Vaccine Digest 第16号(2018年3月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う

    麻疹、風疹の流行状況と今後の課題

    国立感染症研究所 感染症疫学センター 第三室 室長 
    多屋馨子先生

  • Vaccine Topic

    わが国のロタウイルスワクチンの有効性評価

    佐賀大学医学部 社会医学講座 予防医学分野 准教授 
    原 めぐみ先生

  • 日常診療 Q&A

    集団生活を送る乳幼児・小児の感染症対策Q&A

    中津市立中津市民病院 副院長 是松聖悟先生

  • ワクチン行政 Watching

    百日咳が全数把握疾患となった背景と今後の方針

    福岡看護大学 基礎・基礎看護部門 基礎・専門基礎分野 教授
    福岡歯科大学医科歯科総合病院 予防接種センター センター長
    岡田賢司先生

  • スペシャリスト Pick Up

    麻しん生ワクチンAIK-C株 開発の歴史

    北里大学 北里生命科学研究所 特任教授 中山哲夫先生

  • 特別記事1

    日本耳鼻咽喉科学会によるムンプス難聴の大規模全国調査

    国立成育医療研究センター 感覚器・形態外科部 耳鼻咽喉科 医長 守本倫子先生

  • 特別記事2

    予防接種を受ける子どもおよび保護者への対応
    −プレパレーションとディストラクション−

    筑波大学 医学医療系 保健医療学域 小児保健看護学 准教授 涌水理恵先生

感染症の流行を追う 麻疹、風疹の流行状況と今後の課題 国立感染症研究所 感染症疫学センター 第三室 室長 多屋馨子先生

麻疹排除認定後の輸入例による流行と発生時の対応

 わが国は、2015年3月に麻疹排除状態にあることがWHO西太平洋地域麻疹排除認証委員会により認定されました。麻疹排除状態とは、「質の高いサーベイランス体制が存在するある特定の地域、国等において、土着性、あるいは輸入された麻疹ウイルスによる持続伝播が12か月以上存在しない状態」を指します1)
 しかし排除認定後も、海外から持ち込まれたウイルスが伝播した事例は散見されています。2016年8月に関西国際空港内事業所で集団感染が発生したほか2)、2017年には三重県の工場3)や山形県の自動車教習所で4)、それぞれ数10人規模の集団感染が報告されました。これらの事例では、いずれも1例目が診断された段階で積極的疫学調査を実施し、感染源の特定と接触があった方々に感染拡大予防策を講じた上で、麻疹を疑う症状を認めた人には迅速な検査診断(PCR法によるウイルス遺伝子検査等)を行うことで、早期診断、出勤停止等の対策が講じられました。地域の医療機関、保健所、地方衛生研究所による迅速な対応と情報共有により、各事例の詳細な発生状況や感染終息をWHOに報告できており、現在の麻疹排除状態の維持につながっています(表1)。

麻疹排除状態維持のために取り組むべき課題

 今後も、麻疹排除状態を維持するためには、まずは麻疹の免疫を持たない人を少なくすることが重要です。そのためには高い抗体保有率を維持できるように、定期接種の1期、2期ともに95%以上の接種率を確保することが望まれます。2期のワクチン接種率はまだ十分とは言えないため5)、就学児健診の際に小児の予防接種歴を確認し、2回受けていない場合には就学前の3月31日までは定期接種として全額公費負担で受けられることを保護者に通知していくことが大切です。
 また、アジア・アフリカ諸国に加えて、欧州の一部の国では、依然として麻疹が流行しており、わが国でも、海外からの輸入例による感染拡大が懸念されます。海外への渡航者には、渡航先の国・地域の感染症流行状況を調べた上で、麻疹流行国に渡航する場合は事前にMRワクチンの接種が推奨されます。
 国内で麻疹が発生した場合は、初発例の診断時点で接触のあった人や同じ空間を共有した人を特定し、2次感染、3次感染を防ぐ取り組みが重要となります。早期探知のためにも、危機意識を高くもち、麻疹が疑われる患者さんには1か月以内の渡航歴や、1歳以上で2回の予防接種歴を記録で確認する必要があります。ウイルス曝露後72時間以内であれば、緊急ワクチン接種により発病を予防できる可能性があるため、すぐにMRワクチンの接種を勧めてください。また、ウイルス曝露後72時間を過ぎていても、感染を免れている可能性がありますので、諦めずにMRワクチンを受けるという方法があります。ただし、間に合わずに発症してしまうことは丁寧に説明しておく必要があります。もし感染を免れていた場合は、ワクチンを受けておくことで3次感染予防になります。妊娠中の女性、免疫抑制剤使用中の場合などは接種不適当者であること、女性は接種後2か月間は妊娠を避ける必要があることなどの情報共有を徹底することも大切です。

