Vaccine Digest 第12号(2016年12月発行)

Vaccine Digestとは

「Vaccine Digest」はワクチンの専門会社であるジャパンワクチンが、話題のトピックや学術・行政の情報、日常の診療に役立つコツなどをお届けしている定期情報誌です。先生方のお役に立つ情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

目次

  • 感染症の流行を追う

    水痘ワクチンの定期接種化が
    乳幼児にもたらしたインパクトと残された課題

    川崎医科大学小児科学教室 教授 寺田喜平先生

  • 日常診療Q&A

    ワクチンの添加物含有の意義と安全性について

    北里第一三共ワクチン株式会社 プロジェクト推進部 部長
    薬学博士 長井正昭氏

  • Vaccine Topic

    ワクチンの安全性とエンドトキシン
    −ヒブワクチンを中心に−

    福岡歯科大学 総合医学講座小児科学分野 教授 岡田賢司先生

  • スペシャリスト Pick Up

    日本脳炎ワクチン早期接種推奨の
    背景とスケジュールの考え方

    福岡市立心身障がい福祉センター センター長 宮﨑千明先生

  • 特別記事

    乳児腸重積症の外科的療法に関する知見から
    ロタウイルスワクチン接種のリスクとベネフィットを考える

    九州大学大学院医学研究院 小児外科学分野 教授 田口智章先生

感染症の流行を追う 水痘ワクチンの定期接種化が乳幼児にもたらしたインパクトと残された課題 川崎医科大学小児科学教室 教授 寺田喜平先生

定期接種化後の水痘の疫学

 わが国では2014年10月より生後12〜36か月の小児を対象として、水痘ワクチンの定期接種が開始されました。以前は、水痘ワクチンが任意接種であったために接種率が上がらず、冬季(12〜6月)に流行し、夏季(7〜11月)に減少する流行パターンが認められ、年間100万人程度が発症し、4,000人程度が入院、20人程度が死亡していたと推定されており1)、患者数や転帰の観点から軽視できない疾患でした。
 定期接種化後の定点報告をみると、患者数の少なかった定期接種化前の夏期より、非流行期は水痘患者数が減少していることがわかります(図1)。また、定期接種化と同時期の2014年9月に全数報告が義務づけられた水痘による入院患者の年齢分布をみると、低年齢層の水痘が減少したために成人患者の割合が増えていますが、入院患者数全体としては減少傾向がみられます(図2)。

 水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster virus; VZV)は、初回感染時には水痘を引き起こしますが、症状が回復した後もVZVは宿主の神経節に長期間潜伏し、宿主の加齢や免疫低下に伴い、再活性化して帯状疱疹を引き起こします。1歳未満で水痘を発症すると、幼稚園に入園する時期に帯状疱疹の発症頻度が高いといわれています。定期接種化前後で比較すると、現時点では水痘の減少が顕著ですが、ワクチンのさらなる効果として今後は幼児期の帯状疱疹発症数の減少も期待されます。

定期接種化後も看過できないbreakthrough varicella

 1995年から水痘ワクチンを定期接種化している米国のサーベイランスによると、水痘患者数はワクチン導入以前と比較して約90%減少しています2)。その一方で、ワクチン接種後発症する野生株VZVによる水痘(breakthrough varicella)がワクチン接種者に多く認められる地域も出てきました(図3)。breakthrough varicellaは軽症ながらも感染源になりうるため、1回接種では水痘の流行抑制は困難と判断され、米国では2006年から2回接種が採用されています。これによりbreakthrough varicellaの発生は1/3に減少したと報告されています3)
 わが国の定期接種も2回接種を採用しましたが、接種間隔については米国式(1回目を生後12〜15か月、2回目を4〜6歳に接種)ではなく、より間隔の短いドイツ式(3か月以上あけて2回目を接種)の接種スケジュールを採用しています。毎年、水痘流行がみられたわが国の状況を考えると、ドイツ式のほうが、流行の抑制とbreakthrough varicellaを減少させる効果が高いと思われます。しかし、抗体価が高い状態で追加接種をしてもブースターがかかる力は弱いため、本来は抗体価が減衰する時期に追加接種を行う米国式のほうが望ましいといえます。また、ドイツ式・米国式のどちらの接種間隔でも抗体陽転率は同程度ですが、ドイツ式では米国式よりもIgG抗体価や特異細胞性免疫が低く4)、ワクチン有効率も米国式の約98%に対し3)ドイツ式では91%と若干低い5)ことが報告されています。
 そのため、わが国でもサーベイランスを継続し、5〜6年を経て水痘流行の減少が確認されれば、接種間隔の延長などbreakthroughが起こらない接種方法についても検討の必要があると考えます。

  • ワクチン接種後42日以降に発症した野生株による感染例

今後、水痘ワクチン未接種者にどのような影響が予想されるのか?

