Vaccine Digest 第6号(2014年12月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。
※諸般の都合により、一部掲載していない記事があります。

目次

  • 感染症の流行を追う

    水平感染を防ぎ、社会からの排除をめざして
    ~B型肝炎ワクチン・ユニバーサル接種の意義~

    筑波大学医学医療系小児科 教授 須磨崎亮先生

  • 日常診療Q&A

    定期接種開始後の水痘ワクチン接種について

    江南厚生病院 病院顧問 こども医療センター顧問 尾崎隆男先生

  • スペシャリスト Pick Up

    食物アレルギーを持つ乳幼児へのワクチン接種のポイント

    筑波メディカルセンター病院 小児科 診療部長 市川邦男先生

  • 特別記事

    おたふくかぜ ~大流行は再来するか~

    国立病院機構三重病院 院長 庵原俊昭先生

感染症の流行を追う 水平感染を防ぎ、社会からの排除をめざして ~B型肝炎ワクチン・ユニバーサル接種の意義~ 筑波大学医学医療系小児科教授  須磨崎亮先生

母子感染対策としての成果は上がるも世界に後れをとる日本のB型肝炎対策

 B型肝炎ウイルス(HBV)の感染は、「一過性感染」と「持続感染」に大別されます。一過性感染では、急性感染の時期を過ぎると臨床的に治癒したとみなされ、免疫も獲得されます(しかし再活性化する例があることは後述)。一方、持続感染では、ウイルスが排出されずに体内に留まり続け(キャリア化)、慢性肝炎から肝硬変、肝がんに進行するリスクがあります。
 HBVの感染ルートは、HBVキャリアの母親から出産時に、主に産道で母子感染する「垂直感染」と、体液を介して家庭や施設などで感染する「水平感染」があります。日本ではHBVキャリアの多くが母子感染によって起こっていたことから、垂直感染予防に主眼を置いて、1985年からB型肝炎母子感染防止事業が実施されてきました。現在では、HBs抗原陽性の母親から生まれた児には、出生直後から抗HBs免疫グロブリンの筋注やHBワクチン接種が行われています。この結果、垂直感染はほとんど予防できるようになりました。日本赤十字社の調査をみても、母子感染防止事業の導入後、初回献血者(16歳以上)の生年別HBs抗原陽性率が低下していることがわかります(図11)
 しかしながら、現在、世界中のほとんどの国で、HBワクチンがすべての子どもたちに接種されています(ユニバーサルワクチネーション)1)。日本のHBV感染対策も、一歩先に進むときが来ていると考えています。

HBワクチンのユニバーサルワクチネーションが必要な理由

 乳児期に全員が接種を受けるHBワクチンのユニバーサルワクチネーションが必要な理由として、表1に示す4点が挙げられます。

 まず、現在クローズアップされるのが水平感染の問題です。日本では、年間約2,000~2,500人が新たにB型急性肝炎を発症していると推定されていますが2)、その感染ルートは水平感染です。HBVはキャリアのすべての体液(血液、唾液、汗、尿、涙、精液)に含まれるため、水平感染が容易に起こります3)。小児においても、父親、祖父母また保育園児などからの水平感染が認められています4)
 2点目に、HBVは一旦感染すると完全排除が難しいことです。キャリア化せず、一過性感染で治癒したようにみえても、何年か後にがんやリウマチの治療で抗がん剤や免疫抑制剤を使用すると、HBVの再活性化が起こることがわかってきました。再活性化による肝炎は劇症化しやすいため、命を落とすリスクを一生抱え続けることになります2)
 3点目に、若年成人の間で、キャリア化しやすい遺伝子型Aによる急性肝炎が増えていることです(遺伝子型の問題については後述)。
 4点目に、HBワクチンは有効性と安全性が確立したワクチンであることです。
 HBVは日常生活での感染リスクが高く、感染した場合の疾病負担が大きいため、有効性が実証されているHBワクチンで防ぐべき病気といえます。

