Vaccine Digest 第4号(2014年4月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う

    日本での水痘の流行と2回接種の有用性について

    藤田保健衛生大学 医学部小児科学 主任教授 吉川哲史先生

  • ワクチン行政Watching

    定期接種ワクチン(同一ワクチン)の接種間隔緩和について

    福岡市立心身障がい福祉センター センター長 宮﨑千明先生

  • Vaccine Topic

    ヒブワクチンは、なぜ「コンジュゲートワクチン」なのか?

    千葉大学医学部附属病院 感染症管理治療部 講師 (現 千葉大学真菌医学研究センター 感染症制御分野 准教授) 石和田稔彦先生

  • 日常診療Q&A

    B型肝炎ワクチン(HBワクチン)接種

    社会福祉法人 恩賜財団 済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 顧問
    NPO法人日本小児肝臓研究所 理事長 藤澤知雄先生

  • スペシャリスト Pick Up

    乳児期早期の百日咳をどうするか

    独立行政法人 国立成育医療研究センター 名誉総長 加藤達夫先生

  • 特別記事

    基礎疾患を持つ乳幼児・小児への予防接種

    大阪市立総合医療センター 小児医療センター 小児救急科 副部長
    天羽清子先生

感染症の流行を追う 日本での水痘の流行と2回接種の有用性について 藤田保健衛生大学 医学部小児科学 主任教授  吉川哲史先生

水痘の流行状況

 水痘は、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の初感染によって生じる疾患です。流行時期は冬から春、感染経路は空気感染、飛沫感染、接触感染とさまざまであり、感染力は極めて強いとされています。通常約2週間の潜伏期間を経て発疹、発熱などの症状をきたします。臨床経過は、特徴的な発疹が全身に出現し、紅斑、丘疹を経て水疱が形成され、やがて痂皮化して治癒に至ります。しかし、VZVは宿主の知覚神経に生涯にわたり潜伏し、宿主の免疫が低下すると再び増殖して、帯状疱疹を引き起こします。
 水痘の発症者数は毎年約100万人と推定されています1)。その年齢層群別発症者数の割合は、0~1歳が24.9%、2~3歳が35.6%、4~5歳が25.5%、6~7歳が8.7%と、5歳までの小さな子どもたちの罹患が多く、20歳以上の割合は0.5%と、成人には少ないことが報告されています(図12)
 水痘の予後は一般的に良好です。しかし稀に、皮膚の細菌感染、脳炎や小脳失調、肺炎、肝炎などを合併することがあります。また、免疫不全宿主では致死的な経過をたどるケースも少なくありません。特に年齢が高くなってからの感染は重症化しやすいことが知られており、未罹患のまま成人した人が水痘になると極めて重症化することから、水痘ワクチン接種による予防は非常に重要といえます。

日本で開発されたワクチンが世界で唯一使用されている

 水痘ワクチンが開発される前は、ネフローゼ症候群や白血病などの治療によって免疫力が低下した多くの子どもたちが、VZV感染によって死亡していました。それを防ぐために、大阪大学の高橋理明博士により日本の小児水痘患者から分離された岡株をもとにワクチンが開発されました。白血病児にも安全に使用できる高度弱毒化ワクチンとして開発されたので、安全性は非常に高いといえるでしょう。現在世界各国で使用されている水痘ワクチンは、この岡株ワクチン1種類のみです。

水痘ワクチン2回接種の意義

 世界に先駆けて、米国で1996年に岡株水痘ワクチンが定期接種ワクチンに組み入れられました。2002年までに生後19~35ヵ月の小児に対する接種率は81%に上り、全年齢層で水痘発症の大幅な減少が認められました。このような米国での水痘患者減少は大きなインパクトを与えましたが、その後、ワクチン接種後の水痘罹患、いわゆるブレークスルー水痘の増加が次の課題として浮き彫りとなりました(図23)。患者の減少によってナチュラルブースター効果が減弱したことが原因と考えられています。ブレークスルー水痘自体は発疹数も少なく症状は軽微ですが、患者が新たな感染源となる可能性があります。そこで、現在米国では、1回目と2回目の接種間隔を数年開け、2回接種を実施しています。これはナチュラルブースター効果減弱による免疫低下予防に主眼を置いたスケジュールです。
 一方ドイツでは、1回目を生後11~14ヵ月までに、2回目を生後15~23ヵ月までの間に行うこととしています。こちらは、短期間に十分な抗体を獲得させることで、まずは水痘の発症予防と患者数の減少に主眼を置いたスケジュールです。

