Vaccine Digest 第14号(2017年9月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う

    小児結核
    〜いまだ忘れてはいけない子どもの感染症〜

    国立病院機構 南京都病院 小児科医長 徳永 修先生

  • ワクチン行政 Watching

    「小児かかりつけ診療料」の導入意義について

    松平小児科 院長 松平隆光先生

  • Vaccine Topic

    わが国における感染性胃腸炎の遺伝子型の変遷
    〜ノロウイルス・ロタウイルスを中心に〜

    北里大学北里生命科学研究所 大学院 感染制御科学府
    ウイルス感染制御学Ⅰ 教授 片山和彦先生

  • 日常診療 Q&A

    海外渡航者の予防接種に関するQ&A

    久留米大学医学部 感染制御学講座 主任教授 渡邊 浩先生

  • スペシャリスト Pick Up

    最近のインフルエンザの流行を探る

    日本臨床内科医会 インフルエンザ研究班リサーチディレクター
    池松秀之先生

  • 特別記事

    おたふくかぜワクチン接種の必要性とは?

    北里大学北里生命科学研究所 特任教授 中山哲夫先生

感染症の流行を追う 小児結核〜いまだ忘れてはいけない子どもの感染症〜 国立病院機構 南京都病院 小児科医長  徳永 修 先生

小児で顕著な結核患者数の減少

 わが国における結核罹患状況は確実に改善していますが、2015年の新登録結核患者数は18,280人で1)、人口10万人対の結核罹患率は14.4と、欧米諸国より依然として高い状況です(図11)。一方、特に小児では顕著に患者数が減少しており、2014年以降の0〜14歳の年間新登録結核患者数は50人程度で推移しています。この年代の罹患率は「低蔓延国」の代表である米国よりも低いレベルに達しており2)、結核性髄膜炎や粟粒結核などの重症例も非常に少なくなってきています(図11)
 わが国では結核対策として、1948年よりBCGワクチンが予防接種法に組み込まれ、1967年からわが国独自の経皮管針法によるBCGワクチン接種を導入しています。接種率は現在でも概ね高い水準で推移しており1)、小児結核の予防に大きく寄与していると考えられます。しかし、小児にとって結核感染機会は無視できるほどの状況に改善しているわけではなく、重症化しやすく髄膜炎など重大な後遺症を残すリスクのある結核から子どもたちを守る対策を今後も徹底することが重要です。

発病リスクの高い小児結核の特徴

 結核には初感染に引き続いて発病する一次型結核症と、初感染後に結核免疫が成立して菌の増殖が抑えられ、潜在性結核感染症(LTBI)と呼ばれる状態に移行し、数年から数十年を経て宿主の免疫能低下などに伴って発病する二次型結核症があります。小児結核の多くは一次型結核症です。
 また、小児結核の特徴としては、多くが乳幼児例で、感染後、発病に至る頻度は高く、感染後発病に至るまでの期間が短いことが挙げられます。さらに発病初期は症状がほとんどなく、症状が現れたときには重症化していることが多いのが特徴です。病巣は肺野および肺門部のリンパ節にとどまることが多く、成人症例のように空洞を伴うことはほとんどありません。中学生では、成人と同様に二次型結核症を呈し、多量に排菌して周囲への感染源となる、喀痰塗抹陽性例となる場合があります。

  • 潜在性結核感染症(LTBI):Latent tuberculosis infection

小児結核の診断と治療の現状

 小児結核症例の約3/4は感染源の同定が可能であり、両親や祖父母からの家族内感染が大半を占めます。このため、多くは感染初期に、接触者健診により診断されますが、遷延する咳や反復する発熱などの症状出現が受診・診断の契機となる有症状受診例も1/4程度を占めています2)。また、少数ですが、学校検診や後述するBCGワクチン接種後のコッホ現象を機に発見される例もあります。
結核の診断・治療で重要なことは、①正確かつ早期に発病例を発見し、②未発病感染例に対して発病予防を目的とした治療を適用することです。小児結核の喀痰塗抹陽性例は全体の10%程度で2)、低年齢児では細菌学的診断が困難な症例も少なくありません。症状や菌所見をみるだけでなく、家族歴や高蔓延国での居住歴なども含めた問診を徹底し、胸部画像検査、結核感染診断検査[ツベルクリン反応、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)**]などを適用した上で、総合的に判断することが大切です。
 ツベルクリン反応は感度に優れ、長く使用されてきた検査法ですが、BCGワクチン既接種者や非結核性抗酸菌感染で陽性反応を示すなどいくつか課題もありました。そのような課題を補いうる新たな感染診断法として期待されているのがIGRAです。IGRAは、被験者リンパ球での結核菌特異的抗原刺激に対するインターフェロンγ産生応答により結核感染の有無を判定する検査法で、2006年から臨床現場に導入されました。「感染症法に基づく結核の接触者健康診断の手引き」では乳幼児の接触者健診の基本項目の一つに位置付けられていますが3)、乳幼児の未発病感染例では感度不良が懸念されています。そのため特に乳幼児では、結核患者との接触歴や、ツベルクリン反応結果なども含めた慎重な感染診断が必要です。
 また、未発病であっても結核感染が明らかな場合や強く疑われる場合には、発病予防を目的としたLTBI治療を積極的に適用します。治療はイソニアジドの6か月または9か月の内服が基本となります。長期間にわたる治療ですが、最後まで完遂することが重要であるため、治療中の服薬サポートを丁寧に行っています。