風疹の流行状況と2020年度の排除達成に向けて

  風疹は、2012〜2013年にかけて、16,000人以上の患者が発生した大規模な流行がありました(表1)。この流行を受け、2014年に告示された「風しんに関する特定感染症予防指針」では、早期に先天性風疹症候群(CRS)の発生をなくすとともに、2020年度までに風疹排除を達成することが目標として掲げられました6)。わが国の風疹排除の定義は、「適切なサーベイランス制度の下、土着株による感染が一年以上確認されないこと」となっています。
 麻疹排除状態維持および風疹排除達成のためのさらなる対策の実施に向けて、「麻しん・風しんに関する小委員会」が設置され、2018年にそれぞれの特定感染症予防指針を改正することが合意されています。風疹は2014年以降、患者数が減少したことから、「風しんに関する特定感染症予防指針」が改正され、2018年1月1日から施行となりました6)。主な改正点は、(1)患者が1例でも発生したら感染経路の把握等の積極的疫学調査を実施する、(2)風疹診断後、医師は直ちに届出を行う、(3)原則として、全例でウイルス遺伝子検査を実施する、となっています(表2)。
 風疹ウイルスには、血清型は一つしか存在しませんが、排除を証明するためには、ウイルスの塩基配列を決定し、土着とされる遺伝子型の風疹ウイルスが国内で12か月以上伝播していないことを示す必要があります。このため、PCR検査を用いたウイルス遺伝子の検出と、塩基配列の決定による遺伝子型の決定が必要となりました。一方、風疹は不顕性感染が15〜30%程度でみられることから7)、感染経路の追跡が困難となる場合があることに注意が必要です。

  • CRS: congenital rubella syndrome

風疹感受性者を減らすための取り組み

 風疹流行のもうひとつの重大な問題はCRSの発生です。2012〜2013年の風疹流行の影響で、45人の児がCRSと診断されました。妊娠20週頃まで(特に妊娠初期)の妊婦が風疹ウイルスに感染した場合、胎児にも感染し、出生児がCRSと診断されることがあります。
 わが国では、30代後半~50代の男性(2016年7-9月現在)の約20%は風疹ウイルスに対する免疫を持っていません(風疹感受性者といいます)(図15)。2012〜2013年の流行時、風疹患者の90%が成人で、男性は女性の約3倍認められ1)、男性の感受性者の罹患が妊婦への感染源となり、CRS発生のリスクになりました。
 風疹排除を目指すためには、「患者が一人でも発生したら迅速な対応」のみならず「感受性者を減らし感染予防を強化する対策」が不可欠です。2013年の流行直後には、30代〜50代の男性を中心とする風疹感受性者を対象とした職場でのワクチン接種や、妊娠を希望する女性を対象としたワクチン接種が勧奨され、さまざまな公費助成が行われました。しかし、流行が収束すると注目度が低下してしまい、公費助成を利用したワクチン接種があまり進んでいないのが実情です。流行していないときにこそ予防が重要であり、国立感染症研究所では、関連ガイドラインの整備を進めるとともに、ポスターやリーフレットなどで感受性者に向けた啓発活動を強化しています(図2)。
 このまま感受性者が減らず、2020年の東京オリンピック・パラリンピック時に、風疹が国内で流行するという事態は避けなくてはなりません。感受性者は本人の感染リスクが高いだけでなく、周囲の妊婦や妊娠希望女性への感染源になりえることを広く周知し、「風疹排除」を達成できるように取り組んでいきたいと考えます。

  • 参考文献
  • 1)多屋馨子. 内科. 2015; 116(5), 865-872.
  • 2)国立感染症研究所. IASR. 2017; 38(3): 48-49.
  • 3)三重県 報道発表資料 2017年2月9日.
  • 4)山形県 報道発表資料 2017年3月9日.
  • 5)国立感染症研究所. 2016年度感染症流行予測調査.
  • 6)厚生労働省 風しんに関する特定感染症予防指針(2014年3月28日告示・2017年12月21日一部改正・2018年1月1日適用)
  • 7)国立感染症研究所. 風疹Q&A(2018年1月30日改訂版).