  • 水痘ワクチン接種42日以降に野生株のVZVによって発症する水痘

水痘ワクチンへの期待

 わが国では、任意接種の水痘ワクチンの接種率は30~40%ほどに留まっており、その結果、乳幼児を中心に毎年流行が繰り返されてきました。この状況を考えると、まず主眼を置くべきは、低年齢層です。小児での流行をなくすことで全体の患者数を減少させるためにも小児期に2回の水痘ワクチン定期接種化(2014年秋施行予定)は、非常に喜ばしいことです。(後注 ※水痘ワクチンは2014年10月より定期接種化されました。)
 2回接種のスケジュールとしては、生後12ヵ月に1回目の接種を、そしてドイツのように3ヵ月以上の間隔を開け生後23ヵ月までに2回目の接種を実施することが望ましいと考えます。現在、日本小児科学会では3ヵ月以上間隔をあけた2回接種を推奨していますが、より適切な接種間隔の設定を目指し現在も臨床研究を行っています。また、これまでの研究成果から、初回接種はMRワクチンとの同時接種も可能と考えます。さらに、今後定期接種により全体の患者数が減少したら、米国のように間隔を開けた2回接種でブレークスルー水痘の減少を目的とした接種スケジュールも検討課題になると思います。

 小児期の水痘ワクチン接種が、将来の帯状疱疹発生頻度を低下させるという米国の報告もあります4)。水痘ワクチンの定期接種化は、高齢者の帯状疱疹予防の視点からも期待が持たれます。

  • 参考文献
  • 1)国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報 2013; 34: 287-288.
  • 2)国立感染症研究所感染症情報センター 感染症発生動向調査 2011; 13: 6-8.
  • 3)Chaves SS, et al. N Engl J Med. 2007; 356(11): 1121-1129.
  • 4)Weinmann S, et al. J Infect Dis. 2013; 208(11): 1859-1868.

ワクチン行政Watching 定期接種ワクチン(同一ワクチン)の接種間隔緩和について 福岡市立心身障がい福祉センター センター長 宮﨑千明先生

-定期接種ワクチンの接種間隔は、どのように決められているのでしょうか。ワクチン開発時の臨床試験に基づいて設定され、行政上の取り扱いは「予防接種実施規則」「定期接種実施要領」に基づいて決められています。

 各ワクチンの接種間隔は、開発時に行われた臨床試験の結果に基づいて設定されています。
 定期予防接種は、予防接種法に基づいて行われますが、接種対象年齢は政令にあたる「予防接種法施行令」で定め、厚生労働省令である予防接種実施規則と、定期接種実施要領(通知)で、ワクチンごとの接種時期や回数、接種間隔を具体的に示しています。

-同一ワクチンの接種間隔緩和の背景について教えてください。接種間隔内に接種できなかった場合、定期接種とはみなされないことがあり問題となっていました。

 これまでの予防接種実施規則・定期接種実施要領では、ワクチンごとに接種間隔の下限と上限が定められていました。下限については、不活化ワクチンの場合、短すぎるとブースター効果が得られにくいなどの根拠があるのですが、上限については、接種間隔が長くなっても副反応が増えたり、免疫効果が弱まったりすることはないと考えられています。
 定期予防接種の実施主体である自治体では、予防接種実施規則・定期接種実施要領に従って厳密に運用しようとするため、何らかの理由によって定められた間隔内で接種が受けられなかった場合に、定期接種と認めないという自治体が出てきました。一方、その上位にある予防接種法施行令(政令)で定められた定期接種の対象年齢に該当すれば、接種間隔が開いていても定期接種と認めるという対応をとってきた自治体もあります。
 自治体ごとに対応が違うこと、ワクチンの種類が増えたことにより現場での判断が複雑になってきたことを受けて、予防接種実施規則・定期接種実施要領を改正し、対応をクリアにしようというのが今回の接種間隔緩和の背景です。