  • ** インターフェロンγ遊離試験(IGRA):Interferon-gamma release assay

BCGワクチンを中心とした小児結核予防策

 小児結核に対する予防策の中心であるBCGワクチンの発病予防効果は、重症結核で70〜80%、肺結核で約50%(新生児や乳児を対象とした場合は74%)とした報告が世界的に支持されています4, 5)。わが国では、かつては乳幼児と小・中学生のツベルクリン反応陰性児にBCGワクチンを接種していました。しかし、近年の蔓延率の低下を受け、2003年に小・中学生を対象とした再接種が中止され、2005年からは生後3〜6か月の乳幼児に、ツベルクリン反応を先行させない、BCGワクチンの直接接種が導入されました。さらに、生後2か月以降で推奨されるワクチンが増えたことや、骨炎などの副反応例の増加傾向に乳児早期でのBCGワクチン接種が関連している可能性が否定できないことを踏まえ、2013年からBCGワクチンの標準接種期間が生後5〜8か月に変更となりました。ただし、BCGワクチンの副反応発生頻度に与える接種時期変更の影響は明らかではなく、引き続き注視する必要があると考えています。
 通常、BCGワクチン接種後、2週間から1か月を経て針痕に一致した発赤や硬結、膿などの局所所見がみられますが、結核既感染者では接種後1〜2日のうちに強い局所反応が出現することが知られています。これは「コッホ現象」と呼ばれています(図22)。BCGワクチン直接接種が導入された2005年以降、コッホ現象を適切に評価することが乳児結核の感染・発病を早期に診断するための重要な手段となっています。実際に、2005年以降、コッホ現象を契機に毎年1〜2例の結核発病が明らかになっています2)。また、2013年から標準接種期間が生後5〜8か月に変更されたことで、ワクチン接種時の既感染例が増加することも懸念されており、コッホ現象が疑われた際の適切な評価と対応がより一層求められます。

将来のために注視すべき結核対策の変換期

 わが国のこれまでの結核対策が一定の効果を上げたことで結核罹患状況は改善しつつあり、厚生労働省は2020年までに結核の「低蔓延国」化を目指すことを決めました。将来の低蔓延状態を見据え、BCGワクチン接種を含む、現在の小児結核対策を継続すべきかどうかを議論する時期にきていると感じています。2016年11月に一部改正された「結核に関する特定感染症予防指針」では、BCGワクチンの選択的接種導入を今後検討するため、先行する諸外国の施策等について情報を収集する、という内容が盛り込まれました。同時に、定期接種中止前後の診断例の変化を把握するため、国内のサーベイランスシステムの運用強化なども求められるでしょう。
 BCGワクチンの接種様式の変更にあたっては、接種対象者が受けるメリットとデメリットを熟慮した上での慎重な判断が必要です。仮に定期接種を中止すれば一時的に乳幼児での結核発病例が増えることは避けられないかもしれません。どのような状況下でも、小児結核の感染・発病を早期に発見して適切な治療を行う体制を維持することが極めて重要です。そのためにも、今後も小児結核に関心を持ち続けていただきたいと思います。

  • 参考文献
  • 1)結核予防会結核研究所 疫学情報センター 結核の統計2016
  • 2)徳永修. 日本小児科医会会報 2015; 49: 109-114.
  • 3)感染症法に基づく結核の接触者健康診断の手引き(改訂第5版)
  • 4)Colditz GA, et al. JAMA. 1994; 271(9): 698-702.
  • 5)Colditz GA, et al. Pediatrics. 1995; 96(1 Pt 1): 29-35.