世界で実証されているHBワクチンの有効性と安全性

 HBワクチンは世界中で、新生児も含めて、長く使用され続けてきましたが、これまでに大きな安全性の問題が起こったことはありません。まれに接種部位の疼痛や腫れ、倦怠感、発熱などの副反応がみられることもありますが、いずれも数日以内に解消します。また、規定回数の接種で乳幼児、青少年の約95%以上が抗体を獲得し1)2)、少なくとも30年は予防効果が持続します5)。抗体価は時間の経過とともに低下しますが、「免疫記憶」が残存するため、再び感染して血中にウイルスが侵入すると抗体が誘導され、肝炎発症の防止効果はほぼ一生続くことが想定されています2)5)
 HBワクチンは、将来的に発症する可能性のある肝がんを予防する「がんワクチン」の役割も果たし、アラスカではHBワクチンの定期接種化により、20歳未満の肝がんの罹患率が1984~1988年には10万人あたり3例であったのが、1995~1999年には1例もみられなくなったというデータもあります6)

定期接種化に向けての課題:HBワクチン接種の意義を再確認!

 定期接種化への課題の一つとして、HBVの遺伝子型の変化に対する国産ワクチンの有効性の問題があります。HBVの遺伝子型にはA~J型までの9つの遺伝子型(IはCの亜型)が存在しますが、最近若年成人で多くみられる遺伝子型Aに対する国産ワクチン(遺伝子型C由来)の有効性が検討課題となっていました。これに関しては、ヒト肝細胞に置換したキメラマウスを用いた感染試験で、遺伝子型Aへの感染予防効果が確認されました4)。課題解決へ向けて一歩前進した状況といえるでしょう。
 もう一つの課題としては、医療経済性の問題が挙げられます。感染者数が多くないわが国でのHBワクチンの定期接種化は、接種費用に対して得られる経済効果が少ないという試算が出ています2)。この点に関しては、四種混合ワクチンやヒブワクチンとの混合ワクチンを利用することで、接種費用を軽減する方法がありますが、開発には時間がかかります。ハイリスク者だけでなくすべての国民を肝硬変や肝がん、劇症肝炎といった重篤な疾患から守る手段として、HBワクチンの接種意義を再確認するべきだと思います。HBVはヒトとサル以外には感染しないため、社会から完全に排除することも可能であり、世界はその方向に動いています。日本でも国民が免疫を持つことで、社会からHBV感染の不安を排除すべきだと考えます。

「一生の贈り物」であるHBワクチンをすべての赤ちゃんに

 定期接種化の議論にはもう少し時間がかかりそうですが、一方で、2012年以降、HBワクチンの公費助成制度を設ける自治体が増加しています。また、母子健康手帳が改訂され「予防接種の記録」に任意接種の記載欄が新設されました。こうした取り組みにより、一般国民のHBワクチンに対する意識が変化し、HBワクチンの接種率は向上しています。
 乳児期にHBワクチンを接種すると、HBVに対する免疫獲得率が高く、HBV関連疾患の発症を生涯にわたって予防することができます。定期接種化されるまでは個人の経済負担が問題になりますが、前述のようにHBワクチンには一生の発症予防効果が期待できます。ぜひ「赤ちゃんへの一生の贈り物」と考えて、接種を勧めてほしいと思います。

  • 参考文献
  • 1)国立感染症研究所. 「B型肝炎ワクチンに関するファクトシート」 平成22年7月7日版.
  • 2)予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会 B型肝炎ワクチン作業チーム. 「B型肝炎ワクチン作業チーム報告書」平成23年3月.
  • 3)Komatsu H, et al. J Infect Dis. 2012; 206(4): 478-485.
  • 4)厚生労働科学研究費補助金 肝炎等克服緊急対策研究事業. 「小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握とワクチン戦略の再構築に関する研究 平成25年度総括・分担研究報告書」 平成26年3月.
  • 5)FitzSimons D, et al. Vaccine. 2013; 31(4): 584-590.
  • 6)McMahon BJ, et al. Hepatology. 2011; 54(3): 801-807.