-改正内容の要点を教えてください。予防接種実施規則(省令)からは接種間隔の上限を撤廃し、定期接種実施要領には「標準的な上限間隔」を記載しました。

 たとえば四種混合ワクチン(DPT-IPV)の接種間隔について、これまで「20日から56日までの間隔をおいて3回」とされていたのが、改正される予防接種実施規則では「20日以上の間隔をおいて3回」、定期接種実施要領では「20日以上、標準的には56日までの間隔をおいて3回」と示されています。
 標準的な接種間隔を記載したのは、上限を撤廃したからといって接種が遅れすぎると、免疫獲得が遅くなり、感染症予防の観点からは望ましくないからです。図1のように、接種スケジュールを完了する前に接種間隔が開いてしまうと、抗体価が低下します。なるべく早くかつ最適な免疫効果が得られる目安として標準的な接種間隔を示しました。
 予防接種法に基づく予防接種の基本精神は、安心・安全、安価(通常無料)で国民が予防接種を受けて健康を守る権利を保障することにあります。標準的な間隔で接種できる方はその範囲内で受けていただくことが基本となります。例えば、ヒブワクチンであれば図2の通り、標準接種を行うことが基本となります。今回の緩和は、何らかの理由で接種間隔が開き、接種機会を逃してしまった方も、定期接種の対象年齢であれば定期接種として接種できることを明確にしました。

-接種間隔の緩和は、科学的な根拠に基づいて決められたのでしょうか。接種間隔が開いてしまったときの有効性、安全性について、米国の考え方や制度を参考に議論しました。

 我々が参考にしたもののひとつは、米国の予防接種諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)の見解です。「すべてのワクチンにすべての接種間隔のデータが揃っているわけではない」ことを前提に、今までの研究から「一般的に推奨されている接種間隔以上に間隔が開いてしまった場合でも、最終的な抗体産生量が有意に減少することはない」、「接種間隔が開いてしまったことで、副反応発現リスクが高まるという報告はない」、「接種間隔が短い場合には、予防効果が不十分となるという報告がある」、「接種間隔が開くことで、その間は感染のリスクが高くなる」ことを示しています1)。また、米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は、接種間隔の延長によって、最終的な抗体価が有意に低下する知見は報告されていないことから、接種機会を逃してしまった場合には、次の接種時期にワクチン接種を実施すればよいという方針を示しています2)。わが国では、日本脳炎の予防接種が一時勧奨中止になった後再開されており、「接種間隔より接種回数がより重要」との考え方で対応をしました。その結果、初回接種後に長期間追加接種が行われなかった場合でも追加接種で良好な免疫反応が得られたことが示されています。またヒブワクチンでも、追加接種(ブースターワクチン接種)が遅くなったとしても良好な抗体価が得られることがわかっています(図1)。

-今後の課題は何でしょうか。複雑でわかりにくい予防接種実施規則・定期接種実施要領を、わかりやすく伝えていくことです。

 例外的な対応を示す上で、特にヒブワクチンや小児用肺炎球菌ワクチンのように接種開始時期によって規定の接種回数が異なるワクチンについては、表現が複雑になり、わかりにくいものとなっています。したがって、接種を行う医療現場にわかりやすく伝える工夫が必要と思っています。日本小児科学会では、何らかの理由で接種開始が遅れたときのキャッチアップスケジュール3)を示していますので、ひとつの参考になるかと思います。
 大切なのは、100%ルール通りに接種できない方もいる中で、なるべく多くの国民を予防接種で守っていくことです。また、次のステップとして、異なるワクチンの接種間隔の緩和を考えていくことで、よりスケジュールが調整しやすくなると考えます。

  • 参考文献
  • 1)General Recommendations on Immunization: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMRW 2011; 60(2): 1-61.
  • 2)Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases The Pink Book: Course Textbook 12th Edition Second Printing (May 2012).
  • 3)日本小児科学会推奨の予防接種キャッチアップスケジュール 2014年1月12日
    http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/catch_up_schedule.pdf

Vaccine Topic ヒブワクチンは、なぜコンジュゲートワクチン 千葉大学医学部附属病院 感染症管理治療部 講師 石和田稔彦先生

ヒブワクチンの髄膜炎予防効果は?