ワクチン行政Watching 「小児かかりつけ診療料」の導入意義について 松平小児科 院長 松平隆光先生

-「小児かかりつけ診療料」導入の背景と概要について教えてください。 小児科医の子どものかかりつけ医としての機能を強化するため、保険診療算定制度が改定されました。

 医療の効率と質の担保を見据えた医療再編が進行する中で、重複受診や重複服薬の状況をみると、全年齢の中では乳幼児の割合が最も高く1)、見過ごすことのできない事態となっていました。そこで、小児科医に子どものかかりつけ医(主治医)として、子どもが健康で安心して生活ができる環境作りに主体的に努力してほしいとの考えのもと、かかりつけ医機能を評価した「小児かかりつけ診療料」が2016年4月に設定されました。
 1996年に設定された小児科外来診療料は、医療機関全体で算定するか否かを決定していましたが、「小児かかりつけ診療料」は、医療機関がこの制度の内容を院内に掲示し、患者の同意を得た上で、継続的かつ全人的な医療を行うことについて評価したものであり、原則として1人の患者につき1か所の保険医療機関が算定する制度となっています。「小児かかりつけ診療料」は、処方せんを交付する場合は初診時602点、再診時413点、処方せんを交付しない場合には初診時712点、再診時523点を算定することができます。従来の小児科外来診療料を30点アップした点数となっています()。

-「小児かかりつけ診療料」導入後の状況について教えてください。 「小児かかりつけ診療料」の届出施設数は増えつつありますが、算定の割合は高くありません。制度の理解が進み、算定数が増えることが望まれます。

 導入後1年弱の時点で実際に算定を行っていたのは、東京都の調査では4%2)、日本医師会の調査では6.7%でした3)。説明書・同意書を取り交わす、時間外に対応する、患者の受診医療機関をすべて把握する等、細かな算定要件が導入に影響しているのではないかと考えます。
 私の施設では、厚生労働省から提示されている同意書を使って説明し、同意いただいた患者さんには、私自身の携帯電話番号、#8000のシステム等をお伝えしています。時間外の電話には原則対応しますが、外出時等すぐに返信できない場合があることや、医師の体調保持にも協力いただきたいこと等、自身で対応できる範囲も併せてお伝えしています。
 「小児かかりつけ診療料」では、診療情報提供料(Ⅰ)250点が包括外となったこと、同意書を結んでおけば6歳まで算定対象となることは、小児科診療所にとって大きなメリットになると考えています。未導入の先生方にも今後前向きに検討していただきたいと思っています。

-今後の制度の改善点や展望について教えてください。 小児科診療所の役割を拡充し、子どもの健康を守り、小児医療の発展につなげていきたいと考えています。

 全国の小児科単科診療所数は1990年の4,795か所から2014年の5,510か所と増えています4)。しかしながら、少子化と急性感染症の減少により、今後ますます、小児科診療所の患者数減少が予測されます。さらに、最近では、子どもに鼻水症状が出た場合、疑いなく耳鼻科を受診する傾向がみられ、耳鼻科診療所の小児科外来診療料の算定回数が増えています。このような環境下において、小児科診療所は発想の転換を図らないと、危機的状態に陥ることは確実であると思われます。今後も医療の効率と質の担保が求められる時代が続き、診療報酬の重点は、かかりつけ医に対する評価により集約されていくことが予測されます。「小児かかりつけ診療料」は時間外対応などの条件がありますが、これに対応し、かかりつけ医として機能を拡充していくことが、小児科診療所の未来を明るいものにする上で重要なことだと考えます。

  • 参考文献
  • 1)平成23年 全国健康保険協会「協会けんぽ加入者の受診行動の分析」
  • 2)東京保険医新聞2017年4月5日号
  • 3)前田由美子. 日医総研ワーキングペーパー No.378, 2017.
  • 4)野村真美ほか. 日医総研ワーキングペーパー No.363, 2016.

Vaccine Topic わが国における感染性胃腸炎の遺伝子型の変遷 〜ノロウイルス・ロタ  ウイルスを中心に〜 北里大学北里生命科学研究所大学院 感染制御科学府ウイルス感染制御学Ⅰ 教授片山和彦先生

1 近年のノロウイルス遺伝子型分布の傾向は?