Vaccine Topic わが国のロタウイルスワクチンの有効性評価 佐賀大学医学部社会医学講座予防医学分野 准教授原 めぐみ先生

1 ワクチンの有効性評価に関する疫学調査の種類

 ワクチンの有効性を評価するための疫学研究方法は大きく分けて2つあります。疾病と因果関係があると考えられる要因に積極的に介入する介入研究と、対象とする集団に対して研究者が介入せずに疾病に関するデータを収集・観察する観察研究です。
 観察研究は、疾病の発生頻度と分布を観察する記述疫学と、疾病の発生と関連要因を分析する分析疫学に分類され、ワクチンの分析疫学では、コホート研究、症例対照研究、Case population study、横断研究が用いられます(表11, 2)。分析疫学では、最初にサンプルサイズを決定し、研究デザインを組み立てることが重要です。
 コホート研究は、対象集団のワクチンの接種状況を調べて、接種群と非接種群の両方を追跡し、疾病の発症率を比較します。このとき両群を等しい頻度でもれなく把握するためには、多大な労力とコストを要します。例えばロタウイルスワクチンの有効性を評価する場合は、対象集団の全員に毎週連絡をとり、症状が出たら便サンプルを回収し、検査を行う必要があります。
 一方、症例対照研究は、疾病を発症している人を「症例」、していない人を「対照」として後ろ向きに接種状況を調べます。しかし、接種行動と受診行動が関連しているとワクチンの有効性の検出にバイアスがかかります。このバイアスを制御する手法としてTest-negative designによる症例対照研究があります。この研究デザインでは、検査を実施した時点で患者を組み入れ、陽性例を「症例」、陰性例を「対照」として接種歴を調べます。同時期・同医療機関の受診患者全員に検査を実施するため、病原体曝露の程度・受診行動・医療関係者による検査実施判断の3つのバイアスが制御できる点が長所です。
 Case population studyは、「症例」のワクチン接種率と、その「症例」が属する「集団」のワクチン接種率を比較します。この手法は導入後のワクチンの有効性のスクリーニングやモニタリングとして使用可能ですが、集団や接種者の特徴などのバイアスを全く考慮していないため、ワクチンの有効性の評価としては不十分です。
 横断研究は、疾病とワクチン接種の状況を同時に調べます。研究期間が短く経済的ですが、疾病とワクチン接種の両方を後ろ向きに調査するため、両者の時間的前後関係が不明な場合もあり、因果関係の判断が困難です。

2 ワクチンの疫学調査で考慮すべき交絡因子

 ワクチンの有効性を評価する際に、接種の有無(原因)と疾病発症の有無(結果)の因果関係に影響を及ぼすと考えられる第三の要因を交絡因子といいます。任意接種のロタウイルスワクチンの場合、健康意識の高さや経済的余裕等が交絡因子になります。ワクチンを接種した人の中に、発症後すぐに受診する人が多いとワクチンの有効性は低く評価されます。一方、ワクチン未接種の人の中に、医療費助成があるなどの理由で発症後すぐに受診する人が多いと、ワクチンの有効性は高く評価されます。また発熱している人や重篤な疾患にかかっている人などはワクチン接種ができないうえに、病原体曝露時に発症しやすいため、ワクチンの有効性は高く評価されます。ワクチンの有効性を正しく評価するためには、交絡因子を把握し、統計解析の段階で調整することが重要です。

3 ロタウイルスワクチンの有効性評価

 ロタウイルスワクチンは臨床試験で重症ロタウイルス胃腸炎に対して高いEfficacy*6が報告されていますが3)、一般集団下でのEffectivenes*7を評価することがワクチン導入後の実際の有効性を知るために必要です。そこで、佐賀県で2011年から2013年までのロタウイルス胃腸炎流行期にCase population studyを行いました。その結果、ワクチンの有効性は全体に対して69.5%、入院例に対して88.8%と推定されました4)。この研究からTest-negative designのサンプルサイズ算出時に必要な「症例」の接種率や「対照」の発症率などの基礎情報を推計することができました。
 この研究をうけて、2014年と2015年のロタウイルス胃腸炎流行期である1月から5月に佐賀県と福岡県の小児医療機関14施設においてTest-negative designによる症例対照研究を行いました5)。この研究では、急性胃腸炎症状で受診した生後2か月以上3歳未満の乳幼児全例にロタウイルスの迅速検査を行い、陽性487例を「症例」、陰性925例を「対照」として組み入れました。陽性例はPCR法で遺伝子型の確認も行いました。この調査で示されたロタウイルスワクチンの有効性は80.2%でした。重症度スコア別では、スコア5点以上で87.7%、7点以上で91.4%と初期症状が重篤な例ほど、高いワクチンの有効性を示しました(表2)。一次医療機関を対象に行ったこの研究では、入院例や重症例が少なく、入院例に対する有効性は算出できていません5)
 私たちが行った疫学研究は、現時点でわが国のロタウイルスワクチン導入後のEffectivenessを詳細に示した研究の一つであり、大変意義のあるものだと思います。日本では公的なワクチン接種歴のデータベースが存在せず、特にロタウイルスワクチンは任意接種のため接種率の包括的な把握ができません。そのため、ワクチンの有効性を評価する疫学研究を行うことは容易ではありませんが、本研究実施時よりワクチンの接種率の上昇した現在の接種状況において、全国各地域で同様の疫学調査が実施され、エビデンスを揃えていくことが定期接種化に向けて求められていると考えます。

  • *6Efficacy
    ランダム試験のように、対象者が常に研究者の管理下、発症や受療状況等について詳細に追跡したような、理想的環境のもとで実施された研究から得られた結果
  • *7Effectiveness
    高い“Vaccine efficacy”が証明されたワクチンが、実際に一般集団の中でどれくらい発症率を低下させるかについて、観察研究から得られた結果

