Vaccine Digest 第13号(2017年5月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う1

    Hib、肺炎球菌による侵襲性細菌感染症の発生状況と今後の対策
    〜 平成27年10道県サーベイランスより見えてきたこと 〜

    鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 微生物学分野
    教授 西順一郎先生

  • 感染症の流行を追う2

    わが国の流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の
    流行状況について

    国立感染症研究所 ウイルス第三部 室長 木所稔先生

  • Vaccine Topic

    わが国の乳幼児のHib保菌状況と
    ヒブワクチンの接種率維持の意義について

    島根県立中央病院 小児科 部長 成相昭吉先生

  • 特別記事1

    小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017改訂のポイント
    〜百日咳とワクチンの課題克服に向けて〜

    福岡歯科大学 総合医学講座小児科学分野 教授 岡田賢司先生

  • 特別記事2

    予防接種時のアナフィラキシー対応について
    〜アナフィラキシーガイドラインをもとに〜

    国立病院機構三重病院 小児科/アレルギー疾患治療開発研究室
    室長 長尾みづほ先生

  • 特別記事3

    熱性けいれんを既往にもつ小児への予防接種
    〜「熱性けいれん診療ガイドライン2015」をふまえて〜

    福山市こども発達支援センター 所長 伊予田邦昭先生

感染症の流行を追う Hib、肺炎球菌による侵襲性細菌感染症の発生状況と今後の対策 〜 平成27年10道県サーベイランスより見えてきたこと 〜 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 微生物学分野 教授  西 順一郎先生

小児侵襲性細菌感染症の発生状況の変化

 日本医療研究開発機構 感染症実用化研究事業「菅班」(2015年までは厚生労働科学研究「庵原・神谷班」)では、全国多施設共同研究による5歳未満の小児侵襲性細菌感染症の人口ベースサーベイランス調査を2007年から実施してきました。調査対象地域は北海道、福島県、新潟県、千葉県、三重県、岡山県、高知県、福岡県、鹿児島県、沖縄県の1道9県です。
 2015年の調査で報告された患者数は、侵襲性インフルエンザ菌b型(Hib:ヒブ)感染症は0人、Hib以外の侵襲性インフルエンザ菌感染症は9人のみでした。一方、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD: invasive pneumococcal disease)は、罹患率12.2(髄膜炎0.9、非髄膜炎11.3)であり、いずれも公費補助開始前の2008〜2010年から大きく減少しており、ワクチンの有効性を明確に示す結果となっています1, 3)

ヒブワクチン(アクトヒブ®)接種による予防効果 -個人防衛および集団免疫効果-

 10道県のデータでは、侵襲性Hib感染症患者数は2014年、2015年ともに0であり、罹患率も2008〜2010年に比べ、公費補助開始後2011年に半減し、2013年からの定期接種化を経て2014年から2年連続0に減少しました1-3)。この経緯をみると、罹患率の低下にワクチンの普及が寄与したことは明らかです(図1)。
 また、ワクチン接種が困難な免疫不全児や生後2か月未満の乳児、2回目以降の追加接種を受けていない小児からも感染報告がなかったことから、このヒブワクチンは、ワクチンを接種した児だけでなく、極めて高い集団免疫効果があることが示されています。その効果はHibの保菌状況がワクチン導入前に比べ低下していることからも明らかです4)

  • 2010年11月に公費補助開始

Hib以外のインフルエンザ菌に対する観察の必要性

 ヒブワクチンにより侵襲性Hib感染症が減少する一方で、ヒブワクチンでカバーできないインフルエンザ菌、とくに無莢膜型のインフルエンザ菌(NTHi: non-typable Haemophilus influenzae)による侵襲性感染症は、増加傾向が認められます。NTHiは病原性が低いと考えられていますが、2015年に感染した9人のうち1人で髄膜炎が報告されています(図2)。
 NTHiが増加した原因としては、血液培養やPCR法による遺伝子検査の頻度と精度が向上し、血清型が特定されるようになったことがひとつの要因と考えられます。そのほかにも、Hibが減少したことでNTHiの保菌率が増え、原因菌が変化するpathogen shiftや、NTHiの病原性が亢進した可能性などが考えられますが、まだ原因は特定されていません。米国や欧州でもNTHiを含むHib以外のインフルエンザ菌による感染症の増加が報告されており5, 6)、わが国でも引き続き、今後の発生動向を監視する必要があります。

ワクチンがもたらした侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の発生状況の変化

 IPDについては、北海道を除く9県で発症推移をまとめています。2010年11月の7価肺炎球菌ワクチン(PCV7)の公費補助開始を受け、2012年には罹患率の減少率が55%となり、ワクチンの有効性が示されました。その後は2013年、2014年とほぼ横ばいで、2015年には若干増加しています(図31-3)
 しかし、疾病負担の大きい肺炎球菌性髄膜炎の罹患率が約70%減少したこと1)はワクチン接種がもたらした効果だと考えられます。海外では、PCV13導入後は罹患率が減少しているという報告があり7)、わが国でもワクチン接種率を維持し、今後さらに罹患率の低下がもたらされることを期待しています。