日常診療Q&A 定期接種開始後の水痘ワクチン接種について 江南厚生病院病院顧問こども医療センター顧問 尾崎隆男先生

Q 水痘ワクチンの接種スケジュールを教えてください。

A:2014年10月1日より、水痘ワクチンは任意接種ワクチンから予防接種法に基づく定期A類疾病予防接種となりました。2回接種法が導入され、接種対象は生後12~36か月に至るまでの間にある水痘未罹患者です。乾燥弱毒生水痘ワクチンを使用し、皮下接種を行います。生後12~15か月までの間を1回目接種の標準的な期間とし、2回目接種は1回目から3か月以上、標準的には6~12か月まで経過した時期に接種します(図1)。
生後12~36か月児の中で2014年10月1日より前に任意で水痘ワクチンを接種した場合の取り扱いは、次のように定められています。生後12か月以降に3か月以上の間隔をおいて2回接種した場合は、水痘ワクチンを定期接種で受けることはできません。生後12か月以降に1回接種した場合および生後12か月以降に3か月未満の間隔で2回以上接種した場合は、すでに水痘ワクチンを1回受けたものとみなされ、2回目の接種を定期接種で受けることができます。
また、2015年3月31日までの間は特例が設けられており、生後36か月に至った日の翌日から生後60か月に至るまでの間にある場合は定期接種の対象となり、1回の接種を定期接種で受けることができます。ただし、生後12か月以降にすでに1回以上接種を受けている場合や既罹患者は、定期接種として受けることはできません(図1)。

Q 2回目の接種が生後36か月を超える小児は定期接種の対象とならないのでしょうか。任意での2回目接種を勧めることに意義はありますか。

A:残念ながら、2回目の接種が生後36か月(3歳)を超える場合は、定期接種の対象とはなりません。乳幼児を中心に水痘流行が常在しているわが国の現状では、生後36か月までの早期に2回接種を完了させて、高い免疫を付与することが必要と思われます。早期に2回接種を推奨することで、接種率の向上が期待でき、さらに初回接種で免疫が誘導されない一次性ワクチン不全(primary vaccine failure: PVF)を減少させる意義も期待できるからです。
ただし、生後36か月を超えた小児への2回目接種に意義がないわけではありません。米国をはじめいくつかの国では、MMRワクチンの2回目接種と同時期の4~6歳時に水痘ワクチンを追加接種する2回接種法が導入され、その有効性が実証されています1)。我々が行った臨床試験からも、初回接種後3~5年での追加接種の安全性と高い免疫原性を確認しております(図21)
今後定期接種により水痘流行が抑制されたときには、2回目接種を小学校入学前年度(5~6歳)のMRワクチン第2期接種と同期させる2回接種法の採用が、検討課題になると思われます。現状では、生後36か月を超えた小児に対し、任意での2回目接種を勧めることには意義があると考えます。

Q 水痘ワクチンの副反応として注意すべきものは何ですか。

A:水痘ワクチンの安全性は高く、重篤な副反応を合併することはほとんどありません。
水痘ワクチンはもともと、ネフローゼ症候群や白血病などの治療によって免疫力が低下した子どもたちの水痘ウイルス(varicella zoster virus:VZV)感染による死亡を防ぐために、大阪大学の高橋理明博士により日本の小児水痘患者から分離された岡株を基に開発されました。白血病児にも安全に使用できる高度弱毒化ワクチンとして開発された経緯もあり、水痘ワクチンは高い安全性を有しています。
我々が行った小児を中心とする健康人973人を対象とした調査で、943人について副反応を観察した結果、局所反応や接種部位以外での発疹などの副反応がみられましたが、発生頻度は低く、症状も軽症でした(表12)
また、1990年代後半に水痘ワクチン接種後のアナフィラキシーの報告が散見されましたが、ワクチンの安定剤として含有されていたゼラチンが原因であることが判明しました。しかし、2000年以降、ゼラチン非含有製剤に変更され、重篤なアナフィラキシー例は発生していません1)3)2回目接種後に、局所反応のわずかな増加はみられていますが、少なくとも全身性副反応の増加はないと考えられます1)

