Vaccine Digest 第5号(2014年8月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。
※諸般の都合により、一部掲載していない記事があります。

目次

  • Vaccine Topic

    日本での「ヒブワクチンの導入効果」

    国立病院機構 三重病院 院長 庵原俊昭先生

  • 日常診療Q&A

    ロタウイルスワクチンの接種について

    札幌医科大学 医学部小児科学講座 津川毅先生

  • 特別記事

    ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチン導入による
    小児科外来診療へのインパクト

    福岡県福岡市 ふかざわ小児科 深澤満先生

  • ワクチン行政Watching

    予防接種・ワクチン分科会の活動と
    「予防接種に関する基本的な計画」の策定

    川崎市健康安全研究所 所長 岡部信彦先生

  • スペシャリスト Pick Up

    「医療関係者のためのワクチンガイドライン2014(案)」
    (日本環境感染学会発行)に向けての改訂ポイント

    慶應義塾大学医学部 感染症学教室 教授 岩田敏先生

Vaccine Topic 日本でのヒブワクチンの導入効果 国立病院機構  三重病院 院長 庵原俊昭先生

日本でのヒブワクチン導入のインパクトは?

 インフルエンザ菌b型(ヒブ)による感染症の予防ワクチンとして、2008年12月に日本に導入された乾燥ヘモフィルスb型ワクチン(アクトヒブ®)は、2011年に入ると「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」による公費助成により接種率が向上し、2013年4月から定期接種化されました。
 我々は、厚生労働科学研究「新しく開発されたHib、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV等の各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」として、2007年から小児の侵襲性細菌感染症のサーベイランス調査を実施してきました。本年、公費助成開始から3年目にあたる2013年のヒブワクチン導入のインパクトについて報告を行いました1)
 本研究は、全国10道県(北海道、福島県、新潟県、千葉県、三重県、岡山県、高知県、福岡県、鹿児島県、沖縄県)での多施設共同による前方視的疫学調査で、全国の5歳未満人口の22.5%(非髄膜炎は北海道を除くため18.8%)をカバーする大規模な研究です。
 2013年1年間に報告された5歳未満の患者数から人口10万人当たりの罹患率を算出し、公費助成前(2008~2010年)の罹患率からの減少率を検討した結果、ヒブ髄膜炎、ヒブ非髄膜炎ともに98%と著明な減少がみられました(表1)。なお、ヒブによる感染が報告された患者は、髄膜炎2人と非髄膜炎1人で、いずれもワクチンを接種していない患者でした(表2)。ワクチン接種後の罹患例としては、髄膜炎1例、非髄膜炎1例が報告されましたが、無莢膜型のインフルエンザ菌(NTHi: non-typable H. influenzae)による感染症でした。
 先にヒブワクチンを導入した諸外国では、90%以上の減少率を達成するまでに5~10年を要したことを考えると、わが国ではかなり速いペースで大きなインパクトが得られたと言えるでしょう。

どうして日本では早く大きなインパクトが得られたか?

 日本でヒブワクチンが、より早く大きなインパクトをもたらした要因としては、接種率の高さが挙げられます。まずは、学会や実施医家による啓発活動や、マスメディアを通じてヒブワクチンの重要性が接種対象者に伝えられたことが貢献したと思われます。さらに公費助成の導入により、経済的負担が軽減されただけでなく、国や各自治体がワクチンの有効性・安全性を保証する形となり、接種を後押ししたのではないかと推測しています。定期接種化された後は、積極的な接種勧奨や保護者の関心の高さから、高い接種率が維持されていると考えられます。
 一般的に低月齢児の保護者ほどワクチン接種の意欲が高く、職場復帰前で通院しやすいなどの理由から、接種開始月齢が早いワクチンほど接種率が高いと言われています。生後12か月から接種が始まるMRワクチンの接種率が95%以上であることから、接種開始時期が生後2か月からのヒブワクチンでは、より高い接種率が期待できます。
 また、早期に大きなインパクトがもたらされた別の要因として、日本には人種的に罹患率が高い集団が存在しないことが考えられます。例えばネイティブ・アメリカン、イヌイット、アボリジニなど、それぞれの国の中で、罹患率が高い集団の存在が知られており、このような集団があると減少効果が表れにくい可能性があります。さらに日本では、思想や宗教上の理由からワクチン接種を行わない集団が少ないことも関連していると考えられます。

インフルエンザ菌による侵襲性感染症対策として残された課題は?

