症とワクチン接種の意義 大阪府立母子保健総合医療センター消化器・内分泌科 部長惠谷ゆり先生

小児期のB型肝炎ウイルス感染は何が問題か?

 B型肝炎ウイルス(HBV)感染は、小児と成人で臨床経過が異なります。成人はHBVに感染しても自己免疫でウイルスを排除する力があるため、体内にウイルスを保有し続ける持続感染の状態(キャリア)になる頻度は10%程度です。しかし、小児が感染した場合、免疫力が弱いためにウイルスを排除できず、キャリアになる頻度が高いとされています。特に、3歳以下で感染した場合はその頻度が高く、1歳以下はほぼ全例がキャリアになると言われています(図1)。
 小児期の感染でキャリアになると、将来、慢性肝炎を発症し、肝硬変、肝がんへと進行するリスクを抱えることになります。まれではありますが、小児期の発がん例も報告されています1)。さらに、キャリアとなった人は、社会の中で自身が感染源となってしまうという不安を抱えながら生きていかなければならないことも問題です。

小児期のB型肝炎(HB)の治療目標と達成状況は?

 HB治療の究極の目標は肝がんの抑制です。これは長期的に良好な経過を辿った上で達成されるものであるため、臨床ではまず①セロコンバージョン(HBe抗原が消失しHBe抗体が陽性となった状態)、②肝炎の鎮静化、③ウイルス量(HBV-DNA)の低下の3つを目標とします。幸い小児はインターフェロン療法の効果が高く、かなりの確率で短期的な治療目標をクリアできています。つまり多くは無症候性HBVキャリアとなり、成人までにセロコンバージョンを経てウイルス量が減少し、肝機能が正常化するという自然経過を辿ります(図2)。
 その一方で、たとえ3つの目標を達成できたとしてもそれまでに蓄積した肝臓のダメージによりがんの芽ができてしまっていると、肝がんになることがあります。定期的にフォローがされていれば適切な治療介入が行われますが、感染に気づかず突然がんが発見された場合には、不幸なことに死に至る場合もあります。小児・成人を問わず、専門医のもとで定期的な経過観察を行って治療のタイミングを逃さないことがとても重要です。
 実際には、長期的なフォローは容易ではなく、治療開始のタイミングは、それまでの臨床経過から肝臓のダメージを考慮する必要があるため、専門医であっても慎重な判断が求められます。また、母子感染でキャリアとなった小児は出生後早期から専門医が経過観察を行いますが、ほかの病気の術前検査などで偶然HBV感染が発見された場合や、HBVキャリアの家族がいるために自主的に検査を受けて感染がわかった場合には、治療のタイミングが難しいと言えます。

小児のHBV感染経路は?

 小児のHBV感染経路は母子感染(垂直感染)と水平感染です。多くは垂直感染で、出産時の産道出血により母親のHBVが新生児の体内に侵入することで起こります。わが国では1985年からHBV母子感染防止事業が開始され、感染阻止率90~95%という高い効果を発揮してきました2)。しかし、抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)とHBワクチンの接種スケジュールの煩雑さから、接種漏れや遅れ等の問題が報告され、2013年10月から早期の確実なHBIG投与と3回のワクチン完遂を重視した世界標準のスケジュールに統一されました。これによって、より確実な予防効果が期待されています。とはいえ感染を100%防御するのは難しく、予防処置後に感染を防げたかどうかを確認し、母子感染例を見逃さないことも大切です。
 かつては母子感染さえ予防すればHBは消滅すると言われていたのですが、最近小児キャリアのうち3~4割の感染経路は水平感染であることが明らかになり1,3)、新たな問題となっています。水平感染は父親や祖父母、兄弟など家族内感染が圧倒的に多いものの、原因不明な場合もあり1,3)、国内では保育園など集団生活における感染例も報告されています1)。HBVは血液中だけでなく、唾液、汗、尿など体液中にも存在し感染源になりうるため、水平感染の機会は従来考えられていたよりも多いと考えられます。また、感染しても無症候であるため、HBVキャリアであることを知る機会がなく、自身が感染源になるという自覚のないまま家庭生活や集団生活を送っているケースが存在することは大きな問題です。

ワクチン接種による感染予防がなぜ重要か?