 ウイルス性感染性胃腸炎の原因となる主なウイルスとして、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルスの3つが挙げられます。ウイルス性感染性胃腸炎は、時期によって流行するウイルスの種類が異なっており、11月〜12月頃にはノロウイルスが流行の中心となりますが、3月以降にはロタウイルスが多く検出されるようになります1)
 感染性胃腸炎の原因ウイルスのうち、その報告数が最多であるノロウイルスは、GⅠ〜GⅤの遺伝子グループに分類されます。ヒトに感染するのはGⅠ、GⅡ、GⅣのノロウイルスです。グループ内のノロウイルスは遺伝的多様性により、さらにGI.1〜9(9種類)、GⅡ.1〜22(19種類:3種類はブタに感染するノロウイルス)、GⅣ.1〜2(2種類)の遺伝子型に細分化されています。ノロウイルス胃腸炎の流行の大部分を占めるのはGⅡで、中でも遺伝子型GⅡ.4が世界的に流行を起こす型として注目されてきました。2006/07シーズンに国内で最大の流行を記録したGⅡ.4は、2010/11シーズンに一度GⅡ.3に主要流行株の座を奪われましたが、2011/12シーズンにGⅡ.4 Sydney2012という亜株が現れ、2012/13シーズンには再びGⅡ.4が主要流行株となりました。2015/16シーズンからはGⅡ.17という新たな遺伝子型がアジア地域を中心に流行を拡大しましたが、2016/17シーズンにはGⅡ.2が主要流行株となりました2)。ノロウイルスの遺伝子型の変遷は毎年起きており、主要流行株の変遷も数年に一度程度の周期で起きてきたと考えられます。このような流行株の変化は、ヒト集団におけるノロウイルスに対する集団免疫の蓄積が影響していると予想されています。

  • ウイルス性感染性胃腸炎のシーズン:9月1日〜翌年8月31日までを1シーズンとする。

2 ワクチン導入後のロタウイルス遺伝子型分布の特徴は?

 ロタウイルスは、ノロウイルスに次いで報告数の多い感染性胃腸炎の原因ウイルスです。ウイルス粒子は外殻、内殻、コアタンパクからなる3重構造を有しています。内殻タンパクVP6の抗原性によってA〜H群に分類されます。これらのうち、ヒトから検出されるのはA〜C群ですが、その大半をA群が占めています。
 A群ロタウイルスは、ウイルスの外殻タンパクVP7の抗原性によりG血清型、VP4の抗原性によりP血清型に分類されてきました。近年、VP7をコードするG遺伝子の配列、VP4をコードするP遺伝子の配列による遺伝子型分類が、それぞれの血清型を反映できることが明らかとなり、主にG、P遺伝子型による分類が行われています。G型、P型の組み合わせにより多数の遺伝子型が存在しますが、小児から検出される大部分のウイルス株は、G1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8]の5種類の遺伝子型で占められています。
 わが国のロタウイルスの検出報告数は、ロタウイルスワクチン導入後、明らかに減少しています(図12)。主要な遺伝子型はシーズンによって異なり、わが国では、2007/08シーズンから、G9、G3、G1と変遷がみられました。2015/16シーズンには、2013/14シーズンから広がりつつあったG2が大部分を占めるようになっています(図22)。このデータの解釈にあたっては、2011年にワクチンが導入された後、重症入院例が著しく減少したために重症例の検出数が減っており、検出される遺伝子型が流行している遺伝子型と完全に一致するとはいえない点に注意が必要です。
ロタウイルスワクチンには、1価(RV1)と5価(RV5)の2種類があり、定期接種化が進んでいる海外では、ワクチン導入後に重症入院例が減少し、遺伝子型に変化がみられています。オーストラリアでは州ごとに異なるワクチンを導入し、RV1使用地域でG3P[8]、RV5使用地域でG12P[8]の割合増加が報告されました3)ベルギーではRV1を導入し、G2P[4]の割合が増加した後4)、G3P[8]やG9P[8]の割合増加がみられました5)。ワクチン導入と野外流行株の遺伝子型分布の関係が議論を呼んでいますが、ワクチン導入と遺伝子型分布の変化の間に一定の法則性はみつかっておらず、ワクチンの影響は明らかとなっていません。しかしながら、ワクチンの種類にかかわらず重症化の阻止に貢献していることは明らかです。

3 ワクチン導入後の遺伝子型分布の変化が示すことは?