 ヒブによる小児細菌性髄膜炎および非髄膜炎は、ヒブワクチンが導入され、公費助成が開始されてから3年目には、98%と著明な減少を示しましたが、まだ課題も残されています。
 ひとつは、莢膜型がb型以外のインフルエンザ菌や、無莢膜型のインフルエンザ菌(NTHi)による感染症の存在です。多糖体の莢膜を持つインフルエンザ菌には6つの血清型(a~f)が知られています。予後の悪い侵襲性細菌感染症の原因の95%はb型のインフルエンザ菌であるため2)、b型をターゲットにしたヒブワクチン導入により、ヒブ髄膜炎の著明な減少が示されました。しかしながらヒブワクチンが無効なb型以外のインフルエンザ菌やNTHiによる侵襲性細菌感染症が、今回の調査でも報告されており、今後の発生動向に注意が必要です。そして、今後は小児だけでなく高齢者の侵襲性細菌感染症にも注意が必要です(図1)。
 また、2013年の報告にはありませんでしたが、ヒブワクチンを接種したにもかかわらずヒブ髄膜炎に感染してしまうケースも、少数ながら報告されています。ヒブワクチンは、初回免疫として通常3回、いずれも4~8週間(医師が認める場合は3週間)の間隔で接種し、追加免疫として初回免疫後7~13か月の間隔をおいて1回接種します。国内第Ⅲ相試験では、初回3回接種後、追加接種前には抗体価が低値を示す乳児が存在していましたが、追加接種後の測定では全例が感染を防御できるレベル以上の高い抗体価を獲得していました3)。このように4回接種が完了していればほぼ感染はないと考えられることから、1歳を過ぎて早めの時期に追加接種することが推奨されます。2014年4月から、同一ワクチンの接種間隔の上限が緩和され、接種機会を逃した場合でも定期接種として扱われるようになりましたが、特別の事情がない限り、標準スケジュールに沿って早期に接種を完了することが重要です。

ヒブ髄膜炎の減少効果を維持するために

 1980年代からヒブワクチンを導入しているフィンランドやアイスランドでは、乳幼児の鼻腔内ヒブコロニー保有率が0%に近づいています2)。高い集団免疫効果により、地域からヒブを消滅させる可能性が示唆されています。わが国でも、高い接種率を維持すれば、いずれ地域からヒブを消滅させることができるかもしれません。しかし、たとえ国内での保菌率がゼロになっても、ヒブワクチンの役割が終わるわけではありません。フィンランドやアイスランドでも今のところヒブワクチン接種を中止する動きはなく、世界のどこかに保菌者がいる以上、ワクチンの接種継続は必要とされています。接種率が低下した場合には、再びヒブ感染症が増加することも予想されますので、今後も病気の重さを忘れず高い接種率を維持していくことが重要です。

  • 参考文献
  • 1)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 「Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」 平成25年度 総括・分担研究報告書
  • 2)庵原俊昭. Modern Media 2008; 54(11): 331-335.
  • 3)富樫武弘. 臨床と微生物 2005; 32(5): 511-516.

日常診療Q&A ロタウイルスワクチンの接種について 札幌医科大学 医学部小児科学講座 津川毅先生

Q ロタウイルスワクチンが導入されて3シーズンが経過しましたが、ワクチンの効果はあらわれているのでしょうか。

A:国立感染症研究所が、全国の衛生研究所からのロタウイルス検出報告数をまとめたデータによると、2013/14年の流行ピークが小さくなっており、ロタウイルスワクチンの一定の効果の可能性とも考えられています(図1)。しかしながら、ロタウイルス胃腸炎は、①小児科定点で感染性胃腸炎としての届出対象疾患であること、②昨年10月より基幹定点疾患となり入院症例(重症例)の把握はある程度可能となったものの、それ以前のシーズンとの比較ができないこと、③シーズンや地域により流行状況が異なることなどから、現状のサーベイランスシステムでは真の流行状況の把握は困難です。
また、ロタウイルスワクチンは任意接種であるため、昨年4月段階での接種率は全国平均で45%(20%台~60%台)1)で、地域によっても大きな差がみられます。ワクチンのインパクトを明確にするためには、地域ごとのワクチン接種率と正確な流行状況の把握のためのサーベイランスシステムの構築が必要となります。
ロタウイルスワクチンは、一般的に欧米などの先進国では、90%程度の高い予防効果が報告されています2)。よって日本でも同程度の効果が期待されており、当面の目標は、接種率を高めることでしょう。

