Vaccine Digest 第3号(2013年12月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う1

    ロタウイルスワクチン導入によるインパクト

    札幌医科大学医学部 小児科学講座 教授 堤裕幸先生

  • 感染症の流行を追う2

    ロタウイルスワクチン接種で注意すべきこと
    「腸重積症」

    医療法人社団 智愛会 なかた小児科 院長 中田修二先生

  • 予防接種関連法規 Now!

    「予防接種・ワクチン分科会」
    ~ 研究開発及び生産・流通部会について~

    国立病院機構 三重病院 院長 庵原俊昭先生

  • Vaccine Topic

    ポリオの流行とワクチンの選択

    川崎医科大学 小児科学 教授 中野貴司先生

  • 日常診療Q&A

    生ワクチン接種のQ&A

    北里大学 北里生命科学研究所 所長 大学院感染制御科学府 学府長 (現 北里生命科学研究所 特任教授) 中山哲夫先生

  • スペシャリスト Pick Up

    海外渡航者を感染症から守るトラベラーズワクチン

    名鉄病院 予防接種センター センター長 (現 名鉄病院 予防接種センター顧問) 宮津光伸先生

感染症の流行を追う ロタウイルスワクチン導入によるインパクト 札幌医科大学医学部 小児科学講座 教授 堤裕幸先生

毎年、春季に流行がみられるロタウイルス胃腸炎

 過去、ロタウイルス胃腸炎の流行は冬季にピークがみられていました。しかし、流行のピークは次第にシフトし、今日では4~5月の春季に流行がみられます。このような流行時期の移行は、わが国に限らず、北半球温帯地域の諸外国でもみられています。一説には、冬季に流行するノロウイルス胃腸炎の増加が関与しているのではないかとも言われますが、現在のところ流行時期が移行した原因は明らかとなっていません。
 日本では毎年、一定数の乳幼児がロタウイルス胃腸炎に罹患しており、その数は年間120万人とも言われています1)。1歳未満での感染は重度の脱水をきたしやすく、重症化すると、脳炎・脳症や腎障害を合併することがあります。近年、小児の急性脳炎・脳症の原因病原として、インフルエンザ、ヒトヘルペスウイルス6型、7型に次いで3番目に多いという報告もあります2)。さらに保育所など乳幼児が集まる施設では、流行が毎年のようにみられますので、早期のワクチン接種による予防が重要な疾患です。

日本での流行株はG1P[8]、G3P[8]、G9P[8]の割合が多い

 我々は、1980年代から札幌市内および市近郊で検出されるロタウイルス流行株の動向を調査しています。1990年代までは、検出数全体の約70~80%をG1P[8]が占めていましたが、2000年以降は検出株に変化がみられ、G3P[8]およびG9P[8]の検出率が増加しました。
 ただ、割合が減少しても、現在もなお検出数がもっとも多いものはG1P[8]であり、全体の約半数を占めています。国立感染症研究所 感染症疫学センターの報告でも同様の傾向が示されています(図1)。ロタウイルスの場合にはG1P[8]が完全に置き換わってなくなるような流行株の変化は起こらないと考えられます。世界的にみても、ヒトロタウイルスの主な流行株はG1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]およびG9P[8]の5種類です。

ロタウイルスワクチン導入によって流行株の変化はみられるのか

 2006年以降、諸外国では日本に先立ってロタウイルスワクチンの導入、定期接種が行われてきましたが、ワクチン接種が流行株の変化に影響するのではないかという報告がいくつかなされています。
 たとえばブラジルでは、2006年に1価ワクチン(RV1)が導入されました。ワクチン導入前の2005年のG2P[4]検出率は、全体の9%ほどでしたが、導入後の2006年は49%、2007年は66%、2008年には85%と増加が認められました。しかし、2009年には37.5%と低下し、G2P[4]の増加は収束していったことやワクチンを導入していない近隣諸国でも同時期にG2P[8]の増加がみられたことから、流行株の自然変動だったと結論付けられています3)
 また米国とオーストラリアでは、5価ワクチン(RV5)導入後に、今までに検出率の低かったG3P[8]が増加したという報告がなされていますが、現在のところワクチンとの関連性は明らかとなっていません4)