 インフルエンザ菌b型による感染症予防ワクチンとして、2008年12月にわが国で発売されたインフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンは、肺炎球菌ワクチンとともに、2013年4月から定期接種ワクチンになりました。実際には定期接種化される以前より公費助成が行われ、接種率が高まっていたことから、その予防効果はすでに顕著に示されています。
 2007年から開始された「ワクチンの有効性向上のためのエビデンス及び方策に関する研究」班による10道県の調査では、ヒブによる髄膜炎の発症が、ヒブワクチンが広く普及する前の2008~2010年と比較して、2012年には92%減少したことが報告されています1)。千葉県でも、2011年2月からヒブワクチン接種の公費助成が実施され、接種率が向上した結果、年間30人程度いたヒブ髄膜炎患者は激減し、2013年には1人も報告されていません。ヒブワクチン接種による髄膜炎予防効果のインパクトは非常に大きいと感じています。

小児に有効なコンジュゲートワクチンとは?

 ヒブは、グラム陰性桿菌であるインフルエンザ菌のうち、菌体表面に血清型bの莢膜を持つ株で、髄膜炎をはじめとする重症度の高い侵襲性感染症の原因となります。莢膜はインフルエンザ菌が血液中などに入ったとき、免疫細胞の貪食から守る役割を果たしていますが、莢膜に対する抗体が存在すると、抗体や補体が結合して莢膜に穴を開け、免疫細胞に貪食され、排除されます(図1)。そこで、その莢膜の構成成分であるポリリボシルリビトールリン酸(PRP)と呼ばれる多糖体を抗原としたワクチンの開発が行われました。しかしながら、PRPに対する多糖体ワクチンでは、生後18ヵ月未満の乳幼児に十分な免疫を誘導することができませんでした。これは、PRPはB細胞が関与する液性免疫は引き出せるものの、T細胞による細胞性免疫を十分引き出せないこと、そもそも乳幼児のB細胞免疫は未成熟であることが理由と考えられました。
 そこで、ヒブ感染症が重症化しやすい生後2ヵ月から1歳未満の乳児に有効なワクチンとして開発されたのが、PRPをキャリア蛋白と結合させて免疫原性を高めた結合型ワクチン(コンジュゲートワクチン)です。コンジュゲートワクチンは、T細胞免疫を誘導できることに加え、B細胞の免疫記憶細胞が保持されるようになるため、複数回の接種によってブースター効果が得られます。コンジュゲートワクチンによって1歳未満の乳児にもヒブに対する免疫が誘導され、長期間免疫効果が維持できるようになりました2, 3)

コンジュゲートワクチンの効果に、キャリア蛋白による違いはあるのか?

 海外を含め、ヒブワクチンのキャリア蛋白として使われているのは、ジフテリア毒素の遺伝子変異体(CRM197)、髄膜炎菌外膜蛋白(OMP)、破傷風毒素を無毒化したトキソイド(T)などです(表1)。

 歴史的には、まず1987年にジフテリア毒素を無毒化したトキソイドをキャリアとするPRP-Dワクチンが開発されました。このワクチンは、初回免疫時の抗体誘導が不十分であったことから一部の地域でしか使用されず販売中止となりました。1988年にはジフテリア毒素の遺伝子変異体トキソイドCRM197を使用したワクチンが開発され、十分な免疫を誘導することが確認できました。CRM197は後にアジュバントを加えたワクチンとしても開発されています。また、同時期に開発された髄膜炎菌外膜蛋白を結合したPRP-OMPは、初回接種時の抗体誘導は十分得られるものの、接種を繰り返しても抗体価があまり上昇せず、ブースター効果が弱いとの報告があります。
 その後1993年に開発されたのが、破傷風毒素を無毒化したトキソイドを結合したPRP-Tワクチンです。現在、世界で汎用されています。生後2ヵ月からの3回の接種で長期間感染予防濃度の1μg/mLを上回る抗体が誘導でき、大規模な臨床試験でヒブ髄膜炎の感染予防効果が報告されています4)。海外ではDPTワクチンとの混合ワクチンとして使用する場合の反応性がよく、混合ワクチンとしてのメリットがあることも評価されています。

ヒブワクチンを含む混合ワクチンの開発動向は?