  • 参考文献
  • 1)Giesecke J. Modern Infectious Disease Epidemiology, Third Edition. CRC Press; 2017.
  • 2)日本疫学会監修. はじめて学ぶやさしい疫学 改訂第2版, 南江堂, 2010.
  • 3)Kawamura N, et al. Vaccine. 2011; 29(37): 6335-6341.
  • 4)Araki K, et al. Hum Vaccin Immunother. 2016; 12(5): 1244-1249.
  • 5)荒木薫ほか. 厚生労働行政推進調査事業費補助金「ワクチンの有効性・安全性評価とVPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究」 平成28年度 分担研究報告書.
  • 6)Hara M, et al. Vaccine, 2017: 35(36): 4791-4795.
  • 7)Hara M, et al. Vaccine, 2006; 24(27-28): 5546-5551.
  • 8)MacDougall DM et al. Vaccine. 2016; 34(5): 687-695.

日常診療Q&A 集団生活を送る乳幼児・小児の感染症対策Q&A 中津市立中津市民病院 副院長是松聖悟先生

Q 集団生活での感染伝播がみられたとき、小児科医から注意喚起すべきことを教えてください。

A:乳幼児が長時間にわたり集団で生活する保育所、幼稚園は、子ども同士の濃厚接触の機会が多く、感染症が伝播しやすい環境です。また、乳幼児は床を這う、手に触れるものを舐める、適切な手洗いやマスク着用ができないなど衛生対策が十分にできず、常に感染リスクにさらされています。さらに感染症には不顕性感染や軽症例が存在するなど、衛生管理を行っても感染症の侵入と流行を完全に阻止することはできません。日常の保育所等の感染症対策は流行時に規模を最小限にすることを目標としており、感染防衛に対して、最も重要なのはワクチン接種による予防です。
厚生労働科学研究費補助金「保育所等における感染症対策に関する研究」(保育所における感染症対策ガイドライン(案))では、定期接種とともに、ロタウイルス、インフルエンザ、おたふくかぜの任意接種も重症化、感染伝播等の予防に有効であり、保育所や幼稚園への入所・入園前にワクチンを接種しておくことを勧めています1)
健康診断を担当する小児科医、嘱託医の先生方には、母子健康手帳等で入所・入園時にワクチン接種歴の確認を行い()、未接種のワクチンがある場合は、保護者に必要性を伝え、接種した上で集団生活に移行できるよう、サポートすることをお願いしたいと考えます。入所・入園後の平常時の対策としては、保育・教育現場で、毎月、新たに接種したワクチンの有無を保護者に確認し記録を更新する仕組みを作っておくことが重要になります。

Q 保育・教育機関で働く職員に啓発すべきことを教えてください。

A:職員の感染対策は、自身を感染から守り、かつ子どもたちへの感染伝播を予防する上で重要です。入職時に麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、B型肝炎等の予防接種歴・罹患歴の確認・記録を行い、予防接種歴がない場合はワクチンを接種するように指導が必要と考えます。また、インフルエンザの予防接種は毎年接種すべきです。これらのワクチン接種は、短期間の教育実習生であっても同様です。
また、職員の方々には、めまぐるしく変化する予防接種をはじめとする感染症対策について、できる限り最新の情報を入手し、子どもたちの感染予防に役立てていただきたいと思います。日本小児科学会のホームページでは「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」を公開しています2)。大分県では学校保健課題解決支援事業の活動のほか、われわれ医師が講師を務める市民公開講座、園での勉強会を開催し、知識を深めてもらう機会を提供しています3)。今後は保育士等の資格習得のための教育課程を見直すなど、小児の感染症対策の知識の普及がより重要だと考えます。

Q ワクチンの公費助成は地域にどのような役割を果たしますか。

A:子どもたちを感染症から守るためには、ワクチンの接種率向上が最も重要であり、そのための手段のひとつとして公費助成が有用だと考えます。大分県竹田市では任意接種ワクチンの公費助成によって、感染症の減少による医療費削減、看病による親の生産損失額削減がもたらされ、出生率、出生数の増加につながりました4)。一方、医療費無料化により医療機関を受診しやすい環境づくりに努めた地域では、休日・夜間の子どもの受診が増え感染症が減らないばかりか、小児科医の疲弊を惹起してしまう事態がみられました。子どもが健康に育つ街づくりのために、定期接種率を向上させること、また、任意接種ワクチンを国家レベルで定期化する、もしくは市区町村で公費助成することは有用な方法のひとつであると考えています。