 HBV感染が問題となるもうひとつの側面は、肝炎が治癒したようにみえても、HBVの完全な排除は困難で、時間を置いて再活性化し劇症肝炎になるケースがあることです。HBVは一旦感染すると、一生健康リスクを抱え続けるやっかいなウイルスと言えます。HBVにはA~J型の遺伝子型が存在し、これまで日本ではB型、C型の感染が主体でした。最近は、成人で性行為などによる水平感染でA型の感染例が増加しています。
 HBVは感染力が非常に強いウイルスなので、ワクチン接種による感染予防が何より重要と考えます。特に、社会的な問題でもある、水平感染による感染拡大防止のためにはワクチン接種が果たす役割が非常に大きいと考えます。
 HBワクチン接種による感染予防効果は長期的に維持されることが確認されています4)。現在、日本で承認されているHBワクチンは、A型およびC型由来の2種類ですが、どちらもほかの遺伝子型ウイルスに対する予防効果が確認されています5)

ワクチン定期接種化実現によりもたらされる効果は?

 2015年1月に行われた予防接種基本方針部会で、出生後から生後12ヵ月の乳児を対象に、HBVの定期接種化を実施する方針が示されました6)。定期接種化が実現すれば、小児期の水平感染のほか、成人で問題になっている性感染症としてのHBV感染予防が可能になります。
 また、ワクチンを接種してHBVの免疫を獲得する人が増えることは、キャリアになっている方にとって「誰かに病気をうつすかもしれない」という心配から解放されることを意味します。病気だけでなく、自分が感染源になるかもしれないという怖さも抱え、辛い思いをされてきたキャリアの方々にも、HBワクチンの定期接種化が福音となることを期待しています。

  • 参考文献
  • 1)森島恒雄ほか. 厚生労働科学研究費補助金 肝炎等克服緊急対策研究事業 B型肝炎の母子感染および水平感染の把握とワクチン戦略の再構築に関する研究 平成23年度総括報告書
  • 2)乾あやのほか. 厚生労働科学研究費補助金 肝炎等克服緊急対策研究事業 小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握とワクチン戦略の再構築に関する研究 平成25年度総括・分担研究報告書
  • 3)田尻仁ほか. 厚生労働科学研究費補助金 肝炎等克服緊急対策研究事業 B型肝炎の母子感染および水平感染の把握とワクチン戦略の再構築に関する研究 平成23年度総括報告書
  • 4)FitzSimons D, et al. Vaccine. 2013; 31(4): 584-590. 
  • 5)井上貴子ほか. 厚生労働科学研究費補助金 肝炎等克服緊急対策研究事業 小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握とワクチン戦略の再構築に関する研究 平成25年度総括・分担研究報告書
  • 6)第12回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会資料. 平成27年1月9日 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000070705.html

スペシャリスト Pick Up 臨床と基礎をつなぐウイルスの分子疫学~ロタウイルスを中心に~ 日本大学医学部病態病理学系微生物学分野 日本大学客員教授 東京大学名誉教授 牛島廣治先生

ロタウイルスの分子疫学研究とは?

 ウイルスの「分子疫学研究」とは、流行しているウイルス型を分類し、型別の流行状況の推移を分子レベルで調べる研究です。私は、米国留学から帰国した1981年からロタウイルス研究に従事し、RNAを電気泳動したときの泳動パターンの違いから、ロタウイルスの型を同定する方法を日本に導入しました。また、ロタウイルスの診断方法として、近年用いられているイムノクロマト法の前段階であるラテックス凝集法の協同開発にも携わってきました。
 小児の重症胃腸炎の原因のひとつであるロタウイルスは1973年にオーストラリアのBishop らにより発見され、世界各国で行われた基礎研究により、3層の構造タンパクと11 分節の2本鎖RNA遺伝子を有する構造であることがわかっています1)。ロタウイルスは内殻の構造タンパクによりA~G群の7種に分類されますが、ヒトに感染するロタウイルスは大部分がA群です。このA群ロタウイルスにはG 型とP 型の2種類のウイルス表面抗原があり、それぞれの遺伝子型および血清型の組み合わせにより分類されます。
 ロタウイルスに関する基礎研究は日本でも行われ、1981年に佐藤らが成功したロタウイルスの細胞培養による継代2)は、後のワクチン開発に大きく寄与しています。ロタウイルスの分類方法では、谷口らが作成したG 血清型特異的なモノクローナル抗体3)や前述の電気泳動を用いた分類が行われていました。その後、PCRを用いてG遺伝子型、P遺伝子型を解析し、ウイルス株ごとの流行状況の推移を把握することが可能になっています4)

ロタウイルスの分子疫学研究が臨床医学にもたらす意義は?