ロタウイルスワクチン導入のインパクト

 一方、ロタウイルスワクチンの導入が重症ロタウイルス胃腸炎の予防に与えたインパクトは非常に大きいと言えます。
 発展途上国では下痢症が原因で乳幼児が死亡することは珍しいことではなく、長きにわたって問題とされてきました。メキシコでは、毎年1,000人以上の小さな命が下痢症で失われており、その主たる原因はロタウイルス胃腸炎でした。2007年のワクチン導入後は、乳幼児の下痢症関連死数は大幅に減少し5)、深刻であった状況が明らかに打開されています。また、2006年にワクチンが導入されたブラジルでは、2008年には接種率が81%に達し、導入後にはロタウイルス胃腸炎による入院が大きく減少したことが報告されています(図2)。
 医療環境の整った先進諸国では、ロタウイルス胃腸炎で死亡する乳幼児の数は少ないものの、救急受診や入院が問題となっていました。たとえば、ワクチン導入前に、毎年100人程度の1歳未満児のロタウイルス胃腸炎による入院が報告されていたオーストリアの病院で、ワクチン導入後は接種率向上に伴い、入院患者数が顕著に減少しました(図3)。このような入院数の減少は米国やベルギーでも報告されており、ワクチンの接種率が高まるにつれ、その効果は大きくなっています。
 わが国でも2011年11月からロタウイルスワクチンの接種が可能になりましたが、現在のところ、その接種率は約30~40%であり、今後接種率を高めていくことが課題です。すべての子どもたちにロタウイルスワクチンを接種できるよう、早期に定期接種化されることが期待されます。

感染症の流行を追う  ロタウイルスワクチン接種で注意すべきこと「腸重積症」  医療法人社団 智愛会 なかた小児科 院長  中田修二先生

腸重積症とは?

 腸重積症とは、腸の近位部(陥入部)が遠位部(外筒)に入り込んで起こる腸閉塞症のことです(図1)。主に小腸の腸管壁が、小腸もしくは大腸に引き込まれて生じます。腸管壁への細菌やアデノウイルスなどの感染によって発症するのではないかと推測されていますが、その原因は明らかではありません。メッケル憩室やポリープを先進部として発症することもあります。
 腸重積症の好発年齢は、全世界で共通しています。主に生後4ヵ月~2歳未満の乳幼児で発症リスクが高く、生後7~8ヵ月にピークを迎えます。また発症に季節性はないと考えられています。一方で、人種や地域により発症頻度が違うことが分かっています。ベトナムでは10万人あたり300人(1歳未満)と高いリスクが報告されていますが、欧米諸国では10万人あたり30~50人と報告されています1)。日本では、年間10万人に150人程度との報告もありましたが2)、最近の全国調査では65人程度と考えられています3)

初代ロタウイルスワクチンでみられた腸重積症リスクの増加

 1998年に米国で承認され、直後に腸重積症リスクの増加が問題となって発売中止となった初代ロタウイルスワクチンは、サルロタウイルスを親株とし、3つのヒトロタウイルス由来の組み換え体ウイルスと親株自身を混合した4価の経口ワクチン(RRV-TV)でした。1998年の発売から10ヵ月間で約100万人の乳児が接種を受けましたが、市販後に行われた調査で、接種後1~2週間での腸重積症のリスク上昇が明らかとなり、1999年に市場から撤退することになりました。RRV-TV接種により発症リスクが、被接種者10,000~32,000人あたり1人増加すると推定されています4)

日本で使用されている2つのロタウイルスワクチンと腸重積症

 現在日本で使用されている1価ロタウイルスワクチン(RV1)と5価ロタウイルスワクチン(RV5)は、RRV-TVの腸重積症リスク増加の経験を踏まえ、開発されました。すなわち約6万人を対象とした大規模な二重盲検ランダム化プラセボコントロール試験によって腸重積症のリスク増がないことを確認し、承認されました。
 一方、2013年6月の米国Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)に報告された調査結果では、RRV-TV接種後ほど高くはないものの、RV1およびRV5の接種後に一過性のリスク上昇がみられることが明らかとなりました。しかし発生頻度は低く、接種ベネフィットの方が明らかに勝ると結論付けられました。ACIPや世界保健機関(WHO)では、ロタウイルスワクチンは腸重積症のリスクに注意しながら積極的に接種すべきとの指針を出しています。