Q 水痘ワクチンの今後の展望について教えてください。

A:水痘の原因ウイルス(VZV)による帯状疱疹が問題となっています。米国では、岡株水痘ワクチンの帯状疱疹予防効果についての大規模臨床試験が実施されています4)。60歳以上の帯状疱疹未罹患者38,546人を対象に二重盲検試験を実施し、接種群と未接種群を比較したところ、ワクチン接種により中央値3.12年の観察期間で帯状疱疹の発症を51.3%、帯状疱疹後神経痛を66.5%抑えることができました。この成績を基に、米国では2006年に帯状疱疹予防ワクチン「Zostavax®」が製造販売承認されました。このワクチンのウイルス量は≧19,400(PFU/dose)で、米国で使用されている水痘予防用ワクチン「Varivax®」のウイルス量≧1,350(PFU/dose)より多い量となっています。
わが国でも、現在、予防効果や安全性の研究がされています。今後、帯状疱疹予防ワクチンの開発が期待されます。

  • 参考文献
  • 1)尾崎隆男ほか. 感染症学雑誌 2013; 87(4): 409-414.
  • 2)Ozaki T, et al. Vaccine. 2000; 18(22): 2375-2380.
  • 3)Ozaki T, et al. Vaccine. 2005; 23(10): 1205-1208.
  • 4)Oxman MN, et al. N Engl J Med. 2005; 352(22): 2271-2284.

スペシャリスト Pick Up 食物アレルギーを持つ乳幼児へのワクチン接種のポイント 筑波メディカルセンター病院小児科診療部長 市川邦男先生

食物アレルギーとワクチン接種

 食物アレルギーは0歳児からみられ、その原因食物は、乳幼児期では鶏卵、牛乳、小麦が極めて多いといわれています。
 一方、ワクチンの成分でアレルギーが報告されているのは、ワクチンの主成分、防腐剤、安定剤のゼラチン、卵由来成分、培養液、抗菌薬などです。
 しかし、実際には食物アレルギー児でもワクチン接種を控えなければならないケースは少なく、安全に接種できる場合がほとんどです。ワクチンによるVPD予防の重要性、集団免疫の概念、ワクチン接種により期待できる効果と副反応のリスクについて保護者に十分に説明し、ワクチンによる疾病予防の機会を逃さないことが重要だと思います。

卵アレルギーを持つ児へのワクチン接種

 製造過程から卵由来成分が含まれていると理論上推定される主なワクチンは、インフルエンザおよび黄熱ワクチンです。さらに微量ですが、麻しん(MR)、おたふくかぜワクチンにも含まれます。
 接種機会の多いインフルエンザワクチンは、鶏卵アレルギーを持つ児の親が接種を希望しなかったり、医療機関が接種を断ったりするケースも報告されています1)。しかし、卵アレルギーの主要抗原とされるオボアルブミンの濃度をみると、わが国のワクチンではアナフィラキシーを引き起こす濃度(≧600ng/dose)を大きく下回っており、理論上アナフィラキシーを起こさない濃度と考えられています2)。事前の皮内テストを行っても、卵由来成分を含むワクチン接種後の副反応を予測することは難しいとされています。インフルエンザ脳炎・脳症などのリスクを考えると、インフルエンザワクチンのメリットは大きいため、積極的な接種が望まれます1)