 臨床の現場では、患者の感染性胃腸炎の原因ウイルスが何かといった点が重要であって、分子疫学的研究の成果がもたらす意義を直接感じる場面は少ないかもしれません。しかし、流行株の予測や、感染状況に応じた対策を迅速に行うためには、必要な研究です。私は25年にわたって日本のロタウイルスG遺伝子型の変化を調べてきました。2000年頃まではずっとG1 が多かったのですが、その後、G1 とG3の割合が逆転することが2回ありました(図15)。国際化が進んで人の往来が激しくなったためか、気候の変動のためか原因は不明ですが、同時期に世界で同様の逆転現象がみられたことがわかっています。
 分子疫学研究により、流行しているウイルス株が世界で共通なのか、また新しいウイルス株が流行した場合には従来のウイルス株と性状の相違点があるのかなどの情報が得られます。これらは、ワクチン開発の基礎となる重要な情報です。現在、臨床使用しているロタウイルスワクチンは、世界での主要流行株がG1、G2、G3、G4、G9の5種類であることを踏まえて開発されました。その後、アフリカでG8 やG12 といったこれまでの主要流行株とは違う型のロタウイルスの流行が確認されると、これらの型に対する予防効果の臨床試験が行われ、効果が確認されています6)。さらに、将来ロタウイルス胃腸炎の治療薬や予防薬が実現した際に出現するであろう耐性ウイルス株の解析にも、ロタウイルスの分子疫学研究の貢献が期待されます。

ロタウイルスワクチンが自然界にもたらした変化

 国立感染症研究所のデータによると、2013~2014年シーズンでは、感染性胃腸炎の原因ウイルスの中でもロタウイルスの検出報告数が減少しています(図2)。このデータは小児科の定点調査によるもので全数報告ではなく、ロタウイルスの検出には地域差が存在するともいわれますが、全体的にロタウイルス胃腸炎は減っていると考えてよいと思います。わが国では、ロタウイルスワクチンとして、2011年11月にロタリックス® が、2012年7月にロタテック® が上市されました。おそらくロタウイルスの減少は、これらのワクチン接種の普及も寄与していると想定されていますが、さらなる継続的な調査が必要です。

 接種率が全国的に平均で約50%という状況で、ロタウイルス検出報告数が著しく減少した理由として、ロタウイルスワクチンの接種者から排出されたウイルス株により、周辺の人にも間接的な免疫効果をもたらしている可能性が考えられます。一方で、ワクチン株の排出による自然界への影響にも注目が集まっています。日本で感染性胃腸炎の原因となるロタウイルスの遺伝子型、G 型とP 型についてはG1P[8] やG3P[8] が多く検出されてきました。また、11本の全遺伝子分類に基づいて分類した場合、G1P[8]、G3P[8] などはWa遺伝子群に属し、G2P[4] はDS-1遺伝子群という異なる組み合わせを持つことがわかっていました。ところが、近年、G1P[8] の中で、DS-1 に近い遺伝子型を示すウイルス株が検出されています。これは、自然界で分節の再集合が起こり、リアソータントが生まれたことを示唆しています。こうした新しいウイルス株の出現がロタウイルスワクチンの影響によるものかどうか、さらに、ロタウイルス流行株の変化やロタウイルスワクチンの有効性に影響を与えるかどうか、今後もさらなる調査を実施する必要があります。

今後の期待

 感染性胃腸炎は、ロタウイルス以外にもノロウイルスやサポウイルス、アストロウイルスなど他のウイルスによっても発症します(表1)。このため、ロタウイルスワクチン接種が普及しても、集団の感染性胃腸炎の流行はある程度の規模で続くことが予想されます。ただし、乳幼児が重症胃腸炎を起こすロタウイルスの感染だけでもワクチンで予防できれば、患者数や重症例の減少が期待できます。感染性胃腸炎の流行をさらに減少させるには、その他の原因ウイルスに対するワクチンの開発が望まれます。中でもノロウイルスワクチンの実用化が待たれますが、1本鎖RNAを遺伝子に持つノロウイルスはロタウイルスに比べて変異が起こりやすいことや、感染実験モデルの小動物がないこともあって、開発は思うように進んでいないのが現状です。これらのワクチン開発に関しても、ウイルスの分子疫学研究が大切な基礎情報をもたらしていくのではないかと思われます。
 分子疫学研究は地味な分野ではありますが、今後も臨床との橋渡し役となる大事な研究として、力を注いでいきたいと思っています。