Q ロタウイルスワクチン接種前の注意点を具体的に教えてください。

A:まず接種を控える必要があるのは、ワクチン全般に共通ですが、接種前に発熱している(37.5℃以上)、重症な急性疾患に罹患している可能性がある場合などです。ロタウイルスワクチンに特有のものとしては、添付文書の「接種上の注意」に記載のある、胃腸障害と思われる症状がある場合です。嘔吐がある場合は接種を控えるとして、下痢については乳児の場合、一律の判断は難しいかと思います。ふだんの排便の回数や軟らかさは乳児によりそれぞれなので、乳児の普段の状態を聞いて、許容範囲であれば接種可能と判断します。また、腸重積症の既往や未治療の先天性消化管障害がある場合は禁忌となります。生後2か月でこれらの既往がある乳児は多くはいないと思いますが、問診で把握することが大切です。
次に、接種前に授乳を控えるべきかどうかですが、こちらについても乳児により状況が異なりますので、接種当日の赤ちゃんの状態を保護者に確認した上で、無理のないように考えればよいかと思います。なお、添付文書では接種前後の哺乳制限はありませんが、現実的には不要な嘔吐を避けるためにも接種前後30分程度の哺乳制限が望ましいと思います。

Q ワクチン導入後に、ロタウイルス流行株の変化はみられましたか?

A:現在のところは一定の傾向はないと思われます。例えば、国立感染症研究所のデータでは2008年以降にG3が多かったのが、2011年からはG1が多くなっています(図2)。また当教室の調査により札幌市内および市近郊で検出された株でも、1987~2000年まではG1P[8]が優位でしたが、2000年以降にばらつきがみられ、G1P[8]以外にG2P[4]、G3P[8]、G9P[8]が多いシーズンもあり3)、ワクチン導入が流行株に影響を与える可能性についての判断は難しいのが現状です。現在、諸外国でも流行株の変化はワクチンによるものではないと言われています4)。それ自体が自然の変動なのか、ワクチンにより野生株に何かしらの選択圧がかかった結果なのか、今後さらなるサーベイランスが必要でしょう。
2012年以降、日本で注目すべきG1P[8](Wa-like遺伝子構成)とG2P[4](DS-1-like遺伝子構成)のリアソータント株が、ロタウイルスの遺伝子解析で報告されています5)。今後はG/P遺伝子型だけでなく全11分節の遺伝子型を調べるなど、さらに詳細な検討が必要な時期にきていると思われます。

ロタウイルスは11種のタンパクをコードする11本の分節したRNAをゲノムとして有する。

Q ロタウイルスワクチン接種後に注意すべきポイントを教えてください。

A:まず、接種したワクチンを吐き戻したときの対応ですが、ワクチンによって添付文書の内容が異なります。1価経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチン(ロタリックス®)は「ワクチンの大半を吐き出した場合は、改めて接種が可能」とあり、5価経口弱毒生ロタウイルスワクチン(ロタテック®)では「本剤を吐き出した場合は、その回の追加接種は行わないこと」となっています。どちらのワクチンも臨床試験では吐き戻したときの追加接種を行っていないので、ロタリックス®も必ず再接種しなければいけない訳ではありません。私自身は、チューブを咽頭の奥まで入れない、乳児の嚥下するペースに合わせて何回かに分けてゆっくり接種するなどの工夫をしています。万が一吐き戻した場合には、母親に「ある程度飲めていれば十分な効果が得られる」と説明します。母親が極度に心配する場合などは、ロタリックス®であれば再接種を検討してもよいでしょう6)
もう1つ重要なポイントは、腸重積症への注意喚起です。ロタウイルスワクチンの開発時に行われた大規模臨床試験では、腸重積症発症リスクの増加は認められませんでした1)。しかし、諸外国の市販後調査では、初回接種後1週間以内に一過性のリスク増加(10万人当たり1~5人程度)が報告されています7)8)9)。進行すると腸管が壊死し手術が必要になるため、早期に発見し対応することが重要で、乳児の場合は間歇的に激しい啼泣をくり返す、嘔吐や血便がみられるなどの疑わしい様子がみられたら、すぐ病院に連絡するように指導しています。なお、腸重積症はワクチン接種と関わりなく、生後9週を過ぎるころから自然発症率が高くなる病気でもあります10)。ワクチン接種を腸重積症の啓発機会と捉えるとよいでしょう。
また、腸重積症の自然発生率が高まる時期にワクチン接種をすると紛れ込みのリスクが避けられないので、生後2か月からのワクチン接種開始で、早期に接種完了することが重要です。

