Vaccine Digest 第18号(2018年12月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う

    輸入感染症への対策
    沖縄県の麻疹流行から学ぶこと

    沖縄県立中部病院 感染症内科 副部長 椎木創一先生
    ぐしこどもクリニック 院長/沖縄県はしか“0”プロジェクト委員長
    具志一男先生

  • Vaccine Topic

    2018年までに流行したロタウイルスの遺伝子型
    -ワクチンの影響はあるのか?

    藤田医科大学 医学部 ウイルス・寄生虫学 講師 河本聡志先生

  • 日常診療 Q&A

    妊婦・授乳婦を守る感染症対策

    長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
    熱帯医学・グローバルヘルス研究科
    小児科学分野 教授 森内浩幸先生

  • スペシャリスト Pick Up

    渡航を控えた小児への感染症対策
    ~予防接種を中心に~

    トヨタ記念病院  小児科 顧問/海外渡航科 顧問
    愛知県小児科医会 会長 岡田純一先生

  • ワクチン行政 Watching

    平成30年度診療報酬改定からみたAMR対策の推進と予防接種の役割

    千葉大学真菌医学研究センター感染症制御分野 准教授 石和田稔彦先生

  • 特別記事

    ライフサイクルを診る小児医療
    -小児科による1か月健診の意義と実践

    たはらクリニック 院長/山口県小児科医会 会長 田原卓浩先生

感染症の流行を追う 輸入感染症への対策沖縄県の麻疹流行から学ぶこと 沖縄県立中部病院 感染症内科 副部長椎木創一先生

県立中部病院における流行への対応

 2018年3月から始まった麻疹流行の初発患者は外国人旅行者でした。罹患した状態で沖縄に到着し、発熱がありながら観光を続け、多数の人と接触したため感染は県内全域へ拡大しました。二次感染者は29例と一気に拡大し、その後、二次感染者の職場や家庭内を含め26例の三次感染者が報告されました。四次感染者とわかっているのは2例ですが、その他の患者の感染経路の判断は難しく不明です。結果的に5月までに、成人71例、未成年28例の麻疹患者が報告されました(図12)。今回の流行は、症状がありながらでも観光地を移動する旅行者の特性と、麻疹ならではの感染力の強さが組み合わさったことによるものと考えられます。
 当院には初発患者が発疹発症により夜間に救命救急センターを受診しました。麻疹を診た経験のない初期研修医が初診を行い診断ができませんでした。しかし相談を受けた救急担当医がこれまでの経験から麻疹を疑い、速やかに陰圧室での隔離対策ができました。初診を担当する医師が麻疹を疑うことができるかが大事で、診断の早さが曝露者を増やさないポイントです。その後、保健所を通じて検査を依頼し、遺伝子検査で麻疹の確定診断がなされました。
 その後当院では早期に麻疹疑い患者を見つけるため、受診患者が記載する診療申込書に発熱・発疹・1か月以内の海外渡航歴のチェック項目を追加し、2つ以上確認された場合にはトリアージ担当看護師が速やかに対応することにしました。
 また、今回の麻疹流行に伴い開設した、当院の感染症内科の専門医3人による電話窓口「麻疹よろず相談」には、「麻疹の可能性」「受診の必要性」についての問い合わせが数多く寄せられました。今回の流行は規模が大きく、関心を持つ人や不安に思う人が多かったようですが、電話相談によって事前に判断し、受診者数を減らすことで、病院やクリニックの負担を軽減できたと思います。
 今回の経験により、当院での対応の仕方や、検査の依頼や情報共有など保健所を中心とする地域の医療施設や行政との連携の仕方を再確認することができました。今回のような対策は、麻疹にとどまらずMERSや新型・鳥インフルエンザのパンデミック対策としても役立つ対応ですので、地域で検討しておくことが重要です。

麻疹疑い症例の診断の難しさ

 麻疹が流行すると麻疹疑い症例が増加し、臨床診断のみでは麻疹のみならず、特に修飾麻疹を見分けることは困難です。
 実際、当院を受診した麻疹疑い症例109例中、検査診断により典型麻疹は4%、修飾麻疹は2%でした(図2)。遺伝子検査による確定診断の結果が出るまでには時間がかかるため、日常の診療では、診断名を早く伝えることよりも、医療行為が必要な状況かどうかの判断をすることが重要となります。修飾麻疹など症状が軽い場合は、入院による治療は必要ありませんが、感染源となる可能性があるので、発疹など症状出現後5日までは人との接触を避けて自宅で静養するよう指導します。また、ワクチン株由来の麻疹が紛れ込むこともあるので、診察時に麻しん含有ワクチン接種歴を聞き取ることも重要だと考えます。

今後の課題と平時の対策

 今回の麻疹流行では、小児の保護者からの相談が多くありましたが、麻疹患者の多くは成人で、成人患者71例中、ワクチン未接種者と接種歴不明者は合わせて53例でした(図12)。今後このような流行を起こさないためにも、ワクチン未接種の成人への対策を重要事項として考えていかなければなりません。職場健診時に合わせて接種することや仕事帰りにでもワクチンを接種できる環境を整えることなども一つだと思います。
 平時に麻疹患者に出会うことはないように思われていますが、現在、訪日外国人が増えており、いつどこで流行が起こってもおかしくない状況だと考えます。医療関係者のワクチン接種歴や抗体保有状況の把握は重要です。とはいえ、麻疹疑い患者に接触する場合には当院では接種歴や抗体保有歴にかかわらずN95マスクを使用しています。国内で麻疹が発生した際は、感染症発生情報を随時入手すること、日常診療において発熱患者の診療時には、麻疹の可能性も頭の片隅におき診療を行うこと、実際に麻疹患者が来院した場合は、接触者の情報や立ち寄り場所の情報を行政等を通じて常に共有できる体制を構築していることが非常に重要です。地域中核病院としては、麻疹流行予防のための啓発はもちろん、麻疹疑い症例を受け入れた場合には、速やかなトリアージや隔離対策を実践し、流行を最小限に留めるための対応に今後も努めたいと思います。