 ワクチンで守れる病気が増えたのは喜ばしいことですが、接種回数が増えスケジュールが複雑になったことが、我々医療従事者だけでなく乳幼児の保護者にとっても大きな負担となっています。これを軽減するために、現在、同時接種が推奨されるとともに、混合ワクチンの開発が期待されています。日本では、2012年からDPT-IPV(ジフテリア、百日せき、破傷風、不活化ポリオ)の四種混合ワクチンが使用されるようになりましたが、海外ではDPTにヒブを加えた四種混合ワクチン、DPT-IPVにヒブを加えた五種混合ワクチンも使用されています。日本でもこれらの混合ワクチンの導入や開発を進めることで、接種スケジュールの煩雑さが解消されるものと期待されます。

  • 参考文献
  • 1)厚生労働科学研究費補助金 新しく開発されたHib、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV等の各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究 平成24年度総括・分担研究報告書
  • 2)中野貴司. 小児感染免疫 2009; 21(3): 245-251.
  • 3)国立感染症研究所細菌第二部 荒川宜親. IASR 2010; 31: 100-101.
    http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/362/dj3626.html
  • 4)檜山義雄. 医学のあゆみ 2010; 234(3): 195-200.

日常診療Q&A B型肝炎ワクチン(HBワクチン)接種 社会福祉法人 恩賜財団済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科 顧問NPO法人日本小児肝臓研究所 理事長 藤澤知雄先生

Q B型肝炎母子感染予防のためのワクチン接種事業について、疾患の解説や歴史を含めて教えてください。

A:B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)に感染すると、持続感染を起こしてキャリア化し、将来慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんなどの難治性疾患を発症することがあります。成人では、急性肝炎発症後約10%がキャリアになりますが、3歳以下の小児が感染すると、無症状のままにキャリアになることが多いと言われています。わが国のHBV感染者数は、約130万~150万人と推定され、そのうち10~15%が難治性肝疾患です。 HBVの感染経路には、水平感染と垂直感染(母子感染)とがあります。水平感染のおもな原因は、過去には、民間療法として行われた鍼や医療器具、輸血を介したものでした。1975年にHBVが発見された後は、消毒や血液製剤のスクリーニングなどの徹底により日本では母子感染が主な問題となりました。
HBワクチンが1984年に世界に先駆けて使用可能になると、わが国では翌1985年から母子感染防止事業がスタートしました。これは、ハイリスクの母親から生まれる新生児にワクチンを接種することで、感染を予防しようというものです。当時の新聞でも「母子感染一掃へ」「40年後にはゼロ」などの見出しで大々的に取り上げられました。
当初は、妊婦のHBs抗原検査、陽性者のHBe抗原検査、HBe抗原陽性妊婦から生まれた新生児へのB型肝炎免疫グロブリン(hepatitis B hyper immune globulin:HBIG)注射ならびにHBワクチン接種といった感染防御処置が公費負担で実施されていました。その後、1995年には、感染防御処置の対象がHBs抗原の妊婦から生まれた新生児全員に拡大されました。また、妊婦のHBs抗原検査を除いて公費負担ではなく、健康保険給付の対象となり、現在も続いています。