  • 参考文献
  • 1)Schnagl RD, et al. J Virol. 1976; 19(1): 267-270.
  • 2)Sato K, et al. Arch Virol. 1981; 69(2): 155-160.
  • 3)Taniguchi K, et al. J Infect Dis. 1987; 155(6): 1159-1166.
  • 4)牛島廣治. ウイルス 2009; 59(1): 75-90.
  • 5)牛島廣治. 小児感染免疫 2014; 26(1): 91-103.
  • 6)ロタリックス® 欧州添付文書
    http://www.medicines.org.uk/emc/medicine/17840

Wa遺伝子群とDS-1遺伝子群(ヒトロタウイルスの11分節の遺伝子の組み合わせの代表例の名称) Wa遺伝子群:主にG1、G3、G4、G9/P[8] DS-1遺伝子群:主にG2P[4]

日常診療Q&A 1歳児へのワクチン接種を確実に行うためのQ&A 横田小児科医院 院長横田俊一郎先生

1歳児のワクチンスケジュールを立てる上で大切なことを教えてください。

A:ワクチン接種の基本は、対象年齢になったらなるべく早く接種することです。1歳になったら速やかにワクチン接種を行えるようにスケジュールを立てておくことが、重要です(表1)。
接種スケジュールの考え方ですが、1歳児に特に早く接種したいワクチンは、定期接種のMRワクチン、水痘ワクチンです。また、1歳児に追加の接種を行うワクチンの中で、ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンは抗体価が下がったタイミングで一部罹患する児がいるので、1歳になったらすぐに4回目接種を行うことが望ましいと考えられます。
四種混合(DPT-IPV)ワクチンの4回目の接種は1歳半ぐらいでもよいのですが、あまり遅くなると接種し忘れてしまうことがあるため、水痘ワクチンの2回目と同時に接種することをお勧めします。
水痘ワクチンは定期接種として2回接種が導入され、初回接種から3か月以上の間隔をあけて2回目の接種ができますが、保育園などの集団生活がなく、流行期でなければ半年後でも差し支えないため、1歳になってすぐに1回目を接種し、1歳半でDPT-IPVの4回目と同時に2回目を接種することを当院では推奨しています。
おたふくかぜワクチンは任意接種ですが、MRワクチン、水痘ワクチン同様に重要なワクチンです。早期に接種するほうが接種後の耳下腺腫脹の発現率が低いというデータがあるため1)、1歳代に接種することが望ましいといえます。1歳になってすぐのタイミングか、水痘ワクチンの2回目接種時に合わせるのがスムーズです。
来院回数を減らすことが、接種漏れの予防にもつながりますので、当院では1歳になったらMRワクチン、水痘ワクチン、ヒブワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンの同時接種を基本的なスケジュールとして推奨しています。
生ワクチンと不活化ワクチンを同時接種しても問題ありませんが、患者さんの希望で分けて接種する場合は、1歳になると同時に不活化ワクチンのヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンを接種し、1週間後に生ワクチンのMRワクチンと水痘ワクチン、おたふくかぜワクチンを同時接種するのが最も早く接種できる組み合わせと考えられます。

追加接種のワクチンのタイミングを逃さないための工夫を教えてください。

A:小田原市ではお誕生日前に8~9か月個別健診があります。当院ではその際に1歳児のワクチン接種スケジュールの説明を行い、その場で予約してもらうよう勧めています。ワクチン接種が目的ではない、健診や病気での来院時にも、必ず母子健康手帳を見てワクチンの接種状況をチェックし、接種のタイミングを逃さないようにすることが重要です。インフルエンザワクチン接種時も、スケジュールの確認や接種漏れワクチンの接種を勧めるチャンスと考えます。保護者が複数の医療機関でワクチン接種をしていても、母子健康手帳を見れば接種記録がわかるため、母子健康手帳は最も確実にワクチン接種を管理できるツールといえます。母子健康手帳の中にも、小児科を受診する際には持参するようにとの記載がありますが、各クリニックや病院でも受診案内に一筆入れたり、ホームページに掲載したりという工夫をして、母子健康手帳持参率の向上を図るとよいのではないでしょうか。
接種漏れを発見したら、その場で予約を入れてしまうことがタイミングを逃さないコツです。

  • 参考文献
  • 1)庵原俊昭. 小児科 2013; 54(12): 1753-1760.