沖縄県はしか“0”プロジェクトの立場から ぐしこどもクリニック 院長/沖縄県はしか“0”プロジェクト委員長具志一男先生

「沖縄県はしか“0”プロジェクト」発足の経緯および活動状況

 沖縄県では1998〜2001年にかけて麻疹が流行し、多数の患者発症と9名の乳幼児が亡くなりました。当時、県内の麻しんワクチンの接種率が60〜70%と低率であったことから、主に予防接種推進などの活動を目的とした「沖縄県はしか“0”プロジェクト」を発足しました。このプロジェクトには多くの分野の方々の協力が不可欠であることから、医療関係者、県や市町村などの行政関係者、保育関係者等、幅広い方々に呼び掛けプロジェクト委員会を構成し、麻疹流行防止への取組みが行われてきました。2003年には、麻疹発生時における各関係機関の具体的対応策を示した「沖縄県麻しん発生時対応ガイドライン」を作成し、2018年の流行でもガイドラインに則って速やかに活動することができました。また、麻疹発生状況を迅速かつ正確に把握し対策を講じる目的で、沖縄県独自の麻疹発生全数把握事業を行っており、患者情報については市町村、医師会、教育機関などの関係機関に還元されます。今回も初発患者の報告があった時点で直ちに情報が共有されました。

2018年の流行と乳児の緊急接種

 「沖縄県麻しん発生時対応ガイドライン」では流行の程度を予め4段階に定義し()、それに基づいて各関係機関が連携して行動します。今回の流行時にもこのガイドラインに基づき対策が行われました。ガイドラインがあることで、会議等を頻回に開催して対策を決定するなどのプロセスが必要なく、迅速対応が可能となります。
 麻疹は特異的な治療法がなく、感染力が極めて強い感染症であり、乳児が感染すると重症化するので、ワクチン未接種である乳児を感染から守るために、近隣で麻疹患者の発生が認められ、緊急避難的な場合に限り生後6〜12か月未満児へのワクチン接種が推奨されています3)。本プロジェクトでも2001年の流行時の経験により、流行レベルに応じた生後12か月未満児に対する公費の予防接種要請を2003年施行のガイドラインから設定してありました(2008年一部改訂)4)。今回は発生直後から複数地域で患者がみられ、レベル3の流行状況となったので、直ちに各市町村へワクチン接種勧奨と公費負担の検討を依頼しました。2018年4月末時点で4,716名が接種し1)、6月末には6,879名(対象者の約6割)となりました(未公表)。また、定期接種が未接種の小児への勧奨については、新聞やTV、ラジオの活用や、予診票を送付するなど平時以上に積極的に行い、小児を感染から守ることに注力しました。
 積極的疫学調査については、ガイドラインの実施項目としているため、保健所が行った調査結果を県のホームページで発表しています。今回初発患者が外国人旅行者だったため、立ち寄った場所の特定に苦労しました。また、報道関係者には、感染症法に則り、患者やその家族・関係者が特定されることがないよう、配慮をお願いしました。
 各都道府県のガイドラインがない場合は、国立感染症研究所感染症疫学センターの「麻疹発生時対応ガイドライン」が参考になります。

麻疹流行をなくすために

 実地医家として、まず一人でも多くの小児の定期接種を実施し、高い接種率を維持することが重要です。MRワクチンは1歳代で1回目接種、就学前1年以降で2回目接種が基本ですので、受診者には母子健康手帳で接種歴を確認し、接種を完了していない児への接種勧奨を行うことも大切です。また、今回報告された麻疹患者のうち70%は20代〜40代の成人で、多くはワクチン接種歴不明者であることから、接種歴不明・未接種の成人を1例でも減らすために、子どもの予防接種のために来院した保護者の接種歴も確認し、ワクチン接種を勧奨することも大切な対策と考えます。さらに、今回の教訓から、対応ガイドライン等を常に整備しておくとともに、医療関係者、児童福祉施設の職員、学校職員、観光接客業および海外渡航者へのワクチン接種を特に強く推奨する必要があると考えます。
 厚生労働省の麻しんに関する特定感染症予防指針の2018年の改正では、“海外に渡航する者および空港職員等や、定期の予防接種の対象となる前の0歳児や予防接種を受けることのできない免疫不全者および妊婦に接する機会が多い人は、予防接種を強く推奨する”と明記され5)、本年度中に通達が出る予定になっています。

Q 1歳未満の緊急接種の対応について教えてください

緊急避難的な対応として、近隣で麻疹患者の発生が認められた場合に、生後6〜12か月未満児へのMR(麻しん風しん混合)ワクチン接種が推奨されます。なお、1歳未満における現行ワクチンの効果は十分評価されていません。緊急接種をしても、0歳での接種は、母体由来の抗体の残存等から免疫の獲得が十分ではないことがあるため、1期(1歳)の定期接種は必ず行ってください。その場合、通常の生ワクチンの接種と同様に、緊急接種から4週間以上の間隔を空けます。また、緊急接種の記録も母子健康手帳への記入が望ましいですが、定期接種欄に記入するとその後の接種時に混乱を招くため、メモのページに記入するなど注意が必要です。