 今後、水痘罹患に関して最も注意が必要なのが、定期接種の対象期間を逃がした水痘ワクチン未接種の小児です。その層が、ワクチン接種でも自然感染でもVZVに対する免疫が誘導されないまま成長し、成人してから自然感染することが懸念されます。
 小児の「みずぼうそう」のイメージから、「水痘は軽症」と思われがちですが、米国での水痘による死亡率をみてみると、20歳以上で最も高くなっています6)。成人の水痘の約10%に合併症として水痘肺炎が認められ、そのうち約20%がICUに入院したとの報告もあります7)
 妊婦が感染すると、風疹に比べると頻度は低いものの、低出生体重児や四肢の低形成、皮膚の瘢痕などをきたす先天性水痘症候群のほか、出産前後に母親が罹患することで新生児が重症水痘になる可能性もあります。また、妊娠初期の水痘の感染は流産の可能性が高まります。
 2015年にわが国はWHOから麻疹排除認定を受けましたが、2016年の累積患者数が12月時点で150人を超え8)、VPDの排除状態維持の困難さが指摘されています。VZVは前述のとおり潜伏感染後に再活性化して帯状疱疹を発症することから、麻疹以上に排除は容易ではありません。やはり国民全員が水痘に対する免疫を保持している状態が理想的だと考えられますので、定期接種対象期間を逃がしたワクチン未接種の小児には、自治体が水痘ワクチンのキャッチアップ接種を無料あるいは補助で実施するなどの対策が望まれます。
 また、小児に注射を何本も打つのは精神的な負担が大きいので、わが国でも、麻しん・おたふくかぜ・風しん・水痘の混合ワクチン(MMRV)が早期に開発されることに期待したいと思います。

  • 参考文献
  • 1)国立感染症研究所. 「水痘ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版)」.
  • 2)Guris D, et al. J Infect Dis. 2008; 197(Suppl2): S71-75.
  • 3)Shapiro ED, et al. J Infect Dis. 2011; 203(3): 312-315.
  • 4)Watson B, et al. J Infect Dis. 1995; 172(1): 217-219.
  • 5)Spackova M, et al. Vaccine. 2010; 28(3): 686-691.
  • 6)Meyer PA, et al. J Infect Dis. 2000; 182 (2): 383-390.
  • 7)Borregan RJC, et al. An Med Interna. 2003; 20(12): 612-616.
  • 8)国立感染症研究所. IDWR. 2016年第48週(11月28日〜12月4日).