Q 現在、定期接種化が検討されていますが、どうしてハイリスクの新生児以外にもワクチン接種が必要なのですか。

A:1992年、WHOはすべての出生児に対してHBワクチンを接種するよう勧告を出しました。現在、世界では90%を超える国々でHBワクチンの定期接種が行われており、日本は数少ない例外国のひとつです。 わが国では、母子感染防止事業としてHBワクチンが世界に先駆けて導入されましたが、当時はワクチンの副反応リスクへの懸念や、血清由来HBワクチンの量産が難しかったことなどにより、ハイリスクの母子感染に対象を絞った策がとられました。その後、遺伝子組み換えワクチンも開発され、接種対象の拡大は行われたものの、定期接種化には至っていません。
1985年以降に生まれた子どものHBV感染率は、一旦低下したもののまた増加に転じています。その感染経路は、母子感染予防が成功しなかった場合を除くと父子感染などの家族内感染が最も多いとされています。また、保育園などでの家族外感染経路として、唾液、汗、涙などの体液が感染源になり、皮膚の傷口などから感染する可能性が指摘されています。
この背景として、1985年のプラザ合意注)後の円高進行をきっかけとした海外渡航者増に伴い、海外で感染した若年成人の増加があります。2000年以降は、新規のB型肝炎患者が再び増加に転じています。HBVは成人間では、性感染症(Sexually transmitted infections: STI)として感染が広がることが知られています。成人が感染したHBVが子どもに感染し、子どもの間で一定レベルの水平感染が続いているのが日本の現状と思われます。
実際に、最近は、従来日本でみられなかったジェノタイプAのHBV感染者が増えています。ジェノタイプAは、成人が感染したときにもキャリア化する率が高いことが問題です。
保育園や学校などでの集団生活や、将来の海外渡航を考えた場合、HBVの感染予防は母子感染予防だけでは十分ではありません。世界中ほとんどの国で接種されているHBワクチンを、わが国でも定期接種すべきと考えられます。

注)1985年にニューヨークのプラザ-ホテルで開かれたアメリカ・イギリス・西ドイツ・フランス・日本による5カ国蔵相会議で、ドル高是正のために各国が協調介入に乗り出すことを決めた合意。

Q 母子感染の予防としての新生児に対するワクチン接種スケジュールについて教えてください。

A:これまでの新生児に対する予防処置のスケジュールは、出生直後(48時間以内)にHBIGを筋肉注射し、生後2ヵ月時にHBIG 筋肉注射とHBワクチン皮下注射、続いて初回接種の1、3ヵ月後(生後3、5ヵ月)に、HBワクチンを皮下注射するというものでした。一方、海外では、出生当日にHBIGとHBワクチンを接種し、生後1、6ヵ月後にHBワクチンの接種を行うシンプルな方法が標準的で、予防効果にも差はありません。しかし日本ではHBワクチンを生後2ヵ月より前に接種することは、承認された用法・用量とは異なるため、保険が適用されませんでした。そこで日本産科婦人科学会、日本小児栄養消化器肝臓学会からの変更要望に基づく公知申請がなされ、2013年10月に承認されました。また、2014年3月にはHBワクチンおよびHBIG製剤の添付文書も改訂されました。
出生直後(12時間以内が望ましい)にHBIGとHBワクチンを同時接種し、初回接種の1、6ヵ月後(生後1、6ヵ月)にHBワクチン接種というシンプルなスケジュールへの変更により、接種漏れの減少が期待されています(図1)。なお、B型肝炎の母子感染予防については、今なお、さまざまな研究がなされており、以前は生後1ヵ月の検査でHBs抗原陽性の場合、胎内感染例として予防措置が中止されていましたが、3回接種完遂したほうが予後がよいことなどの報告もされています1)
母子感染を予防する上で小児科の役割は重要で、特に、初回接種からの1、6ヵ月後の接種確認と、生後9~12ヵ月を目安にHBs抗体を検査し、抗体価不十分な場合は追加接種を行うことが大切です。また、この感染対策により母親がB型肝炎ウイルスキャリアであっても母乳哺育を含む通常の育児が可能であることも指導のポイントです。

Q HBワクチンの長期予防効果について教えてください。

A:わが国の母子感染防止事業対象となったワクチン接種完遂後の4~13歳までの小児のHBs抗体価を追跡調査したところ、年齢別の感染予防レベルの抗体価保有率は、4歳が100%、5歳および6歳がそれぞれ97%で、それ以降徐々に減少していることが示されました(図22)。しかしながら、抗体価が低い対象者にブースターワクチンを接種すると、1ヵ月後に十分な抗体価の上昇がみられたことから、免疫記憶は保たれていることが示唆されています3)。海外でも、長期間の追跡調査が行われていますが、ワクチン接種後、HBs抗体価の低下が生じてもHBVに対する免疫は失われないと考えられます。このことから追加接種は必要ないとされ、現在、多くの国では乳児期以降の定期接種を行っていません。

  • 参考文献
  • 1)Iwasawa K, et al. Pediatr Int. 2015; 57(3): 401-405.
  • 2)角田知之ほか. 肝臓 2011; 52(7): 491-493.
  • 3)角田知之ほか. 日本小児科学会雑誌 2014; 118(11): 1654-1656.

