Vaccine Digest 第17号(2018年7月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う

    2017/18シーズンのインフルエンザ流行状況とワクチン株の選定

    川崎医科大学 小児科学 教授 中野貴司先生

  • Vaccine Topic

    ロタウイルス胃腸炎の疾病負担と接種推奨意義を改めて考える

    藤田保健衛生大学医学部小児科学 主任教授 吉川哲史先生

  • 日常診療 Q&A

    周術期の感染症対策とワクチン接種

    国立がん研究センター 中央病院 感染症部長
    慶應義塾大学医学部 客員教授 岩田 敏先生

  • ワクチン行政 Watching

    3次感染者発生に至ることなく終息した金沢市「輸入麻疹」への対応

    金沢市保健局 担当局長 越田理恵先生

  • スペシャリスト Pick Up

    ムンプス髄膜炎の発症機序とその頻度

    国立感染症研究所 ウイルス第三部第三室 室長 木所 稔先生

  • 特別記事

    ワクチン接種の痛みを軽減する重要性とその方法

    鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山 院長/家庭医診療科 部長
    日本プライマリ・ケア連合学会 理事(ワクチンプロジェクトチーム担当理事)岡田唯男先生

感染症の流行を追う 2017/18シーズンのインフルエンザ流行状況とワクチン株の選定 川崎医科大学 小児科学 教授 中野貴司先生

2017/18シーズンの流行の特徴

 2017/18シーズンは近年にない大規模なインフルエンザの流行がみられました。ピークを迎えた2018年第5週(1月29日〜2月4日)の定点医療機関からの報告数が定点あたり54.33(図11)、2017年第36週から2018年第14週までの累積推計受診者数*1が2,222万人に達するなど2)、例年を大きく上回りました。
 わが国のインフルエンザの流行は、2012/13シーズンごろから、A(H1N1)pdm09亜型が約半数を占め、B型も多く分離される年と、A(H3N2)亜型が8割以上を占める年が交互にくり返されてきました。2017/18シーズンは例年と異なる流行パターンがみられ、B型(山形系統)が流行の主体となり、A(H1N1)pdm09亜型およびA(H3N2)亜型も多くみられました(図23)。さらに、B型の流行が例年に比べて早期に始まり、A型とB型の「混合流行」と呼ぶべき状態でした。
 一部メディアでは、高熱などの強い症状のない「隠れインフルエンザ」という造語が報じられました。こうした軽症例に対する迅速診断や薬物治療の適否については小児科医の間でも議論になりますが、流行期は感染予防に注意することがもちろん大切です。また、インフルエンザは一定の割合で重症化する疾患であるため、流行規模が大きいことを考慮すると、ワクチン接種による予防は推奨されると考えます。

2017/18シーズンのワクチン株変更の経緯と新しいワクチン株選定プロセス

 2017/18シーズンは、インフルエンザワクチンの流通の遅れと供給量が問題となりました。インフルエンザウイルスは頻繁に遺伝子変異を起こすため、ワクチン株は毎年見直す必要があります。
 従来のワクチン株の選定では、WHOの推奨、国内の流行や分離ウイルスの性状、並びに国民の抗体保有状況などを考慮した上で、国立感染症研究所(以下、感染研)が候補株を選定し、これに基づいて厚生労働省(以下、厚労省)が決定し、ワクチンメーカーへの通達が行われていました。2017/18シーズンは、A(H3N2)亜型のワクチン株として選定された埼玉株の増殖性が想定よりも低いことがメーカーの実製造過程で判明し、ワクチン製造供給量の大幅な減少が見込まれたことから、ワクチン株を急遽再検討、最終的にA(H3N2)亜型のワクチン株を2016/17シーズン同様の香港株に選定し直しました4)
 このような経緯からワクチンの供給は例年より遅れることとなりましたが、インフルエンザの流行状況との直接的な因果関係があったとは言えないと考えます。ワクチンは接種希望者全員が受けられるように、必要な時期に、必要な量を供給することが大切です。今回の事例は、ワクチンの供給やワクチン接種の大切さを考え直すきっかけになりました。
 また、2018/19シーズンからはワクチン株の選定プロセスが見直され、厚生科学審議会のもとに有識者を中心に構成される「季節性インフルエンザワクチンの製造株について検討する小委員会」が設置されました。2018/19シーズンのワクチン株は、感染研から提案された候補株について、抗原相同性*2と予想製造量の両側面から意見が集約され、決定されました()。