日常診療Q&A ワクチンの添加物含有の意義と安全性について 北里第一三共ワクチン株式会社 
プロジェクト推進部 部長 薬学博士 長井正昭氏

Q ワクチンに配合される添加物とその配合目的、添付文書等への記載方法について教えてください。

A:ワクチンの添加物は、製剤の製造工程で安定化、保存、刺激低減等、品質を保つ目的で添加されたものと、原液の製造工程で、培養、精製、不活化のために添加されたものがあります。
ワクチンの品質を保つために添加されたものとしては、緩衝剤、等張化剤、安定剤、保存剤、希釈剤があります。分割使用する注射剤ワクチンは、日本薬局方の製剤総則の注射剤の項で「分割投与するものは微生物の発育を阻止するに足りる量の適切な保存剤を加えることができる」と規定されており、この基準に合わせるようにインフルエンザHAワクチンやB型肝炎ワクチンなどの分割使用する注射剤ワクチンにはチメロサールが保存剤として添加されています。
原液の製造工程で添加されたものとしては、不活化ワクチンに用いる不活化剤、生ワクチンに用いる抗生物質、着色剤、インフルエンザHAワクチンに用いる分散剤などがあります。
他の添加物と異なり、ワクチンの効果(薬効、免疫原性など)を高めるために添加されているものとして、沈降型ワクチンに使用されるアルミニウム塩などのアジュバント(免疫賦活剤、免疫増強剤、免疫補助剤など)があります。
また、ホルマリンのように不活化剤、安定剤、保存剤など複数の役割がある場合、製造メーカーが承認申請時に最も重要な目的として選んだ分類が添付文書等に記載されるため、製品により分類表記が異なっています。
添付文書への記載義務としては、品目によっては安定剤、保存剤について生物学的製剤基準で名称および分量の記載規定があります。医薬品各条で規定されているワクチンの例として、おたふくかぜワクチンのような生ワクチンの項にはウイルス培養で抗生物質や着色剤を用いた場合は記載するよう規定されています。
そのほか製造工程で使用した残留添加物で記載規定がないものは、最近、添付文書等に記載しない方向で指導されています。このため、ホルマリンのように、古いワクチンでは記載されていても新しいワクチンでは記載がないものがあります。

Q 添加物の安全性はどのように規定されているのか教えてください。

A:日本薬局方に収載されている添加物は日本薬局方に準拠したもの、日本薬局方に収載されていないものは、日本薬局方外基準、医薬品添加物規格等の公定書に準拠したものを使用するよう、規定されています。いずれの公定書にも収載されていない添加物は、自主規格を設定し、ワクチンの製造販売申請時に審査を受け、国の承認を得たものが使用されています。
また、添加物の含有量については、厚生労働省が各添加物について投与経路別含有量の過去の使用実績をまとめているため、それに基づき、使用実績の範囲内で量を決めています。使用実績がない場合は、ワクチンの製造承認申請時に、新たに毒性試験、非臨床試験を行い、審査が行われています。 すべての添加物について、ロットごとに含有量試験を行うことはありませんが、生物学的製剤基準で定められた一部の添加物は含有量試験が行われています。ホルマリンやチメロサールであれば残量基準内かどうかを試験で確認しています。

Q 副反応・安全性の観点から、注意が必要な添加物があれば教えてください。

A:ワクチンの添加物は安全性が認められたものが用いられています。しかし、過去には安定剤として使用されていたゼラチンがアレルギーの問題から国内の注射用ワクチンでは使用されなくなったことや、その後代替として使用されたヒト血清アルブミンが健康な被接種者に使用するワクチンの添加物としては好ましくないとして、厚生労働省から削除検討の文書が出され、使用されなくなった経緯があります。
保存剤のチメロサールの代替として、フェノキシエタノールが使用されているワクチンがありますが、インフルエンザHAワクチンで、接種後にアナフィラキシーショックが起こり、直接の原因は不明でしたが、安全性を考慮し当該ワクチンではフェノキシエタノールは使用されなくなりました。
チメロサールは、有機水銀を含むため削減の傾向にあります。現在は分割使用を目的としたインフルエンザHAワクチンやB型肝炎ワクチンで用いられていますが、微生物の発育阻止をみる保存効力試験で最適な含有量が検討され、以前の使用量の1/10〜1/20程度に減量されています。
臨床の現場において注意が必要な点としては、チメロサール含有ワクチンによる過敏症の被接種者、生ワクチンなどの製造工程で抗生物質を使用するワクチンではそれら抗生物質に対してアレルギーのある被接種者への注意喚起が行われます。ペニシリンなど高度のアレルギーを引き起こす可能性があるものは、ワクチン製造には使用しないことになっています。
ワクチンは健康な人への接種が前提なので、リスクのある添加物は基本的には使用せず、これまでの実績に基づき安全性が認められた範囲内で使用されています。添加物のリスクよりも、ワクチンを接種しないリスクのほうがより大きいと考えられます。子供たちの感染症予防のために安全に接種できるよう、製造メーカーとして今後も努力していきたいと考えています。

Vaccine Topic ワクチンの安全性とエンドトキシン 福岡歯科大学 総合医学講座小児科学分野 教授 岡田賢司先生

1 ワクチンへのエンドトキシン含有による問題とは?