スペシャリスト Pick Up 乳児期早期の百日咳をどうするか 独立行政法人 国立成育医療研究センター 名誉総長 加藤達夫先

乳児期早期の百日咳罹患の問題点

 乳児が百日咳に罹患した場合、典型的症状がないままに間欠的無呼吸発作、チアノーゼ、痙攣様硬直などの脳炎・脳症様症状を呈することがあります。適切な集中治療を行わなければ死に至ることもあり、深刻な感染症のひとつです。わが国では、百日せきを含む混合ワクチン(DPT-IPV、DPT)を生後3ヵ月から定期接種可能ですが、ワクチン接種前の乳幼児を守ることが重要な課題となっています。

乳児への感染源となる成人患者の増加

 ワクチン普及前の日本では年間10万人以上が罹患し、死亡率も高い状況でした。1950年から全菌体百日せきワクチンの定期接種が始まると、1970年代には患者数が数百人程度まで減少しましたが、重篤な副反応問題により接種率が低下し、再び患者数は増加しました。その後、安全性の高い無菌体百日せきワクチン(acellular pertussis vaccine)の導入や定期接種年齢の引き下げが行われた結果、4年ごとの流行を繰り返しながら患者数は減少してきました。しかし、2008年以降、20歳以上の患者数が増え、患者数全体も増えています(図1)。成人の百日咳は、乳幼児の感染源になることが問題となっており、今後も注意が必要です。
 成人の百日咳は、「長引く咳」という非典型的な症状を主訴とすることから臨床診断が難しく、乳児への感染源になることが問題です。咳が長く続く患者を診た場合には、必ず百日咳の鑑別を考えてほしいと思います。確定診断としては、発症4週間以内では、培養や遺伝子検査(PCR法、LAMP法)、4週間以降なら血清学的診断(ELISA法)が推奨されています1)。LAMP法は高感度で早く検出できるため、利用しやすいと考えられます。

成人の感受性者をなくすことで乳児の百日咳予防を

 成人患者増加の背景には、ワクチン予防効果の減弱が考えられます。一般に、不活化ワクチンの効果の持続は接種後約9年と言われており、感染流行が減って自然のブースターを受けにくくなったことと相まって、成人の感受性者が増えている可能性があります。
 わが国では、DPT-IPVまたはDPTを乳幼児期に3回接種した後、11歳時に第2期としてDTが接種されています。現在、承認外ではありますが、この第2期に百日せきワクチンを含むDPTを接種することで、ブースター効果が期待できます。成人の感受性者へのワクチン接種も有効でしょう。しかしながら、各年齢層の抗体保有状況や罹患状況、ワクチン接種との関連など基礎的な疫学情報が少ないため、実施には至っていません。

母児間の抗体移行による予防の可能性

 母体の百日咳毒素に対する抗体(抗PT抗体)は胎盤を通過することが知られています2)。胎児に移行した抗体は生後3ヵ月程度で消失しますが、移行する抗体量が多ければ、ワクチン接種までの期間、乳児の感染を予防できる可能性があります。妊婦へのワクチン接種で母体の抗体量を増やすこともひとつの手段ですが、安全性の確認をはじめとした基礎研究が必要で、直ちに実行するのは困難です。

対策を進める根拠となる疫学研究の充実を

 わが国の百日咳患者数は小児科定点医療機関からの報告に基づいて推計されており、成人を含む全患者数が正確にわかっていません。また問題となる乳児の重症百日咳に関しても、その全数や、臨床経過、感染源についての情報把握が必要です。これらの疫学的なデータを整備しつつ将来的な対応策を検討していくことが重要と考えます。

  • 参考文献
  • 1)日本呼吸器学会咳嗽に関するガイドライン第2 版作成委員会:咳嗽に関するガイドライン第2 版. 日本呼吸器学会 東京2012
  • 2)五島敏郎. 日本小児科学会誌 1985; 89(10): 2248-2255.