 ロタウイルスは、ひとつのウイルス粒子の中に11本の異なる分節RNAをゲノムとして有します。ロタウイルスは異なる遺伝子型の重複感染により、遺伝子分節が組み換えられ、新しい遺伝子型構成をもつウイルス(リアソータント)が出現することがあります。最近は、次世代シーケンサーなど、大量の遺伝子配列データを網羅的に解読できる装置の普及が進み、11本の全遺伝子分節の塩基配列に基づく遺伝子型分類が比較的容易にできるようになりました。11分節全ての遺伝子配列解析によって、遺伝子型分布の変化について新たな傾向が見出されています。
 図3のように、各遺伝子型を羅列表記する型分類法によって、多くのヒトロタウイルスは、Wa遺伝子群、DS-1遺伝子群に分類されます。我々はロタウイルスワクチン導入後のわが国のウイルス遺伝子型分布の変化を詳細に調べることを目的に、ワクチン導入前後のロタウイルスの全ゲノムセグメントを解析しました。その結果、以前よりわが国の主流であったWa株の遺伝子型構成をもつG1P[8]について、ワクチン導入後の2012年からDS-1様の遺伝子型構成に変化したDS-1-like G1P[8]が多数検出され6, 7)、さらにG2P[4]が主流となる傾向が示されました。DS-1-like G1P[8]が主要流行株になったという報告は過去になく、新しい兆候として注目しています。
 海外では、ワクチン導入の有無にかかわらずDS-1-like G1P[8]が報告されることがありますが8, 9)、これまでの遺伝子解析はGおよびP遺伝子のみに着目し、全ゲノムセグメントを解析してこなかった背景があることから、このDS-1-like G1P[8]の検出がワクチン導入の影響かどうかは明らかになっていません。
 わが国はRV1とRV5の両方が導入されており、ワクチン導入とロタウイルス遺伝子型分布の変化の因果関係は明らかではありません。引き続き、全ゲノムセグメントを対象とした遺伝子解析を実施し、ワクチン導入による主要流行株の変化やリアソータントの出現、遺伝子型分布の変化について追跡していく必要があると考えています。

4 ロタウイルスワクチンはどう接種されるべきか?

 遺伝子型分布の変遷の中で、ロタウイルス胃腸炎の重症化・合併症の予防効果を高く維持するためには、現在使用できるワクチンを接種対象者に確実に接種することが大切だと思います。まずはワクチンの接種率を向上させ、全国平均接種率を90%以上に引き上げたいところです。ワクチンが有効なウイルス型を確実に抑制し、社会全体の予防効果をさらに高めていく必要があります。その上で、現行のロタウイルスワクチンに耐性をもつリアソータント株や遺伝子変異株が出現する可能性を考慮に入れつつ、世界各国でのロタウイルスの遺伝子型分布の変化を継続して監視し、ワクチンの有効性を見極めながら将来の対策を練っていくことが重要だと考えています。

  • 参考文献
  • 1)国立感染症研究所. IASR. 2017; 38(1): 1-17.
  • 2)国立感染症研究所. 病原微生物検出情報
  • 3)Rotavirus: Australian Rotavirus Surveillance Program annual reports.
  • 4)Pitzer VE, et al. Scientific Reports. 2015; 5: 18585.
  • 5)EuroRotaNet: Annual report 2015 - European Rotavirus Network.
  • 6)Yamamoto SP, et al. Emerg Infect Dis. 2014; 20(6): 1030-1033.
  • 7)Fujii Y, et al. Infect Genet Evol. 2014; 426-433.
  • 8)Nakagomi T, et al. Vaccine. 2012; 30(Suppl.1): A140-A151.
  • 9)Komoto S, et al. PLoS One. 2015; 10(11): e0141739.

日常診療Q&A B型肝炎(HB)ワクチン定期接種化についてのQ&A 筑波大学 医学医療系小児科 教授須磨崎亮先生

Q1 渡航前に接種すべきワクチンの考え方について教えてください。

A:近年、わが国では海外渡航者や訪日外国人旅行者が増加しており、海外で流行する感染症が国内に持ち込まれるリスクが高まっています。渡航地域によって流行する感染症は異なり、例えば、A型肝炎は多くの途上国で流行がみられますが、黄熱はアフリカや南アメリカに流行地域が限られています(表1)。
感染リスクは、滞在国や滞在期間に加え、滞在中の行動によっても異なります。短期滞在でも、オフィスで活動するだけの場合より、観光で外を歩き回り、現地の人と同じように屋台で食事をしたりする場合は感染リスクが高くなります。実際、帰国後に発熱や下痢などで当大学の渡航外来を受診する人の約60%は、滞在期間が2週間以内の観光目的で渡航した人です。仕事で長期間海外赴任する場合は企業がワクチン接種費用を負担することも多いのですが、個人旅行等の短期海外渡航の場合は渡航前のワクチン接種に対する意識が高くないことが課題だと考えています。海外渡航時の予防接種は、①麻しんや水痘など、自分と周囲への感染を防ぐために小児期より定期接種するもの、②黄熱など入国時に予防接種証明書を要求されることがあるもの、③狂犬病、A型肝炎など、日本では存在しない、あるいは感染リスクが少ないものの、渡航先では流行している感染症を防ぐためのもの、という3種類に分けられます。
また、ワクチンは複数回の接種によって長期免疫を獲得できるものが多く、できれば渡航の約6か月前から準備することが望ましいといえます。しかし、現実的には難しいことが多いので遅くとも1か月前には接種を開始し、出国前にできる限り免疫を高めておくことが望まれます。長期滞在の場合には、一時帰国時、あるいは現地にて追加接種を行うとよいでしょう。