  • 参考文献
  • 1)予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 ロタウイルスワクチン作業班中間報告書: 2013年11月18日
  • 2)Braeckman T, et al, BMJ 2012; 345: e4752.
  • 3)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「ロタウイルス分子疫学基盤構築とワクチン評価」 平成25年度 研究分担報告書
  • 4)Carvalho-Costa FA, et al. Pediatr Infect Dis J. 2011; 30(1Suppl): S35-41.
  • 5)国立感染症研究所 http://www.nih.go.jp/niid/images/idsc/kikikanri/H25/20131017-01.pdf
  • 6)中野貴司.日本医事新報 2014; 4688: 62-63.
  • 7)Weintraub ES, et al. N Engl J Med 2014; 370(6): 513-519.
  • 8)Yih WK, et al. N Engl J Med 2014; 370(6): 503-512.
  • 9)Haber P, et al. Pediatrics 2013; 131(6): 1042-1049.
  • 10)Tate JE, et al. Pediatrics 2008; 121(5): e1125-1132.

特別記事 ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチン導入による小児科外来診療へのインパクト 福岡県福岡市 ふかざわ小児科 深澤満先生

ワクチンの導入により細菌性髄膜炎を含む重症細菌感染症の発症が大きく減少し、小児医療を変えようとしています。
しかし、この post vaccination era における発熱児への抗菌薬の投与方針についてのコンセンサスは、小児科医の間でいまだに得られていないようです。
この問題について、抗菌薬適正使用ワーキンググループの一員として、日本外来小児科学会発行雑誌「外来小児科」掲載の「小児上気道炎および関連疾患に対する抗菌薬使用ガイドライン―私たちの提案―」1)の作成にも携わった深澤満先生に解説いただきました。

発熱児の持つリスク

 発熱児の外来診療では、抗菌薬の緊急投与が必要な細菌性髄膜炎などの重症細菌感染症が続発するリスクを常に伴っています。このリスクを回避するために、わが国では発熱児に対して一律に経口抗菌薬投与が行われてきた経緯があります。このような経口抗菌薬の投与によって、重症細菌感染症の一部を予防した可能性はありますが、現実には細菌性髄膜炎等の減少にはつながらず、むしろ耐性菌の蔓延をもたらしたことは間違いありません2)
 しかし2010年末から、インフルエンザ菌b型(Hib:ヒブ)ワクチンと7価肺炎球菌ワクチン(PCV7)への公費助成が開始され、その後定期接種化されたことで接種率が向上し、細菌性髄膜炎を含む重症細菌感染症の多くが予防できるようになりました。このような状況下で、外来診療での発熱児への抗菌薬投与はどうあるべきかを考えてみたいと思います。