  • *2抗原相同性:抗原性を比較した時の一致率

ワクチン株と流行株の抗原相同性と有効性

 ワクチン株と流行株の抗原相同性については、一致していても有効性が高くない場合や、一致率が低くても有効性が高い場合があります5)。これは、対象集団の罹患歴やワクチン接種歴による抗体保有状況や時間・場所による流行規模の違いなどがワクチンの有効性に大きく影響するためと考えられています。わが国では厚労省研究班により、2013/14シーズン以降、症例登録時に生じうるバイアスをできる限り排除したTest-negative design(症例対照研究)を用いて、6歳未満児を対象としたインフルエンザワクチンの有効性を継続的にモニタリングしています6)。そして、これまでの報告では、ワクチン接種による一定の予防効果が示されています(図3)。
 ワクチンの有効性に関しては信頼できるエビデンスに基づいた情報発信が求められ、こうした精緻な研究デザインによるモニタリングを今後も継続することが望まれます。

インフルエンザ対策と今後の課題

 インフルエンザワクチンは現在のところ最も有用な予防手段であり、重症化しやすい小児や高齢者、基礎疾患のある方、また、その周囲の方々、医療関係者にはできる限り接種していただくことを勧めます。またワクチンの有効性をさらに高めるため、投与経路を変更したワクチンや免疫原性を高めたワクチンなど新しいワクチンの開発にも期待したいと思います。
 さらに、近年は海外渡航者の増加にともない、日本とは季節が逆の南半球や、通年性の流行がみられる国・地域へ渡航される方へのインフルエンザワクチンの需要が高まってきています。グローバルな視点でのワクチン株選定も今後の課題と考えます。

  • 参考文献
  • 1)国立感染症研究所. IDWR.2018年第10号(3月5日〜3月11日). 2018年3月26日発行
  • 2)厚生労働省.「インフルエンザの発生状況について(2018年4月13日現在報告数)」
  • 3)国立感染症研究所. 「インフルエンザウイルス分離・検出速報2017/18シーズン(2018年4月13日現在報告数)」
  • 4)国立感染症研究所. IASR. 2017; 38(11): 225-226.
  • 5)Kilbourne ED, et al. In: Plotkin SA, et al. editors. Vaccines, 3rd ed. W.B. Saunders; 1999. pp531-551.
  • 6)福島若葉ほか(研究代表者: 廣田良夫): 厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業分担研究報告書「小児におけるインフルエンザワクチンの有効性モニタリング: 2016/17 シーズン」(平成30年3月)

Vaccine Topic ロタウイルス胃腸炎の疾病負担と接種推奨意義を改めて考える 藤田保健衛生大学医学部小児科学主任教授吉川哲史先生

1 下痢、嘔吐ではすまされないロタウイルス胃腸炎の疾病負担

 ロタウイルス胃腸炎の主な臨床症状は下痢、嘔吐、発熱、腹痛であり、通常は1週間程度で回復しますが、乳幼児にとっては大きな負担であり、下痢・嘔吐に伴う重度の脱水症により入院加療が必要になる場合もあります1)
 ロタウイルス感染症は、胃腸炎以外にも、熱性けいれん、胃腸炎関連けいれん、脳炎・脳症など中枢神経合併症、突然死、消化管出血、尿路結石といったさまざまな合併症を引き起こすことが知られています2)。わが国の調査では、小児科での急性脳症は年間400〜700人(推定)と報告され、原因病原体は、インフルエンザウイルス(27%)、ヒトヘルペスウイルス-6(17%)、ロタウイルス(4%)の順の頻度で認められています3)。また、ロタウイルス脳症は38%に後遺症を残し予後不良であることが知られており、注意が必要です4)。医療インフラの整備されたわが国では、ロタウイルス感染症関連の死亡数は少ないものの、健康な小児であってもまれに脳炎・脳症を発症し、致死的な経過をたどる場合があるため見過ごすことはできません。