ワクチン接種にあたって注意すべき点

 当院ではロタウイルスワクチン接種時に、腸重積症の症状と緊急性の高い疾患であることを説明して注意を呼びかけています。ワクチン接種後、もし腸重積症が疑われる症状がみられた場合には、朝まで待たずに救急外来を受診するか、電話(小児救急電話相談や地域の夜間休日診療所など)で相談するよう伝えます。ワクチン接種後の乳幼児は腸重積症自然発症の好発期を迎えることを伝え、少なくとも1~2歳までは注意が必要なことを知らせています。

ワクチンの適切な接種時期

 腸重積症との関連を考えた場合、ロタウイルスワクチンは生後2ヵ月になったらできるだけ早く接種すべきだと考えます。その理由としては、市販後に行われた調査の結果から、主に初回接種後にリスク増がみられるものの、生後2ヵ月目では腸重積症の自然発症率が少ないからです。またRRV-TVは生後3ヵ月以降の初回接種で腸重積症のリスク増加がみられたことからも、初回接種は生後14週6日までに行うことが推奨されています。さらに、生後2ヵ月での早期の接種開始は、腸重積症発症の面だけでなく、早期に免疫をつけて重症化を予防するという観点からも重要と考えられます。

  • 参考文献
  • 1)Bines JE, et al. J Infect Dis. 2009; 200(1Suppl): S282-90.
  • 2)Noguchi A, et al. Jpn J Infect Dis. 2012; 65(4): 301-05.
  • 3)厚生労働科学研究費補助金 ワクチンにより予防可能な疾患に対する予防接種の科学的根拠の確立及び対策の向上に関する研究
    平成24年度総括・分担研究報告書:p91-100.
  • 4)Bines JE. Curr Opin Gastroenterol. 2005; 21(1): 20-5.
  • http://www.jsps.gr.jp/general/disease/gi/7cpvpi

予防接種関連法規 Now! 『予防接種・ワクチン分科会』~研究開発及び生産・流通部会について~ 国立病院機構 三重病院 院長 庵原俊昭先生

-予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会について教えてください。日本のワクチン開発技術の維持・向上と、新たなワクチンの開発、導入について議論を行っています。

 当部会は、今後の感染症動向を見据えた新しいワクチンの開発や海外からの導入を検討するとともに、日本のワクチン開発技術の維持・向上をはかるために設置されました。感染症予防のワクチンを対象とし、国内だけでなく海外で必要なワクチンの開発についても議論しています。
 また、ワクチン産業には国民を護る国策としての側面があります。国内のワクチン生産量は限られていますし、急な需要増があったとしてもすぐに輸入できるとは限りません。国内のワクチン産業を維持し、製造能力・技術を高めることも当部会の重要なテーマです。

-予防接種・ワクチン分科会と、従来の感染症分科会予防接種部会とでは、どのような点に違いがあるのかを教えてください。予防接種・ワクチン分科会では予防接種に関わる問題を総合的かつ継続的に評価・検討するようになりました。

① 混合ワクチン
ワクチンの種類増加に伴い、利便性の高い混合ワクチンの開発が急務です。しかし多価にすると抗体産生が低下する場合があり、免疫原性と安全性の確保が課題です。海外で使用実績のある、DPT-IPVにヒブ、B型肝炎を加えた混合ワクチン、MMR(麻しん、風しん、おたふくかぜ)、MMRV(MMR+水痘)生ワクチンの導入も期待されます。
② トラベラーズワクチン
ワクチンの種類増加に伴い、利便性の高い混合ワクチンの開発が急務です。しかし多価にすると抗体産生が低下する場合があり、免疫原性と安全性の確保が課題です。海外で使用実績のある、DPT-IPVにヒブ、B型肝炎を加えた混合ワクチン、MMR(麻しん、風しん、おたふくかぜ)、MMRV(MMR+水痘)生ワクチンの導入も期待されます。
③ 現行ワクチンの改良
たとえば、現行のBCG接種では結核感染が予防できないため、結核菌の感染予防が可能なワクチンが必要です。またおたふくかぜワクチンでは、無菌性髄膜炎の頻度が課題となっています。海外のワクチン株は無菌性髄膜炎の頻度が少ないとされる一方、免疫原性が弱いとの指摘もあり、有効性、安全性、医療経済性など総合的にみて有用性の高いワクチンが求められます。
④ 世界的に重要な感染症のワクチン
世界的に問題となっているHIV、マラリア、デング熱などは、まだワクチンがありません。疾病負担が大きいため、効果的なワクチン開発が期待されています。
⑤ 今後日本で流行が懸念される疾患のワクチン
増加しつつある妊婦のサイトメガロウイルス感染をはじめ、高齢者の帯状疱疹、基礎疾患を持つ人のためのワクチンなど、今後問題になる可能性が高い感染症へのワクチン開発が期待されています。