国立感染症研究所 感染症疫学センター 麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方(2018年4月17日)、予防接種に関するQ&A集, 一般社団法人日本ワクチン産業協会, 2018. より作成

  • 参考文献
  • 1)沖縄県保健医療部 沖縄県における「麻しん(はしか)」流行の終息宣言(平成30年6月11日)
  • 2)沖縄県保健医療部 沖縄県における「麻しん(はしか)」流行の終息宣言 記者会見配布資料2(平成30年6月11日)
  • 3)国立感染症研究所 感染症疫学センター 麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方(2018年4月17日)
  • 4)沖縄県麻しん発生時対応ガイドライン
  • 5)第4回麻しん・風しんに関する小委員会 資料4 麻しんに関する特定感染症予防指針(改定案)(平成30年6月8日)

Vaccine Topic 2018年までに流行したロタウイルスの遺伝子型-ワクチンの影響はあるのか? 藤田医科大学 医学部ウイルス・寄生虫学 講師河本聡志先生

1 わが国におけるロタウイルスの遺伝子型変遷

 ロタウイルスは、11本の2本鎖RNA分節をゲノムとして保有するウイルスで、外層タンパクVP7とVP4は独立した中和抗原を有し、VP7はGタイプ、VP4はPタイプの遺伝子型を規定します。VP7は36種類、VP4は51種類が認められており、毎年、動物から新しい型が発見され、増え続けています。そのうち、ヒトロタウイルスのVP7、VP4の遺伝子型はそれぞれ10種類程度で、上位5種類(G1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8])で9割以上を占めています1)。流行する遺伝子型は年や地域により変動があり、流行する遺伝子型を予測することは難しい状況です。
 わが国におけるロタウイルスの遺伝子型の変遷については、AMED※の菅班で、三重、岡山、千葉の3県にて、2008年から毎年、ロタウイルスによる急性胃腸炎と診断された入院・外来患者の便検体を調査してきました。本研究の遺伝子型の解析はMultiplex semi-nested RT-PCR法によりすべて藤田医科大学で行っています。
 Gタイプの流行の傾向として、G3の後、G1、G2の流行がみられていますが、2017年には三重県と岡山県ではG9の流行が認められ、千葉県ではG9は1件も報告されないという地域差が認められました。小さな国土のわが国でも、年と地域によって流行する遺伝子型は異なることが示されています。
 最近6年間のG/Pタイプの遺伝子型の年別検出割合推移を示します(図12)。2012年と2013年はG1P[8]の割合が多い状況でした。その後、G2P[4]、G1P[8]が1年おきに流行し、2017年は半数以上をG9P[8]が占めたものの、2018年には再びG2P[4]が増加するなど(未公表)、毎年大きな変動がみられています。最も顕著な変化は、ワクチン導入直後の2012、2013年には170例程度であった報告数が、ワクチン導入が進んだ2014年以降には40例程度に減少したことです。

  • AMED:国立研究開発法人日本医療研究開発機構

 また、特筆すべき点として、近年、 DS-1-like遺伝子型が増加傾向にあるということが挙げられます。ロタウイルスの全11遺伝子分節に基づいた遺伝子型の分類では、通常、G1、G3、G4、G9はWa遺伝子群、G2はDS-1遺伝子群に分けられます。両群には系統的に大きな隔たりがあるため、リアソータントが出現しても自然淘汰されやすいと考えられてきましたが、近年、変化が起こっています。2016年以降にみられたG3P[8]はすべてWa/DS-1遺伝子群間のリアソータントであるDS-1-like遺伝子型でした(図2)。DS-1-like G3P[8]は広がりが早く、世界的な感染拡大が危惧されています。このDS-1-like G3P[8]の出現がワクチンの影響によるものかどうかについてはわかっていません。

 ロタウイルスワクチンの導入以降、わが国でも患者数、特に重症患者数の減少が認められており、ワクチンによる予防効果自体は疑いようがありません。特に、G1、G2、G3、G4、G9の主要流行株に対する予防効果は多くの論文で実証されています。

2 海外の流行ロタウイルス遺伝子型のワクチン導入前後での変化

 ロタウイルスワクチンの遺伝子型への影響については、オーストラリアで興味深い結果が示されています3)。オーストラリアでは2017年7月以降は全域でRV1が定期接種として導入されていますが、2007年のロタウイルスワクチン導入にあたっては、州ごとに入札を行って、RV1とRV5のいずれかを選択しました。そのため、州によって導入されたワクチンが異なり、ワクチンの選択圧で流行するロタウイルスの遺伝子型が変わるのか注目されました。
 オーストラリア全体ではワクチン導入前にG1が半数以上を占めていましたが、導入後はG1P[8]が減少したことで他の型の割合が増え、多様性が高まりました。州ごとにみた場合も、ワクチン導入前はG1が高い割合でしたが、ワクチン導入後は、RV1を導入した州ではG2P[4]、DS-1-like G3P[8]、RV5を導入した州ではG12P[8]、G2P[4]の割合が増加し、異なる傾向が示されました。
 また、2007年にRV5を導入し、2009年にRV1に変更した西オーストラリア州では、RV5導入後はG12P[8]の割合が増加しましたが、RV1に切り替えた後はG2P[4]の割合が増加するという変化が確認されました。ただし、いずれのワクチンでも全体的な検出数の減少に伴って主要な型であったG1P[8]の減少がみられ、絶対数が少なくなった中で他の型の割合が増えていることを認識しておく必要があります。
 このほか、フィンランド4)、マラウイ5)、ケニア6)でもワクチン導入後に遺伝子型分布の変化が報告されています。