Q 集団生活での感染伝播がみられたとき、小児科医から注意喚起すべきことを教えてください。

A:感染症にかかった子どもには、速やかな体調の回復と周囲への感染拡大防止の観点から、学校保健安全法で設定された出席停止期間をめやすに、症状が回復し感染力が減少するまで登園・登校を避けることが指導されています()。インフルエンザやノロウイルス、プール熱等では、症状が消失した後もウイルスを排出していることがあり、出席停止期間を経て登園・登校したとき、病原体を周囲に伝播してしまう可能性があることに配慮が必要です。感染させうる期間、ずっと隔離することはできないため、元気になって登園・登校した子どもたちが感染源とならないように、うがい、排便・オムツ処理後の手洗い等、衛生管理の徹底を指導することが望まれます。そのほかマスクの前面は病原体が多く付着しているので触れない、清掃時は床よりも多くの人が触るドアノブ、電気のスイッチ等をきれいにする、ノロウイルスはエアロゾル化して空気感染するとともにアルコール消毒は不活化効果が弱いため、次亜塩素酸ナトリウムでの消毒が必要なことなども知っておいてほしいことです1)
そして発症した子どもに限らず、発症せずに元気にしている子が保菌している場合があり、その子から他の子どもに感染させうることも知っておく必要があります。ですから発症者の有無にかかわらず、日ごろから感染予防策を行うよう、注意を促してください。

  • 参考文献
  • 1)細矢光亮ほか. 厚生労働科学研究費補助金「保育所等における感染症対策に関する研究」平成28年度研究報告書.
  • 2)日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」
    (http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=46).
  • 3)おおいた地域医療支援システム構築事業小児科分野2016年度調査報告書.
  • 4)是松聖悟ほか. 日本小児科学会雑誌. 2012; 116(9): 1380-1386.

ワクチン行政Watching 百日咳が全数把握疾患となった背景と今後の方針 福岡看護大学 基礎・基礎看護部門 基礎・専門基礎分野 教授福岡歯科大学医科歯科総合病院 予防接種センター センター長 岡田賢司先生

-百日咳が全数把握疾患に変更された背景について教えてください。わが国の百日咳の感染症発生動向調査は、小児科定点医療機関からの報告にもかかわらず、昨今15歳以上の百日咳患者の割合が増加しています。乳児の感染源となる成人感染者も正確に把握できるサーベイランスの必要性が高まってきました。

 全国の小児科定点約3,000施設からの定点あたりの百日咳患者報告数は、過去30年間に約1/10に減少してきましたが、2002年以降に15歳以上の増加がみられ、2008〜2010年には全国的な流行となりました1, 2)。この要因として現行の百日せきワクチンの免疫効果が4〜12年で減衰することや、自然感染が減少しブースター効果が得られなくなったことが挙げられています3)
 思春期・成人の患者は、重症化しやすい乳児、特に百日せき含有ワクチン未接種児の感染源になっていることが最も問題と考えられています。2009〜2013年に15歳未満の百日咳入院症例465例を対象とし、6県で行った後方視的調査では、すべての県で生後3か月未満が最多であり、推定感染源としては、同胞21.9%、母親12.0%、父親12.0%と報告されています4)
 これまでの感染症発生動向調査は、小児科からの報告を主体としているため成人の患者数が正確に把握できないことが課題でした。また、近年、保育所、小・中学校での集団感染の報告が散見されていますが、このような局地流行についても把握できず、対応に遅れが生じる可能性が指摘されてきました。さらに届出基準が臨床診断に基づいていたため、咳のある類似疾患が紛れ込んでいる可能性があることや、症例の予防接種歴や重症度、転帰等の把握ができないことも問題視されていました2)
 重症化しやすい乳児を百日咳感染から守るためには、全体の患者数を減少させる対策が必要です。まずは百日咳流行の全体像把握のために、検査診断体制の充実と成人患者数も正確に把握できるサーベイランス体制に移行することが求められ、全数把握疾患へ変更となりました。

-全数把握疾患となった百日咳の届出基準について教えてください。百日咳と診断した場合は、臨床症状、診断方法、転帰(入院・死亡等)、感染経路、ワクチン接種歴等を、7日以内に届け出ることが義務づけられています。

 百日咳を診断したすべての医師は、検査診断に基づく患者情報を届け出ることになりました。ただし、検査確定例と接触があり、臨床的特徴を有する場合は必ずしも検査診断を必要としていません(5)
 検査診断には、2016年より保険適用となったLAMP法が、百日咳菌を特異的に検出できる診断法として有用な方法の1つであると考えられます。
 今回の変更により、小児科定点医療機関だけでなく、すべての診療科の医師から届出が行われることで、乳児から成人・高齢者まで百日咳の疾病負担を正確に把握できることが期待されます。さらに、重症化しやすい乳児の早期診断が可能となり、抗菌薬適正使用の観点からも、早期の的確な抗菌薬治療ができるようになりました。将来的に、乳児の感染源となる年長児以降の免疫減衰例に対する百日せき含有ワクチンの追加接種や、妊婦へのワクチン接種等を検討していくためにも、重要な一歩であると考えます。

  • 参考文献
  • 1)国立感染症研究所 感染症発生動向調査.
  • 2)第21回厚生労働省厚生科学審議会 感染症部会資料(平成29年6月19日開催).
  • 3)国立感染症研究所 百日せきワクチン ファクトシート(平成29年2月10日報告).
  • 4)菅秀ほか. 厚生労働科学研究費補助金「百日咳の発生実態の解明及び新たな百日咳ワクチンの開発に資する研究」平成26年度研究報告書(研究代表者:岡田賢司).
  • 5)厚生労働省 健感発1215第2号(平成29年12月15日) 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届出の基準等について(一部改正).