その他の食物アレルギーとワクチン成分

 牛乳アレルギーを持つ児にとって懸念材料となるのが、乳糖に含まれる牛乳タンパクです。乳糖が含有されるワクチンはMR、麻しん、風しん、日本脳炎、A型肝炎、狂犬病ですが、微量を皮下注射するため、これらのワクチンでは問題になることはありません。
 一方、ゼラチンはかつて多くのワクチンで安定剤として使用されてきましたが、麻しんワクチンやおたふくかぜワクチン接種後のアナフィラキシー報告が相次ぎ、現在はほとんどの製剤から除去されています。微量ながらゼラチンを含有していた生ポリオワクチンも、2012年9月に不活化ポリオワクチンが導入され、切り替えが終了しました。ただし、黄熱および狂犬病ワクチンには現在もゼラチンが含まれているため、ゼラチンアレルギー児は注意を要します。

食物アレルギーを持つ児へのワクチン接種を安全に行うために

 2013年3月に出された日本小児アレルギー学会の見解では、ワクチン接種不適当者にあたるのは、接種液成分によるアナフィラキシー歴のある児です。アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー体質だけでは接種不適当者にはあたらないとされています3)
 また、接種要注意者は、過去に接種液の成分によりアレルギー反応を起こしたことがあるか、起こすおそれがある児です。即時型アレルギー反応を予知する手段として、10倍希釈ワクチンを用いた皮内テストが行われることもありますが、偽陽性あるいは偽陰性反応を呈することが多いため、確実な保証にはなりません。アレルギーの病歴をしっかり聞き取ることが重要です。
 接種要注意者に対しては十分な説明を行って、同意を得た上で「アナフィラキシー対応セット」を準備するなど十分な対応体制のもとに接種し、接種後30分間の院内観察を推奨しています。卵が原因のアナフィラキシー歴を持つ児にインフルエンザワクチンを接種するなど、接種可否の判断が困難な場合には、専門施設へ紹介してください。

専門施設とかかりつけ医間で連携を

 食物アレルギーを持つ児のワクチン接種には、緊急時に対応がとれる基幹病院とかかりつけ医の連携が重要です。当院があるつくば保健医療圏では、ICTを利用した医療連携ネットワーク「T-PAN」の運用を2011年から開始しています。
 T-PANの登録者は気管支喘息と食物アレルギーを持つ児が対象で、かかりつけ医は自院のタブレット端末から基幹病院が行った検査結果や治療内容、画像情報などの診療情報を入手できるほか、保護者が携帯電話やスマートフォンから入力した日々の食事内容やアレルギー症状などの健康情報を閲覧することも可能です(図1)。ワクチン接種に関しても、T-PANを通して患者のアナフィラキシー経験を確認でき、ワクチン接種の可否判断の参考になります。
 日本全国で同じシステムをすぐに導入することは難しいと思いますが、地域にあった連携方法を模索する中で、T-PANを参考にしていただければと思います。

  • つくば小児アレルギー情報ネットワーク(Tsukuba Pediatric Allergy information Network)
  • 参考文献
  • 1)平口雪子ほか. 日本小児アレルギー学会誌 2012; 26(5): 732-739.
  • 2)庵原俊昭. 日本小児アレルギー学会誌 2010; 24(2): 193-202.
  • 3)公益財団法人予防接種リサーチセンター. 予防接種ガイドライン2014年度版.

特別記事 おたふくかぜ ~大流行は再来するか~ 国立病院機構三重病院院長 庵原俊昭先生

4年ごとに全国規模の流行を繰り返しているおたふくかぜは、近い将来大流行が発生するといわれています。 ワクチンによる予防の重要性が高まる中、定期接種化が期待されるおたふくかぜワクチンの現状について、国立病院機構三重病院院長の庵原俊昭先生に伺いました。

4年ごとの大流行がやって来る

 本邦でおたふくかぜは、およそ4年周期で流行することが知られています1)2)。1989年にMMRワクチンが定期接種化されたあと、一時的に周期の延長がみられました。しかし、無菌性髄膜炎発症頻度の上昇が問題となって、1993年にMMRワクチンの定期接種が中止されると、再びおよそ4年周期の流行が繰り返されるようになりました。現在、日本でおたふくかぜワクチンの接種率は30%程度です1)。そのため実際には免疫未獲得者が多く、流行はいつ起きてもおかしくない状況です。常に流行動向には注意が必要といえます。