Baraffの指針

 小児科外来で、感染病巣不明の発熱児を診断するとき、そのリスクの評価は容易ではありません。Baraffの指針3)はヒブワクチンと肺炎球菌ワクチン導入前の米国で提唱され、感染病巣不明の発熱児の診療のガイドラインとされてきました。3歳未満で体温39℃以上、白血球数15,000/μL以上(あるいは好中球数10,000/μL以上)の条件を充たす発熱児、あるいは重篤感がみられる児に対して、血液培養の施行後にセフトリアキソン(CTRX)50mg/kg を非経口投与(米国では筋注)するというものです。
 この基準値は、米国でのBassら4)の菌血症に対する臨床研究を根拠に設定されたものですが、菌血症の陽性予測率はそれほど高くはありません。Bassらは米国の小児救急救命室(ER)では、体温39.5℃以上かつ白血球数15,000/μL以上の場合に16.6%に菌血症が認められたとしています。私たちの日本の小児科診療所の報告でも7.4%5)~13.1%6)となっています。また、細菌性髄膜炎例の検討では、発熱早期でBaraffの基準を充たす例は50%以下であり、過半数が見逃されてしまいます7)。しかし、発熱児の診療に対して、この指針を超える診療指針が存在しないことも事実です。

ワクチン導入前のヒブおよび肺炎球菌による侵襲性感染症の頻度

 私たちが行った両ワクチン導入前の調査では、5歳未満の38.0℃以上の発熱児の0.2%が菌血症であり5)、菌血症の起炎菌はヒブが13~16%で肺炎球菌が72~87%でした5) 6)。また、私たちは麻しんワクチン接種数と地域のワクチン接種率から対象としている出生数を算出してヒブ菌血症、ヒブ髄膜炎および肺炎球菌菌血症の罹患率を求め、全国での年間発症数を推定しました。ヒブ菌血症は年間約3,400例、ヒブ髄膜炎は年間約1,700例と推定されました8) 。また、肺炎球菌菌血症は年間約18,000例と推定され、その1.5%程度が髄膜炎に進行するため、肺炎球菌髄膜炎は年間300例程度と推定されました9)。ヒブや肺炎球菌による髄膜炎の発症頻度は、従来のわが国の報告10)の2倍程度ですが、海外での発症頻度11)と同等でした(図1)。わが国で報告されるヒブや肺炎球菌髄膜炎の発症頻度が海外と比較して少ない理由として、抗菌薬の前投与の影響が考えられます。国立感染症研究所の細菌性髄膜炎の報告では起炎菌不明例が約半数を占めています12)。髄膜炎例に対する抗菌薬の前投与により髄液から菌が検出できないprobable meningitis(髄膜炎推定診断例)が多くなり、ヒブや肺炎球菌髄膜炎の発症頻度が低く報告されていた可能性が考えられます。私たちのグループでは発熱児に対して抗菌薬投与前に血液培養を行っているため、ヒブや肺炎球菌の菌血症や髄膜炎の発症頻度がより正確に推測できていると考えています。

ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンの有効性

 ヒブワクチンの導入により、ヒブによる侵襲性インフルエンザ菌感染症は大きく減少しました。厚生労働科学研究事業によるサーベイランス報告では、2013年には公費助成が開始される前の2008~2010年と比較して、ヒブワクチンにより、ヒブ髄膜炎および非髄膜炎が98%減少したことが報告されています13)。また、PCV7により、肺炎球菌髄膜炎は61%、非髄膜炎は56%の減少が報告されています13)。米国では2000年からPCV7、2010年から13価肺炎球菌ワクチン(PCV13)が導入されていますが、CDCの報告によると、PCV7の導入で侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)が75.9%減少し、さらにPCV13の導入により89.7%の減少がみられています(図214)。日本でも、2013年11月にPCV13が導入されたことから、今後は米国と同程度の減少が期待されます。

ワクチン導入前後での抗菌薬投与の意味

 ヒブと肺炎球菌菌血症で、抗菌薬の効果は異なります。抗菌薬投与(静脈内投与を含む)は、ヒブ菌血症では効果がなく、30~50%が髄膜炎に進行します9) 15)。しかし、肺炎球菌菌血症に対しては髄膜炎への進行抑制効果がみられ、抗菌薬無投与の場合の髄膜炎進行率は4%程度、経口抗菌薬投与では0.8%、注射抗菌薬投与では0.4%程度とされています16)