スペシャリストPick Up 麻しん生ワクチンAIK-C*株 開発の歴史 北里大学北里生命科学研究所特任教授中山哲夫先生

麻しん生ワクチンの免疫原性と発熱率 〜AIK株の樹立

 麻しんワクチンは、1954年に麻疹患者の血液から分離したEdmonston株を用い、1960年代に生ワクチンが数多く開発されました。しかし、当時のワクチンは、90%以上と高頻度で発熱がみられることが問題でした。発熱は生体内でウイルスの増殖性が高まることに由来すると考えられましたが、生体内での増殖を抑えるために過度に弱毒化すると免疫原性が低下するというジレンマがあり、新しいワクチンの開発は難しい状況でした。
 北里研究所の牧野慧らのグループでは、低温馴化ポリオウイルスを種にして開発された生ポリオワクチン(セービン株)をヒントに、「野生麻疹ウイルスにも、低温域でのみ高い増殖性を示す変異株が存在する」という仮説を立てました。イラン国立Razi血清・ワクチン研究所のNazari博士の「ヒツジ腎臓(SK)細胞で培養できないか」という質問を転機に、SK細胞で培養を行ったところ、サルやニワトリの細胞に比べ、微生物感染がなく、低温培養に適していることが判明しました。このSK細胞を用いて、Edmonston株から麻疹低温変異株の探索を続け、「33℃での培養に適応した株のみが、十分な抗体産生能を維持しつつも、40℃では極端に増殖しにくい温度感受性を有する」ことをつきとめ、この特性を有した麻疹ウイルス株を分離、樹立し、「AIK株」と命名しました(表11)。この特性が、温度の低い体表付近で増殖しやすく、温度が比較的高い体深部で増殖しにくいワクチン株となるわけです。

AIK株からAIK-C株へ〜AIK-C株の効果と安全性

 日本の製剤基準で、ワクチンに使用するウイルスの培養には、ニワトリ・サル・ウシの細胞を用いるとの規定があったため、AIK株は実用化されませんでした。牧野らは、AIK株をニワトリ胎児胚細胞に馴化させ、出現した小さいプラークを純化培養(small plaque cloning)することで、高い感染価とAIK株に類似した温度感受性を保持する新しいウイルス株の分離樹立に成功しました。このウイルス株は、「AIK-C株」と命名されました1)。市販されたAIK-Cワクチン接種後の発熱反応を調査した検討では、低い発熱率が確認されており(表22)、現在に至るまで日本を中心に2,000万人以上に接種が行われました。AIK-Cワクチンは重篤な副反応が極めて少なく、「世界中の麻しん生ワクチンのなかで優れたワクチンのひとつ」という評価を受けています3, 4)

AIK-C株弱毒マーカーを分子生物学的に解析

 AIK-C株の弱毒化には、ヒトの体温より高い39〜40℃で増殖し難い「温度感受性」を有することがポイントであり、そのメカニズムを探るために弱毒化の分子基盤を解明することが重要でした。我々は、1990年代後半から行われた、ウイルスRNAをcDNAクローン化して感染性ウイルスを回収するReverse genetics(RG)法を用い、親株Edmonston株とAIK-C株の特定のタンパクアミノ酸を置換することで、AIK-C株の特徴的な性状を遺伝子解析しました。その結果、増殖性の低さを示すsmall plaque形成には、麻疹ウイルスの細胞融合に重要なFタンパクの278番目のロイシン5)、温度感受性には、麻疹ウイルス増殖に必要なPタンパクの439番目のプロリンが6)、それぞれ重要なアミノ酸であることを特定しました。
 この知見から、AIK-C株の弱毒マーカー以外の領域に外来遺伝子を挿入することで、他のウイルスの生ワクチンベクターとして利用できる可能性が示唆されました。生ワクチンの研究開発には多大な労力と時間を要しますが、既に十分な使用実績を持つAIK-C株を応用した開発に期待が寄せられています。

  • 参考文献
  • 1)牧野慧ほか. AIK-Cワクチン物語. 一般社団法人北里柴三郎記念会, 2016.
  • 2)岡秀.日本医事新報. 1975; 2695: 30-33.
  • 3)Nkrumah FK, et al. Bull World Health Organ. 1998; 76(4): 353-359.
  • 4)Bolotovski VM, et al. Int J Epidemiol. 1994; 23(5): 1069-1077.
  • 5)Nakayama T, et al. J Gen Virol. 2001; 82(Pt 9): 2143-2150.
  • 6)Komase K, et al. Vaccine. 2006; 24(6): 826-834.