特別記事 大阪市立総合医療センター小児医療センター 小児救急科 副部長 天羽清子先生

基礎疾患を持つ乳幼児・小児への予防接種

大阪市立総合医療センター 小児医療センターの特徴

 大阪市の中核病院である大阪市立総合医療センターは1993年に大阪市立小児保健センターなど5つの市立病院を統合し設立されました。その中で小児医療センターは、小児内科系7科、小児外科系8科、その他2科の合計17の診療科を有し、「総合病院の中の小児病院」としての機能を持っています。小児救急科には小児感染症を専門とする医師も多く、小児病棟全体の感染症予防の役割を担っています。

基礎疾患を持つ子どもへのワクチン接種の重要性

 基礎疾患のある乳幼児や小児は、感染症に罹りやすく、重症化しやすいため、感染症の予防が極めて重要です。そのため、接種タイミングをはかりながら可能な限り早期に、接種できるすべてのワクチンを接種しています。接種は、同時接種が基本です。
 まず、低体重で生まれた未熟児に対しては、暦年齢で予防接種を行っています。先天性心疾患で手術を控えた患児に対しては、可能な限り手術前にワクチン接種を行っています。病態が安定せず手術前にワクチン接種が困難な場合には、回復後速やかにワクチンを接種しています。

免疫状態への配慮が必要な患者へのワクチン接種

 臓器移植を控えた患児に対しては、移植後の免疫抑制剤投与中には生ワクチンが接種できません。また不活化ワクチンは接種しても免疫獲得が得られにくいため、移植前にワクチン接種を行う必要があります。
 骨髄移植を行った患児に対しては、移植後慢性GVHD(graft versus host disease: 移植片対宿主病)の増悪がなく状態が安定していれば、不活化ワクチンは半年から1年、また生ワクチンは最低2年経過しかつ免疫抑制剤が中止できていれば、接種を開始しています。生ワクチン接種前にはリンパ球数やCD4陽性細胞数、IgGのチェックもしています。
 低ガンマグロブリン血症などの免疫不全でグロブリンを定期補充している子どもには生ワクチンは接種していません。川崎病などの疾患で免疫グロブリンを投与した場合、不活化ワクチンは病態が安定すればいつでも接種可能ですが、生ワクチンについてはグロブリンの投与量によってワクチン接種時期が変わります。通常量であれば3ヵ月以上、大量(200mg/kg以上)であれば最低6ヵ月は、生ワクチンの接種を待つ必要があります。低用量であれば、病態が安定すれば接種可能です。
 ステロイド使用下では、基礎疾患が落ち着いていれば、免疫獲得は悪いですが不活化ワクチンを接種可能です。生ワクチンの場合は、プレドニゾロン投与量が2mg/kg/日(20mg/日)以下で、かつCD4陽性Tリンパ球数やIgGなどを測定し、問題が無いことを確認してから接種しています。

入院児への水痘ワクチン接種 ―院内感染防御の観点から―

 院内感染を防ぐため、感染症が疑われる場合には感染病棟に入院させるようにしています。特にロタウイルス胃腸炎などは、心疾患の患児の場合循環動態が悪く、脱水による重症化の恐れがありますので、注意しています。また、水痘は免疫が低下しているハイリスクの入院児にとって致命的となることから、入院時には病棟に入る前に看護師によって罹患歴やワクチン接種歴、さらに入院前の周囲での流行状況や接触歴も忘れずに問診しています。また、水痘患者が発生した場合には、必要に応じてアシクロビルの予防投与を行います。これらの対策によって、当院では、院内でのアウトブレイクは無く感染症をコントロールできています(図1)。

ハイリスクの子どもを感染症から守るために

 退院した後は、家の近所の医療機関へ紹介し、ワクチン接種を引き継ぐことが理想的です。しかし当院では重症の基礎疾患を有する患児が多いため、多くは当院でフォローを続けています。このような患児は、治療や病状との兼ね合いから貴重なワクチンの接種機会を逃さないように、基礎疾患をみている主治医と綿密に連携して、治療と治療の間や次の手術までのわずかの期間をうまく接種に利用できるようにしています。
 今回、ハイリスクの子どもへのワクチン接種について解説しましたが、何よりも大切なことは健康な乳幼児・小児へのワクチン接種率を向上させ、疾患そのものの発生を減らすことが重要です。これが、基礎疾患を有する患児の命を守ることにつながるのを忘れてはいけません。

(後注:水痘ワクチンは2014年10月より定期接種化されました)