細菌性髄膜炎での考察:ワクチン導入で細菌性髄膜炎例が大幅に減少すると、1例の髄膜炎発症予防のために抗菌薬の投与が必要な患者数(NNT)は10倍以上に増加し、Baraffの基準に従っても1万例以上になります。すると、抗菌薬による耐性菌の誘導という間接的な影響だけでなく、直接的な副作用が問題となってきます。代表的な抗菌薬であるアモキシシリンの添付文書には、一般的な下痢等のほかに0.1%以下の頻度で、ショック、アナフィラキシー、Stevens-Johnson 症候群、偽膜性大腸炎等の発症が記載されています。1万例以上への抗菌薬の投与となれば、これらの命にかかわる副作用の発症例数が、髄膜炎発症阻止例数を上回ると考えられます。ワクチン導入後は、一律の抗菌薬投与は適正な医療行為としては認められなくなるでしょう。しかし、細菌性髄膜炎の発症が完全になくなるわけではありません。今後は臨床症状を重視したcareful observation(慎重な経過観察) が、より一層重要になるでしょう。

肺炎および急性中耳炎での考察:多くの肺炎や、急性中耳炎の主たる病原体はウイルスであることがわかってきました。肺炎の中で緊急に抗菌薬の静脈内投与が必要な重症肺炎の起炎菌は、事実上肺炎球菌のみです。また、急性中耳炎の合併症で緊急に鼓膜切開と抗菌薬の静脈内投与が必要となる乳様突起炎の起炎菌も事実上肺炎球菌のみです。このため、肺炎球菌ワクチンの導入で重症肺炎や乳様突起炎も大幅に減少することが予想されます。発熱児で1例の重症肺炎の発症予防のため、あるいは急性中耳炎例で1例の乳様突起炎の発症予防のために必要な抗菌薬投与例数はともに1万例程度になると推測されます。発熱児での重症肺炎予防や、急性中耳炎児での乳様突起炎の発症予防のための抗菌薬の一律の投与は、今後は認められなくなるでしょう。やはり、抗菌薬に頼らない、careful observationが最も安全な方針だと考えられます。

今後の課題

 ワクチン導入後にも、稀になりますが医療過誤とみなされやすい細菌性髄膜炎等の重症細菌感染症の発症を避けることはできません。このようなpost vaccination eraにおける発熱児の外来診療方針について小児科医が共通の認識を持つ必要があるのではないでしょうか。
(本稿執筆に際し、編集発行元との利益相反はありません。)

  • 参考文献
  • 1) 抗菌薬適正使用ワーキンググループ. 外来小児科2005; 8: 146-173.
  • 2) Takeuchi H. Pediatr Int. 2009; 51(5): 696-699.
  • 3) Baraff LJ, et al. Annals of Emergency Medicine 1993; 22(7): 1198-1210.
  • 4) Bass JW, et al. Pediatr Infect Dis J. 1993; 12(6): 466-473.
  • 5) 西村龍夫.日本小児科学会雑誌 2008; 112(10): 1534-1542.
  • 6) 西村龍夫,吉田均,深澤満.日本小児科学会雑誌2005; 109(5): 623-629.
  • 7) 武内一,深澤満.日本小児科学会雑誌2006; 110(10): 1401-1408.
  • 8) 西村龍夫,深澤満,吉田均.日本小児科学会雑誌 2008; 112(9): 1373-1378.
  • 9) 西村龍夫,深澤満,吉田均ほか.日本小児科学会雑誌 2008; 112(6): 973-980.
  • 10)国立感染症研究所.肺炎球菌コンジュゲートワクチン(小児用)に関するファクトシート(平成22年7月7日版)
    http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000bx23-att/2r9852000000bxqo.pdf 
  • 11)Tin Tin Htar M, et al. Adv Ther. 2013; 30(8): 748-762.
  • 12)IDWR 2012年第16号<速報>細菌性髄膜炎 2006~2011年
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/bac-megingitis-m/bac-megingitis-idwrs/2113-idwrs-1216.html
  • 13)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」平成25年度 総括・分担研究報告書
  • 14)CDC. Active Bacterial Core surveillance (ABCs) reports. Streptococcus pneumoniae:. 1997-2012;
    http://www.cdc.gov/abcs/reports-findings/surv-reports.html より作成.
  • 15)Kaplan SL, et al. Pediatr Infect Dis 1986; 5(6): 626-632. 
  • 16)Baraff LJ, Annals of Emergency Medicine 2000; 36(6): 602-614.