3 今後の流行ロタウイルス遺伝子型についての予測と懸念

 近年、ロタウイルス遺伝子型は、DS-1-like遺伝子型やG2P[8]など新たな種類が認められており、今後、さらなる多様化が予想されています。
 ロタウイルスワクチンのシード株は1980〜1990年代のものであるため、現在流行しているロタウイルスとは遺伝子型に違いがあると考えられます。例えば、世界的に広がりを見せているDS-1-like G3P[8]はウマ由来のG3であると考えられ、ヒトの型とは一部が異なります。また、G9、G12のような新興型ロタウイルス遺伝子型が出現する可能性も懸念され、今後、次世代ロタウイルスワクチンのシード株が必要となる可能性があります。
 そこで期待されるのが、リバースジェネティクス系の応用です。リバースジェネティクスとは、ゲノムを人工的に自由に改変した感染性ウイルスの性状を検討して、各ウイルスタンパク質や遺伝子の機能解析を行う手法です。ロタウイルスではそのゲノム構造の複雑さから、リバースジェネティクス系の確立は難しいとされてきましたが、2018年には、本学において、ロタウイルスのみの遺伝子から人工合成ロタウイルスのきわめて高効率な作製法を確立させることができました7)。この手法により自由自在にウイルスゲノムの改変ができるため、ウイルスの増殖機構の解明や次世代のロタウイルスワクチン開発が期待されています。

  • 参考文献
  • 1)Santos N, et al. Rev Med Virol. 2005; 15(1): 29-56.
  • 2)AMED菅班2017年報告書
  • 3)Roczo-Farkas S, et al. J Infect Dis. 2018; 218(4): 546-554.
  • 4)Markkula J, et al. Infect Dis (Lond). 2017; 49(5): 388-395.
  • 5)Jere KC, et al. J Virol. 2018; 92(3): e01246-17.
  • 6)Wandera EA, et al. Vaccine. 2017; 35(38):5217-5223.
  • 7)Komoto S, et al. J Virol. 2018; 92(13): e00588-18.

日常診療Q&A 妊婦・授乳婦を守る感染症対策 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科/熱帯医学・グローバルヘルス研究科小児科学分野 教授 森内浩幸先生

Q 妊娠、授乳中に注意すべき感染症について教えてください。

A:妊娠中の母体は、胎児を免疫学的に寛容するため、免疫系が抑制されており、特に各種臓器に負荷がかかる妊娠後期は、基礎疾患を有する方と同じくらい重症化のリスクがあるため注意が必要となります。インフルエンザの流行期に妊娠後期を迎える場合、罹患による母体の重症化リスクが高いため1)、妊娠中であってもワクチン接種が重要です。そのほか、麻疹や水痘なども妊娠中に感染すると重症化しやすく、胎児にも影響を及ぼすことが知られています。
また、妊婦自身に大きな健康被害がなくとも胎内感染によって胎児に先天異常を引き起こす疾患群が問題視されています。これらは、トキソプラズマ、風疹、サイトメガロウイルス(CMV)などの病原体の頭文字をとって「TORCH(トーチ)症候群」と総称されています。
母乳を介して子どもに感染する代表例として、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)がありますが、妊婦健診の検査対象であり、キャリアと判明した場合は人工栄養を選択することで、母子感染を抑えることができます。

TORCH症候群:トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)、梅毒を含むその他病原体(Others)、風疹ウイルス(Rubella virus)、サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus; CMV)、単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus)を指します。

Q 妊娠前、妊娠中に接種すべきワクチンについて教えてください。

A:妊婦へのワクチン接種が推奨される疾患としては、妊娠中の母体の重症化リスク、あるいは胎児への感染リスクが高い感染症が特に重要です。MRワクチン、水痘ワクチン、ムンプスワクチンなどの生ワクチンは妊娠中に接種できないため、もし未接種であれば妊娠前に接種を済ませておくことが望まれます。小児科の先生方には、児の付き添いで来院した母親にワクチン接種状況を確認した上、次の妊娠を考える方には事前のワクチン接種を勧奨していただきたいと思います。
また、妊婦のインフルエンザワクチン接種は、妊婦自身を守るのみならず、胎児への移行抗体により、乳児期前半まで感染リスクを低下させるという点でもメリットがあるため2)、妊娠期間にかかわらず接種が推奨されています1)。季節性インフルエンザの流行時期を考えると、遅くとも12月中旬までには接種が終了するような接種計画を組むことも重要です。
また、授乳中であっても妊娠前に未接種であったワクチンを接種しても問題はありません。