 エンドトキシンは、グラム陰性菌の細胞外膜の菌体成分であり、細胞膜の最も外側に局在するリポ多糖です。菌の形状保持や外的要因から保護する役割を果たし、細菌の生存に不可欠な物質といわれています。しかし体内に侵入すると多様な作用(血管内皮障害や血管透過性亢進、好中球や凝固系の活性化を惹起することによるエンドトキシンショックや多臓器不全)を生じ、医薬品分野では発熱性物質として捉えられており厳重な管理が求められています。
 わが国では、1970年代に、当時、3種混合ワクチンとして使用されていた全菌体ワクチンである百日咳ワクチンで、副反応として、接種者の約半数に接種後の発熱、接種部位の発赤、腫脹、そして脳症やエンドトキシンショックが認められました1)。ワクチン接種でみられる発熱作用の原因はエンドトキシンのみが原因とは限らないのですが、このような経緯もあり、エンドトキシンなど有害な物質を除去し、感染防御に必要な抗原のみ精製した成分ワクチンである無菌体百日咳ワクチンが本邦で開発され、現在では欧米諸国でも広く使用されています。
 エンドトキシンの発熱作用は過剰に発現すると有害である一方で、免疫系を刺激し、ワクチン接種時の抗体産生にも関与するといわれています。しかし、菌体の性質上、有効性を担保しながら、ワクチン製造過程でエンドトキシンを完全に除去することは困難です。そこで本邦では、より高い安全性を重視し、エンドトキシン含有量の厳しい基準が設けられています。

2 エンドトキシンを含むヒブワクチンの品質管理と安全性は?

 インフルエンザ菌b型(Hib:ヒブ)ワクチン:アクトヒブ®は、フランスのサノフィパスツール社で開発・製造されたワクチンであり、1992年にフランス、1993年にアメリカで承認され、現在は世界100か国以上で発売されています。日本への導入前に有効性とともに安全性に関する検討が国内外にて行われました。グラム陰性菌のインフルエンザ菌から作られるヒブワクチンは、開発当初、国内の百日咳菌含有ワクチンよりエンドトキシンの含有量が多かったため、副反応への影響が懸念されました。しかし、海外データでは発熱頻度が極端に高いとの報告はなく、安全性の面で大きな問題はないと結論されました。とはいえ、安全性を重視する国内のニーズに配慮し、ヒブワクチンのエンドトキシン含有量は日本の基準である100EU/dose未満と、WHOの国際基準(250EU/dose未満)よりも大幅に低い基準が設定されました。日本で接種されているヒブワクチンは、フランスでの厳しい審査後、さらに国内における自社検定を経た後に国家検定が行われています。このように複数の過程でエンドトキシン含有量が確認され、高い品質のヒブワクチンが出荷されています。
 ヒブワクチンは2008年に発売後、公費助成を経て2013年から定期接種化され、多くの乳幼児に接種されており、2014年度厚生労働科学研究事業報告では侵襲性Hib感染症ゼロが報告されています2)。懸念されていた発熱については、複数のワクチンと同時接種される場合が多く、発熱の原因を特定することは容易ではありませんが、平成25年の予防接種後健康状況調査では、ヒブワクチンは単独投与、同時接種ともに問題となる結果はみられていません(表13)
 ただ、ワクチン接種後の発熱は、ときに認められることから、心配する保護者も多いでしょう。実際には、先生方がワクチン接種前に「接種後、熱が出ることがありますが、自然な反応で、長引くことなく治まりますよ」など、注意点をお話いただいていることにより、安心して予防接種を受けることにつながっていると思います。
 このように多くの議論を重ね、品質管理を徹底しているヒブワクチンを継続的に接種することで日本の乳幼児を侵襲性Hib感染症から守ることができています。
 ワクチン導入によりHib髄膜炎および非髄膜炎ゼロが報告されていますが、引き続き適切な時期に適切な回数のワクチンを接種することがより重要と考えます。

  • 参考文献
  • 1)加藤達夫ほか. ワクチンの事典, 日本ワクチン学会編, 朝倉書店, 88-99, 2004.
  • 2)庵原俊昭ほか. 厚生労働科学研究費補助金 平成26年度研究報告書「小児細菌性髄膜炎および侵襲性感染症調査」に関する研究(全国調査結果).
  • 3)平成25年予防接種後健康状況調査集計報告書.