ワクチン行政Watching 予防接種・ワクチン分科会の活動と「予防接種に関する基本的な計画」の策定 川崎市健康安全研究所 所長 岡部信彦先生

-予防接種・ワクチン分科会が行ってきた最近の主な活動の成果について教えてください。同一ワクチン接種間隔の緩和(2014年4月)、「風しんに関する特定感染症予防指針」の実施(2014年4月)、水痘および成人用肺炎球菌ワクチン(23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン[以下PPV23])の定期接種化(2014年10月実施予定)です。

まず、必要なワクチンの接種機会を逃す場合があるとの課題に対し、2014年4月より同一ワクチンの接種間隔が緩和されることになりました。これは、規則の解釈よりも医学的な側面(効果と安全性に大きな問題がないこと)を優先すべきとの検討を経て決定されました。また、風しんの流行状況を踏まえ、中長期的視点に立って「風しんに関する特定感染症予防指針」が作成されました。
さらに2014年10月より、水痘と成人用肺炎球菌ワクチン(PPV23)が定期接種化される予定です。
水痘ワクチンについては、その効果・安全性に加えて、医療経済的側面およびワクチン供給の問題を含め、2回接種の必要性についても議論の焦点となりました。
成人用肺炎球菌ワクチン(PPV23)については、65歳以上の高齢者に対して1回の接種であるため、接種歴や過去の記録の確認をどうするか、将来の肺炎球菌ワクチンの在り方など、定期接種開始後の課題についても検討が行われました。
過去5年以内にPPV23の接種歴があると局所反応が強く起こりやすいことから、再接種を回避するには接種時に接種者だけでなく、必要に応じて家族にも十分な説明を行い、問診票などを用いて接種歴をしっかり聴き取ることが求められます。今後は、被接種者ご自身に記録を保管いただき、自治体には台帳などを用いた接種記録の管理、接種歴の問い合わせへの対応を協力いただく必要が出てきます。また、今回、高齢者に対して定期接種化されるのはPPV23ですが、2014年6月に65歳以上の高齢者へ適応が拡大された任意接種の13価結合型肺炎球菌ワクチン(PCV13)との違いを明確にしておく必要があります。このような課題については、より効果的で、より混乱が少なくなるよう、さらに検討を進めていく予定です。

-「予防接種基本計画」とはどのような計画なのでしょうか。「ワクチンで防げる疾病は予防すること」という基本理念のもと、科学的根拠に基づいて予防接種施策を行っていくための中長期的なビジョンを示すものです。

将来的な方向性が見えにくく、新しいワクチンの開発にも取り組みにくいという過去の問題点を改め、中長期的なワクチン行政の指針として作られた計画です。計画の中では、国や地方自治体だけでなく、被接種者や保護者、医師など関係者の役割を明確にし、全員で予防医学の観点からワクチン接種に取り組める体制をめざしていきます。医療関係者には、適正かつ効率的な予防接種の実施と医学的管理、事故防止に加え、被接種者や保護者への情報提供、感染症発生動向調査への協力、ワクチンの最新知見の習得に努めることなどが示されています。

-「予防接種基本計画」をもとに、今後検討が進められていく事項について教えてください。定期的な検証を行いながら、ワクチン・ギャップの解消、開発優先度の高いワクチンの開発促進などに取り組んでいきます(表1)。

ワクチン行政を中長期的に実行できる仕組みを構築するため、定期的な検証を行いながら問題の解決にあたります。計画自体も、検証に基づいて少なくとも5年ごとに、必要があれば5年を待たずに見直しを行っていきます。
ワクチン・ギャップの解消に向けては、まだ定期接種化ができていない3ワクチンについての技術的課題等の整理・検討に取り組みます。B型肝炎では、水平・垂直感染のリスク、遺伝子型の変化についての研究・検討が続いています。ロタウイルスワクチンについては、日本での腸重積症発症のリスクとベネフィットの検証に要するデータを収集しているところです。おたふくかぜワクチンについては、効果と安全性の優れたワクチン株の選択、MMRワクチンのような混合ワクチンの開発導入が視点となって検討が行われています。
次に、わが国の感染症対策に必要となる新たなワクチンの開発は、優先度の高い6ワクチンを定めて推進していきます。さらに混合ワクチンの開発、被接種者やその保護者が正しい知識をもって主体的に判断できることをめざした普及啓発・広報活動の充実、国民一人ひとりが接種歴を確認できるような仕組みの整備、より効果的に効率よく接種ができるよう同時接種や接種間隔に関する国の方向性を示すことなどの検討を進めています。