-今後の展望について教えてください。産官学が連携したワクチン開発体制の整備、そして生産・流通の課題にも取り組んでいく必要があります。

 まずは開発のターゲットを絞り込むことが重要です。次に、抗原やアジュバントなどの基礎研究に加え、メーカーの研究所、臨床試験グループなど、産官学の連携を後押ししたいと考えています。ニーズの高いワクチンの研究開発に対しては、優先的な予算配分も必要でしょう。
 またワクチンの生産・流通には、一度需給のバランスが崩れるとすぐには増産が難しいという生物製剤特有の問題があります。今後は定期接種化を進めるなど、生産計画を立てやすく、設備投資しやすい環境をつくることも大切と考えています。
 予防接種・ワクチン分科会では、来年4月に厚生労働大臣が発表予定の「予防接種基本方針」の基本となる「予防接種の総合的かつ計画的な推進を図るための計画」の策定を進めており、当部会では、研究開発と生産・流通に関して検討を行っています。計画策定後も、ワクチン開発や生産・流通の課題解決に向けた議論を継続していく予定です。

Vaccine Topic ポリオの流行とワクチンの選択 川崎医科大学 小児科学 教授 中野貴司先生

ポリオの歴史と現在の流行状況は?

 ポリオ(急性灰白髄炎)は、ときに不可逆性の弛緩性麻痺を引き起こし、重度の後遺症をきたします。さらに呼吸機能を低下させ、最悪の場合、死に至ることもある疾患です。古代エジプトの石版画には、ポリオ感染者と思われる下肢が麻痺した小児が描かれており、ポリオは長きにわたり人類を苦しめてきた感染症であると言えます。現在でもなお、ポリオウイルスに対する抗ウイルス薬は実用化されておらず、ポリオを予防するワクチンの接種は極めて重要と言えます。
 ポリオワクチンの開発には、多くの研究者が挑み、1950年代にソーク博士(Jonas E. Salk)らが不活化ワクチン(IPV)、セービン博士(Albert B. Sabin)らが経口生ワクチン(OPV)の開発に成功しました。これら2つのワクチンの普及により、世界各国で認められたポリオの流行は、収束に向かいました。その後、世界的なワクチン接種の実施を背景に、WHOは1988年よりポリオ根絶計画を推し進め、現在のポリオ常在国は、ナイジェリア、アフガニスタンおよびパキスタンの3ヵ国まで減少するに至っています(図1)。
わが国では、1960年代にポリオの大流行に襲われ、年間患者数が5,000人を超えるほどの深刻な事態に直面しました。1961年初頭にはIPV(ソークワクチン)を輸入し、ワクチン接種を開始したものの、輸入されたIPVの供給量に対して流行の勢いが激しく、ポリオの流行に歯止めがかかりませんでした。そこで国は、同年6月にOPV(セービン株)を緊急輸入し、小児に対する全国一斉接種を講じました。その結果、わが国でもポリオの流行は鎮静化されていったのです。

OPVとIPVの違いは?