IPD発症予防の現状と対策

 IPDでは、原因菌がワクチンでカバーできない血清型(non-PCV type)に変化するserotype replacementが問題となっており、2012年以降、減少率が停滞したのはserotype replacementによってPCV7ではカバーできない血清型の19Aが増加したことが主な要因とされています。2013年11月にPCV7に19Aを含む血清型を加えた13価肺炎球菌ワクチン(PCV13)に変更され、19AによるIPDは減少が認められたものの、non-PCV13typeが増加したため(図41)、2014年、2015年の小児IPDの罹患率に大きな変化はありませんでした。
 一般に、serotype replacementによって増加した菌のほとんどは、重症感染症を起こしにくいとされています。しかし2015年に報告された小児IPD症例(5〜15歳)の中には、non-PCV13 typeでありながら髄膜炎を発症した例も報告されており、non-PCV typeによる感染症が必ずしも軽症であるとはいい切れません。今後も調査を継続し、発生動向を見守ることが求められています。
 このような状況下においては、あらかじめ保護者に、ワクチンを接種してもIPDに罹患するリスクは完全になくなるわけではないことを伝えておく必要があります。さらに、ワクチンを接種したにもかかわらず発症してしまった場合、保護者の心配を少しでも減らしワクチン接種に対する誤解を防ぐためにも、罹患した原因がvaccine failureなのか、non-vaccine typeなのか、接種回数不足なのか等を保護者にきちんと説明できることも大切だと考えます。

IPD発症予防の現状と対策

 Hibと肺炎球菌はもともとの保菌率や菌体の特徴の違いから、ワクチン普及後に異なる発症状況の経過をたどってきました。しかし、ワクチン導入後に発症率の有意な減少が認められたことは共通しています。この効果を維持していくには、高い接種率の維持が欠かせません。わが国でヒブワクチン導入後に速やかに侵襲性Hib感染症の罹患率0を達成できた要因のひとつに、接種率の高さがあげられます。
 一方で地域によっては1歳以降の追加接種の接種タイミングの遅れが課題となっています。侵襲性細菌感染症は発生数が減っているといっても疾病負担が大きい疾患であるため、接種タイミングを後回しにせず1歳を過ぎたら早めの追加接種を推奨していきましょう。

  • 参考文献
  • 1)西順一郎. 小児科診療. 2017; 80(2),165-169. 一部改変
  • 2)庵原俊昭ほか. 厚生労働科学研究費補助金「Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」平成26年度総括・分担研究報告書.
  • 3)菅秀ほか. 日本医療研究開発機構研究費「Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」平成27年度総括研究報告書.
  • 4)成相昭吉ほか. 日本小児科学会雑誌. 2013; 117(8): 1254-1259.
  • 5)Ladhani SN, et al. Emerg Infect Dis. 2012; 18(5): 725-732.
  • 6)Ulanova M, et al. Lancet Infect Dis. 2014; 14(1): 70-82.
  • 7)CDC. Active Bacterial Coresurveillance(ABCs) reports. Streptococcus pneumoniae: Trends by Serotype Group, 1998-2015. https://www.cdc.gov/abcs/reports-findings/survreports/spneu-types.html

感染症の流行を追う わが国の流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の流行状況について 国立感染症研究所 ウイルス第三部 室長  木所 稔先生

わが国の流行性耳下腺炎の流行状況について

 わが国の流行性耳下腺炎は2015年末から再燃し始め、2016年は全国的に流行が広がりました。傾向としては4〜5年間隔で大規模な流行が発生しています(図11)。過去の事例から、流行の制御に必要なワクチン接種率は90%以上と推察されます。しかし、わが国では国産MMRワクチンによる無菌性髄膜炎の問題によって1993年に定期接種化が中止されて以来、ムンプスワクチンは任意接種にとどまっています。その結果、接種率は30〜40%に低迷しており2)、残念ながら流行を制御するレベルには至っていないのが現状です。
分子疫学的な観点からわが国の流行状況をみると、流行するウイルスの遺伝子型が1980年代までは“B”、1993〜1998年は“B”と“J”、1999年は“G”と“L”、2000年以降は“G”と入れ替わっています(図23, 4)。現在まで独占的な流行が続いている遺伝子型“G”は、東日本型(Ge)と西日本型(Gw)の2つの亜型が並行して流行しています3)。こうした遺伝子型の変化の原因は不明ですが、ワクチン株と野外株との鑑別や、輸入例などの感染ルートの追跡の面から、今後も分子疫学的な調査は重要と思われます。
 なお、現在世界中で12種類のムンプスウイルスの遺伝子型が報告されていますが、血清型は1つであるため、遺伝子型が変化してもワクチンの有効性への影響は少ないと考えられています。

おたふくかぜは軽い疾患ではない!