Q2 渡航先の感染症・健康管理情報の収集方法を教えてください。

A:渡航前には、現地の感染症の流行状況を必ず確認し、ワクチン接種や感染症予防のための対策を行ってほしいと考えます。トラベルクリニックでは、渡航者へのワクチン接種のほか、渡航地域の感染症流行状況などの情報提供、感染症予防や健康管理についてのアドバイスも実施しています。
厚生労働省検疫所のホームページ「FORTH」、日本渡航医学会のホームページなどは海外渡航に関する情報源となります(表2)。FORTHでは、世界各地で流行している感染症や予防接種、医療事情、海外渡航者向けの予防接種実施医療機関等の情報提供を行っています。
日本渡航医学会では、国内の各トラベルクリニックでの取り扱いワクチン、渡航前後の診療対応の可否、日本人医師による診療が受けられる海外のトラベルクリニック(11か国20施設)の情報等を掲載しています(2017年7月時点)。

Q3 定期・任意の予防接種を完了していない小児の出国・帰国時の対処について教えてください。

A:小児は病気に対する抵抗力が不十分であり、感染リスクが高く、重症化しやすいため、定期および任意接種のワクチンを免疫獲得に必要な回数を接種した後に出国することが望ましいといえます。しかし、事情により接種完了前に出国する場合は、一時帰国時か渡航先で残りの接種を行う必要があります。出国前に接種したワクチンは、渡航先で医師が確認できるように、日本語と英語が併記された予防接種証明書を発行しておくべきでしょう。
小児の予防接種は、国によって接種スケジュールやワクチンの種類(単剤・混合)、接種方法(皮下・筋肉)、接種部位(腕・足など)が異なるため、注意が必要です。ワクチンの互換性については明確なデータが得られていませんが、接種による重篤な副反応の報告はなく、種類が異なったとしても早めに必要な回数を接種することが、より重要だと考えられます。
長期滞在により現地で学校に入学する場合には、学校の規定で入学までに定められたワクチンを接種していないと通学できないことがあります。一般に海外では日本よりワクチンの種類や回数が多いため、渡航が決まった時点で現地のスケジュールを確認し、早めに接種を開始することをお勧めします。

Q4 トラベルクリニックが果たす役割と今後の方向性について教えてください。

A:トラベルクリニックでは、高齢や基礎疾患等で健康に不安がある人の旅行時の対応についての相談や、ワクチンで予防できない感染症の予防法、渡航先で感染が疑われる場合の対処方法などにも対応しています。短期の観光目的の旅行者でも渡航先や行動パターンによっては感染症のリスクがありますので、ワクチン接種目的でなくても気軽にトラベルクリニックを利用してもらいたいと思います。
わが国ではトラベルクリニックはまだ十分に普及しているとは言えませんが、2011年より開始された日本渡航医学会のトラベルクリニックサポート事業等により、トラベルクリニックは地方においても徐々に増えてきています。小児科の先生方にも関心をもっていただき、小児へのワクチン接種を含む渡航者のサポートや、訪日外国人のケアにも対応できるように、施設や環境の整備を目指したいと考えています。

  • 日本渡航医学会推奨国内トラベルクリニックリスト掲載施設数106施設(2017年7月28日現在)

スペシャリストPick Up 最近のインフルエンザの流行を探る 日本臨床内科医会 インフルエンザ研究班リサーチディレクター池松秀之先生

近年のインフルエンザの流行状況

 インフルエンザは、毎年冬季を中心に流行をくり返し、流行するインフルエンザウイルス(以下ウイルス)の型・亜型は毎年変化しています。日本臨床内科医会では、2002-03年シーズンからウイルスの流行状況について調査研究を実施し、経年的な変化を報告しています(1)
 以前は、A型(H3N2)(香港型)、A型(H1N1)(ソ連型)、B型の3つが流行の主体でしたが、2009-10年シーズンに起こった「新型インフルエンザ」と呼ばれるA亜型のH1N1pdmによるパンデミック以降、流行するウイルスに変化がみられています。翌年もH1N1pdmのみの流行が予想されましたが、予想に反しH3N2とB型の流行もみられました。さらに、2011-12年シーズンにはH1N1pdmの流行はほとんどみられず、A型はH3N2のみの流行となるなど、想像しなかった流行様式となっています。ここ数年はH1N1pdmが流行する年としない年が交互にくり返されている状況で、2016-17年シーズンはH3N2が大半を占めました。
 流行時期についても年によって差がみられます。A型は例年1月末から2月上旬にかけて流行のピークを迎えますが、2014-15年シーズンは12月の時点でかなりの流行が確認されました。2015-16年シーズンは流行がやや遅く、B型の流行が5月まで続きました。流行時期の変動の原因としては気温や湿度との関連が推察されますが2)、正確な相関関係はいまだ確認されていません。