スペシャリストPick Up 日本脳炎ワクチン早期接種推奨の背景とスケジュールの考え方 福岡市立心身障がい福祉センターセンター長宮﨑千明先生

日本脳炎ワクチンの歴史と早期接種推奨の背景

 日本脳炎は重篤な疾患であり、1960年代まではわが国でも年間数千人の患者数が報告されていました。1954年にワクチンが開発され、特別対策や臨時接種など国をあげた予防策により、患者数が激減しました。1994年に定期接種となり、国内の日本脳炎患者数は年間10人未満で推移しています1)
 ワクチンの変遷としては、1989年に中山株からより免疫原性の高い北京株に変更されました。2005年にはマウス脳由来日本脳炎ワクチン接種後に急性散在性脳脊髄炎が発生したことで、接種勧奨の差し控えが行われ、接種数が激減しました。2009年にマウス脳を使用しない乾燥細胞培養日本脳炎ワクチンが登場し、2010年から接種勧奨が段階的に再開されました。2016年4月からは、例外地域であった北海道でも、道外や海外との往来が増え感染リスクがあるとして、定期接種が始まりました。
 日本脳炎ウイルスは、ブタなどを増幅動物として主にコガタアカイエカによって媒介されます。ウイルスの蔓延状況把握のため、毎年実施されているブタの抗体保有状況調査では、関東以西で保有率が高く、80%以上の保有率が確認される県も少なくなく2)現在もヒトへの感染リスクは無視できません。また、日本脳炎患者の総数は増加していませんが、小児例の報告もあり、2015年は千葉県において生後10か月の乳児の発症が報告されました。このため、日本小児科学会は2016年2月に、日本脳炎罹患リスクが高い小児には、標準的接種年齢である3歳を待たずに、生後6か月からのワクチン接種開始の推奨を発表しました(表13)

生後6か月からの早期接種にあたっての留意点

 日本脳炎ワクチンの標準的な接種スケジュールは、1期初回を3歳で2回、その後6か月以上(おおむね1年)の間隔をあけて4歳で追加接種を1回、さらにおおむね5年以上あけて(9歳)で2期の接種を1回行います。ただし、1期の接種対象年齢は生後6〜90か月未満となっており、希望すれば生後6か月以上で接種可能です。1期初回接種の2回で中和抗体価は数百倍、追加接種で数千倍まで上昇します。その後抗体価は徐々に低下しますが、2期の接種で抗体価は再び数千倍まで上昇し、長期の免疫効果が期待できます4)
 生後6か月から初回接種を行う場合、3歳未満のため接種量が1回0.25mLとなります。1期をすべて0.25mLで行っても、3歳以上の接種量0.5mLの場合と抗体価や安全性には差がないことがわかっており5)、免疫効果も持続するため、2期は9歳以降の接種で問題ないと考えられています。
 生後6か月からの接種は、「6か月で急いで接種」ではなく、「6か月から定期接種できる」と理解し、流行前に接種します(自治体への確認が望ましい)。毎年、本州では、ブタの抗体保有率は7月頃(沖縄では5月頃)から上昇し、8〜10月に患者報告が多いので、それに間に合うように1期初回の接種を完了できるようスケジュールを設定し、流行期に入っていれば速やかに接種を始めるのが望ましいでしょう。
 また、1期初回の接種間隔は標準的には6〜28日となっていますが、不活化ワクチンの接種間隔はやや広いほうが免疫原性がよいので1)、間隔は28日に近いほうが適当と考えられます。
 さらに接種漏れなどでスケジュールどおりにできなかった場合は、気が付いたときに(可能なら法の範囲内で)接種することが望ましいでしょう。規定の回数を接種すれば免疫は獲得できますし、感染予防の観点から次の流行期までに接種を完了しておくことが重要となります。
 日本脳炎は発症がコントロールされている疾患ですが、感染リスクは依然としてあり、ワクチン接種が重要です。特に、感染リスクの高い小児では早期接種が望ましく、流行前に1期初回の接種が完了するスケジュールがよいと考えます。

  • 参考文献
  • 1)宮﨑千明ほか. 別冊医学のあゆみ, 五十嵐隆編, 医歯薬出版, 82-88, 2014.
  • 2)国立感染症研究所. ブタの日本脳炎抗体保有状況 −2016年速報第5報−(2016年9月9日現在).
  • 3)日本小児科学会.「日本脳炎罹患リスクの高い者に対する生後6か月からの日本脳炎ワクチンの推奨について」.
  • 4)岡部信彦ほか. 厚生労働科学研究費補助金 乾燥細胞日本脳炎ワクチンの追加接種の有効性安全性に関する検討. 平成22年度総括・分担研究報告書.
  • 5)Miyazaki C, et al. Clin Vaccine Immunol. 2014; 21(2): 188-195.