 流行性耳下腺炎はその臨床像から「おたふくかぜ」と呼ばれ、病名にはなじみがあります。しかし、疾病負担については一般に理解が進んでおらず、ともすれば軽い疾患と思われがちです。例えば、流行性耳下腺炎は唾液腺腫脹に加え、予後の悪いムンプス難聴が1,000人に1人程度で発症するとの報告があります5)。さらにそれ以外にも無菌性髄膜炎、脳炎、精巣炎、膵炎といった重篤な合併症もあり、年齢とともにそれらの発症頻度や重症度も上昇するため、ワクチンによる予防は重要です。ちなみに流行性耳下腺炎には有効な治療薬はありません。ワクチンによる予防が唯一の有効な対策です。

ムンプスワクチンの理想的な接種スケジュール

 一部の小児ではワクチン接種で十分な免疫が得られない場合(primary vaccine failure)や、接種後数年で免疫が減弱する(secondary vaccine failure)ことで、流行性耳下腺炎に罹患するケースがみられます。2回接種が定着した欧米などでは後者が主であり、高い接種率により、流行そのものがなくなってブースター効果が得られなくなったことも一因と考えられます。過去の実績から、ムンプスワクチンは2回接種が必要とされていますが、接種間隔については水痘ワクチンと同様に比較的短いドイツ方式(初回接種から1〜2年以内を目安に2回目接種)と、比較的長い米国方式(就学前に2回目接種)の2通りが主流です。欧州では流行の再発を受けて、2回目接種を10代まで遅らせたり、10代でのキャッチアップ接種を導入する国が増えています。わが国のように流行が常態化している国では、追加接種期が就学前では遅い可能性があります。まずはドイツ方式を採用し、その後流行がある程度制御できた段階で接種間隔を延ばすのも一つの選択肢かもしれません。

流行性耳下腺炎を早期鑑別するには

 事前のワクチン接種によって流行性耳下腺炎の発症を予防することが基本ですが、接種率の低いわが国では発症後に正確で迅速な診断を下し、早期に対策を行うことも重要です。診断には臨床診断と実験室診断(表1)があります。まず、臨床診断が行われますが、流行期でさえ臨床症状のみで確定診断を下すことが難しいのが流行性耳下腺炎です。
 そこで臨床では保険適用であるEIA法によるIgM抗体検査がよく用いられます。しかし、偽陽性の可能性や再感染時の鑑別が困難といった制約があります。また、IgG抗体検査は急性期と回復期のペア血清を必要とするため、近時感染の診断には向きません。そのため、流行性耳下腺炎の確定診断には遺伝子検査が最も確実な手段といえます。中でも近年利用が拡大しているのがRT-LAMP法です。特別な装置も不要で感度・特異度に優れ、1時間程度で診断がつくことから、大学病院などでは一般的に用いられています。こうした優れた特性からRT-LAMP法は、2016年11月より百日咳診断で保険適用となりました。流行性耳下腺炎でも保険適用されることが望まれます。一方、RT-PCR法は最も感度が高く、ウイルスゲノムを解析できるため、ワクチン副反応の確定や感染経路の特定に有効な方法です。しかし、検査可能な施設がまだ一部の地方衛生研究所などに限られているため、定期接種化に向けた環境整備が喫緊の課題です。

IPD発症予防の現状と対策

 現在、わが国では海外株を基にしたMMRワクチンや、新たな安全性の高いムンプスワクチンの開発が進んでおり、将来的に定期接種化される際はそうしたワクチン株が候補となる可能性があります。国立感染症研究所としても、今後もサーベイランスや基礎研究を通して定期接種化の検討材料となるエビデンスの蓄積に寄与していきたいと考えています。
 しかしながら、新規ワクチンによる定期接種化にはまだ時間を要するため、現実的な喫緊の対策は任意接種の接種率向上しかありません。三重県K市ではムンプスワクチン接種の公費助成を開始して以降、接種率が80%近くまで上昇して県内の流行が抑制されたという報告があります6)。こうした事例を参考に任意接種の公費助成を行う自治体が増えることを望みます。
 ムンプスワクチンの接種で一定程度、無菌性髄膜炎が発生することは否定できませんが、難聴や脳炎などの重篤な副反応はごく稀です。また、現行の国産ムンプスワクチンの髄膜炎の発症率は自然感染と比較して1/20以下で、予後も良好です7)。自然感染による重篤な合併症の危険性と疾病負担を考慮すると、リスクとベネフィットの観点からワクチン接種を推進する意義は大きいと考える専門家もいます。
 臨床の先生方には自治体や保護者の方に流行性耳下腺炎とその合併症の疾病負担について広く周知していただき、ムンプスワクチン接種率の向上につなげていただきたいと思います。

  • 参考文献
  • 1)国立感染症研究所.「 感染症発生動向調査(2017年3月12日現在報告数)」
  • 2)木所稔. 小児科臨床. 2016; 69(10): 1741-1747.
  • 3)国立感染症研究所. IASR. 2016; 37(10): 185-186.
  • 4)国立感染症研究所. IASR. 2016; 37(10): 194-195.
  • 5)橋本裕美. 外来小児科. 2008; 11(3): 282-293.
  • 6)庵原俊昭ほか. 厚生労働科学研究費補助金「ムンプスに関する重大なワクチンギャップを抜本的に解決するための研究」平成25年度総括・分担研究報告書.
  • 7)Nagai T, et al. Vaccine. 2007; 25(14): 2742-2747.