ワクチンによるVPD 予防を社会化させるために~就学前児童のワクチン接種について考える~ 医療法人社団 鉄医会 理事長 久住英二先生

医療法人社団鉄医会 理事長 久住英二先生は、都市部の患者さんに利便性のよい「駅ナカクリニック」を開設するかたわら、ワクチンによる疾病予防の啓発に力を入れておられます。子どもを抱えて働く世代への診療提供や、認定病児保育スペシャリスト試験公式テキスト監修の経験を踏まえて、VPD予防の重要性について解説いただきました。

集団生活を行う乳幼児にはワクチンによるVPD予防が大切乳幼児へのワクチン接種が、家族を守ることも

 ワクチンで防げる病気(VPD)予防のワクチンの多くは、乳幼児を対象に接種されます。特に保育園などの保育施設では、毎日長時間にわたり食事や午睡、集団遊びなど濃厚な接触機会も多く、感染症にかかりやすい環境にあります。また乳幼児は、ある程度免疫を獲得する5歳ごろまでは感染を繰り返しますが、最近では、0歳児保育への需要が高まり、免疫が十分でないまま集団生活を始める子どもも増えています。
 このように集団生活を送る乳幼児を感染症から守るために、ワクチン接種は非常に重要です。ワクチンの中では比較的新しいロタウイルスワクチンに関しても、ロタウイルス胃腸炎の流行時期にもかかわらず、ワクチンを接種して保育園に通っていたお子さんは発症しなかった経験があり、ワクチンの重要性を実感しています。
 また、保育施設での感染が子どもの間だけでなく、保育施設から家庭へ、家庭からまた別の集団へと広がることも問題です。たとえば、ロタウイルスは大人にも感染することがあり、仕事や家事、育児などに支障が出ることが予想されます。妊娠中の母親が風しんウイルスに感染すると先天性風しん症候群(CRS)の子どもが生まれる可能性があるほか、麻しんに罹患すると流産のリスクが高まります。
 保育施設で発生する感染症全体の中でVPDはむしろ少数ですが、そのVPDに感染すると、命にかかわるような病状を呈したり、家族に感染したりするケースもあります。しかし、これらのVPDはワクチンで防ぐことが可能です。集団生活を送る乳幼児のVPDは、ワクチンで防ぐことが基本です。

保護者に対する説明の仕方効果が実感しにくいワクチンの重要性は、噛み砕いて理解できる言葉で説明を

 日本でもヒブワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンが定期接種化されたことにより、全国的な調査でも、これらの病原体による重症感染症が減少したことが報告されています1)。ところが、任意接種ワクチンに関しては、「国の推奨がないから接種しなくてもよいワクチン」と思っている保護者がいます。また、定期接種ワクチンについても、1歳を過ぎてからの追加接種など、間隔があいた場合に接種を忘れてしまうこともあります。医学的には任意接種も定期接種と同様であること、規定回数を接種する必要があることなど、ワクチンの重要性をきちんと伝えることが大切です。
 伝え方としては、生後2か月の「ワクチンデビュー」のタイミングで、保護者と1対1で時間をとって向き合い、不特定多数でなく「あなた」に向けた情報として話をします。最初にしっかりワクチン接種の目的や効果を理解してもらうことが、ワクチンの接種率向上につながると考えています。また、「有効率」のような統計用語は避け、「感染症が大流行すると、病床数の関係で救急病院でさえ診てもらうのが難しくなることもあるんですよ」など、保護者が自分事として理解できる比喩を使って説明することで、ワクチンの重要性がより伝わりやすくなるように感じます。「あなたのお子さんを含めた多くのお子さんがワクチンを接種することで、感染症が減り、病気などでワクチンが接種できないほかのお子さんや、免疫のない妊婦さんも守られます」という集団免疫効果の説明も大切です。

あらゆる方法でワクチンによるVPD予防を啓発保育施設の保護者に対しても情報発信

 私は以前、血液内科医として臍帯血移植を受けた患者さんの重症感染症の予防と治療に取り組んできました。その経験からも、罹患すると重症化しやすい病気や、胎児期の感染など治療法がない感染症がワクチンにより予防できるのであれば、医師として主体的に予防に取り組むべきだと考えています。
 VPD予防の重要性については、ホームページ、SNS、ブログといった媒体を最大限に活用して情報発信しています。また保育園児の保護者への啓発としては、病児保育事業を展開する認定NPO法人と協力して情報提供を行ったり、当院の小児科医が園医を務める保育施設からのお便りや、保育施設主催の保護者向け勉強会に協力したりするなど、さまざまな形で啓発活動を行っています。
 本当に必要とする人に、負担なくワクチンが接種される社会の到来をめざして、今後も積極的に情報発信を行い、予防医療に取り組んでいきたいと思います。

  • 参考文献
  • 1)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業
    「Hib、肺炎球菌、HPV 及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」 平成25年度 総括・分担研究報告書.