2 名古屋市におけるロタウイルスワクチン公費助成のインパクト

 わが国では、2011年にロタウイルスワクチンが任意接種で使用可能となり、年々公費による接種費用助成制度を導入する自治体が少しずつ増えてきています。名古屋市では2012年10月よりロタウイルスワクチンの接種費用助成制度が導入され、40%程度であった接種率が、2015年には約84〜92%まで上昇しました5)
 我々は、高い接種率が得られている名古屋市内で、ワクチン導入による乳幼児ロタウイルス胃腸炎の入院および外来受診者数への影響を推定することを目的に後方視的な観察研究を実施しました。名古屋市南区および天白区居住の5歳未満児で、急性胃腸炎により対象地域内および隣接地域にある4病院に入院した延べ12,748例と、そのうち2病院の外来を受診した延べ84,905例を対象とし、ロタウイルス胃腸炎の入院者数、および外来受診者数を抽出しました。調査期間はロタウイルスワクチン導入前の4年間、導入後の1年間の移行期、接種費用助成制度導入後の4年間に分けて検討しました5)
 ロタウイルス胃腸炎の入院者数は接種費用助成制度導入後大幅な減少がみられるとともに、すべての急性胃腸炎による入院も減少しました(図1)。さらに、2地区におけるロタウイルス胃腸炎の入院率(/1,000人年)は、ワクチン導入前と比べ、接種費用助成制度導入後には1歳未満児で72.2%、5歳未満児で34.7%の減少が認められました(図2)。また、全外来受診に占めるロタウイルス胃腸炎の受診率についても、ワクチン導入前と比べ、接種費用助成制度導入後、1歳未満児で87.4%、5歳未満児で57.1%の有意な減少が示されました(図35)
 以上のように、名古屋市の調査では、接種費用助成制度導入後に、ワクチン接種対象である1歳未満児を中心にロタウイルス胃腸炎による入院者数および外来受診率の減少が認められ、同時にワクチン未接種の年長児でも減少が認められました。この結果は、ロタウイルス胃腸炎の流行が抑えられることによる間接的な効果であることが考えられます。

3 愛知県下のロタウイルス感染に伴う重篤な合併症の変化

 海外ではロタウイルスワクチン導入後、5歳未満児のけいれんによる入院率の減少が報告されており6)、ロタウイルス感染症関連の合併症減少の影響が示唆されています。愛知県では、県下59病院に対して、2008〜2015年のロタウイルス感染に伴う重症合併症の発生状況の郵送調査を実施しました2)。ロタウイルス感染症関連の脳炎・脳症は、ロタウイルスワクチン接種費用助成制度導入2年目以降の2013/14、2014/15シーズンはそれぞれ2例、3例と、減少傾向がみられました。またワクチン導入前は毎年1〜2例報告されていた突然死が2013/14シーズンから0例となっています(2)。これらの合併症の症例数は少なく、愛知県の疫学データだけでは結論付けられませんが、ロタウイルスワクチンの導入と高い接種率が重篤な合併症例の減少に影響していると考えられます。

4 ロタウイルスワクチン導入によるインパクトと今後求められること

 今回の名古屋市からの報告で、ロタウイルス感染症による死亡率が低いわが国でも、ワクチン接種率向上により、ロタウイルス感染症関連の疾病負担が軽減される可能性が示唆されました。今後も、ロタウイルス感染症の発生動向やウイルス株の変化を注視することは重要であり、引き続き調査を行っていく予定です。WHOは、ワクチン接種によるベネフィットは腸重積症のリスクを大きく上回っていると判断しており、全世界で、「国が推奨する予防接種プログラム」に組み入れるべきであると勧告しています7)。ワクチン接種後の副反応には適切な注意喚起を行いながら、全国的に高い接種率を目指すことがロタウイルスの流行を抑え、重度の胃腸炎のみならず重篤な合併症の脅威から、より多くの乳幼児を守ることにつながると考えられます。