ワクチン接種による感染予防の意義

 インフルエンザ予防の観点からは、やはりワクチン接種が重要と考えます。特に、罹患しやすい小児ではワクチンの有用性は高いと考えます。しかし、1歳未満の小児では、母親からの移行抗体の存在や、現行の不活化ワクチンでは免疫誘導が得られにくいため、評価が難しいのが現状です。一方、2009-10年シーズンのパンデミックの時には、40歳以上で罹患率が低い傾向にありましたが1)、これは過去の感染歴やワクチンの接種歴が関係しているとも考えられます3)。インフルエンザは毎年流行する型が変わり、ワクチンは重症化予防効果も期待されることから、毎年積極的な接種が推奨されます。

インフルエンザ対策の今後の方向性

 現在のインフルエンザ対策に求められているものは、「将来流行するウイルスへの対応」と「より強い免疫誘導能を有するワクチン」の2点だと考えます。
 我々はインフルエンザ患者から分離されたウイルスの遺伝子解析を行い、ワクチン未接種者に比べ、ワクチン接種者ではウイルスの配列においてワクチン株と異なるアミノ酸数が多いことを示しました4)。これは、ワクチン接種者では、遺伝子変異のあるウイルスが発症に影響していることを示唆しています。言い換えれば、流行しているウイルス株の抗原性との一致率が高いワクチンほど、優れた感染防御能を発揮する可能性があります。
 最近では、過去のデータをもとに将来流行するウイルスの抗原性を予測する研究も進められていますが、インフルエンザウイルスは毎年変化するために予測は容易ではありません。
 また、インフルエンザワクチンは、強い免疫が誘導されれば、ウイルスの抗原性が多少変化しても罹患を免れる可能性が高くなります。具体的には、海外で使用されているワクチンの中で、生ワクチンは免疫誘導能が高く5)、小児に対して高い効果が期待されます。新たに開発されている皮内ワクチンや高抗原量のワクチンも免疫誘導能が高く6, 7)、高齢者でも有効と考えられます。今後、より強い免疫を誘導して、高い感染防御能力を発揮できるワクチンの開発が待たれます。

  • 参考文献
  • 1)日本臨床内科医会インフルエンザ研究班編, インフルエンザ診療マニュアル2016-2017年シーズン版(第11版), 2016.
  • 2)Harper GJ. J Hyg (Lond). 1961; 59(4): 479-486.
  • 3)Koyama S, et al. Sci Transl Med. 2010; 2: 25ra24.
  • 4)Chong Y, et al. Vaccine. 2017; 35(2): 255-263.
  • 5)中山哲夫. 小児科診療. 2016; 79(4); 509-515.
  • 6)Arakane R, et al. Vaccine. 2015; 33(46): 6340-6350.
  • 7)DiazGranados CA, et al. N Engl J Med. 2014; 371(7): 635-645.