 セービン博士らが開発したOPVは経口投与することで自然感染と同じメカニズムが働き、腸管での局所免疫獲得に優れています。また、集団免疫の存在も確認されており、中和抗体は長期にわたって持続する特徴があります。世界的にポリオの流行がみられた当初、多くの国々でOPVが使用され、流行の収束に貢献してきました。しかし優れた予防効果を発揮する反面、ワクチン関連麻痺(VAPP)という重篤な副反応が約200万回接種につき1例発症するリスクが確認され、問題視されるようになりました1)
 一方、IPV(ソークワクチン)は、強毒型野生株(1型のMahoney、2型のMEF-1、3型のSaukett)を不活化したもので、血中で中和抗体が獲得されるポリオワクチンです。開発から現在までに、D抗原定量法の導入や濃縮精製工程の改善によって、より免疫原性が高いもの(eIPV:強化型IPV)に改良されました。ソーク博士らが開発したソークワクチンは世界中で使用され、半世紀以上もの間、ポリオの流行を予防してきた使用実績があり、安全性の高いワクチンであることが確認されています。
 近年、ポリオ流行の収束に伴いOPVによるVAPPの問題が相対的に大きくなったことを受けて、世界各国ではOPVからeIPVへの切り替えが進んでいます。

野生株由来IPV(ソークワクチン)とセービン株由来IPVとの互換性は?

 わが国でも2012年から世界で使用経験のある野生株由来IPV(ソークワクチン)が使用されるようになりました。さらに、日本でOPVとして使用されてきた弱毒化ウイルス(セービン株)を不活化したセービン株由来IPVが独自に開発され、ジフテリア、百日咳、破傷風と組み合わされた、四種混合ワクチン(DPT-IPV)として臨床導入されています。
 2つのワクチンの互換性については、2011~2012年に検証が行われています。ソークワクチン先行接種2回後にセービン株由来IPVを2回接種した群と、これら2回ずつのワクチン接種を逆に行った群で、抗体保有率を初めとするさまざまな項目を比較した結果、2つのワクチンには互換性があることが示されています2)

2種類のIPVへの期待

 わが国で開発されたセービン株由来IPVは、弱毒化ウイルスを不活化しているため、製造施設の安全管理やバイオセーフティーの面から注目されています。一方、世界中で使用実績のあるソークワクチンは、日本では単独ワクチンが承認されています。ソークワクチンは、ポリオ流行地へ渡航予定の成人への接種にも使用が可能です。また、セービン株由来IPVと同様にDPT-IPVの開発も進められており、乳幼児に接種するワクチンとして供給の安定化にも貢献が期待できます。
 世界では、すでにDPT-IPVにヒブ、B型肝炎を加えた5種、6種混合ワクチンが使われています。今後、日本でも混合ワクチンの開発が進む中で、これらのワクチンを上手に使いこなすことが期待されます。

  • 参考文献
  • 1)Hao L, et al. Jpn J Infect Dis. 2008; 61(2): 100-103.
  • 2)厚生労働科学研究費補助金 予防接種に関するワクチンの有効性・安全性等についての分析疫学研究 平成24年度総括・分担研究報告書

日常診療Q&A 生ワクチン接種のQ&A 北里大学北里生命科学研究所所長大学院感染制御科学府 学府長 中山哲夫先生

Q 医療従事者へ接種すべき生ワクチンについて教えてください。

A:医療系学生を含む医療従事者は、接種できる生ワクチンはすべて接種すべきと考えます。最近では、医療系学校への入学および医療施設への入職時に抗体検査を行い、感受性のある人に対しては麻しん、風しん、おたふくかぜ、水痘のうち該当するワクチンを接種するようになりました。
北里大学では感受性者の基準を表1のように決めています。女性の風しん抗体価に関しては、妊娠初期に感染すると胎児が先天性風しん症候群(CRS)を発症する可能性があるため、感受性者の値を<16倍(HI法)としています。これらの数値は過去の症例の検討から決めたものです。環境感染症学会から「院内感染対策としてのワクチンガイドライン」1)が公表されていますが、感受性者の値がかなり高く設定されているため、実際は職種や患者さんに接する機会なども考慮して、基準を決める必要があると考えます。
抗体検査は毎年すべきですか、という質問もいただきますがその必要はないでしょう。ワクチン接種後2~3年すると抗体価は下がりますが、メモリー細胞が残っているため、自然感染時には細胞性免疫が働いて発症は防げると考えられるからです。今までに2回のワクチン接種歴、入職時の接種歴があれば追加接種の必要はないと考えています。