  • 参考文献
  • 1)国立感染症研究所. ロタウイルス感染性胃腸炎とは. 2013年5月15日
  • 2)Hattori F, et al. Pediatr Int. 2018; 60(3): 259-263
  • 3)水口雅ほか. 厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)急性脳症の全国実態調査. 重症・難治性急性脳症の病因解明と診療確立に向けた研究: 平成22年度総括・分担研究報告書
  • 4)森島恒雄. ウイルス. 2009; 59(1): 59-66.
  • 5)Yoshikawa T, et al. Vaccine. 2018; 36(4): 527-534.
  • 6)Pardo-Seco J, et al. Pediatr Infect Dis J. 2015; 34(7): 769-773.
  • 7)WHO. Statement on risks and benefits of rotavirus vaccines Rotarix and RotaTeq 2015.
    http://www.who.int/vaccine_safety/committee/topics/rotavirus/rotarix_and_rotateq/statement_May_2015/en/

日常診療Q&A 周術期の感染症対策とワクチン接種 国立がん研究センター中央病院 感染症部長慶應義塾大学医学部 客員教授岩田 敏先生

Q 手術をひかえた小児の感染症対策はなぜ重要なのでしょうか。

A:手術をひかえた患者が術前に感染症を発症していると判明した場合、手術を延期あるいは中止せざるを得ないことがあります。小児は感染症の発症頻度が高いため、手術時の感染リスクを下げるためにも、事情が許す限り接種可能なワクチンは早期に接種を完了させておくべきだと考えます。
わが国で小児に対して行われる手術の多くは、入院を必要とする予定手術です。特に感染力が強く重症化リスクのある麻疹、風疹、水痘、おたふくかぜ、ロタウイルス胃腸炎などは、入院中に感染してしまうことがないように、また、他者に感染させることのないように、ワクチン接種での予防が推奨されます。さらに、インフルエンザなどは、地域・時期による感染症の流行状況なども考慮して、ワクチン接種の勧奨を行う必要があります。 感染症罹患後の手術は、全身状態や免疫能が十分回復し、病原体が体外に排出されなくなるまで待つことが望ましいとされ、手術の侵襲度や緊急性にもよりますが、全身麻酔が必要な手術は感染症の症状消失から3〜4週間程度空けて行う場合が多いようです1)。感染症の回復期に入院した場合は術前診断で病期や排菌状況を判断することが難しいため、注意深く周術期管理を行います。
また手術予定者が、術前に感染力の強い麻疹や水痘の罹患者と接触したことが明らかな場合、潜伏期間である可能性も念頭におき、可能な限り手術を延期することを推奨します。

Q ワクチンの公費助成は地域にどのような役割を果たしますか。

A:手術や麻酔による免疫への影響や、ワクチンの免疫応答への影響については明確なエビデンスがなく、術前・術後のワクチン接種の中止期間に関するガイドライン等がないため、手術や麻酔がワクチン接種の禁忌事項とはならないのが現状です。
以前は、手術の侵襲による免疫能の低下、麻酔薬による骨髄抑制・好中球の機能低下などが一時的に生じることが示唆2)されることから、ワクチン接種による抗体産生が抑制される可能性を考慮し、ワクチン接種後の手術は、不活化ワクチン接種後2週間程度、生ワクチン接種後4週間程度経ってから実施することが推奨されていました3)。しかし、Siebertらは2007年に、麻酔や手術が免疫に与える影響は軽微かつ一過性であり、直近のワクチン接種を理由に予定手術を延期するメリットは少ないとした上で(表12)、ワクチン接種と手術や麻酔の間隔が短いと、副反応と術後合併症の症状の見極めが難しいことから、不活化ワクチンならば2日間、生ワクチンは21日間経ってから手術を実施することを提唱しており2)、現在はこの基準が多くの施設で採用されているようです(表2)。
予防接種ガイドラインでは、「抜歯、扁摘手術、ヘルニア手術等、緊急性のない場合には、予防接種後1か月間は、紛れ込み事故を考慮に入れ、原則として避けることが望ましい。しかし、緊急性の高い手術、周囲に流行する病気の状況によっては必ずしもこの限りではない。」と記載されています4)。緊急手術の患者さんがワクチン接種直後であった場合、ワクチンの副反応を念頭に置いた上で、術後の経過を慎重に観察する必要があるでしょう。
術後のワクチン接種再開までの期間については、手術による免疫抑制からの回復までの時間や麻酔の影響が持続する時間は48時間といわれており2)、術後1週間以上経過すればワクチン接種を実施してもよいでしょう(表23)。なお、輸血またはガンマグロブリン製剤を投与した場合は、BCGとロタウイルスワクチンを除く生ワクチンの効果を減衰させる可能性があるため、注意が必要です4)。術後の中止期間については、接種を受ける小児の体調を優先して考慮すべきですが、感染症の罹患リスクを考えると、ワクチン接種再開をむやみに延期することはあまり望ましくありません。