特別記事 おたふくかぜワクチン接種の必要性とは? 北里大学北里生命科学研究所 特任教授中山哲夫先生

おたふくかぜの病態の特徴から、ワクチン接種の必要性について、
北里大学北里生命科学研究所 特任教授 中山哲夫先生に解説いただきました。

おたふくかぜワクチンの効果持続性とVaccine Failureについて

 おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は耳下腺腫脹を主症状とする全身性ウイルス感染症で、5歳前後に好発します。潜伏期間は2〜3週間で、発症前4〜5日から発症後5〜7日はウイルスが分離され、感染源となります1, 2)。おたふくかぜは軽症の感染症と考えられがちですが、無菌性髄膜炎、ムンプス脳炎、ムンプス難聴、精巣炎、膵炎など多彩な合併症を起こすために注意が必要です。なかでもムンプス難聴は予後不良であり、その発症率は0.1〜1%と、従来考えられていたよりも高頻度で発生することがわかっており、予防が必要です3)
 わが国で用いられているおたふくかぜワクチン接種後の中和抗体陽転率は90〜100%で4)、おたふくかぜ流行時の有効率は78〜90%ですが5)、時間の経過とともに免疫能は低下し有効性が減弱することが知られています(4, 6)。ワクチン接種後におたふくかぜに罹患するワクチン不全(vaccine failure: VF)の原因は、一次性ワクチン不全(primary vaccine failure: PVF)と二次性ワクチン不全(secondary vaccine failure: SVF)があり、VFの約70%はSVFです7)。SVFの原因はワクチン接種後の抗体価減衰であり、ワクチン接種後、約3年で再感染が起こることから8)、1回接種では効果持続の面で課題があると考えられています。抗体価減衰の理由として、ムンプスウイルスは上皮細胞を標的として感染するため、リンパ球系の親和性が低く、免疫系に対する刺激が弱いことが考えられ、ワクチン接種後の免疫応答も他のワクチンに比べ強くないことが推察されています。
 抗体価が減衰しても細胞性免疫によって再感染を防げる場合もありますが、確実に効果を持続させるために、2回接種を行って免疫機能をブーストさせることが必要だと考えます。株を限定せずにおたふくかぜ流行時に調べたワクチンの有効率は、1回接種例で73〜91%、2回接種例で79〜95%と、2回接種の方が有効であることが示されています3)

おたふくかぜ再感染の鑑別診断

 おたふくかぜワクチン既接種者に急性耳下腺腫脹を認めたとき、鑑別診断に苦慮することがあります。以前、日本外来小児科学会と共同で行った研究では、小児科開業医で臨床的におたふくかぜと診断された1,353例のうち、ウイルス分離とRT-PCRで確定診断できたのは80.2%でした9)。約2割は他のウイルス感染に起因する可能性があるため、鑑別診断には臨床症状のみではなく、検査診断を行うことが勧められます。
 現在、臨床現場では、EIA法によるIgM、IgG抗体価を用いた血清学的診断が広く利用されています。この診断法は、初感染かVFかを見分ける手段の1つとしても有用です。初感染時は、初期にIgM陽性率が高く、IgGが低値となります。一方、ワクチン既接種者の再感染では、初期にIgG抗体価が高値で、IgMは低値となります。しかし、必ずしも値の変動は一定ではないため、確定診断には、やはりLAMP法などの遺伝子検査に代表される、実験室診断が有用だと考えます。おたふくかぜはLAMP法の保険適用がありませんが、今後の適用追加を期待しています。

効果持続性を重視したワクチン接種スケジュール

 おたふくかぜワクチンの副反応として無菌性髄膜炎が注目されていますが、発生頻度は0.03〜0.06%です10)。おたふくかぜは、年齢が高くなるにつれ顕性発症率が上昇し、無菌性髄膜炎やムンプス難聴などの合併症の発症率が増加することから11)、初回接種は1歳で行うのが適切です。おたふくかぜワクチンの集団免疫効果を発揮させ、免疫持続性を高めるためにも接種率の向上とともに、2回接種が広く行われることが望ましいと考えます。好発年齢が5歳前後であること、接種後3年以内の再感染リスク、子どもの社会生活圏が広がる時期であることを考慮すると、2回目の接種は、幼稚園入園前の3歳頃が適切だと思われます。MMRワクチンの2回接種を導入している多くの国が、初回接種を生後12〜18か月、2回目接種を3〜6歳で行っており1)、今後、将来的にMMRワクチンの導入などを視野に入れたスケジュールを検討する必要があると考えています。

  • 参考文献
  • 1) Rubin SA, et al. Mumps vaccine. In: Plotkin SA, et al. editors. Vaccines. 6th ed. Saunders; 2013. pp.419-446.
  • 2) Carbone KM, et al. Mumps virus. In: Knipe DM, et al. editors. Fields Virology, 5th ed. Lippincott Williams & Wilkins; 2007. pp.1527-1550.
  • 3) 国立感染症研究所. IASR. 2013; 34(8): 219-250.
  • 4) 予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会 おたふくかぜワクチン作業チーム. 「おたふくかぜワクチン作業チーム報告書」(平成23年3月11日).
  • 5) 庵原俊昭. 臨床とウイルス 2010; 38(5): 386-392.
  • 6) Fu C, et al. Clin Vaccine Immunol. 2008; 15(9): 1425-1428.
  • 7) 庵原俊昭. 臨床とウイルス 2008; 36(1): 50-54.
  • 8) Yoshida N, et al. J Med Virol. 2008; 80(3): 517-523. 
  • 9) Nagai T, et al. Vaccine. 2007; 25(14): 2742-2747. 
  • 10)国立感染症研究所. 「おたふくかぜワクチンに関するファクトシート」(平成22年7月7日版).
  • 11)Muta H, et al. Vaccine. 2015; 33(45): 6049-6053.