表1  北里大学での抗体価の検査方法と判断基準

Q 生ワクチンを接種しても抗体価の上がらない人には、どのように対処すればよいのでしょうか。

A:抗体価は測定方法により値が異なるため、疾患ごとに適切な方法で測定する必要があります。最近では一般的に、風しんの抗体価はHI法で、麻しん、おたふくかぜ、水痘は感度の高いELISA法で測定を行います。 なお、これらの測定法にて抗体価が上がらない人は、一般的に1回のワクチン接種では抗体価の上昇が不十分でも、2回接種すればほとんどの人が十分な抗体価を獲得することができると考えられています。一方、稀に2回のワクチン接種を行っても抗体のつかない、non responder(不応答者)が存在することも事実です。
過去に日本でMMRワクチンを接種していた当時、2回接種後に抗体検査を行ったところ、500人中2人程度、おたふくかぜなどの抗体価が上昇しない子どもがいました。その子ども達のリンパ球を採取して検査したところ、細胞性免疫は獲得できていることが確認できました。抗体価は上がらなくても、発症予防に有効な免疫は獲得できたと考えられます。またこのようなnon responderに対する3回接種の意義は、明らかとなっていません。

Q 風しんの抗体を持たない成人へのMRワクチン接種は1回だけでいいのでしょうか。

A:麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)を接種すると、90%以上の人が1回の接種で十分な抗体価を獲得できることがわかっています。よって2013年にみられたような一時的な大流行を止めるために成人が接種する場合は、1回で十分だと考えています。風しんワクチン接種後の抗体価は10年くらい経つと低下し始めるため、過去にワクチンを受けた人でも2回目の接種を行うことは有効であると考えられます。

Q おたふくかぜ生ワクチン、水痘生ワクチンの適切な接種回数や間隔について教えてください。

A:おたふくかぜは、ワクチン接種後に罹患したり、何度も自然感染を繰り返したりする方がいます。これは、おたふくかぜウイルスが感染してもリンパ球に刺激が入りにくく、終生免疫が成立しにくいことが原因とされています。このためおたふくかぜワクチンは、複数回接種した方がよいと考えられます。一方、接種回数が増加すれば、無菌性髄膜炎などの副反応の問題も出てきますし、医療経済的な側面も考慮する必要があります。米国では、ワクチン接種後のおたふくかぜ罹患数を接種回数ごとに比較した場合、1回接種に比べ2回接種で罹患率が減少したという報告があり、2回接種によるワクチンの有効性が示されています2)
おたふくかぜは接種後3年くらいでの罹患が多いこと、また生活空間が拡大する5才くらいで好発期を迎えることから、1歳で1回目の接種を、さらに入園前3~4歳で2回目の接種を行うことが勧められます。
水痘は、小児科定点から毎年25万人前後の患者が報告されており、持続的な流行がみられています。また死亡例も出ていること、院内感染のコントロールも難しいことから、早期の定期接種化が望まれます。乳児院での経験から、水痘は初回ワクチン接種後半年くらいでも罹患することがあります。よって適切な2回目の接種間隔は、3ヵ月以上半年前後が望ましいでしょう。
将来、定期接種化により水痘の流行が沈静化した場合は、2回目の接種時期を米国のように小学校入学前(MRワクチンの追加接種と同時期)にすることも考えられますが、まずは早期の2回接種で定期接種化することが重要です。

Q 同種の生ワクチンを追加接種する場合の適切な接種間隔を教えてください。

A:ワクチン接種により獲得した抗体価は、徐々に低下していきます。追加接種は低下しかけた抗体価を再上昇させ(ブースター効果)、感染防御に有効な抗体価を保つために行われます。
追加接種を行う適切なタイミングですが、たとえば麻しんワクチンの場合、中和抗体が32倍程度ならブースター効果があるとされます。しかし、64倍、128倍など高い抗体価が保たれている場合は、血清中の中和抗体がワクチンウイルスを中和することでワクチンウイルスが増殖できず、追加接種を行ってもブースター効果が期待できません。
水痘ワクチンに関しては、同種の生ワクチンの追加接種は、ブースター効果を期待する意味では少なくとも3ヵ月以上の間隔をあけるべきだと考えます。麻しんや風しんのように、ワクチンおよび当該感染症の流行状況によっては、数年以上の間隔をあけて追加接種を行うこともあります。

  • 参考文献
  • 1)環境感染症学会 ワクチン接種プログラム作成委員会.院内感染対策としてのワクチンガイドライン.環境感染誌, 2009; 24: p.S4-S8.
  • 2)Schaffzin JK, et al. Pediatrics. 2007; 120(4): e862-8.