術前・術後のワクチン接種は、接種不適当者や接種要注意者に該当しないかなどの注意をすることは必要ですが、将来の感染症予防を考え、必要とされるすべてのワクチン接種を可能な限り早期に完了させることが最も重要だと考えます。

Q 手術後のワクチン接種再開時に注意すべきことを教えてください。

A:術後のワクチン接種は、手術の侵襲度と回復状況から判断し、推奨されているワクチン接種スケジュールに則って未接種のものから再開していきます。心臓の手術など複数回にわたって手術を受ける場合などは、次回手術予定を考慮して、ワクチンを接種してください。また、脾臓を摘出した場合は、肺炎球菌やヒブなどの莢膜を有する細菌への感染リスクが増大することが知られており、ワクチンの再接種が推奨されています。ファロー四徴症などの心疾患の場合、治療されていても、ワクチン接種時に大泣きすることで運動負荷がかかり、チアノーゼ発作が誘発される危険性もあるため注意が必要です。
わが国では、生後2〜5か月の間や1歳時などはワクチン接種スケジュールの過密期間にあたるため、この時期に予定手術が入るとスケジュールの調整は複雑になります。頻回の来院が必要になることで身体的負担や感染症にさらされるリスクが上がることを考慮すると、同時接種によって可能なときにワクチン接種を完了することを推奨します。その際、保護者に対しては、ワクチンの同時接種の効果や副反応リスクは複数回の単独接種時と同等であり、また手術歴の有無は影響しないことを説明するとよいでしょう。
周術期管理は手術の種類や侵襲度によって大きく異なり、術前・術後のワクチン接種の適切な実施時期は必ずしもすべての小児に対して一般化することはできません。保護者と医療関係者の間でよく相談の上、個々の状況に即したスケジュールを立てていくことが大切です。

ファロー四徴症:①心室中隔欠損 ②大動脈騎乗 ③肺動脈狭窄 ④右室肥大を認める先天性心疾患

  • 参考文献
  • 1)稲垣喜三. 日臨麻会誌. 2017; 37(5): 674-680.
  • 2)Siebert JN, et al. Paediatr Anaesth. 2007; 17(5): 410-420.
  • 3)Short JA, et al. Paediatr Anaesth. 2006; 16(5): 514-522.
  • 4)予防接種ガイドライン等検討委員会. 予防接種ガイドライン2018年度版, 予防接種リサーチセンター, 2018.

ワクチン行政Watching 3次感染者発生に至ることなく終息した金沢市「輸入麻疹」への対応 金沢市保健局 担当局長 越田理恵先生

-金沢市における輸入麻疹発生の概要について教えてください。2017年4月にインドから帰国した30代男性(ワクチン接種歴不明)が、麻疹罹患に気づかず出席した小学校の入学式や同日に立ち寄った店舗で、2次感染者が発生しました。

 初発患者はインドからの帰国日に発熱で救急外来他を受診しましたが麻疹の診断に至らず、翌日小学校の入学式参列後、写真店で記念撮影を行いました。その翌日、発疹・高熱により入院し、PCR検査陽性となり麻疹と確定診断されました。入学式から15日目に1例、17日目に2例の計3例が麻疹と診断されましたが、これら2次感染者は比較的症状が軽症であり、修飾麻疹であったと考えられます(1, 2)

-輸入麻疹に対して、どのような対策を実施されましたか。情報入手した市保健所は、医師会、医療機関並びに教育機関と情報共有・対策会議を行い、速やかに初発患者の疫学調査、感染リスク者への注意喚起、医療機関への受診調整、緊急研修会を行いました。