Vaccine Topic わが国の乳幼児のHib保菌状況とヒブワクチンの接種率維持の意義について 島根県立中央病院 小児科 部長成相昭吉先生

1 侵襲性Hib感染症の疾病負担とワクチンインパクト

 インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b;Hib)は乳幼児、小児期の侵襲性細菌感染症の起因菌で、髄膜炎、喉頭蓋炎、関節炎、肺炎などの全身感染症を引き起こし、抗菌薬が進歩しても重症化は避けられませんでした。私自身もワクチン導入前の2003年に、Hibによる全身感染症(髄膜炎と敗血症・肺炎)を2回発症した5か月児を経験しています1)。この自験例により、ヒブワクチン接種の必要性・重要性を感じました。
 わが国では2008年12月にヒブワクチン(アクトヒブ®)が発売され、2010年11月から「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」として接種費用助成により全国的に公費助成が開始され、2013年4月からは、定期接種に導入されました。米国から遅れること約20年での導入となりましたが、そのインパクトにより、わが国の侵襲性Hib感染症の疫学には大きな変化がみられました。
 全国10道県を対象に行われている「小児細菌性髄膜炎および侵襲性感染症調査」2, 3)では、2014年以降、Hib髄膜炎およびその他の侵襲性Hib感染症はゼロと報告されています。公費助成から約3年で目覚ましい成果が得られたのは、わが国の人口密度や集団保育の開始年齢が関係していると推察されますが、検証が進むことに期待したいと思います。

2 わが国のHib保菌状況とその影響

 乳幼児市中感染症において、Hibは肺炎球菌とともに重要な原因菌でした。細菌性髄膜炎や喉頭蓋炎などのHib全身感染症例はほとんど5歳以下で、0〜1歳乳幼児が最も多いことが報告されていました。無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)による局所感染症も侵襲性病態へ進展するHib感染症も、上咽頭への無症候性定着が発症契機となるため、普段から保菌状況を調べておくことは意義があります。
 以前所属していた横浜南共済病院小児科では、乳幼児の肺炎、気管支炎などの下気道感染症の原因菌推定と薬剤感受性を検討する目的で、経鼻腔上咽頭培養を行ってきました。そして、2004年からはHibの保菌率調査を行ってきました。調査開始当初の2004年と2005年の保菌率はそれぞれ1.2%、1.1%と、ワクチン導入前のわが国のHib保菌率を報告した過去の調査とほぼ同等の結果でした。ワクチン接種がまだ普及していなかった2009年、2010年の保菌率は、それぞれ0.4%、0.5%でしたが、公費助成が開始され、接種率が高まった2011年以降Hibは検出されなくなりました4, 5)図1、2)。ヒブワクチン導入のインパクトによるものと考えられます。
 しかし、保菌者がいればHibの供給源となり、感染が拡大する可能性も否定できません。侵襲性Hib感染症の発症は数年で素晴らしい減少効果がみられましたが、今後も、Hib保菌状況のサーベイランスを継続的に行うことが大切と思います。

3 Hib感染拡大を食い止めるワクチンのメカニズム

 Hib保菌者からの感染拡大や侵襲性Hib感染症の発症を食い止めるためには、やはりヒブワクチンの高い接種率の維持が重要と考えられます。ヒブワクチンは必要回数(標準接種として初回接種3回および追加接種1回)を接種すると、莢膜多糖体(ポリリボシルリビトールリン酸:PRP)に対する特異抗体(抗PRP抗体)が唾液に分泌され、Hibが上咽頭に定着できなくなることが期待されます6)。さらに、仮に上咽頭に定着したHibが血中に入っても、血中の抗PRP抗体により、Hibが好中球に貪食されやすくなるオプソニン効果が高まるとされています。
 これらのメカニズムにより、まずワクチン接種児本人が守られる直接効果が期待できます。加えて、集団免疫により、ワクチンをまだ接種していない低月齢児も間接的にHib感染症から守られることが期待できます。現在わが国のヒブワクチン初回接種率は90%を超えていますが7)、ワクチンの接種率が低下すれば、侵襲性Hib感染症が再興する可能性も否定できません。現状に甘んじることなく、2か月齢からヒブワクチンの接種を開始し、接種率を維持していくことが重要と考えられます。

4 インフルエンザ菌による侵襲性感染症の今後の課題

 わが国ではヒブワクチンの導入により、侵襲性インフルエンザ菌感染症は克服しつつある疾患と捉えられ始めていますが、まだ課題は残っています。
 インフルエンザ菌の薬剤耐性をみると、ワクチン導入前後で変わらずアンピシリン(ABPC)耐性のインフルエンザ菌が検出されています8)。ABPC耐性株が認められる以上、抗菌薬の適正使用には注意を払う必要があります。
 また、ヒブワクチン導入後、前述のとおり、わが国の侵襲性Hib感染症は減少しています2, 3)。しかし一方で、NTHiによる侵襲性感染症例が報告されるなど9)、Hib以外のインフルエンザ菌による侵襲性感染症が問題視されています。これは、ワクチン導入によってもたらされた病原体の変化(pathogen shift)の一種と考えられます。今後臨床にどのような影響を与えるのか、注視していくことも忘れてはならないと思います。