スペシャリスト Pick Up 海外渡航者を感染症から守るトラベラーズワクチン 名鉄病院 予防接種センター センター長 宮津光伸先生

トラベラーズワクチンとは

 トラベラーズワクチンとは、海外出張あるいは赴任、留学および長期の海外旅行などで海外へ渡航する方々を、渡航先で罹患するおそれのある感染症から守るために接種するワクチンのことです。わが国では制圧されている、もしくは稀にしか発生をみない感染症でも、世界の各地域で流行している感染症はたくさん存在します。したがって、渡航の目的や渡航先の感染症流行状況に応じて適切なワクチンを接種することが肝要です。たとえば成人が中国やインドなどアジアの国に海外赴任する場合、A型肝炎、B型肝炎などのワクチン接種とともに、DPT三種混合(ジフテリア、百日咳、破傷風)と日本脳炎ワクチンの追加接種が強く推奨されます。小児期に接種済みであっても、流行地で生活するにあたって十分な抗体価が維持されていない可能性があるからです。
 昭和44年以降に生まれたDPT(DT)世代へは、破傷風トキソイドではなく、DPTでの追加接種が推奨されます。

ワクチン接種にあたって(5つの確認ポイント)

 渡航予定者がワクチンの接種を希望する場合、いくつか確認すべき事項があります。それは、①年齢、②渡航先、③渡航目的、④滞在期間、⑤渡航までの準備期間などです。また企業と渡航予定者の感染症予防に対する認識を確認することも大切です。
 これらの情報に基づいて、ワクチンの接種スケジュールを組み立て、接種していきます。しかしながら、渡航予定者がワクチン接種に必要十分な準備期間を有しているとは限りません。その場合には、1回接種で1年間効果が持続するA型肝炎ワクチンや、A型肝炎と腸チフスの混合ワクチンなどの輸入ワクチンをうまく組み合わせて、限られた期間内で必要なワクチンの接種を行います。状況によっては、渡航先での接種を勧める場合もあります。
図1  名鉄病院 予防接種センターの成人用接種記録狂犬病ワクチンはWHO方式で3回接種(0・7・(21)28日)しないと、期待する効果は得られません。2回の接種で済ませることのないよう、十分注意してください。
ワクチン接種後には、諸外国でも確認できる英語表記のワクチン接種記録を作成し、渡航予定者に渡す必要があります(図1)。接種記録は、渡航者の年齢や目的に応じて記録内容が異なります。

ワクチン接種に関する情報は

 海外渡航者の増加とともに、トラベラーズワクチンのニーズは高まっていますが、その接種に関しての必要な情報が届いておらず、産業医または人事担当者から渡航予定者に対して適切な指示がされていないことも少なからず見受けられます。当院ではホームページ上で、「渡航ワクチンの考え方と上手な打ち方」、「渡航ワクチンの選択方法(成人・小児)」などの情報をPDFで提供していますのでご参照ください。さらに定期的に産業医および企業担当者を対象にしたセミナーを開き、渡航者の安全を守るために必要なトラベラーズワクチンの啓発を行っています。また電話とメール、FAXでの相談も受け付けています。

ワクチンの相談を受けたら

 渡航者に対するワクチン接種には、わが国で承認されているワクチンのほかに、輸入ワクチンも含めて個々の渡航者に応じたワクチンを選択し、接種計画を立案する柔軟な対応が求められます。輸入ワクチンには、日本国内の副反応救済制度が適用されないため、被接種者に対して十分な説明を行い、同意を得ておくことが重要です。渡航予定者に対するトラベラーズワクチンの計画から接種まで、包括的な対応が必要な場合には、日本渡航医学会の会員が診療を行うトラベルクリニックに紹介することも選択肢のひとつと考えます。

日本渡航医学会 ホームページ http://www.tramedjsth.jp/