Q 妊婦、授乳婦を取り巻く人々がすべき感染症対策について教えてください。

A:妊婦自身の感染症対策はもちろんのこと、その周囲の方々の対策も大切です。一般的には熱や咳、くしゃみなどの感染兆候があれば妊婦に近づかない、あるいはマスク着用などの対策が基本です。また、妊婦、授乳婦だけでなく新生児を守るためのワクチン接種も推奨されます。
風疹は、妊娠初期の女性が罹患すると、出生児が先天性風疹症候群(CRS)を発症する恐れがあり、2012〜2013年の流行時には45例のCRSが報告されました3)。2018年の風疹患者報告数も1,884人と増加傾向です(11月7日現在)4)。わが国の30代後半〜50代の男性は風疹抗体保有率が低く5)、本人も気がつかない間に風疹に罹患して周囲の妊婦に感染させてしまう可能性があります。生ワクチンである風しんワクチンは妊婦自身が接種できないため、配偶者や周囲の方が自身の接種記録を確認の上、2回接種が済んでいないようであれば早期に接種を完了していただきたいと考えます。
百日咳は生後6か月以内に罹患すると重症化リスクが高く、死に至ることもあります。百日せきワクチンの免疫効果は4〜12年で減弱するため、接種後年数が経過した人が百日咳を発症して乳児に感染させる可能性があります。こうした感染症から新生児を守るための手段が「コクーニング(cocooning)」と呼ばれる戦略です。妊婦だけでなく、両親、祖父母、同胞など、新生児に接する機会の多い人がワクチンを接種することで、いわば「赤ちゃんを繭でくるむ」ように、感染を二次的に予防する取り組みが望ましいと考えられています。
インフルエンザも同様で、小児のワクチン接種時には、小児科医の先生方から妊婦・授乳婦の周囲の方々のワクチン接種の必要性やコクーニングの意義について伝えていただき、母子を感染から守っていただきたいと思います。

Q サイトメガロウイルス、トキソプラズマ感染について教えてください。

A:TORCH症候群のうち、CMVとトキソプラズマによる先天性感染症はどちらも妊婦が初感染した場合に胎児への感染が危ぶまれますが、母体の症状が乏しいために感染の把握が困難です。現時点ではワクチンによる予防はできず、妊婦健診でのチェック体制も整備されていません。
わが国で特に頻度が高い先天性CMV感染症は、出生児1,000人に1人の割合で発生すると推定されています6)。CMVの主な感染源は小さな子どもの尿や唾液です。お子さんが集団保育の場などでCMVに感染すると、未感染の母親がその子のおむつを替える、あるいはよだれを拭くなどの行為を介して感染し、さらにその母親が妊婦であれば胎内感染に至るケースが想定されます(図17)。先天性CMV感染症は生後21日以内の尿を用いて保険診療で検査可能であり、早期診断された場合は抗ウイルス薬治療による予後の改善が期待できます。なお、わが国の妊婦の約7割はCMV既感染者であり、妊娠中の初感染時に比べると再感染時の胎内感染リスクは大きく低下します。ただしCMVは経母乳感染を起こすことがあります。経母乳感染は、ほとんどの場合は不顕性感染となりますが、未熟児の場合は不十分な移行抗体や免疫学的未熟性のため臨床的な問題が生じることがあります。
また、トキソプラズマの主な感染源はネコの糞に汚染された土いじりのほか、馬刺しやローストビーフなど加熱不十分な食肉などです(図17)。妊娠中にトキソプラズマの感染が判明した場合は、胎児への感染を防ぐために、スピラマイシンの投与が行われます。
両感染症とも、ワクチンはなくても妊婦の生活上の注意を啓発することで予防効果が期待できます(図28)。残念ながら未だ十分な認知には至っていませんが、先天性CMV感染症とトキソプラズマ感染症の合同患者会「トーチの会」で、臨床医や研究者らの協力のもと、両感染症の予防法に関する情報発信や検査体制の充実を求める活動を行っており、以前よりはかなり認知されるようになってきています。いずれは図2にある感染予防の11か条が社会全体として常識化してほしいと願っています。

インフルエンザHAワクチン添付文書【接種上の注意】(一部抜粋)
6. 妊婦、産婦、授乳婦等への接種
妊娠中の接種に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。
なお、小規模ながら、接種により先天異常の発生率は自然発生率より高くならないとする報告がある。

  • 参考文献
  • 1)日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編監. 産婦人科診療ガイドライン−産科編2017
  • 2)Zaman K, et al. N Engl J Med. 2008; 359(15): 1555-1564.
  • 3)国立感染症研究所. IASR. 2018; 39(3): 33-34.
  • 4)国立感染症研究所. 感染症発生動向調査(2018年11月7日現在)
  • 5)国立感染症研究所. IASR. 2018; 39(3): 39-41.
  • 6)古谷野伸ほか.厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)「全新生児を対象とした先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染スクリーニング体制の構築に向けたパイロット調査と感染児臨床像の解析エビデンスに基づく治療指針の基盤策定」平成22年度研究報告書. 
  • 7)森内浩幸. 小児感染免疫. 2012; 24(2): 199-206. 
  • 8)先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症 患者会「トーチの会」ホームページ http://toxo-cmv.org/

スペシャリストPick Up 渡航を控えた小児への感染症対策  ~予防接種を中心に~ トヨタ記念病院 小児科 顧問/海外渡航科 顧問愛知県小児科医会 会長岡田純一先生

最初に一人ひとりの情報収集と状況に合わせた予防接種プランニング

 海外渡航を控えた小児の感染症対策としてまず行うのは、一人ひとり異なる「年齢」「予防接種歴」「感染症の既往歴」「渡航先(国や地域、大都市か郊外か等)」「滞在期間」等の状況の把握です。リスクとベネフィットを踏まえて必要なワクチンをリストアップし、接種スケジュールを個々にプランニングします。短期渡航であれば、個人防衛を目的とした渡航先特有の感染リスク対策を行い、長期滞在型の渡航であれば、渡航先の制度や集団生活に必要な対策も行います。
 プランニングには、諸外国の予防接種制度や感染症流行状況なども把握しておく必要があります。日本小児科医会国際委員会では諸外国の予防接種情報を提供しています1)。WHOホームページ「International travel and health」2)の感染症リスクマップも参考にするとよいでしょう。