  • 参考文献
  • 1)成相昭吉ほか. 日本小児科学会雑誌. 2005; 109(1): 49-53.
  • 2)庵原俊昭ほか. 厚生労働科学研究費補助金「Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」平成26年度総括・分担研究報告書.
  • 3)菅秀ほか. 日本医療研究開発機構研究費「Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」平成27年度総括研究報告書.
  • 4)成相昭吉ほか. 日本小児科学会雑誌. 2013; 117(8): 1254-1259.
  • 5)成相昭吉. 小児感染免疫. 2015; 26(4): 492-494.
  • 6)Kauppi M, et al. Pediatr Infect Dis J. 1995; 14(4): 286-294.
  • 7)岡部信彦ほか. 厚生労働科学研究費補助金「BCGワクチン、3種混合ワクチン(DPT)、4種混合ワクチン(DPT-IPV)、ヒブワクチン(Hib)、小児用結合型肺炎球菌ワクチン(PCV)、麻疹・風疹混合ワクチン(MR)1期接種の全国累積接種率調査」2014年度調査報告.
  • 8)Suzuki K, et al. J Infect. Chemother. 2015; 21(7): 483-491.
  • 9)国立感染症研究所. IASR 2013; 34(7): 189-190.

特別記事 小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017改訂のポイント〜百日咳とワクチンの課題克服に向けて〜 福岡歯科大学 総合医学講座小児科学分野 教授岡田賢司先生

2016年11月、『小児呼吸器感染症診療ガイドライン』が改訂されました。今回の改訂では百日咳の診断基準に関して大幅な変更があり、LAMP法の保険適用などが反映された内容になっています。ガイドラインを今後の百日咳対策や日常診療にどう活かすべきか、ガイドライン作成に関わった福岡歯科大学総合医学講座小児科学分野 教授の岡田賢司先生に解説いただきました。

腸重積症とはどのような疾患なのか

 現行のサーベイランスでは、百日咳は5類定点把握疾患に分類され、届出基準は臨床診断を中心としているため、病原体の流行状況が反映されているとはいい切れません。届出基準となる臨床症状は「14日以上持続する咳嗽」となっており、咳が14日以上続かない症例や早期に治療を開始した症例が報告されない場合があり、百日咳の正確な疾病負担や流行状況の把握が十分とはいえないことが問題視されています。
 また、臨床で病原体診断が実施される場合、これまで酵素免疫測定(EIA)法による百日咳毒素(PT)- lgG抗体価測定などの血清診断が主流となっていました。この方法は、PTが百日咳菌の産生する毒素であることから特異性の高い検査方法ですが、現行の百日咳ワクチンと共通の抗原となっているため、ワクチン接種率の高いわが国では、ワクチン接種により抗体価の高い人が多く、単血清では評価が困難となることが多くみられました。診断精度を上げるためには急性期および回復期の抗体価を比較するペア血清が必要となりますが、実臨床では回復期の検体を得られにくいのが現状です。
 このように、百日咳と確定診断された症例数の把握が困難な状況下では、明確に流行状況を示すことのできるエビデンスが存在しないため、成人患者数の増加等による百日咳の流行リスクが近年、懸念されているにもかかわらず、十分な対策を立てられないことが課題となっています。

百日咳診療に関するガイドライン改訂のポイント

 先ごろ改訂された『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017』では、百日咳の臨床上の診断基準に変更が加えられました(表11)
 従来のガイドラインでは、百日咳の臨床症状は「14日以上の咳」に加え、百日咳に特徴的な「発作性の咳き込み」「吸気性笛声(whoop)」「咳き込み後の嘔吐」の3症状のうち1つ以上を伴うものと、定義されていました。
 しかし、特に、1歳未満児では百日咳の典型症状を呈することなく無呼吸発作が発現し、発症から数日で重症化する症例が散見されます。そのため、新しいガイドラインでは特徴的な臨床症状として「無呼吸発作(チアノーゼの有無は問わない)」を加え、「咳の期間は限定なし」と記述が変更されました。
 1歳以上では無呼吸が出てくることは稀ですが、夜間睡眠中に息ができない、息がつまるなどの症例に注意が必要です。こちらも咳の持続期間を変更し「1週間以上の咳」の有無などによって診断するものとしました。
 また、成人の百日咳でも早期診断を促すことを考慮し、高齢者を含む1歳以上の全年齢を対象にしている点もポイントです。
 病原体検査の適応については、咳の期間を限定する記述がなくなりました。さらに、2016年11月には遺伝子検査法であるLAMP法と、百日咳菌-IgM/IgA抗体測定が保険適用となり、より正確な百日咳の検査診断が可能となる環境が整ってきました。
 LAMP法は恒温で遺伝子増幅反応が進み、増幅の有無が肉眼でも確認できるなど、簡易検出に優れた検査法です。従来のPCR法に比べて感度・特異度とも高く、培養法では同定に1週間ほど要するのに対し、検査機器があれば1時間以内に診断をつけることができます。LAMP法の保険適用により、日常診療への利用が進み、多くの患者さんに病原体検査が実施されることが期待されます。
 日常臨床においては、特徴的な咳がなくとも百日咳が疑われる症例に対しては、周囲への感染源とならないように、早期に病原体検査を行い、正確な診断に基づいた適正な抗菌薬治療につなげることができるようになりました。