 まず、初発患者が利用した交通機関、受診医療機関、立ち寄った場所(学校・店など)を洗い出しました。その情報をもとに、当該小学校児童・教職員や店の従業員、受診した医療機関の職員・同時刻受診者への注意喚起、ワクチン接種歴確認等を行いました。次に、未接種者(不明者含む)には接種勧奨を行い、石川県には緊急対策用ワクチンの確保、石川県医師会には後方支援として診察や検体の採取を行うための病院の指定を依頼しました。疫学調査から得られた小学校名などの情報は、感染拡大阻止の点から開示が望まれましたが、その判断が難しく対応に苦慮しました。
 市民へはホームページで感染状況などの情報を提供するとともに、保健所は土日祝日も相談窓口を開設し、麻疹が疑われる方には、受診医療機関についての調整を行いました(4月10日〜5月23日の相談件数は232件2))。
 医療関係者には、石川県麻しん迅速対応事業として、保健所(保健福祉センター)が「県医師会麻しん情報システム」に検査状況等を登録することによって、随時情報を共有しました。
 2次感染者発生後は、国立感染症研究所に協力いただき、経過検証と対策について、医療関係者や行政職員を対象とした研修会を実施しました。

-3次感染者発生を阻止できたポイントと今後の課題について教えてください。地域全体での「平時の備え」と「共通認識を持った初動体制」が重要です。引き続きMRワクチン2回の接種率を上げ、集団免疫を高めることが課題です。

 麻疹は検疫感染症ではなく、潜伏期間も長いため、感染者が居住地域に帰宅した後、自治体での適切な対応が求められます。今回、3次感染者発生を阻止できたポイントは、①院内感染対策の徹底により医療機関内で2次感染者がなかったこと、②初動時から関係各所の情報共有・連携が取れたこと、③金沢市の麻しん含有ワクチンの接種率が高く、当該小学校の全児童中、2回接種者は95.9%、未接種者は4名だけだったことなどが挙げられます1, 2)。石川県では平成14年より石川はしかゼロ作戦委員会を立ち上げ、医療機関用、教育・保育施設用の「麻しん対応マニュアル」を配布し、麻疹対策の徹底を図っています3)。日本はWHOより麻疹排除状態であると認定されましたが、輸入麻疹による地域流行が続いています。だからこそ、「平時の備え」と「共通認識を持った初動体制」が重要であると考えます。
 本事例では、大人(特に30代、40代)のワクチン接種歴・罹患歴が曖昧だったことが浮き彫りになりました。実際、2次感染者は児童ではありませんでした。また妊婦や治療・疾患のために免疫不全状態にある方への適切な対応が重要であると感じました。金沢市では、「平時の備え」として、旅行会社や企業などに対して、予防接種勧奨ポスターやパンフレットを配布するとともに、2018年度より成人のMRワクチン接種の公費助成を導入しました。ワクチン接種による感染症予防は、自己防衛だけでなく、社会全体への「思いやり」だと思います。

  • 参考文献
  • 1)折坂聡美ほか. IASR 2018; 39(4): 55-57.
  • 2)越田理恵. 臨床とウイルス 2018; 46(1): 18-23.
  • 3)石川県小児科医会「石川はしかゼロ作戦委員会」編集, 石川県医師会発行, 麻しん対応マニュアル. 2011.03改訂版

スペシャリストPick Up ムンプス髄膜炎の発症機序とその頻度 国立感染症研究所ウイルス第三部第三室 室長木所 稔先生

脳組織でムンプスウイルスが増えることで起こる無菌性髄膜炎(ムンプス髄膜炎)