特別記事 日本耳鼻咽喉科学会によるムンプス難聴の大規模全国調査 国立成育医療研究センター 感覚器・形態外科部 耳鼻咽喉科 医長守本倫子先生

日本耳鼻咽喉科学会が行ったムンプス難聴の大規模全国調査。この調査からみえたムンプス難聴の課題と必要な対策について、国立成育医療研究センター 感覚器・形態外科部 耳鼻咽喉科 医長 守本倫子先生に伺いました。

ムンプス難聴の特徴

 ムンプス難聴は、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)に比較的高頻度で合併する感音難聴です。耳下腺あるいは顎下腺腫脹の4日前から腫脹後18日以内に急性発症し、平衡機能障害(めまい)を伴うことがあります(1)。多くは一側性ですがまれに両側性もみられ、難聴の程度は高度〜重度です。初診時に軽度難聴であった小児が、1〜2週間後に高度難聴まで悪化した進行性のケースもみられます。多くの場合、治療による改善は難しく、突発性難聴に準じたステロイド治療が行われますが、改善の程度は軽微であり、完全に回復することはほとんどありません。

  • 高度難聴:非常に大きい声か補聴器を用いないと会話が聞こえないレベル
  • 重度難聴:補聴器でも聞き取れないことが多く、人工内耳の装用が考慮されるレベル

全国規模のムンプス難聴調査がもたらしたインパクト

 近年のおたふくかぜ流行によりムンプス難聴の合併例が目立ってきたことから、日本耳鼻咽喉科学会は、ムンプス難聴の実態を把握することを目的に全国規模調査を行い、耳鼻咽喉科を標榜する3,536施設から回答を得ました。その結果、2015〜2016年の2年間に少なくとも348人がムンプス難聴と診断され、詳細な二次調査を実施し回答が得られた336人中、274人(約80%)は高度以上の難聴が残り、最終的に16人は両側難聴となったことが判明しました。小児科を含まない耳鼻咽喉科単独の調査にもかかわらず、2年間という短期間に300人以上のムンプス難聴の発症を報告したことは大きなインパクトを与えたと考えます(2)
 今回の調査で明らかになった実態は、学童期だけでなく20代から30代の子育て世代にも発症者が多く、二峰性の発症傾向があること、両側難聴は一定数存在し、その約半数が人工内耳を装用していること、小児でも平衡機能障害の合併が多いことです。
 子育て世代の罹患は、予防接種歴や罹患歴のない親が家庭内で子どもから感染している可能性が考えられます。なかには、ムンプス難聴と診断された時点で妊娠中であったため、急性期ステロイド治療を断念した患者さんも存在しました。
 難聴の最終聴力レベルは、最終的に一側難聴となった287人のうち261人(91%)は高度以上であり、両側難聴となった16人のうち13人は両側高度以上の難聴の後遺症を認め、6人が補聴器を、7人が人工内耳の装用が必要となりました(2)

ムンプス難聴の課題とワクチン接種の重要性

 今回の調査では、確定診断例のみを対象としており、実際にはもっと多くの発症例がいることが予想されます。
 保護者の中にはムンプス難聴のリスクを認知しておらず、いまだに「自然罹患した方が免疫がつくのでよい」という誤った情報から、子どもを同級生から意図的に感染させようとする人すらいるのが現状です。難聴は一側性であっても不自由を伴います。学童にとっては、大勢での会話ができない、スポーツを楽しめない、方向感覚が欠如する、聞き間違いをするなど学校生活に支障があり、一側性だからといって軽んじるべきではありません。また後遺症として一生残るために経済的負担が大きく、保護者が責任を感じることがかえって子どものストレスになるなど心理的負担の側面も課題となっています。
 さらに、両側性のムンプス難聴が存在することは小児科医の間でもあまり知られておらず、今回の調査結果に対して驚きの声が聞かれました。おたふくかぜによるムンプス難聴の合併リスクを認識しながらも、ワクチンの副反応による無菌性髄膜炎のリスクを考え、積極的に接種を勧めてこなかった先生方にも、今回の調査が示した現況を知っていただき、ワクチン接種勧奨のきっかけにしてほしいと思います。