百日咳の検査診断の確定までの流れ

 今回のガイドラインでは、LAMP法から血清診断までの流れをフローチャートで明確化しました(図11)
 臨床診断例に対する確定には、培養または核酸増幅法(LAMP法、PCR法)による病原体診断が最優先です。病原体診断で診断がつかない場合には血清診断が次の検査です。従来はPT-IgG抗体測定のみが保険収載されていましたが、IgM/IgA抗体を加えて検査依頼できるようになりました。IgM/IgA抗体価は、ワクチン接種の影響を受けることなく単血清での診断が可能です。なお、感度が8割程度であることを加味して、陽性であってもガイドライン上では「百日咳の可能性が高い」という記述になっています。
 IgM/IgA抗体検査が陰性の場合は従来通りにPT-IgG抗体価とワクチン接種歴によって判断しますが、ワクチン接種前の3か月未満児では移行抗体の影響で10EU/mL以上を示すことがあるために注意を要します。

病原体診断の普及により、変わる今後の百日咳対策

 今回、百日咳診療で咳の持続期間の限定が削除されたことで、発症早期から診断が可能となり、LAMP法が保険適用となったことで、病原体診断の実施が容易になりました。これらの変更による臨床上のメリットとしては、正確な診断ができること、および抗菌薬の適正使用がひろがり、耐性菌対策ができることがあげられます。さらに、病原体診断に基づいた報告が増えることで、百日咳の正確な発生動向を把握でき、疾病負担の把握が可能となることも期待されています。病原体診断中心の診療に変わっていくことで、定点報告の届出基準が病原体診断を必須とするものに変更され、従来の百日咳の発生動向とは違った切り口の疫学情報がみえてくると考えます。
 わが国のワクチン対策を考えた場合、病原体診断に基づいた正確な症例数の把握により、就学前の発症が多いとなると就学前に百日咳抗原を含んだワクチンを追加しなければなりませんし、10歳代の発症が多いということになれば、2期接種で現行のDTに代わり、百日咳抗原を含んだDTaPワクチンを接種するという対策が必要になります。そのために、より正確な発生動向を疫学的エビデンスで示すことが重要であり、実際に、ワクチンの接種時期、接種年齢、回数などの対策を検討していく上で必要となるのが、この診断基準であると考えます。

  • 参考文献
  • 1)⼩児呼吸器感染症診療ガイドライン2017, 尾内⼀信,岡⽥賢司, ⿊崎知道 監修, 協和企画, 2016.

特別記事 予防接種時のアナフィラキシー対応について〜アナフィラキシーガイドラインをもとに〜 国立病院機構三重病院 小児科/アレルギー疾患治療開発研究室 室長長尾みづほ先生

ワクチン接種後にアナフィラキシーが起こったらどうすればよいのか。2014年に発行された「アナフィラキシーガイドライン」をもとに、その鑑別法や対処法、アレルギー素因をもつ被接種者への対応について国立病院機構三重病院 アレルギー疾患治療開発研究室 室長の長尾みづほ 先生に解説いただきました。

アナフィラキシーとワクチン接種について

 ワクチン接種によるアナフィラキシーの頻度は、調査方法やワクチンの種類にもよりますが、0.65 〜1.53回/100万回接種と報告されています1)。誘因はワクチン抗原および保存剤や安定剤などが考えられていますが、詳細な機序は明らかになっていません。かつては、安定剤として麻しんワクチンに含まれたゼラチンによる発症がありましたが、現在のワクチンは黄熱ワクチンを除いてゼラチンフリーとなり、発症数も減少していると考えられます。
 ワクチン接種によるアナフィラキシーのリスクは小さいといえますが、基本的に異物を接種する以上、発症をゼロにすることはできません。いつでも発症に対応できる体制を整えておくことが重要です。