定期接種ワクチンを基本として接種ワクチンの優先順位をつける

 近年、日本の予防接種制度は国際標準に近づいてきたため、乳児は日本の定期接種を行うことで渡航時に必要なワクチンの多くをカバーできます。トラベラーズワクチンを含めたワクチンの接種スケジュールを立てるときは、日本の定期接種を優先し、渡航先の検疫制度と感染症リスクを加味し、どのワクチンを組み入れるかを考えます()。まず黄熱ワクチンなど、渡航先への入国時に必要な検疫ワクチンを優先します。次に、個人防衛のために渡航先特有の感染症リスクに対するワクチンを組み入れます。その次に、渡航先の制度で足りないワクチンや、学校規則等で要求されるワクチンも可能な限り対応します。例えば、規則に厳しい米国では、予防接種証明が集団生活・学校に入るための大前提となります。

 最近定期接種となった水痘ワクチン(2014年)、B型肝炎ワクチン(2016年)や、定期接種化していないムンプスワクチン等は、年齢により未接種の小児が多くいるので注意が必要です。水痘ワクチンは未接種でも水痘の罹患者であれば、抗体保有について証明書に記載します。B型肝炎ワクチンは未接種者には接種を推奨します。3回まで接種完了できなくても、渡航先で追加接種が可能です。ムンプスワクチンは、麻しん、風しんとの混合ワクチンが主流の海外では単味で接種することが難しいので、日本で接種しておく方がいいでしょう。3種混合(DPT)ワクチンは、日本と米国等では定期接種の回数が異なると共に、日本の第2期定期接種である2種混合(DT)ワクチンは百日咳が入っていないために3種混合ワクチンの追加が求められることがあります。また、ポリオ生ワクチン2回接種の年長児には不活化ポリオワクチンの3回目の接種が望まれます。渡航先の接種スケジュールを確認し、できるだけそれらをカバーしておきたいものです。
 出国までの日程を考慮してスケジュールを組み、出国前にできる限りの予防接種を行います。必要な全てのワクチンを接種完了してから渡航することが望ましいですが、完了できなくても可能な限り接種し、不足分は渡航先または一時帰国時に行うことも考慮します。

航先毎で異なるトラベラーズワクチン

 渡航先特有の感染症リスクに対して接種されるワクチンです。
 『A型肝炎ワクチン』 主にアジアなど発展途上国への渡航時に接種を勧めます。日本では不活化ワクチンの3回接種が標準ですが、中国・東南アジアの一部では生ワクチンが使用されています。不活化ワクチンと生ワクチンの互換性における科学的論文はないため、出国前に不活化ワクチンの2回接種が望ましいと考えます。
 『日本脳炎ワクチン』 日本脳炎は、東南アジアでの発症数が多い感染症です。日本では、標準的な1期初回接種対象が「3〜4歳に達するまで」とあり、低年齢の小児では未接種の場合が多いです。しかし、生後6か月から接種可能ですので、感染リスクが高い地域へ渡航する場合は、早期に接種を開始することを推奨します。A型肝炎ワクチンと同じように、海外では生ワクチンも使用されているので追加接種等については注意が必要です。また、成人も免疫が落ちている場合があるので、感染リスクが高い地域への渡航では、追加接種を勧めます。
 『腸チフスワクチン』 腸チフスは東南アジア、南アジア地域で流行しています。輸入注射ワクチンは2歳以上で接種可能ですが、接種できない場合でも、生ものの摂取を避けるなど日常生活の中での感染防御をお伝えしています。
 『髄膜炎菌ワクチン』 髄膜炎の流行がみられる、アフリカの髄膜炎ベルトと呼ばれる地域に渡航する場合、ワクチン接種が必要です。それらの国に限らず、先進国でも定期接種している国がありますが、髄膜炎菌は国や地域によって流行タイプが異なり、ワクチンでカバーできない型もあります。高額なので費用も含めて情報提供します。
 『狂犬病ワクチン』 日本のように狂犬病のない国は限られており、ほぼ世界中の国で感染リスクがありますが、定期接種にしている国はなく、海外では曝露後の緊急接種対応が基本です。曝露前の接種は、WHO「International travel and health」の感染症リスクマップ3)を参考に、ヒトの生活圏に同居するイヌからの感染がみられるアジア、アフリカへ渡航する場合や、活動パターンとして野生動物と接する可能性のある野外活動が多い場合、また、大人より感染リスクが高いお子さんに対して接種を勧めます。

「予防接種証明書」は海外渡航者の健康パスポート

 長期滞在予定の海外渡航者には、「予防接種証明書(英文)」の作成を勧めています()。「検疫・入国時」「集団生活・学校に入る時」「渡航後の予防接種継続時」「感染症罹患時(鑑別診断に利用)」に重要となります。
 なお、渡航先で接種したワクチンも接種証明を作成してもらうべきと考えます。証明確認ができず、出国・帰国をくり返す中で、接種歴が曖昧になり、接種の過不足になることは避けなければなりません。