おたふくかぜワクチンの定期接種化を目指して

 ムンプス難聴は平衡機能障害を合併することがあるので、小児がめまいや吐き気を訴える、嘔吐するなどの場合にはムンプス難聴の可能性を考慮し、予防接種歴や耳下腺の状態について確認していただきたいと考えます。成人と異なり、4歳くらいまでの小児の難聴のスクリーニングは容易ではありませんが、後ろから呼びかける、耳の傍で指やビニール袋をこすって音を出し反応をみるなど、簡便な方法もあります。また、一側難聴の確認には、電話の受話器を耳に当てて会話ができるかを確認してみるのもよいでしょう。
 わが国は先進国の中で唯一おたふくかぜワクチンが定期接種化されておらず、接種率は30〜40%程度と低迷しています。抗体保有率は70%程度と流行を抑える水準には至っておらず、4〜5年おきに全国的な流行が報告されています3)
 今回の調査結果を踏まえて、日本耳鼻咽喉科学会は「医療・学校関係者によるおたふくかぜワクチン接種の推奨」を啓発していくと同時に、日本小児科学会や関連団体などとともに行政に対しておたふくかぜワクチンの定期化を強く求めていきます。

  • 参考文献
  • 1)国立感染症研究所. IASR. 2013; 34(8): 228-230.
  • 2)日本耳鼻咽喉科学会. ニュースリリース「ムンプス難聴全国調査結果報告」(2017年9月22日).
    http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20170927_2.pdf
  • 3)国立感染症研究所. IASR. 2016; 37(10): 185-186.

特別記事 予防接種を受ける子どもおよび保護者への対応−プレパレーションとディストラクション− 筑波大学 医学医療系 保健医療学域 小児保健看護学 准教授涌水理恵先生

予防接種を受ける子どもの心理的混乱の軽減に有効なプレパレーションとディストラクションについて、筑波大学 涌水理恵先生に伺いました。

理解・納得を促すプレパレーションと気をそらすディストラクション

 医療行為によって引き起こされる心理的混乱に対し、子どもの理解能力に合わせた方法で医療者がわかりやすく説明を行い、子どもの対処能力を引き出し、心理的準備をさせるための行為をプレパレーションといいます1)。ディストラクションは、「嫌なものから気をそらす」という語源からきており、処置の間の子どもの意識を他に転換させるための行為を指します(表1)。
 子どもの説明を受ける権利を尊重する欧米からこの概念は生まれ、わが国でも各種医療処置や入院、手術の前にプレパレーションが取り入れられてきています。

予防接種を受ける子どもの“気そらし”に有効なディストラクション

 予防接種を受ける際の心理的混乱の軽減のために、説明を理解できる年齢の子どもにはプレパレーションが有効ですが、そうでない、主に3歳未満の子どもにはディストラクションにより痛みから気をそらすことが有効です。予防接種による痛みが記憶されてしまうと子どもは次回から強い拒否反応を示すようになるので、それを避けるためにもディストラクションを行う意義はあります。
 具体的には、接種時に保護者に子どもを強く抱きかかえてもらうことや、子どもの好きな絵やキャラクターなどを見せることで気をそらします。視覚的刺激としては、絵本や動くおもちゃを用いるのが効果的だと言われています(表22)。ただし最近の話題として、米国小児科学会が、医療機関にあるおもちゃは交差汚染の可能性があるため、自宅から持参してもらうことを勧めています3)
 ロタウイルスワクチンの場合、1歳未満の乳児に経口接種を行いますが、その接種方法とこの月齢へのディストラクションを鑑みると、保護者に強く抱きかかえてもらうこと(触覚的刺激)や保護者・医療者に優しい声かけをしてもらうこと(聴覚的刺激)が適していると考えます。
 基本は子どもの好みに合わせて、オーダーメードで行うのが好ましいとされていますが、臨床現場ではスタッフの負担を考慮し、年齢やワクチンに合わせて実施方法をマニュアル化して導入することをお勧めします。

プレパレーションによって自己効力感*が醸成される

 プレパレーションは、保護者の理解と協力がないと実施できません。付き添う保護者の精神状態は子どもに大きく影響するため、事前に保護者へプレパレーションの意義や内容を説明します。保護者の「心配」や「不安」といった心理をサポートし、同意を得た上で進めていきます。接種直前に行うのが有効で、待合室ではなく別室に接種を受ける子どもと保護者を案内し、注射の手順のほか、痛みなどの感覚的な情報と予防接種を受けることの意義をわかりやすいツールを使って説明します。
 接種後には、医療者が子どもの頑張りを労うことで、子どもは予防接種を乗り越えられた体験として認識し、自己効力感を醸成させることができます。
 プレパレーションによる“心理的準備”や、ディストラクションによる“気そらし”を活用することは、子どもや保護者の不安の軽減に役立つものと考えますので、日常の忙しい医療行為や看護の中に、できることから取り入れていただきたいと思います。

  • 自己効力感:自分は目標達成できるという信念や自信のこと
  • 参考文献
  • 1)涌水理恵ほか. 日本小児看護学会誌. 2006; 15(2): 82-89.
  • 2)田中恭子. 小児保健研究. 2009; 68(2): 173-176.
  • 3)American Academy of Pediatrics. Infection Prevention and Control in Pediatric Ambulatory Settings. POLICY STATEMENT. 2017.