 ムンプスウイルスは中枢神経への指向性が高く、感染者の62%に髄液中の細胞数増多が認められたという報告もあります1)。そのすべてが髄膜炎を発症するわけではありませんが、ムンプス髄膜炎の発生頻度は1〜10%と、難聴など他の合併症に比べてはるかに高いことが知られています2)。髄膜炎の主な症状は発熱、頭痛、嘔吐で、多くは耳下腺腫脹後1週間以内に発症します。しかし腫脹発現の1週間前から3週間後まで発症する可能性があり、唾液腺腫脹を伴わない例もあります。男性の方が発症しやすく2)、小児では年齢と共に発症率が増加する傾向があります3)。発症した場合には、その多くが入院加療を要し、ムンプス患者の入院理由の第1位が髄膜炎です4)。しかし、予後は良好でほとんどが後遺症なく治癒します。一方、第二次性徴期以降は、精巣炎や卵巣炎などの合併症リスクが高く、成人患者における入院理由の第1位は精巣炎です4)
 ムンプス髄膜炎は、鼻から侵入したウイルスが上気道付近の所属リンパ節で増殖し、1週間前後でウイルス血症を起こした後、中枢神経系に侵入、増殖し、3〜4週間後に発症すると考えられます(5)。霊長類のモデル動物であるマーモセットを用いた我々の実験では、病原性の低いワクチン株でも脳室内面に存在する脈絡叢に弱いながらウイルス抗原が検出される場合があります。それが病原性の高い野生株では、脈絡叢の病変がより強くなるのと併せて、脳の実質にまでウイルス抗原が広がっている様子が認められました6, 7)。こうした結果から、ムンプスウイルスの中枢神経系における最初の標的組織は脈絡叢であると推察できます。また、脳内のウイルス量がピークになるのは感染後2週ほどで、組織の炎症が進行するにつれてウイルスは排除され、急激に減少していきます。髄膜炎患者の髄液からウイルスが検出されない場合がありますが、それはこうした現象が背景にあるためです。つまり、ムンプス髄膜炎ではムンプスウイルスの脳での増殖が直接の引き金となっていると考えられます。
 かつてはウイルスの遺伝子型と病原性に関連があると考えられていました。しかし、同じ遺伝子型の中に病原性の異なるウイルスが存在することが判明し8)、病原性は遺伝子型によるのではなく、ウイルス株固有の特性であることがわかってきました。
 ムンプス髄膜炎の発症機序やウイルス株の病原性の違いを解明することで、抗ウイルス薬の開発やワクチンの改良に繋がると考えます。

自然罹患時とワクチン接種後のムンプス髄膜炎の発生頻度の違い

 ムンプス自然罹患時の髄膜炎発生頻度は1〜10%と、ワクチン接種後にみられる髄膜炎発生頻度0.1〜0.01%に比べて10〜1000倍高く2)、難聴など後遺症の残る合併症もあるので、接種しないことによる合併症発症リスクの方が高いことを認識する必要があります。ムンプスの治療薬は無く、ワクチン接種による予防が非常に重要です。
 わが国では、ムンプスワクチンは任意接種であるため接種率が30〜40%と低迷し9)、ムンプスの流行が抑制できていません。また、ワクチン接種後の抗体価の低下によるムンプス罹患例も存在します10)。ムンプス罹患を減らすにはワクチンの接種率を90%以上まで高めるとともに、海外のように2回接種の定期接種化を検討する必要があるでしょう。

Q ムンプス髄膜炎とインフルエンザ脳症の発症機序は同じですか?

インフルエンザ脳症の場合、中枢神経内にウイルスは検出されず、ウイルス感染によって誘導された血中サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-αなど)の異常上昇によってもたらされた炎症だと考えられています。一方、ムンプス髄膜炎は、ウイルスの中枢神経内への侵入が直接的な原因で炎症が起こる点で大きく異なります。

Q 1歳時におたふくかぜワクチンの接種を受けなかった児への対応は?

合併症は年齢が上がるほど発生頻度が上昇するとともに、重症化しやすいので、1歳になったら早めにワクチンを接種することが推奨されています。
1歳で接種していなかった場合でも、自然感染による合併症リスクの方が明らかに高いので、気づいたタイミングでできるだけ早く接種します。特に保育所や幼稚園などの集団生活に入る前には、必ず接種することをおすすめします。1歳で接種された場合でも、年長時には約半数のお子さんで抗体が陰性化しているという報告もありますので11)、小学校入学前の2回目接種も推奨されます。