 現在、日本を出国する小児は、15歳未満だけで1年間に98万人4)、3か月以上の長期滞在では学齢期で8万人5)となり、増加の一途をたどっています。グローバル化が急速に進む中、渡航外来専門だけでなく、臨床医の先生方のご協力は必要不可欠です。まずは、日常の「乳幼児期予防接種の推進・実施」が基本であり、これによって先進国への渡航対策ワクチンの大部分がカバーできます。その上で日常の備えとして、海外の感染症リスクや予防接種制度に関して情報収集をしていただき、必要に応じて予防接種証明書の作成を一般小児科でもご協力いただくことができれば、海外渡航時の感染症リスクから、より多くの小児を守ることができると考えます。
 今回は詳説できませんでしたが、熱帯または亜熱帯地域へ渡航する場合には、マラリアやデング熱等に感染するリスクがあり、蚊に対する対策もおろそかにすることはできません。

  • 参考文献
  • 1)日本小児科医会国際委員会ホームページ http://www.jpa-web.org/about/organization_chart/international_committee.html
  • 2)WHOホームページ「International travel and health」 http://www.who.int/ith/en/
  • 3)WHO「International travel and health」感染症リスクマップ(Rabies) http://gamapserver.who.int/mapLibrary/Files/Maps/Global_Rabies_ITHRiskMap.png?ua=1
  • 4)法務省2017年 出入国管理統計 住所地別 出国日本人の年齢及び男女別 https://www.e-stat.go.jp
  • 5)外務省領事局政策課 海外在留邦人数調査統計 平成30年要約版(平成29年10月現在) https://www.mofa.go.jp

ワクチン行政Watching 平成30年度診療報酬改定からみたAMR*対策の推進と予防接種の役割 千葉大学真菌医学研究センター感染症制御分野 准教授 石和田稔彦先生

-「小児抗菌薬適正使用支援加算」が新設された背景と現状を教えてください。小児は感染症罹患頻度が高く、抗菌薬が処方される機会も多いため、AMR対策では極めて重要なターゲットです。小児抗菌薬適正使用支援加算の新設により、今後特に外来診療でのAMR対策が進むと期待されます。

 2018年度の診療報酬改定において、小児科外来診療料と小児かかりつけ診療料に小児抗菌薬適正使用支援加算が新設されました。これは、世界的に薬剤耐性菌が増えている中、日本で2016年に策定されたAMR対策アクションプランに基づいています。これまでのAMR対策は病院内のICT(Infection Control Team)などで行われてきましたが、さらに一般外来においても抗菌薬適正使用の推進が鍵となっています。特に小児は感染症に罹患する頻度が高く重症化しやすいことや、病原体や耐性菌の伝播に関わることが多いことから1)、抗菌薬の適正使用推進は急務と考えられます。
 小児抗菌薬適正使用支援加算の算定要件および施設基準は、図の通りです2)

-「地域感染症対策ネットワーク(仮称)」に係る活動として、千葉県ではどのような取組みをされていますか。千葉県では、医師会だけでなく薬剤師会とも連携して、医院ごとの抗菌薬処方量を把握し、自院と他院の処方量を比較した情報を各医院に提供する試みを準備しています。

 小児抗菌薬適正使用支援加算の施設基準として、地域感染症対策ネットワークへの参加が挙げられています。千葉県での取組みは、薬局からの情報提供をもとに医師自身が抗菌薬処方量のセルフチェックができる仕組みの構築です。勉強会などに参加できない医師にも、自身の処方を見直し、適正使用について考えるきっかけを提供できると考えられ、他地域のロールモデルになり得るのではないかと考えています。

-AMR対策における予防接種の役割を教えてください。Hib、肺炎球菌、インフルエンザの予防接種は公表されているAMR対策アクションプラン戦略で感染予防推進の評価指標として明記され3)、重要視されています。予防接種による重症化予防や発熱での受診機会の減少は、抗菌薬使用の低減にも貢献します。

 発熱した小児に対しては、細菌性髄膜炎や細菌の二次感染により重症化するリスク等を考慮して経口抗菌薬が投与されることがあります。しかし、Hibワクチンの導入によりHib感染症は激減しており4)、抗菌薬の投与量減少に繋がり、薬剤耐性菌の伝播抑制が期待できます。また海外では7価肺炎球菌結合型ワクチン導入により、小児侵襲性肺炎球菌感染症が減少するとともに、耐性菌の分離率が低下したことが報告されています5)。このようにHibワクチンや肺炎球菌結合型ワクチンを接種していれば該当感染症が減り、さらに侵襲性感染症の罹患リスクが減少することで、治療に必要な抗菌薬使用の低減や耐性菌の問題解決に寄与することができると考えます。
 また、インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザの予防と、細菌の二次感染による重症化予防になります。
 医師は母子健康手帳でそれぞれのワクチンの接種歴を確認することで、抗菌薬を処方せずに様子をみるという選択肢を選びやすくなります。AMR対策の一環として、適切な時期に必要な回数のワクチンを積極的に接種することも重要です。

-今後の課題としてはどのようなことがありますか。抗菌薬の適正使用とはすべての患者で使用を減らすことを目的とはしていません。抗菌薬が必要かどうか患者ごとに丁寧に見極めて、必要な処方をすることが大切です。また、患者や家族が納得できるように抗菌薬の適正使用について説明を行うことがとても重要です。