特別記事 乳児腸重積症の外科的療法に関する知見からロタウイルスワクチン接種のリスクとベネフィットを考える 九州大学大学院医学研究院 小児外科学分野 教授田口智章先生

わが国では、2011年11月よりロタウイルスワクチンが導入されました。ロタウイルス胃腸炎に対する高い予防効果を認める一方で、わが国でも接種後の腸重積症が報告されています。
九州大学大学院医学研究院 小児外科分野 教授の田口智章先生に、腸重積症とはどのような疾患なのか、そして、小児外科の観点からロタウイルスワクチン接種のリスクとベネフィットについて解説いただきました。

腸重積症とはどのような疾患なのか

 腸重積とは、口側腸管が肛門側腸管に入り込み腸管壁が重なり合った状態を指し、腸重積によって引き起こされる腸閉塞症が腸重積症と定義されています1)。腸が入り込むことによって腸間膜血管の浮腫と圧迫が引き起こされ、動脈閉塞、壊死、腸穿孔を起こすことがあり、発見が遅れると死に至る場合もあります。このため、疑わしい症状がみられたら速やかな診断・治療が求められます。
 腸重積症の年齢構成は、ワクチン接種の有無にかかわらず、1歳未満の乳児が半数以上を占めます1)。特に、生後4か月ごろから増加し始め、7〜8か月にピークを迎えることが報告されています(図12)。わが国での乳児の腸重積症の自然発症率に関しては、158/10万人・年との報告2)や、厚生労働科学研究班による全国9道県市での調査では92/10万人・年との報告3)もあり、調査によってばらつきがあるため今後も継続したサーベイランスの必要性がうたわれています。なお、乳児および低年齢の小児で最も多くみられる腸重積症は回腸結腸型(回腸が結腸に入り込んだもの)で、ほかに「回腸回腸結腸型」「小腸小腸型」「結腸結腸型」などに分類されます。

小児外科からみた腸重積症

 腸重積症の整復手法は、非観血的整復術と観血的整復術に分けられます1)。非観血的整復術とは、超音波下またはX線透視下で、高圧浣腸によって腸管の重積部位を肛門側から口側に向かって押し戻す手法です。一方の観血的整復術は、開腹手術により用手的に整復する手法です(Hutchinson手技)。腸管に壊死・穿孔がある場合や、病的先進部がある場合、用手整復が不可能な場合は腸切除の適応となります。腸重積症の治療方法は重症度によって異なり、診療フローに則って行われます(図21)
 また、小児腸重積症の発症から整復までの時間と治療法を調査した結果をみると、発症から12時間以上経過すると観血的整復を選択する割合が高くなっています(図34)。逆に、早期に診断されて治療が開始されれば、100%に近い症例で手術をせずに重積腸管を整復し、患児の重篤化を避けることが期待できます。九州大学でも、現状ほとんど開腹せずに治療できています。
 小児外科医にとって腸重積症は、鼠径ヘルニアや虫垂炎などと並んで経験する機会の多い“common disease”であり、診療技術も確立されており、発見が早ければ予後も良好な疾患です。