  • 参考文献
  • 1)Bang HO, et al. Bull Hyg. 1944; 19: 503-504.
  • 2)国立感染症研究所. 「おたふくかぜワクチンに関するファクトシート」(平成22年7月7日版).
  • 3)庵原俊昭ほか. 臨床とウイルス. 2014; 42(4): 174-182.
  • 4)多屋馨子ほか. 水痘・帯状疱疹, ムンプスに関する臨床疫学的研究 厚生労働省科学研究補助金 新興・再興感染症研究事業平成15年度〜17 年度総合研究報告書. 2006; 80-88.
  • 5)木所稔. 臨床とウイルス. 2017; 45(5): 318-325.
  • 6)Saika S, et al. J Med Virol. 2002; 66(1): 115-122.
  • 7)Saika S, et al. Biologicals. 2004; 32(3): 147-152.
  • 8)Kidokoro M, et al. J Clin Microbiol. 2011; 49(5): 1917-1925.
  • 9)国立感染症研究所. IASR. 2016; 37(10): 185-188.
  • 10)Fu C, et al. Clin Vaccine Immunol. 2008; 15(9): 1425-1428.
  • 11)庵原俊昭ほか. 日本小児科学会雑誌. 2016; 120(2): 233.

特別記事 ワクチン接種の痛みを軽減する重要性とその方法 岡田唯男先生

日本プライマリ・ケア連合学会でワクチンプロジェクトチーム担当理事をされている岡田唯男先生に、ワクチン接種時の痛みを軽減する重要性と、その方法に関する海外エビデンスをまとめて保護者向けの資料を作成された経緯や、実際の方法についてお話を伺いました。

ワクチン接種時の痛みを軽減することの重要性

 ワクチン接種はワクチンで防げる病気(VPD)の予防に有効ですが、接種時の痛みを避けて通ることはできません。小児は、この痛みとワクチン接種のメリットを結び付けることができず、接種時の痛みから恐怖を強く感じると、次回のワクチン接種や病院の受診を恐れることに繋がるので好ましくありません。
 新生児は痛みを感じにくいといわれることもありますが、表情や心拍数から痛みを推定する方法を使って調べると、新生児も痛みを感じていることが明らかになっています1)。年齢にかかわらず、接種時の痛みをできる限り軽減することで、被接種者が接種による痛みで恐怖を感じる機会を減らすことが可能になります。
 ワクチン接種を受けに来る際、保護者が事前に「今日はワクチンを受ける日」ということを子どもに伝えずに来院することが多く、比較的年長の小児の場合、このような体験をすると、病院や保護者への不信感を抱き、接種や受診をますます嫌がるようになることが想定されます。このような現状をふまえ、小児が少しでも不安を感じずにワクチン接種を受けられるように、ワクチン接種前に知っておいてほしいことをまとめた保護者向けの心得を作成しました。この心得を各施設で活用していただきたいと思います。

エビデンスに裏づけられた接種時の痛みを軽減する方法

 海外ではワクチン接種時に痛みを軽減することの重要性についてさまざまなエビデンスが紹介されており、WHOではワクチン接種時に適用可能な方法をまとめ、接種時の痛みの軽減に関する提言が出されました2)。わが国では、これらのエビデンスがあまり知られていないため、接種時に痛みを軽減する方法については医師の経験則に頼っており、見解が分かれることや、経験の浅い医師がどのように実践してよいか判断できないことがあります。そこで、CMAJのシステマティックレビュー3)やガイドライン4)などから接種時の痛みを軽減する方法を広く知ってもらう必要性があると思います()。

  • Canadian Medical Association Journal(カナダ内科学会雑誌)

痛みの少ないワクチン接種でVPDから子どもを守る

 ワクチン接種を受ける子どもの保護者に対して、「小児の予防接種を受けるにあたっての心得」を事前に伝えていただき、接種時に協力いただくことで、接種を受ける子どもとその保護者の不安を少しでも取り除ける一助になればと思います。また、エビデンスに裏づけられたワクチン接種時の痛みを軽減させる取り組みが広がり、医療機関内での統一した方法が検討されることで痛みの少ないワクチン接種でVPDから子どもを守ることを期待します。

  • 参考文献
  • 1)小澤未緒ほか. 日本新生児看護学会誌. 2010; 16 (1): 28-33.
  • 2)WHO. WER. 2015; 90(39): 505–516.
  • 3)Taddio A, et al. CMAJ. 2010; 182 (18): E843-E855.
  • 4)Taddio A, et al. CMAJ. 2015; 187 (13): 975-982.