 抗菌薬の処方を判断するために検査が必要になることがありますが、検査にはスタッフの負担や医療費もかかります。しかも何よりも患者本人の負担になりますので、抗菌薬適正使用を目的に過剰な検査を行うことは勧められません。また、適正使用の説明が不十分なために、患者や家族が抗菌薬の処方を求めて複数の医療機関を受診するようなことがあっては意味がありません。患者や家族への適正使用の説明は難しいですが、「今、抗菌薬を使ってしまうと耐性菌が体内に残ってしまうので、もし近い将来中耳炎などになって本当に必要になったときに抗菌薬が効かなくなってしまう」など、抗菌薬を使わない理由と将来のリスクを患者や家族が納得できるように説明をする必要があります。もちろん、医師自身も適正使用について正しい知識を身につけ実践することが大切です。医療関係者と患者や家族への啓発や教育を両輪で行うことで、この取組みが広がることを願っています。

  • 参考文献
  • 1)宮入烈. 医療の質・安全学会誌. 2017; 12(3): 329-334.
  • 2)第3回厚生科学審議会感染症部会薬剤耐性(AMR)に関する小委員会 資料5 平成30年度診療報酬改定について(平成30年4月27日)
  • 3)第6回国際的に脅威となる感染症対策推進チーム資料2-2「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づく施策のフォローアップについて(平成30年6月13日)
  • 4)菅 秀ほか. (研究代表者:庵原俊昭)「Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」平成26年度総括・分担研究報告書(厚生労働科学研究費補助金)平成27年度総括研究報告書(日本医療研究開発機構研究費)
  • 5)Grijalva CG, et al. JAMA. 2009; 302(7): 758-766.

特別記事 ライフサイクルを診る小児医療−小児科による1か月健診の意義と実践 たはらクリニック 院長/山口県小児科医会 会長田原卓浩先生

山口県では、1か月健康診査(以下、1か月健診)は全市町で助成され、小児科医が担っています。産後早期からの子育て支援を小児科が行う意義や今後の課題について、山口県小児科医会会長、たはらクリニック院長である田原卓浩先生にお伺いしました。

乳児の発育と母親のメンタルヘルス支援が重視される1か月健診

 超少子時代の中で、「切れ目のない育児支援」が国の指針として掲げられていますが、実際の育児の現場では、「親」としての役割を懸命に果たそうと日々努力している家庭(親子)への支援の満足度は決して高いとはいえないと思います。特に出産後から1か月健診までの期間でのケアの重要性がまだ十分に認識されていません。
 生後1か月は、子どもにとっても母親や家族にとっても大切な時期です。山口県では、小児科医の先輩や産婦人科医、行政の方々の理解・協力を得て、1か月健診の95%以上を小児科医が行う環境が整っています。産院・産科から退院後、母親は子ども中心の生活に環境が変わります。産後1か月は、核家族化が進む現在、親が育児に最も不安を感じる時期であり、母親の心のケアがとても重要になります。乳児の発育と母親のメンタルヘルス支援を大切にした1か月健診の重要性が認識されてきています。

山口県における1か月健診の意義

 小児科医が1か月健診を行う最大のメリットは、乳児の成長・発達の確認、母乳栄養の推進、子育て支援のサポート、産後うつ病の早期発見、虐待の予防、予防接種早期開始の指導など、多方面からフォローアップできることだと考えます。予防接種に関しては、生後2か月のワクチンデビューを前に、小児科医から予防接種の情報提供やスケジュール作成ができており、その後のワクチン接種がスムーズになっていると実感しています。
 山口県小児科医会では、1か月健診時の診療のチェックポイントを解説し、必要な情報をまとめた「1か月健診ガイドブック」を作成しています(1)。このガイドブックは申し込みいただいた方にお送りしているのですが、他の都道府県から求められることも多く、健診に限らず、初めて小児科に来院した乳児の健康チェックに使っていただいているようです。大切なのは、仮に小児科での公費助成等による1か月健診の実施が難しい場合でも、“生後1か月頃に小児科を受診してもらう”システムを地域で確立することであり、それが最終的に切れ目のない育児支援に繋がると信じています。

 2週間健診(新生児相談)も早期に母親に接触できる大事な機会です。山口県では宇部市と岩国市で、産科、小児科それぞれで2週間健診を実施し、行政を介して情報共有を図っています。小児科医が加わることで、母親の育児にともなうメンタルヘルスへの影響だけでなく、退院時に診断されなかった児の疾患が見つかることもあります2)。今後、県内の多くの地域で、生後2週間を重要なポイントとして小児科医がかかわれるように取り組んでいきたいと思います。また「新生児訪問」「こんにちは赤ちゃん事業」で、各ご家庭に保健師らが伺って母子支援を行っていますので、育児にかかわる情報を行政と共有することがさらに重要になると考えております。

小児科医の使命 「未来の宝−“子ども”−を守る」

 産後早期の母親の多くは、たくさんの不安や心配事を持っていますので、その不安を取り除いてあげるのも小児科医の役割だと思います。私は、赤ちゃんの月齢に応じて、成長と発達の経過および異変を親と共有し、「元気に育ってくれていますね」などの声掛けとともに、母子健康手帳にその内容を随時記載しています。小児科医の使命である「未来の宝−“子ども”−を守る」を揚げて、全国の小児医療チームが一丸となって愛と情熱あふれるプライマリ・ヘルス・ケアを展開していただくことを期待しています。

プライマリ・ヘルス・ケア:すべての人にとって健康を基本的な人権として認め、その達成の過程において、住民の主体的な参加や自己決定権を保障する理念であり、その方法・アプローチ。1978年に出された「アルマ・アタ宣言」が基礎になっている。

  • 参考文献
  • 1)山口県小児科医会: 1か月健診ガイドブック(改訂第2版), 2017
  • 2)金子淳子: 周産期医学. 2017: 47(6), 757-761.