ワクチン接種後にアナフィラキシーが起こったら? 〜アナフィラキシーの鑑別と治療〜

 ガイドラインの定義によると、グレード3(重症)の症状を含む複数臓器の症状、グレード2(中等症)以上の症状が複数ある場合はアナフィラキシーと診断します。グレード1(軽症)の症状が複数あるのみでは、アナフィラキシーとは診断しません(表12)
 ワクチン接種によるアナフィラキシーか否かの鑑別を行う際、注目すべきはかゆみなどの皮膚症状と、咳や呼吸困難感などの呼吸器症状です。この2つが同時にみられ、時間とともに悪化する場合はアナフィラキシーを疑います。迷走神経反射をアナフィラキシーと誤認するケースがみられますが、迷走神経反射の場合は皮膚症状がなく、意識喪失などの症状が出たときがピークで、横になって休ませると回復します。 アナフィラキシーと診断された場合は、速やかにアドレナリンの筋肉注射を行います。また、症状に合わせて適切な体位をとらせることが重要です2)
 ワクチン接種によるアナフィラキシーは、接種から30分以内であることが多いため、万が一の発症に備えたい場合は、院内で30分ほど安静にしてもらえばよいでしょう。しかし、2009/10シーズンに「新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業」の一環として症例を集積した際、1時間後にアナフィラキシーを発症している例もみられたので、1時間後でも発症リスクがある点は認識しておく必要があると思います。

アレルギー素因とアナフィラキシーの関係

 インフルエンザワクチンは、被接種者対象年齢の幅が広く、総接種回数も多いため、ほかのワクチンよりアナフィラキシーの報告が多いと考えられます。インフルエンザワクチンは製造工程に用いた鶏卵が微量ながら成分として含まれているため、アレルギー素因をもつ人に対して、医師側も被接種者側も接種を忌避する傾向がみられます。しかし、米国予防接種諮問委員会(ACIP)では、アレルギー素因をもっていても、インフルエンザワクチンを接種することは妥当であると示されています3)
 また、アナフィラキシーを過去に経験した場合、生涯にわたってワクチンを接種できないと考えがちですが、年齢を重ねると接種できるようになることもあります。私たちは、少しでもワクチン接種の機会を逃さないようにアナフィラキシーの既往がある方への接種について検討を進めています。
 ただし、アレルギー素因とアナフィラキシーの発症リスクに相関関係が認められない以上、ワクチン接種前にハイリスク集団を特定するのは難しいといえます。現在、アナフィラキシー既往症例に対して、ワクチン成分に対するIgE抗体の測定や好塩基球活性化試験を行い、発症原因の究明に努めているところです。

  • ACIP: The Advisory Committee on Immunization Practices

アナフィラキシー評価の国際基準「ブライトン分類」

 2009/10シーズンに新型インフルエンザワクチン接種事業が行われたとき、ワクチン接種後の副反応について標準化された症例定義を行うためにわが国で採用されたのが、ブライトン分類です。この分類は、科学的かつ標準化された手法でワクチンを評価する手法を提供する国際組織、ブライトン協会によって定められています。
 このブライトン分類によるとアナフィラキシーは、①突発性の発症、②徴候および症状の急速な進行、③2つ以上の多臓器の症状がみられることの3点を必須基準とします。加えて、皮膚、呼吸器、循環器の症状の種類、数、組み合わせによって診断特異性の高さを分類し、レベル1〜3はアナフィラキシーであると定義します(表24)
 ブライトン分類は副反応のデータを客観的に集積するのに有用ですので、副反応報告時には臨床の先生方もぜひ活用してほしいと思います。

すべての子どもたちにワクチン接種のベネフィットを

 アナフィラキシーやその他の副反応を懸念するあまり、リスクを過大に見積もることで、ワクチンのベネフィットを失うのは非常に残念なことです。アレルギー素因をもつ方へのワクチン接種に抵抗を感じる先生方は、近隣のアレルギー専門医へ患者さんをご紹介いただければと思います。また、三重病院小児科ではアナフィラキシーの症例集積を行っています。アレルギーとワクチン接種に関する質問も受け付けておりますので、お問い合わせください。

  • 参考文献
  • 1)Bohlke K, et al. Pediatrics. 2003; 112(4): 815-820.
  • 2)アナフィラキシーガイドライン, 日本アレルギー学会監修,Anaphylaxis対策特別委員会編, 日本アレルギー学会,2014.
  • 3)Kim DK, et al. Ann Intern Med. 2017; 166(3):209-219.
  • 4)Rüggeberg JU, et al. Vaccine. 2007; 25(31):5675-5684.

特別記事 熱性けいれんを既往にもつ小児への予防接種 〜「熱性けいれん診療ガイドライン2015」をふまえて〜 福山市こども発達支援センター 所長伊予田邦昭先生

熱性けいれんの診療については、1996年に改訂された熱性けいれんの指導ガイドラインが長年多くの臨床医の診療に役立ってきました。一方で近年の社会医療情勢の変化や最近の臨床研究・報告を加味した新しいガイドラインの必要性も求められており、今回「熱性けいれん診療ガイドライン2015」が日本小児神経学会の監修のもと新たに策定されました。策定委員でもある伊予田邦昭先生に、予防接種に従事する医療関係者が知っておくべきポイント、最近の考え方について解説いただきました。