スペシャリスト Pick Up 「医療関係者のためのワクチンガイドライン2014(案)」(日本環境感染学会発行)に向けての改訂ポイント 慶應義塾大学医学部感染症学教室 教授岩田敏先生

医療関係者にスポットを当てたタイトルに変更

 医療関係者が感染症に罹患した場合、自分自身の健康を損なうだけでなく、院内感染の原因となる可能性も高くなります。そのため、医療現場で働く人は、一般の人よりさらに感染症予防に積極的である必要があります。日本環境感染学会では、2009年に「院内感染対策としてのワクチンガイドライン(第1版)」を発行し、インフルエンザ、B型肝炎、麻しん、風しん、水痘、おたふくかぜなどのワクチン接種を医療関係者にどのように行うかという標準的方法をまとめました。その後、予防接種法の改正などワクチンを取り巻く環境が変化したことから、ガイドラインの改訂を行うこととなりました。
 第2版のタイトルを「医療関係者のためのワクチンガイドライン2014」に変更することにより、「医療関係者」のためのガイドラインであることを強調するようにします。個人としてはもとより、医療に携わる機関として全体で免疫を高めることをガイドラインの基本概念とし、そのことは「改訂にあたって」という前文でも明記する予定です。

慶應義塾大学における医療関係者への感染対策

 改訂のポイントとして、ワクチン接種のフローチャートや、誤解を与える可能性のある表現を、よりわかりやすく修正します。例えば、麻しん、風しん、水痘、おたふくかぜのワクチン接種のフローチャートで、第1版ではまず抗体価を検査し、基準値に達しない場合はワクチン接種を行うよう推奨していました。しかし第2版では、抗体価測定にこだわらず、まずは2回の接種が重要であることを推奨しています。1歳以上で2回のワクチン接種記録があれば抗体を有すると判断し、1回のみの接種記録の場合には、1回の接種を行います。予防接種を受けた記録がない、もしくは接種歴が不明な場合には抗体検査を実施し、基準値に達していない場合には2回の接種を推奨することとします。
 インフルエンザのワクチンについては、妊娠中の接種についての安全性を示すエビデンスが得られたため、そのデータを追加します。また、医療関連施設内でインフルエンザへの曝露があった場合の抗インフルエンザ薬の予防投与の推奨など、曝露後の対応法を参考文献として付記します。
 また、どのような職種を対象とするかについても具体的に触れる予定です。

ワクチン接種に関する情報は

 2014年4月時点の当大学の取り組みとしては、医学、看護医療、薬学すべての分野の学生に対し、病院実習に入る前(通常1年次)に抗体価の検査と証明書の提出を求めています。抗体価が不十分な場合はワクチンを接種し、その記録を提出するよう義務付けています。
 職員も、入職前に、基準値以上の抗体価を有する証明書やワクチン接種の記録を提出することとし、5年に一度は全職員一斉に抗体検査を行っています。ガイドラインの改訂にともない、当大学でも新しいガイドラインに沿った対策への変更を検討していく予定です。

医療機関での感染症予防にガイドラインの活用を!

 ワクチンというと、インフルエンザワクチンなどを除いては「小児が受けるもの」との認識が強く、成人は接種への意識が低い傾向があるようです。近年、若年者の間で麻しんや風しんの流行があり、問題となりましたが、罹患者の多くはワクチン未接種者または不明の人でした。これらの感染症は、きちんとワクチンを2回接種していればほぼ100%予防できることがわかっています。とくに医療機関では、医療関係者の感染症予防が、患者さんを感染症から守ることにつながります。医療関係者の感染症予防に、ぜひこのガイドラインを活用していただきたいと思います。
 日本環境感染学会では、ワクチン接種の重要性とガイドラインの活用を各医療機関に広く浸透させるため、講習会の実施、ホームページや専門情報誌の活用なども検討しています。ぜひ医療機関で活用していただくようお願いします。