おたふくかぜはワクチンによる予防が必要な病気

 おたふくかぜはムンプスウイルスの感染で起こり、発症すると発熱、耳下腺腫脹、疼痛がみられます。ムンプスウイルスは全身の親和性臓器に運ばれ増殖するため、精巣炎、卵巣炎、感音性難聴、脳炎などの合併症を起こし、入院が必要になる場合もあります。
 特に思春期以降に初めてムンプスウイルスに感染すると、男性では20~40%が精巣炎、女性では5%が卵巣炎を発症し、小児期よりも感染頻度、重症度ともに高くなります1)。精巣炎発症後は精子形成能の低下や精巣がん発症のリスクが高まることも指摘されています2)
 感音性難聴は片側の難聴が多く、集団生活で会話の聞き取りが困難になるなど、生活予後が悪い合併症です。永久的な聴力低下は、400~1,000人に1人発症するとされており、年齢が高くなるにつれて発症頻度が高まります2)。このような症状や合併症を呈するおたふくかぜは、ワクチンによる予防が重要な疾患のひとつと考えられています。

日本で使用されているおたふくかぜワクチンの特徴

 日本で使用されているワクチンは星野株と鳥居株で、平均抗体陽転率は92~100%です1)。また、ワクチン接種6~7年経過後の有効率は星野株が82.9%、鳥居株が81.4%と報告されており、有効性が認められています2)。現在、欧米や日本で流行しているムンプスの遺伝子型はGですが、日本で使用されているワクチン株(遺伝子型B)でも十分有効だと考えられています2)
 おたふくかぜワクチンの副反応として、接種部位の痒み、軽度の耳下腺腫脹、無菌性髄膜炎などが挙げられますが、耳下腺腫脹の発症率は低年齢児ほど低いことがわかっています2)。このことから、おたふくかぜワクチンは1歳になったら早期に接種することが適切だと考えられます。
 無菌性髄膜炎の発症率は、星野株、鳥居株の市販後調査では2万人あたり1件、海外で最も多く使用されているJeryl-Lynn株では100万人あたり1件と、日本で使用されているワクチンのほうが高値を示しています2)。しかし、自然感染や合併症のリスクを考えれば、ワクチンで予防するベネフィットのほうが上回るといえるでしょう。

流行を防ぐには誰にワクチンを接種すべきか

 おたふくかぜワクチンを接種すべき対象者ですが、小児に加え、中高生や成人の免疫未獲得者が挙げられます。定期接種が中止されて20年以上たつことから、免疫を獲得していない人も多いと推察されます。2007年に10~20代を中心に麻しんが大流行したように、免疫未獲得者の数が積み重なり、中高生や成人間で大流行することが懸念されます。おたふくかぜは年齢が高くなるにつれ、合併症のリスクも高まるので、子どもの病気と考えずにワクチン接種を行ってほしいと思います。

おたふくかぜワクチン接種率向上のために

 おたふくかぜワクチンは現在任意接種ワクチンですが、自治体による公費助成が行われると、一部負担であってもワクチンに対する信頼度が高まり、接種率が上がります。例えば、半額助成を行っている三重県亀山市では、接種率が全国平均を大きく上回る85~90%です。まだ公費助成が行われていない地域では、実地医家の先生方から、自治体にぜひサポートを呼びかけてほしいと思います。また、今後、中高生や成人の免疫未獲得者に向けて、ワクチン接種の啓発を行う方法を検討してはどうでしょうか。おたふくかぜワクチンの接種率を向上させることが、大流行の防止に繋がると考えています。

  • 参考文献
  • 1)国立感染症研究所. 「おたふくかぜワクチンに関するファクトシート」 平成22年7月7日版.
  • 2)庵原俊昭. 小児科 2013; 54(12): 1753-1760.