熱性けいれん診療ガイドライン策定の背景と予防接種に関するCQ

 主に生後6〜60か月の乳幼児に通常38℃以上の発熱に伴って起こる熱性けいれんは、予後良好であるものの、一般診療で遭遇する機会も多く、初期対応や家族の不安などに対する対応、予防接種の扱いなどで予防接種従事者が戸惑うことの多い疾患といえます。一方で1994年の予防接種法改正により、集団接種から医学的判断に基づいた個別接種に変わり、これをきっかけに、熱性けいれん既往児に対しても、従来よりも積極的なワクチン接種を勧奨するように変わってきました。今日では、接種の必要なワクチンが増え、接種方法が複雑化している上、熱性けいれんの好発年齢である1〜2歳はまさに各種ワクチンの接種が重なる時期のため、具体的な基準作りが求められていました。
 今回のガイドラインは、熱性けいれんを診療する際の新たな指針となるべく策定されました1)。日常診療で熱性けいれん既往児に予防接種を行う場合に問題となりやすい点について、クリニカルクエスチョン形式で取り上げて紹介しています。

 予防接種の主な対象は乳幼児であり、次世代を担う子どもたちを伝染性疾患から守ることが予防接種法の最大の目的です。ガイドラインでは、国内外の臨床研究・報告を根拠に、熱性けいれん既往児でも「現行の予防接種はすべて接種してよい」としています1)
 ただし、熱性けいれんの既往のある者は「接種要注意者(原則接種するが、接種に際し注意が必要な対象)」であり、保護者に対して、当該ワクチンの意義や必要性、予想される副反応を説明し同意を得ること、発熱や発作への具体的な対応策を事前に説明しておくことが重要です。熱性けいれん既往児の予防接種に関する日本小児神経学会推薦基準2)をもとに、最近の予防接種事情を考慮し作成した表を示します(表1)。

 発熱を生じやすいワクチンとその発熱時期を認識しておくことは、予防策を考える上で重要です。海外の多くの研究では、麻しん含有ワクチン接種後2週間以内、DPTを含む混合ワクチン接種後1週間以内に発熱と発熱に伴うけいれんを増加させると報告されています。また、けいれん再発の相対頻度を増加させるものの、絶対頻度は1,000〜2,000回接種に1回程度と極めて少なく、問題にはならないと結論づけています3, 4)
 一方、わが国では、MRワクチンの第1回接種後(2週間以内)、小児用肺炎球菌ワクチン(2日目まで)の発熱が多く、Hibワクチンはあまり高くありません5)。熱性けいれん既往児に対する多施設共同研究でも、麻しん含有ワクチンによる発熱率は非熱性けいれん児などと大きな違いはなく2)、表1で示す予防策を十分に行えば、安全に接種できると考えられます。また、ワクチン接種後の発熱はその種類によって発熱時期がある程度予想できますので、ジアゼパムなどの予防投与策をあらかじめ準備しておくことも可能です。

 すでに熱性けいれんと診断され、個別に対応策や予後などの説明・指導が済んでいる場合は、当日の体調に留意すればすべての予防接種をすみやかに受けてよいと考えられます1)
 初回の熱性けいれんの場合は、けいれんをきたす基礎疾患や他の神経疾患との鑑別・紛れ込みなどを防ぐために、一定の経過観察が必要となりますが、多種類の予防接種時期と重なるため、長くとも2〜3か月程度に留めることが望ましいと考えます。ただこの2〜3か月という期間には特別なエビデンスはないため、被接種者(または患児)の背景や感染症の流行状況などを考慮して、主治医の判断で柔軟に変更・短縮も可能です。例えば初回でも明らかに単純型熱性けいれんと判断できれば、1か月程度で接種してもよいと思います。なお、発作が15分以上続く遷延性熱性けいれんの既往児では、小児科あるいは小児神経の専門医に接種後の発熱・発作への対応策などを事前に相談することも考慮しつつ、保護者と具体的に十分話し合っておく必要があります1)

より積極的な予防接種の勧奨に向けて

 予防接種の複雑化や法改正など、熱性けいれんやてんかんなどのけいれん性疾患をもつ小児を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。しかし、「ワクチンで防げる病気:vaccine preventable disease,VPD」からこうした子どもたちの健康や命を守るという根幹に揺るぎはありません。今回の新しく策定されたガイドラインを指針とし、熱性けいれんをもつ小児が安心して良好な日常生活を送れるよう、予防接種に関わる「かかりつけ医療機関」の先生方や予防接種に従事する医療関係者の方々には、より積極的なワクチン接種の勧奨が望まれます。

  • 参考文献
  • 1)熱性けいれん診療ガイドライン2015, 日本小児神経学会監修, 熱性けいれん診療ガイドライン策定委員会編, 診断と治療社, 2015.
  • 2)粟屋豊. 小児感染免疫. 2007; 19(4): 420-426.
  • 3)Klein NP. et al. Pediatrics. 2010; 126(1): e1-8.
  • 4)Sun Y. et al. JAMA. 2012; 307(8): 823-831.
  • 5)伊予田邦昭. 小児科臨床. 2015; 68(11): 2013-2018.
  • 6)予防接種ガイドライン等検討委員会. 予防接種ガイドライン2016年度版, 予防接種リサーチセンター, p46-74, 2016.
  • 7)第20回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会資料(2016年7月8日開催).