ロタウイルスワクチン接種後の腸重積症について

 1998年に米国にて承認された初代ロタウイルスワクチンRotaShield®の接種後に、腸重積症の発症リスクが高まったために、現在わが国で用いられている2種類のロタウイルスワクチンについては6万人規模の臨床試験が行われ、安全性が認められた上で発売に至っています。しかしながら、諸外国では現行のロタウイルスワクチン接種後、腸重積症の発症率が若干上昇しているという報告が出ています5〜8)。国内の報告でも、腸重積症の発現は初回ワクチン接種後7日以内に多いことが示唆されており9)、保護者に情報提供や注意喚起を行うことが重要です。
 わが国のロタウイルスワクチン接種後の腸重積症発症頻度については、ロタリックス®を例にとると、販売を開始した2011年11月21日から2016年6月30日までの約4年間の推定接種人数は159万2,014人で、接種後の腸重積症の報告は131人(うち、104人がブライトン分類評価レベル1に該当)、入院は95人、外科手術17人、腸切除5人、死亡0人と報告されています10)。この結果は、これまで諸外国で報告されているロタリックス®接種後の腸重積症発症率のデータと同様の結果で、新たな安全上のリスクを示すものではありません。
 一方、ロタウイルスは感染力が非常に強いウイルスであり、重度脱水症から生じる腎不全や脳炎・脳症などの合併症を引き起こす11)ほか、死亡の原因にもなりうる疾患です12)。肝移植後にロタウイルス胃腸炎による激しい脱水で死亡した症例報告を聞いたりすると、我々もロタウイルス胃腸炎は非常に重篤な感染症だと感じます。小児外科医の立場からも、腸重積症の発症を理由にワクチン接種を回避するメリットは少ないと考えます。また、ロタウイルスワクチンを接種する際には、紛れ込み防止の観点から自然発症の好発期を避けて、早期に接種を完了することが重要だとも思います。

腸重積症を疑う症例への対応 〜小児外科医からのメッセージ〜

 腸重積症の三主徴は、腹痛、嘔吐、血便ですが、初診時に症状が3つとも揃う例は多くありません。臨床で腸重積症が疑われる症状としては、「泣いたり不機嫌になったりを繰り返す」「嘔吐を繰り返す」「ぐったりして顔色が悪くなる」「ジャムのようないちごゼリー状の血便が出る」などがあげられます。低月齢の症例では典型的な症状を示さないことも多く、前述の発症時間と観血的整復との関係を考慮すると、できるだけ早い段階で治療に結びつけることが求められます。そのためには、ロタウイルスワクチン接種後の腸重積症に関する保護者への注意喚起を徹底すること、腸重積症が疑わしい症例に関しては直ぐに医療機関を受診し、場合によっては、早期に小児外科の専門医がいる救急病院等に搬送することが望ましいと考えます。現在は腹部超音波検査でほぼ診断できます。
 そして、腸重積症を効率よく診断し見逃しをなくすためには、疑い児への対応について関係する医師への周知を徹底する必要があります。例えば小児科医に対しては、外科への紹介の際にワクチン接種歴を聴取して紹介状に記載する、あるいは小児外科医に対しては、入院時にはワクチン接種歴を含めた問診票を作成するなどのルール化を検討すべきではないかと考えています。
 重要なことは、小児外科専門医が関与できる医療体制のもとで治療にあたれば、腸重積症への対応は十分可能であり、過度に恐れる疾患ではないということです。ワクチン接種に伴う腸重積症を危惧するあまりに、乳幼児がロタウイルス胃腸炎の危険にさらされていることのないよう、リスクとベネフィットを理解し、適切なワクチン接種につなげていってほしいと願います。

  • 参考文献
  • 1)日本小児救急医学会ガイドライン作成委員会: エビデンスに基づいた小児腸重積症の診療ガイドライン第1版. 日本小児救急医学会 2012.
  • 2)Noguchi A, et al. Jpn J Infect Dis. 2012; 65(4): 301-305.
  • 3)第4回ワクチン評価に関する小委員会 資料(平成28年6月22日).
  • 4)森村敏哉ほか. 小児外科. 2012; 44(6): 536-540.
  • 5)Carlin JB, et al. Clin Infect Dis. 2013; 57(10): 1427-1434.
  • 6)Haber P, et al. Pediatrics. 2013; 131(6): 1042-1049.
  • 7)Weintraub ES, et al. N Engl J Med. 2014; 370(6): 513-519.
  • 8)Yih WK, et al. N Engl J Med. 2014; 370(6): 503-512.
  • 9)Bauchau V, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2015; 24(7): 765-770.
  • 10)第21回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会 資料(平成28年9月26日).
  • 11)森島恒雄. ウイルス. 2009; 59(1): 59-66.
  • 12)Gotoh K, et al. JMM Case Rep. 2015; 2: 1-7. doi: 10. 1099/ jmmcr. 0. 000065